第十三話:慟哭の祭壇
山の天気は変わりやすいとは言うが、山頂は雷鳴の轟く豪雨となっていた。
叩きつける雨は冷たく、すべてを押し流そうとしている。それはまるで、信じていた者に突き放され、世界すべてを呪う少年の荒れ果てた心情を映し出しているようだった。
山頂に築かれた禍々しい祭壇。その入口に立つ門の傍らには、見るに堪えない光景が広がっていた。
かつて俺たちを背に乗せて空を駆けたグリフォンが、無惨にも串刺しにされ、趣味の悪いオブジェとして晒されている。
(……あのノインを、ここまで変えさせたのは俺だ)
俺の復讐のために魔王に祭り上げ、王宮への憎悪を焚きつけ、そして最後にはその手を無慈悲に離した。この惨状は、俺という男が犯した罪の象徴そのものだった。
門の前で、ヴィンセントが足を止め、俺の目を見た。
「アステリオ……覚悟はできているのか?」
その問いの真意は痛いほど分かった。かつて自分を全うに導いてくれる唯一の存在として俺を仰ぎ見ていたあの少年を、俺の手で殺せるのか、と聞いているのだ。
俺は奥歯を噛み締め、震えそうになる声を鋼の意志で抑え込んだ。
「心配するな……俺は、勇者アステリオだ」
その言葉を聞いて、ヴィンセントの口元がわずかに緩む。それは親友への信頼か、あるいは、ようやく「勇者」の仮面を被り直した俺への安堵か。
「行くぞ」
俺は黙ったまま頷いた。
ヴィンセントが両手に力を込め、巨大な門を力いっぱい押し開ける。
刹那、中から禍々しい、重苦しい空気が一気に流れ出してきた。
常人であれば、その場に立っていることすらできず、気を失ってしまうほどの凄まじい覇気だ。俺は聖剣の柄を握り直し、泥を跳ね上げながら一歩、また一歩と前へ進む。
祭壇の奥に、二つの人影が見える。
激しい雷鳴が響き、青白い稲光がその姿を鮮明に浮かび上がらせた。
そこに立っていたのは、漆黒の魔力を纏った魔王ノインと、その傍らに控えるリリスだった。
ノインの瞳には、以前のような心酔した光は一切ない。ただ底知れない孤独と、すべてを灰にしようとする冷たい殺意だけが宿っている。
「……やっと来たんだね。アステリオ」
ノインが口を開く。そこに以前のような甘えた響きはもうなかった。
雨音に混じって響くその声は、自分を捨てた「かつての主」を地獄へ引きずり込もうとする、冷徹な宣告だった。
「待っていたよ。君の手で、僕の物語を終わらせてくれるのを」




