甘い屈辱
「勇者アステリオよ。その由緒正しき伝説の剣で、見事この特大ケーキを切り分けてみよ」
王の言葉が終わるか終わらないかのうちに、会場は下卑た笑いに包まれた。
「おおっ! あれがかの伝説の剣か。かつて魔王の城さえも一刀のもとに切り伏せたとか。なれば、このケーキはちと手ごわいですぞ!」
どこからか揶揄するような声が飛ぶが、俺の耳にはもう何も入らなかった。
全身が、屈辱の熱で焼かれそうだ。
昨晩の胸の高鳴りも、形見を磨き上げてくれた母のあの誇らしげな微笑みも、すべてはこの汚物のような連中の「余興」のためにあったのか。
(……視界が、ぼやけやがる)
奥歯が砕けるほど噛みしめ、自分に言い聞かせた。さっさと終わらせろ。ここに一秒でも長くいてはならない。
俺は一歩踏み出し、黄金の剣を抜いた。かつて世界の命運を切り拓いたその刃が、今は砂糖とクリームの塊へと振り下ろされる。
手応えなどない。
伝説の剣を汚したのは、魔王の返り血ではなく、どろりと甘ったるいイチゴのソースだった。
「――されば、強敵は切り分けましてございます。これにて失礼いたします」
精一杯の虚勢を、吐き捨てるように告げた。
背後からは、堰を切ったような爆笑の渦が追いかけてくる。
城門をくぐり、冷たい雨が鎧を叩いた瞬間、こらえていたものが溢れ出した。
この屈辱、この痛み。――決して、忘れはしない。




