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『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


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第十三話:王子様と謹慎騎士

その夜、絶界宮は勝利の美酒に酔いしれる魔物たちの熱気で溢れかえっていた。

 人間からこれほどの歓声を浴び、肯定されることなど、魔族の歴史上かつてなかったことだろう。


 主役のノインも、今日ばかりは夜のデザートと特製ジュースを頬張り、年相応の少年のように上機嫌だ。

 だが、俺はふとした違和感に足を止めた。

 会場のどこを見渡しても、今日の最大の功労者である「あの女」の姿がない。


「リリスはどこへ行った?」


 傍らで静かに杯を傾けていた上級魔族グリルに問うた。

 歴戦の猛者であり、魔王軍の重鎮である彼ならば、部下の動向を把握していると思ったのだが――グリルは深いため息をつくと、無言で首を横に振るだけだった。あの上級魔族にここまで深い溜息をつかせるとは、あの女、一体何をやらかしたんだ。


 俺は騒がしいパーティー会場を抜け出し、静まり返った場内を探し始めた。

 ……やがて、冷たい石造りの廊下の奥から、かすかな鳴き声が漏れ聞こえてきた。


「ヒック……ヒック……」


 声の出どころは、リリスの自室だった。

 俺は短く「リリス、入るぞ」と告げ、扉を開けた。

 ベッドの端で膝を抱え、小さくなっているリリス。今日だけは、この無茶苦茶な作戦をやり遂げた彼女を褒めてやろう。俺は静かに歩み寄り、彼女の隣に腰を下ろした。


「リリス……どうした。ライブは大成功だったじゃないか」

「ヒック……」

「何があったんだ? なにかあったのか?」


 リリスは顔を伏せたまま、震える声でぽつりぽつりと話し始めた。


「ライブは成功でした……。でも……顔を見られたかもしれません……」

「顔を? 誰にだ? そもそも見られて困ることはないだろう。お前は魔族なんだ、恐怖を植え付けたとでも思っておけば――」


「ヴィンセント様に……顔を見られましたぁあぁあぁっぁ!!」


「ヴィンセント? どういうことだ。お前ら、知り合いなのか?」

「ううぇえええん! 私の王子様ぁ……!」


 ヴィンセントが、リリスの王子……?

 思わず気を失いそうになり、俺はそのまま絶界宮の天井を見上げた。

 親友が、俺の部下の「王子様」になっている。この地獄のような相関図をどう受け止めればいいのか、神のみぞ知るだ。


     ***


 同じ頃、王都では「魔王ライブ」という前代未聞の不祥事の後処理に追われていた。

 王の前で跪くのは、ガルガンチュア公爵とヴィンセントだ。


「失態じゃ……何という失態じゃ! 白昼堂々と、王都の中心で魔族どもに良いようにやられよって! どやつの失態じゃ!」


 王の罵声が響き渡る。

 すると、ガルガンチュアが額から滝のような汗を流しながら、必死の形相で隣を指差した。


「……されば此度の失態は、敵の策を見抜けなかったヴィンセントにございます! 私は最初から『敵の策ではないか』と申したのですが……!」


 ――開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだろう。

 この醜い肉塊を、今すぐこの場で八つ裂きにしてやりたい衝動を鋼の理性で押し殺し、ヴィンセントは口を開いた。


「申し訳ございません。わたくしめが浅はかでございました」


 ヴィンセントはすべてを呑み込み、静かに頭を垂れた。

 だが、その落ち着きが逆に王の神経を逆撫でした。


「ヴィンセント……少し天狗になっておったようじゃな。追って沙汰するゆえ、それまで謹慎しておれ!」

「はっ」


 ヴィンセントは王の前から立ち去った。

 一人、夜風に吹かれながら王宮を出た彼は、ふと自らの手を見つめる。

 あの時斬り裂いたマスクの感触。そして、一瞬だけ露わになったあの女の表情。

 謹慎という屈辱よりも、その「正体不明の違和感」が、彼の心を強くざわつかせていた。

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