第十二話:王都騒乱、開演の鐘
ドオオオオオオオオオン!
突如、王都のいたるところで極彩色の魔導花火が打ち上がった。東西南北、各所に用意されていた特設ステージ。そのカーテンに包まれた中央に、小さなシルエットが浮かび上がる。
「中央広場のステージはブラフだ! 各隊分散して各ステージを制圧せよ!」
本日の警護責任者、ガルガンチュア公爵が鼻息荒く叫ぶ。彼は自ら東のステージへと馬を走らせたが、その傍らで見守るヴィンセントは、冷静な顔で「愚かな……」とだけ口ずさんだ。本物はどこか、彼には直感で分かっていたのだ。
静寂に包まれた中央広場の片隅。
俺はスタッフに扮し、最悪の瞬間(開演)を待っていた。
ステージ中央、マイクを握ったリリスが躍り出る!
「みなさ〜ん! お待ちかねの『魔・王・ラ・イ・ブ』開演よ〜!」
ドーン! 四隅から火柱が上がり、後方には楽器を持った魔物たちが登場する。
リリスがステージ袖へ消えるのと入れ替わりに、せり上がりからノインが姿を現した。
一瞬前までの静寂が嘘のように、広場は爆発的な熱気に包まれる。
「きゃー! かわいい!」「ノイン様〜っ!」
四方から沸き起こる黄色い声援。ノインは練習の成果を遺憾なく発揮し、見事なダンスと透き通る歌声を披露している。
俺はファンにもみくちゃにされながら、周囲を警戒した。リリスの策に騙されて散った警備隊だが、何が起こるか分からない。
案の定、右手の路地から鋭い殺気を感じた。……一人か?
闇の中からゆっくりと歩み寄ってくる一人の騎士。
一万の警備隊よりも会いたくない男――ヴィンセントだ。
「リリス!!!」
「はい、総帥様!」
「厄介な奴が出てきた。あいつを止めてくれ、俺はこの場を離れられん!」
「あの騎士ですね……あっ……」
「どうした?」
「いえ……なんでもありませんわ!」
頬を赤らめて固まっているリリスを、俺は力任せに押し出した。
「早く行け!」
「はいっ!」
リリスはその辺にあった衣装のマスクを被ると、ヴィンセントの前に飛び出した。
「と、止まりなさい!」
「邪魔をすれば斬る。ここは王都だ、魔物ごときが踏み入れて良い場所ではない」
言うが早いか、ヴィンセントは剣を抜き、流れるような動作で切り込んだ。
「ちょっ……落ち着いて! 私たちは傷つけに来たんじゃ……!」
ヴィンセントは返事もせず剣を振るう。リリスが間一髪で躱したが、被っていたマスクが裂け、その口元が露わになった。
「あっ……!」
リリスは思わず顔を押さえ、ステージへと逃げ出す。俺はすかさず合図を送った。
「リリス! ステージに乗れ!」
リリスが飛び乗るのと同時に、仕込んでいた魔導ロケットが火を噴いた。
轟音と共に、ステージごとノインとリリスが夜空へと飛び立ち、絶界宮へと高速で帰還していく。
後に残されたヴィンセントは、遠ざかる光を呆然と見上げ、自らの記憶を探る。
「……あの口元、まさか……」
一方、俺は人混みに紛れ、激しい胃痛を抱えたまま、一人静かに広場を後にした。




