表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/59

第九話:切り分けられた沈黙

王都の王宮では、ゲシュタール平原での「勝利」を祝う豪華な晩餐会が催されていた。


「戦功第一は、見事魔王軍を追い払ったガルガンチュア公爵である!」


 王の宣言に、会場は割れんばかりの拍手に包まれる。

 中央で胸を張るガルガンチュア公爵は、さも当然といった顔で跪いた。


「ありがたき幸せにございます。あえて敗走を装い、敵を誘い出した策が功を奏しました。……ただ、ヴィンセント殿の到着が予定より遅れ、少々肝を冷やしましたがな」

「ははは! 期待の若手とはいえ、公爵閣下の神速の軍略についていくのは、まだ早すぎたようですな!」


 並み居る貴族たちが、勝ったのが誰のおかげであるかも忘れ、追従の笑いを漏らす。ヴィンセントはその傍らで、表情一つ変えずに答えた。


「ガルガンチュア公爵には助けられてばかり。お恥ずかしい限りです」


 冷徹なまでに落ち着いたその態度のまま、ヴィンセントは王へと視線を向けた。


「陛下、続けてご報告を。押し込まれていた東の戦線は現在、反転攻勢に出ております。敵は後方の砦に立てこもりましたが、落とすのは時間の問題かと。つきましては、温存している兵力を投入し、一気に押し込むのが上策と考えます」


「口を慎め、ヴィンセント!」


 ガルガンチュア公爵の一喝が、和やかな空気を引き裂いた。


「お前ごときが軍略に口を出すな。少し手柄を立てたからと、調子に乗っているのではないか? 今はせっかく王が我らのために開いてくださった宴の席ぞ。無粋な真似をするな」


「……これだから下級貴族出身は……」

「戦の匂いを持ち込むなど、育ちが出るな」


 周囲の貴族たちがひそひそと囁き合う。

 ――俺たちがどれだけ命を懸けて尽くそうとも、この国ではこの程度の扱いなのか。

 ヴィンセントの拳が、微かに震えた。


「まあまあ、良いではないか」

 王が退屈そうに銀のスプーンを置いた。

「それよりも、この巨大なケーキをどうにかせねばなるまい。……誰か、『ケーキ切りの勇者』を呼んで参れ」


 ドッと、会場が卑俗な笑いに包まれた。

 あの日、アステリオが受けた呪いの言葉。それが今、この場にいない友を辱めるために使われた。


 ギリ……と、ヴィンセントの奥歯が悲鳴を上げる。

 だが、彼は跪いたまま、静かに口を開いた。


「――この程度のケーキ、勇者様のお手を煩わすまでもございません」


 言葉が終わるより速かった。

 ヴィンセントは流れるような動作で腰の剣を抜くと、一瞬の閃光とともに巨大なケーキを鮮やかに切り分けた。


「……されば、強敵ケーキは切り分けましてございます。職務に戻りますゆえ、これにて失礼いたします」


 鞘に納まる剣の音だけを残し、ヴィンセントは颯爽と王宮を後にした。背後では、呆気に取られた貴族たちが静まり返っていた。


 冷たい夜風に吹かれながら、王宮の門を出る。

 胸の中にあるのは、煮えくり返るような怒りと、かつての友への申し訳なさ。

 だが、ふと立ち止まった時、脳裏を掠めたのはあの日の女性の姿だった。


 泥に汚れたワンピースと、驚いたように見開かれた瞳。

 殺伐とした戦場と、腐りきった王宮。そのどちらにも属さない、あの浮世離れした美しさが、なぜか今の彼の心に、かすかな平安を運んできた。


「……名前だけでも、聞いておけば良かったな」


 ヴィンセントは自嘲気味に呟くと、再び暗い夜道へと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ