表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/57

第八話:恋する広報官、その秘密の残香

「ヒック……ヒック……」


 暗い自室の片隅で、丸くなって泣いていたリリスだったが。ふと、何かに導かれるように顔を上げ、窓の外の月を見つめて深い溜息をついた。

 あの日――彼女は確かに王都にいた。


 ヴェイルに追及された時のために「プライベート」という建前を用意してはいたが、本心はゲリラライブの下見である。

 王都の街並みに馴染むため、慣れない淡い色のワンピースを纏った彼女は、魔族であることを知らなければ誰もが二度見するような、都会的で華やかな美しさを備えていた。


 だが、ライブの下見だけのつもりが、つい魔が差した。流行りのカフェで最新のスィーツに舌鼓を打ち、お洒落なショップで買い物を楽しんでいるうちに、気がつけば周囲は薄暗くなっていた。


「早く、帰らなきゃ……」


 ヴェイルにバレるわけにはいかない。彼女は慌てて店を飛び出し、大通りへと駆け出した。

 その時だった。前方から歩いてきた男と、強く肩がぶつかった。


「大丈夫かい? ごめんよ、少し考え事をしていたんだ」


 差し出されたその手を取り、男の顔を仰ぎ見た瞬間。

 リリスは、生まれて初めて「運命」という不確かなものを信じたいと思った。


 端正な顔立ちは深い知性を漂わせ、すらりとした立ち姿は洗練されていながらも、決して華奢ではない。月明かりの下に立つその姿は、まさに物語から抜け出してきた王子様そのものだった。


「……大丈夫、です。私の方こそ、すみません」


 立ち上がろうとした時、ワンピースの裾が泥で汚れていることに気づく。

 リリスが慌てて泥を払おうとするよりも先に、その男が白いハンカチを取り出し、迷うことなく膝をついて汚れを拭い始めた。


「素敵なワンピースを汚してしまったようだね。申し訳ない。私はこの先の屋敷に住んでいる、ヴィンセントという者だ」


 男――ヴィンセントは、穏やかな微笑みをリリスに向けた。


「今日は少し急ぎの用があるんだ。お詫びをしたいから、もしよかったら後日、屋敷までお越しください」

「い、いえ……大丈夫、ですから……っ!」


 リリスはそれだけ絞り出すように言うと、弾かれたように通りを駆け出した。

 なんだろう、この胸の鼓動は。

 今まで味わったことのない、熱く、甘苦しい感情に戸惑いながら帰路を急ぐ。早く、冷たい城へ帰らなくては。


 近道をしようと飛び込んだ路地裏で、下劣な笑みを浮かべた四人の男に囲まれたが、今の彼女にとって彼らは羽虫同ぜんだった。一瞬で「片付け」、立ち止まることなく再び走り出す。


「ドキ……ドキ……する……っ」


 あの凛とした声、あの優しい指先。

 路地を抜ける風に吹かれながら、彼女はただ、自分の高鳴る心臓の音を聴いていた。


…………。


 窓の外から視線を戻し、リリスはまた一つ、深く、長い溜息を吐いた。

 あの男が、自分たちが滅ぼすべき「敵」の中枢にいる騎士だとは、この時の彼女はまだ、知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ