第七話:老害総帥と、路地裏の広報官
深夜の王都。その薄暗い路地裏を、一人の女が悠然と歩いていた。
この時間、この場所を歩く命知らずなどこの街には一人もいない。潜むのは、飢えた野良犬か、あるいはそれ以上に質の悪い「鼠」どもだ。
案の定、四つの黒い影が女に襲い掛かった。
悲鳴すら上がらない一瞬。
後に残ったのは、路地裏に転がる四つの、物言わぬ黒い影だけだった――。
「リリスッ!!!!!!」
絶界宮の執務室に、俺の怒声が雷鳴のごとく響き渡った。
側にいた魔物たちは一斉に肩をすくめ、石像のように固まって下を向いている。ただ一人、その張本人を除いては。
「総帥……どうかしましたか? 大声を出すと喉のチャクラが乱れますよ」
眼鏡を指先で押し上げながら、事も無げに言うリリス。俺は崩れ落ちそうになるのをぐっとこらえ、彼女を睨みつけた。
「よく聞け! お前の暴走で、俺の計画は台無しだ! 『魔王チャンネル』だと? ふざけるな、そんなものは魔族のすることではない! 魔族とはもっと、おどろおどろしく、恐ろしい存在でなければならんのだ!」
俺は手元の魔導端末をリリスに突きつけた。
「見てみろ、このコメント欄を! 『かわいい』『キュン死する』『家に連れて帰りたい』……! ノイン様に対して、何を言わせているんだ! いいか、歴史を紐解いてみろ。魔王を『お持ち帰り』したいと思う人間が、かつて一人でもいたか!?」
俺の熱弁は止まらない。
「人間という生き物はな、魔王が復活するたびに絶望し、勇者に救いを求め、そして現れた伝説の勇者が魔王を一刀のもとに切り伏せる。その劇的な瞬間に歓喜し、勇者を称えるのだ! それがお約束だろうが!」
あまりに感情が入りすぎ、大きな身振り手振りで詰め寄る俺。だが、リリスは冷めた目で俺を観察し、ポツリと呟いた。
「……なんか総帥。さっきから『勇者側』みたいな口ぶりですね」
「うっ!?」
俺の動きが、彫像のように止まった。背中に冷たい汗が伝う。
「な、何を言っている! 俺はあくまで一般論、戦略上の定石を語っているだけだ!」
「はいはい、わかりました。でも総帥の考えって、ちょっと……いえ、かなり古いんですよね。それじゃあ今の時代、『老害』って言われちゃいますよ?」
「ろう……がい……?」
聞き慣れない、だが致命的に不名誉な響きの言葉に絶句していると、リリスはさっさと背を向けた。
「あ、私、ライブの準備で忙しいので。失礼しますね」
「待て! リリス!」
俺の声に、リリスが面倒そうに足を止める。
老害呼ばわりにショックを受けている暇はない。俺はまだ、最も重要な「本題」を話していないのだ。
「お前……最近、勝手に王都に忍び込んでいないか?」




