第五話:広報担当は、やりすぎた
王都の冒険者ギルドは、現在改装工事の真っ最中だ。
皮肉なことに、俺が魔物を増やしたせいでクエストが急増し、施設が手狭になったらしい。新築されるギルドは今の三倍の広さになるという。オーナーのガリウスの奴、今ごろ金勘定で笑いが止まらないに違いない。
かつての仲間、ヴィンセントも出世街道を突き進んでいる。彼が訓練した新兵たちが各地で魔族を撃退し、その手腕が王宮に高く評価されたようだ。
イザベラに至っては、フォロワー百万人の超売れっ子インフルエンサーだ。
……変わらないのは、俺ぐらいか。
王宮からの招聘はまだない。奴らは自分の軍隊で対処できているうちは、かつての勇者の息子に頭を下げるなどという屈辱は味わいたくないらしい。
「ふん。なら、もっと忙しくしてやるよ」
俺はすでに、魔王軍の戦力の半分を東の戦地へ送り込むよう指示を出している。そこは、あのガルガンチュア公爵が派遣された場所だ。彼が存分に「活躍」し、王宮が泣き言を漏らす準備は整っている。
久しぶりに、いつもの酒場に入った。
まだ昼だというのに、店内はそれなりに賑わっている。俺はキンキンに冷えたビールを注文し、適当な席に腰を下ろした。
喉を鳴らしてビールを流し込み、一息ついた時――隣の席の会話が耳に飛び込んできた。
「ねえ見てよ! やっと手に入れたのよ」
「なんだよ、それ」
「えへへ……ノエルキーホルダー。かわいいでしょ?」
――ぶっ!!!
口に含んだビールを、思わず全力で吹き出しそうになった。
ノエル? ノインの間違いじゃなくてか?
いや、それよりキーホルダーだと? 誰が、いつの間に、魔王のグッズなんて勝手に作って人間に売ってやがる。
犯人は、あの配信狂いの女か……?
いや、違う。あいつはまだ、そこまで深く絶界宮の内部には入り込んでいない。
俺の脳裏に、魔王軍に新しく採用した「広報担当」の女魔族の顔が浮かんだ。
時間は、あの『魔王チャンネル』が開設された忌々しい朝へと遡る。




