束の間の残光
「……おいたわしい姿ですな、アステリオ様。かつての英雄の血筋が、このような掃き溜めに」
静寂を切り裂いたのは、粘りつくような慇懃無礼な声だった。
声のした方へ、酒場の視線が一斉に集まる。客たちの顔がどこか引きつっているのは、入ってきた男が着ている上質なシルクのマントと、胸に刻まれた「王家の紋章」のせいだろう。
俺は泥まみれのグラスを置き、ゆっくりと声の主へ視線を向けた。
この掃き溜めにはおよそ似つかわしくない、手入れの行き届いた髭を蓄えた男。彼は周囲の汚物を見るような視線など、まるで意に介さない様子で言葉を継いだ。
「王がお呼びです。明日の十五時、王宮にお越しください」
(……俺を、呼んでいる!?)
心臓がドクンと跳ねた。
十年間、無視され続け、虐げられてきた。だが、ようやく王は気づいたのか。オヤジが残したこの「平和」を守り続けるために、やはり勇者の力が必要なのだと。
酒場からの帰り道、俺は十年間味わったことのないような高揚感に包まれていた。
暗い夜道さえも、黄金色に輝いて見える。
足取りは軽く、借りたばかりの金貨三枚の重みすら忘れるほどだった。
「待ってろよ、母さん。ようやく……ようやく、俺たちの時代が戻ってくるんだ」




