欺瞞の抱擁、加速する狂乱
「ヴェイル……のため、かな」
その瞬間、サングラスの奥で目頭が熱くなるのを感じた。
――だが。
(……ダメだ。惑わされるな、俺)
俺は奥歯を噛み締め、無理やり心を氷結させる。俺にとってはノインも、魔族も、そして俺を嘲笑った人間たちでさえも、すべては復讐の駒に過ぎない。
あの屈辱の日、聖剣でケーキを切り分けさせられたあの日、俺の心もまた切り捨てたはずなのだ。
愛おしさなど、ただのノイズだ。この子の純粋ささえも、世界を絶望させるための「最高のスパイス」として利用してやる。
俺は湧き上がる情動を必死に押し殺し、サングラスの奥で冷徹な眼光を取り戻した。
「……っし。インタビュー終了だ。イザベラ、もう十分だろう」
なかなか帰ろうとしないイザベラを、半ば強引に椅子から引き剥がして連れ出す。
命懸けの隠蔽工作、ノインの失言……。冷や汗の連続だったが、なんとか最悪の事態(正体の露見)だけは免れたと言っていいだろう。
絶界宮が見えるあの丘まで戻ってきた頃には、日はすっかり落ちていた。
「イザベラ……お前のガードは今回限りだ。もう二度と手伝わないからな」
「はいはい、ありがとね~! って、きゃあー! 見てよ、フォロワーが百万人を超えたわよ!」
彼女は俺の真剣な断りなど耳に入っていない様子で、狂喜乱舞しながら空中の水晶球を抱きしめている。
「アステリオ、見てよこれ! あんたのおかげよ。今日は奢ってあげるから、パーッといきましょう!」
「……こいつは、人の話を聞いているのか」
結局、深夜までイザベラの自慢話に付き合わされ、「また次もお願いね!」と当然のように言い残して彼女は去っていった。
まあ、いい。
これでしばらくは、平穏な日々が戻ってくるはずだ。
一刻も早くこのスーツを脱ぎ捨てたかった。
俺は自宅に戻り、疲れ切った体をベッドに沈めると、何日ぶりかの深い眠りについた。
翌朝。
枕元に置いた俺の「携帯水晶」に、魔導ネットワークからのおすすめ通知が届いていた。
『【衝撃】世界初! 魔王様に独占インタビューしてみた結果……尊すぎて全人類が沈没。』
タイトルと共に表示されたチャンネル名は、
『公式:魔王ノイン・チャンネル』。
「……は?」
嫌な予感しかしない。
俺は震える指で、その通知をタップした。




