魔王と配信者と、影の絶叫
部屋の中央には、急ごしらえとは思えない品の良い椅子が四脚、向かい合うように並べられていた。その二つには、予定通り、幼い魔王ノインと――漆黒の鎧に全身を包んだ影武者、グリルが座っている。
俺は部屋の入り口にある鏡で、自分の姿を盗み見た。
スーツはあちこちが着崩れ、髪は振り乱れている。門からここまで、イザベラの「配信映えスポット」探しという名の猪突猛進に付き合わされた険しさが、一目で見て取れた。
おそらく、彼女が歩いた道のりには、隠れ損ねて叩きのめされた哀れな魔物たちが、無数に転がっていることだろう。
「ちょっと、あのいかにも『魔王軍総帥』って感じの漆黒の鎧、カッコよすぎない!? 超バズりそう! ……ところで、隣に座ってるそのちっこいのは誰?」
イザベラが興奮気味にカメラをグリルに向けながら、ついでといった様子でノインを指さした。
「……お前、勘違いするな。その『ちっこい方』が、この城の主。魔王ノイン様だ」
俺が重々しく告げた瞬間、沈黙が訪れた。……コンマ一秒後。
「ええええぇぇぇええええ!!? かわいいいいいいい!!!!」
鼓膜を突き破らんばかりの絶叫と共に、イザベラがノインに飛びかかった。
ほっぺをツンツンし、挙句の果てに「ぬいぐるみみたい!」と抱きしめて好き放題に振り回している。
(……やばい。やばすぎるぞ、これ……!)
ノインは顔色一つ変えず、無機質な人形のように座ってそれを受け入れている。だが、俺には分かる。昨夜、監視塔を二つ消し飛ばしたあの魔力が、ノインの体内で煮え滾っているのが。
『グリル! 何をしてる、今すぐやめさせろ! 食べられるぞ!』
耳元の魔導石に、裏返った声で指示を出す。
漆黒の鎧の中でグリルがビクンと震え、無理やり作った甲高い威厳のある声で吠えた。
「ぶ、無礼者! 魔王様から離れよ、不敬であるぞ!」
なんとかノインから引き離されたイザベラは、不満げに口を尖らせながらも、ようやく四脚の椅子が埋まった。
ノインは相変わらず、感情の読めない瞳でじっと正面を見据えている。
……恐ろしい。その静寂が、いつ「人間っておいしいのかな?」という一言で破られるかと思うと、俺の心臓は止まりそうだった。




