第四話:突撃!絶界宮24時
極北の冷たい風が吹き抜ける丘の上。目の前には、俺が心血を注いで築いた絶界宮が、禍々しくも静かに鎮座している。
俺は寝不足で鉛のように重い足を引きずり、一人の女の隣に立った。
今日の俺は、いつもの鎧ではない。イザベラから「正装しなさいよ」と渡された、黒いスーツにタクティカルブーツという、護衛官の装いだ。
隣に立つイザベラも、いつもの派手な魔導ローブを封印し、タイトな黒のスーツに身を包んでいた。
「お前のそんな格好、初めて見たな」
「でしょ? 私だってこんな窮屈な格好したくないんだけど。今回はスポンサーに『ガルガンチュア公爵』がついてるのよね。あいつ、マナーとか伝統とか、そういうところだけは無駄にうるさいのよ」
ガルガンチュア――。
その名を聞いた瞬間、あの日、黄金の剣で特大ケーキを切り分けさせられた屈辱が、鮮烈な熱を持って蘇った。
俺は奥歯を噛み締め、静かに首を振る。
(……思い出さなくていい。今はただ、この茶番を完遂させることだけを考えろ……)
「行くわよ、アステリオ!」
彼女は俺の返事も待たず、空中に浮遊する撮影用の水晶球を起動させ、ずんずんと絶界宮の門へ向かって歩き出した。
俺は慌てて彼女の後に続きながら、耳の穴に小さな魔導石を差し込んだ。
これ一つで、城内に配備した一万の魔物たちに、俺の声(ヴェイルとしての指示)を飛ばすことができる。
「……便利なものだな、全くだ」
俺は水晶球の死角を確認しながら、小声で石に向かって呟いた。
『……総帥だ。獲物が門に近づいた。全軍、息を殺せ。もしノインに指一本触れさせてみろ、貴様ら全員、来週の飯抜きだ……いいな!』
イザベラは何も知らずに、カメラに向かって満面の笑みで語りかけている。
「はーい、全人類の皆さーん! お待たせしましたぁ! 今、禁断の魔王城『絶界宮』の門に、史上初・潜入しちゃいまーす!」
大丈夫だ。昨日、あれだけ準備したんだ。
……そう自分に言い聞かせた直後、城門の向こう側から「ドォォォォォン!」という、嫌な予感しかしない爆発音が響き渡った。




