第三話:魔導インフルエンサー、襲来
昨日、ノインが派手に監視塔を二つも壊してくれたおかげで、今朝の部屋は不自然なほど日当たりが良かった。
瓦礫の隙間から差し込む朝日を浴びて、俺は薄く目を開ける。
「……寝てしまったのか」
隣を見ると、ノインが幸せそうに寝息を立てていた。
(……クッ、寝顔すら愛おしい……いや、いかん。こいつは将来、世界を恐怖に陥れる魔王なんだ。寝顔が天使なのはバグだ、何かの間違いだ)
自分に言い聞かせるように首を振り、俺は起こさないよう静かに部屋を出た。育児係のグリルに「街へ行く」とだけ言い残し、俺は漆黒の鎧を脱ぎ捨てて絶界宮を後にした。
王都の外れにある我が家の前に着くと、食欲をそそる香りが漂ってきた。
「ただいま、母さん」
「あら、昨日は帰らなかったわね」
「最近は魔物が増えていてね。ギルドの依頼で大忙しなんだ」
自分が魔物を増やしている元凶だとは、死んでも母さんには言えない。
俺はテーブルの上に、ずっしりと重い銀貨の袋を置いた。銅貨数枚で食い繋いでいた頃とは、もはや景気が違う。
「ありがとね。おかげで毎日、おいしいものが食べられるわ」
「……今まで、苦労をかけたからな」
「何言ってるんだい。あんたも、そろそろ嫁さんでももらったらどうだい?」
(……実はもう、六歳の子供(魔王)が一人いるんだがね)
心の中で苦笑いしながら、俺は自分の部屋へと向かった。
「昼から出かけてくるよ。昔の仲間に会う約束があるんだ」
ベッドに仰向けになると、天井を見つめて溜息が漏れた。
ノインの育成、魔王軍の軍備、そして「勇者アステリオ」としての世間体。おまけにこれから会うのは、一癖も二癖もあるかつての仲間たちだ。
考えることが多すぎる。
俺は思考を止めるように目を閉じ、昼までの短い休息に身を委ねた。




