本の修正屋さん
気まぐれの短編投稿です。
連載するのであればこれから主人公の物語が始まっていきます。
実際に連載するかは分かりませんが、書きたかったのです!
突然だけど自己紹介させていただきますね。
私は古谷 栞、気軽に栞って呼んで下さい。
日本の地方にある県立済陵高等学校に通う高校3年生で、所謂受験生ってやつです。
趣味は読書で、ジャンル問わず取り敢えず本が大好きなんです。
それこそクラスメイトから本屋ちゃんと呼ばれても嫌じゃない程に。
これはそんな私が体験した不思議なお話。
良ければお付き合い頂けると嬉しいです。
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「本屋ちゃん〜。今日も図書館に行くの〜?」
「うん、その予定だよ」
「じゃあまた今度オススメ教えてよ!ねぇ、凄いんだよ!?本屋ちゃんから勧められた本って読書すると眠くなる私が一気に読むくらい面白いから」
「え〜そうなの?じゃあ私にもお願い!」
「うん、面白いの見つけたらまた教えるね」
「じゃまた明日」
「うん、また明日」
話し掛けて来た子は3年生になって初めて同じクラスになった子。
その時に趣味の話になり、何気無く「読書」と言ったら面白い本を聞かれたので、教えた次の日に寝不足で登校するくらいハマった以来、偶にこうやって聞かれる様になった間柄。
そんな彼女に続く訳じゃ無いけれど私は足早に教室を出て、いつもの様に図書館に向かうのだった―――
校門を出て徒歩10分、到着したのは如何にも歴史があるレンガ造りの建物。
ここが私の目的地、【風の森図書館】。
日本最古……とか、日本最大……とかそんな凄いものでは無いけれど、私の住んでいる地方では一番歴史のある図書館であるらしい。
中に入れば図書館特有の本の香りが充満しており、私はその香りを胸一杯に吸い込んだ後、今日借りる本を探す為に本棚に足を向けた。
「今日は何を読もうかな…………」
特に何を読むか決めていない時は、何となく目を引く本を適当に借りる事が多い。
しかし今日は何時にも増して中々に決まらなかった。
基本的には文芸作品を読む事が多いが、今日はどうもピンと来る物が無い。
何度かそのエリアをウロウロしてもそれは変わらず、何となくその隣の児童書コーナーを覗いてみる事にした。
児童書―――と言ってもそれは多岐に渡る、絵本や読み物・学習参考書、その中でも更に細分化されていく。
そんな普段は気にも留めないジャンルの本棚の間を歩いている中一冊の本が目に止まり、手に取ってみた。
絵本童話【赤ずきん】
ペロー童話集やグリム童話にも収録される、日本で……いや、世界中で親しまれている童話だ。幼稚園で先生が読み聞かせをしてくれた記憶があるが、それ以降自分で読んだ記憶が無い気がする。
「折角出会えた子だし、そんなに時間も掛からないからここで読んでいこうかな。読んだ後にもう一度何か無いか探して、ピンと来なかったら今日は素直に帰っちゃおう」
手に取った絵本を持って空いてる席を探す。
幸い、児童書コーナーを出てすぐの席が空いていたのでそこに腰を下ろした。
「良かった。高校の制服着て絵本を読むって少し恥ずかしかったんだよね……」
保育士を目指してる人なら読み聞かせの練習とか言えるかもしれないけど、生憎私はそんな夢など持っていない。
「さぁ、久々に出会った君は今の私にどんな素敵な体験をさせてくれるのかな?」
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赤い頭巾がトレードマークの女の子がお婆さんのお見舞いにお婆さんの家に向かう事になりました。
道中、出会った狼に唆された赤ずきんは、出発前に母から「道草をせずに真っ直ぐお婆ちゃん家に向かってね」と言われた事を忘れて道草を食ってしまいしまた。
その間にもお婆さんの家に先回りした狼はお婆さんを一口で食丸呑みにしてしまい、食べたお婆さんに変装して赤ずきんを待ち伏せします。
お婆さんの家に到着した赤ずきんはいつもと違う様子のお婆さんを見て幾つかの質問をお婆さんに尋ねました。
「何でお婆ちゃんの耳は―――」「何でお婆ちゃんの目は―――」「何でお婆ちゃんの口は―――」と。
最後の質問に「お前を食べる為さ!」と狼は答え、そのまま赤ずきんまでも一口で丸呑みにしてしまいました。
その後、満腹になった狼は大きないびきをかいて寝始めます。
その音を聞いて不審に思った狩人がお婆さんの家に立ち寄ると、そこにはお腹を膨らませた狼がいました。
狩人は自身のナイフを使って狼のお腹を切り裂き、中にいる2人を救出、代わりにお腹の中に石を詰め込んで川に沈めて悪い狼を退治しました。
めでたしめでたし。
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私が覚えている【赤ずきん】は、内容の一部に関しては実際の童話と絵本で表現の違いがあるとは言え、概ねそんな感じのストーリ―の筈だった。
それなのに―――
「終わった…………。ん?あ、あれ……?この絵本……内容が違わない……?」
それが、読み終えた絵本を閉じた私の最初の一言。
読み終わった絵本の内容は9割方記憶の通りの内容、でも結末はそうじゃなかった。
もしかして新解釈版かと思ったけど、私が生まれるより前に発刊されているこれは多分違う気がする。
二次創作かと思い、マナー違反承知で写真を撮って画像検索してもこの表紙のシリーズは同じ様な物しか出てこない。
念の為、ストーリーを調べ直しても私の記憶にあったストーリーしか出てこない。
じゃあ何故この本だけ…………?
そう思い、もう一度結末が書かれている部分を読み直した。
―――――――――――――――――――――――――――
その後、満腹になった狼は大きないびきをかいて寝始めます。
お婆さんの家は森の奥の方にあったので辺りに人はいません。
やがて夜になり、夜が明けた頃、狼はようやく目を覚ましました。
膨らんでいたお腹はすっかり元通りになり、狼はゆっくりとベッドから起き上がります。
お婆さんの家を出た狼は辺りを見回し、匂いを嗅いだ後歩き始めました。
そう―――
次の獲物を探す為に―――
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もう一度読み直し、背中がゾクリとした。
おかしい……。
明らかにおかしい。
この本は修復した感じもなければ、誰かが落書きした形跡も無い。
本当に最初からこんな結末だったかの様に、不自然な筈なのに極々自然に書かれている。
しかも不思議なのが1度目を読んだ時。
私は一瞬、ほんの一瞬だったけど―――
この結末が当たり前だと思っていた。
勿論、直ぐに違和感に気付いたけどあの感覚は何だったのだろう?
もう十数年前に読んで以来読んでなかったせいなのだろうか?
それとも本にのめり込み過ぎていたせいなのだろうか?
「…………今日は調子が悪いのかも。この本を返却したら素直に帰ろう」
きっと体調のせいだと決め付けて、私は本を閉じた。
「…………はぇ?」
私は確かに図書館にいた、それは間違い無い。
そして今も図書館にいる、それも間違い無い。
だけど―――
「ここ……何処?」
私の目の前にある景色は先程も一変していた。
シミ一つ無い純白の床と天井。
私の身長の何倍あるんだろうかと思う程高い本棚に並べられた本。
そんな本棚が前を見ても後ろを見ても先が見えない程続いている。
更に本棚と本棚の間から隣の列に出てみてもまた同じ光景。
どう見ても風の森図書館では無い。
「これは……夢?」
《そうとも言えるし、そうで無いとも言えるね》
「え!?何っ!?誰!?」
私の呟きに応える優しげな声が聞こえた。
でもその聞こえ方は耳から入ってきた音では無く、まるで頭の中に直接響いている様だった。
《ごめんごめん、いきなりで驚かせでしまったかな?》
そうやって私の目の前に現れたのは―――
「白い……本…………?しかも、浮いてる…………?」
《こんにちは、お嬢さん。良ければ君の名前を教えてもらえると嬉しいな》
え?何?やっぱり夢?
本を閉じたと思ったら、本棚が沢山並んでる真っ白の空間で、真っ白な本が私に話し掛けてきて、しかも名前を聞かれてる?
突如巻き起こる非現実的な現象の数々に私の頭は既にパンク状態。
呆然としていて口を開けない私に白い本は続けて語りかけてきた。
《あ、そうかそうか。名前を聞くならまず自分から名乗らなきゃね。私の名前は物語の管理者。ナーサリーでもライムでも呼びやすい様に呼んでくれて構わないよ》
「はっ!?すみません、私は古谷栞と言います」
《ありがとう。シオリって呼ばせてもらうね》
物語の管理者?
ナーサリーライムって確かイギリスとかアメリカで「子供部屋の歌」で、大まかに童謡全般を指す言葉の意味って何かの本で読んだ事があった気がするけど…………。
《本も童謡も動植物の一生も、更には星々や宇宙の今までも……。それぞれが一つの物語。そんな物語の全てを管理するのが私の使命なんだよ》
「も、もしかして……心を読めたりします?」
《そんな事は出来ないよ。ただ、「私の知っている言葉の意味と違う」って顔に書いてあったから》
「嘘っ!?」
《うん、嘘。小声でブツブツと呟いてたよ?もしかして気付いてなかった?》
「…………はい」
そう、昔から考え事とかする時無意識に小声で呟く癖があるって周りから言われていた。
まさかこの場面でそれが出てしまうとは…………。
「えっと……それで、ナーサリーさん?ここって一体何処なんですか?」
《ここかい?ありとあらゆる物語が集う場所。名前は特に無いから好きに呼んでくれて構わないよ》
「ありとあらゆる……?世界中にある全ての物語がここにあるんですか?」
《世界中……と言うと少し違うかな。ここにあるのは文字通り全ての物語だよ。先程言った通り……ね》
そう言えばさっき「動植物の一生」とか「星々や宇宙の今まで」とか言ってたっけ?
何か規模が大き過ぎてよく分からない。
「何で私はここにいるんですか?後、夢だけど夢じゃないって……」
《私がここに呼んだのさ。この場所は今、君が生きている現実と君が読んでいた物語の狭間に存在している。まぁ栞のみたいなものだよ》
「は、はぁ……」
《シオリにはあるお願いをしたくてね》
「お願い?」
ナーサリーさんからお願いって何だろう?私に出来るのかな?それにそもそも何で私なのかな?
《君はこの物語読んで違和感に気が付いただろう?》
「はい。私が知っていた内容と違ったので……」
《そうだよ、それ。君は物語の違いに気が付いた》
「でも気が付いただけですよ?」
《だからこそだよ。そんなシオリだからこそお願いしたいんだ。今正に悪夢を映し出す、君が読んだ物語。そんな悪夢から目覚めさせ、元の物語に戻してほしいんだ!》
「えぇ!?」
物語が悪夢?目覚めさせる?
《君は今からこの【赤ずきん】の物語の世界に入って、本来辿り着く筈の物語に導いてほしい》
「物語に……入る?」
最近ラノベでよくある異世界転生……この場合は転移かもしれないけど、そんな感じで?
《ふふっ。シオリ、今君がどんな顔をしているか分かる?》
「私の顔ですか?」
《そう、君の顔。笑っているよ?》
「まさか……」
嘘でしょ?こんな「妄想乙!」みたいな状況で私が笑っている?
《嘘だと思う?でも確かに笑っているよ。多分色んな感情が今シオリの中でも入り混じっているんだろうけど、それでも読者好きな君にとって物語……本の中に入れるのは楽しみなんじゃないかな?》
…………言われてみれば確かにそんな気持ちもある。
いつの頃からか、現実から逃げるように本を読んでいた。
全部の本では無いけれど「この本の様な体験をしてみたい」って考えた事もあった。
だから今のこの状況は私にとって夢が叶うキッカケでもある。
勿論怖いと思うし、こんなのあり得ないと疑っている部分もある。
でそれと同じくらい、ナーサリーさんの言葉を魅力的に思う部分もある。
夢にまで見た本の世界に入れるんだ。
もしこれが夢でも良い、妄想でも良い。
「分かりました。私行ってきます」
《そうか、行ってくれるか。ありがとう、シオリ》
「あ、でもどうやって元に戻せば良いんでしょうか?」
《それは任せるよ。ただし注意点がある》
「何でしょう?」
《君はあくまで部外者であり、この物語の登場人物では無い。だから、物語の根幹に関わる部分に直接表れてはいけないよ》
「直接赤ずきんやお婆さんを助けたりとか……ですか?」
《そうそう。あくまで2人を助けるのは狩人だからね。それを忘れないで》
「分かりました」
《良い返事だ。では…………行っておいで。物語【赤ずきん】の中へ…………》
その言葉と共に、私は光に包まれ…………意識を手放した―――
童話赤ずきんの内容に関してはかなりざっくりとした説明です。本来のグリム童話等とは少し内容が違いますが、ご了承下さい。




