8話『兆し』
あれ? 教室に着いたら休みだと思っていた海原くんが既に席に着いて横井くん達と話していた。ボクが出発してすぐの頃に家を出たのかな?話しかけに行ってみよう。
「おはよー海原くん!」
「あははっ! それマジで言ってんの!? 勅使河原の奴、きっめー!」
あれ? 反応無し。横井くんに関してはボクの姿が真正面に見えるはずなのにチラッと見るだけだった。うーん……?
ランドセルを1度席に置き、再び海原くんの席に接近する。今度は海原くんに見えるように、横井くんの背後に立って身振り手振りをしながら挨拶してみよう。
「おはよー」
「……つぅかさ、以前にもこういう事あったよな! ほら、カードのレリーフ引いたとか!」
「あったあった! 結局最後まで見せてくれなかったやつな!」
「あれも絶対嘘だろ! 何を見栄はってるんだろうなマジで、まじできもいわー!」
やはり反応無し。勅使河原くんへの悪口大会で盛り上がってる。そんなに人の悪口を言うのって集中力いる事なのかなー……。
「あ、星宮。おはよー」
「おはよ、間山さん」
反応を求めて変顔をしたり変なポーズを取っていたら間山さんが挨拶してくれた。間山さんの方を向く、昨日は気合を入れてドラマを沢山見たから感想を語らないとだ!
「あ、星宮じゃーん!」
「? 海原くん。さっきから居たよー?」
「わり、気付かなかったわ」
「いやいや、1度目ぇ合ったじゃん! 絶対無視して」「そういえば今日国語の教科書忘れてきたんだったー。貸してくんね? 星宮」
「え? いや、ボクも授業で使うし。他のクラスの人に」
「ありがとーまじ優しいなお前!」
「えぇ……?」
使うって言ってるのに海原くんが勝手にボクのランドセルから国語の教科書を取ろうとする。忘れてきたのは自分じゃん、怒られたくないし取り返そうと国語の教科書を掴む。
「っ、な、なんだよ星宮。貸してくれるんだろ? 離せよ!」
「貸すとは言ってないでしょ! 他のクラスの人から借りなよ!」
「は、はぁ〜? さっきと話ちげえ!」
「何の空耳!? ボクは一言もっ」
「いや、言ってたじゃん星宮。僕が貸すよ〜って」
「え?」
まさかの横井くんからの横槍。彼は座ったまま淡々と海原くんの援護を飛ばす。
「1度貸すって言ったのに数秒で意見変えるとか意味わかんねー」
「だ、よ、な! そういう事だから離せ!」
「いやどういう事!? 言ってないって、テキトーな事言わないでよ横井くん!」
「はぁー? 俺が嘘吐いたって言いたいの? お前」
「それはそう! だってボク一言もっ」
「おらっ! っしゃ! 取った!」
力ずくでボクから教科書を奪った海原くんが笑いながらそれを頭上に掲げる。何が始まったんだろう、ボクから物を取れた人が勝ちゲーム? どうでもいいけど教科書を奪われたままだと先生に怒られてしまうのでどうにか奪還しなくては!
「返してよ、海原くん!」
「やーだね。これ、もう俺のもんだし!」
「後ろにしっかりボクの名前書いてありますが!?」
「国語の時間中借りるだけだしいいだろ!」
「嫌だよ! それがないとボクが怒られるじゃんか!」
「俺が怒られてもいいって言ってんの?」
「忘れた当人でしょ!? それは仕方なくない!?」
「うわっ! うわうわうわっ、聞いたかよ今の言葉! コイツ友達のピンチなのに有り得ねえ発言したんですけどー!」
「そっくりそのままお返しできる状況ですが!? 友達をピンチに叩き落としてるのはそっちで」「うるせぇ!」
国語の教科書でビンタされた。なんで!? 理不尽すぎない!?
「い、今のは流石のボクでもムカつくんですけど!」
「だったらなんだよ?」
「先生に言うよ!」
「ぷっ! だっさ! チクるのかよ! 女じゃんお前、きもー! 情けない奴!」
「チクられたくないからって慌てる海原くんもそこそこだっさいけどね〜!」
「は? うざ」
海原くんはマジックペンを取り出して教科書の表紙にぐちゃぐちゃと落書きをし始めた。
「なっ、やめてよ!!!」
「へいぱーす」
ボクが教科書を奪い返そうと近付いたら海原くんが横井くんに向かって教科書を投げた。横井くんの手に渡り、彼はボクにそれを見せつけるように手元で教科書をヒラヒラと揺らして見せた。
横井くんの方へ走ったらまた教科書を投げられ、海原くんの手元に渡る。その一部始終を見ていた間山さんが席から立ち上がる。
「なにしてんのあんたら、下らない遊びやめなよ!」
「お前は関係ないだろ、入ってくんなブース!」
「はぁ!? 誰がブスだ! コイツ!」
「うわっ、こっち来んなよ!」
間山さんが海原くんの手から教科書を取ろうと近付く。横井くんへはボクがガードしているからパスもできず、目線を右往左往させている最中に間山さんが海原くんの腕を掴んだ。
「このっ、触んなっ!」
「いった!?」
乱暴に掴まれた腕を振り回した海原くんの裏拳が間山さんの肩にあたり彼女を突き飛ばした。
「っ、ごめ」
「このーっ!」
「うぁっ、てめぇ、星宮っ!? いたっ、いてぇって!」
ついカッとなって海原くんを掴み、そのまま足をかけて転ばしてやった。床に倒れ込んだ海原くんに馬乗りになった状態で拳を握って頬を数発殴りつける。
「こ、のっ……調子に乗んなぁっ!!」
体を捻って強引にボクの体を浮かせると、海原くんの蹴りがボクのお腹に命中した。
ズキッ、とお腹の奥で何かがひび割れるような痛みがした。蹴りそのものを食らった傷みと言うより、内部的な激痛にお腹を押さえて倒れる。
「ぐっ、うぅっ……い、痛いっ」
「あ? ……ははっ、この! 調子にっ、乗るからだ! こいつっ、死ね!!」
ボクの異常な痛がり方に最初こそ困惑していた海原くんだったが、すぐに彼は蹲るボクの足や腰をボコボコと蹴ってきた。
正直蹴りに関してはそこまで痛くもない。そんな攻撃より、お腹の奥から響いてくる痛みの方が問題だった。
骨が折れたのだろうか。お腹の奥から全身の、肉体の芯がビリビリと震えるかのように痛んで目の前がチカチカする。骨から電気が広がるように肉や皮膚まで火傷するかのような熱さに襲われ、元からあった微妙な痛みが激痛となって全身を蝕む。
「ちょっ、やめて! やめてよ海原っ!!」
「知るかよ! こいつがっ、この裏切り者がっ!!」
「おいおいやべぇぞ、このままじゃ星宮が殺されちまうって!」
「よ、横井、お前何とかしろよ!」
「はぁ!? お、俺関係ねえし!」
「待って長尾。近付いたらあんたも殴られるでしょアレ」
「いやでも止めねえと……」
「止める止める。おーい海原ー」
「んだよ伊藤!」
「あんた置き勉してるじゃんねー? 国語の教科書あるじゃん」
「なっ!? おまっ、それ寄越せ!」
「取ってみな〜。あかりちゃん、パース!」
「きゃっ!? 伊藤さん! わわっ、こっち来た! ぱす!」
「いらないってこんなの! えいっ!!!」
「ちょおっ、投げんなよ女ども!! くそーっ!!」
伊藤さんが海原くんの教科書を見つけ出し、それに落書きするような素振りを見せる事でボクから海原くんを引き剥がしてくれた。女子達が汚物のように教科書を投げ合いそれを海原くんが追いかけているのを横目に見て、伊藤さんと長尾くんもこちらに歩み寄ってきてくれた。
「大丈夫か? 星宮」
「う、く……」
「相当強く蹴ったんだな海原の奴……立てるか?」
「……っ!? 星宮!!?」
「うわっ!? なんだよ間山、いきなり大声なんか」
「血ぃ出てる!!!」
「えっ」
「っ、誰かっ、あかりちゃん先生呼んできて! 早く!」
「え……い、伊藤さんが行けば?」
「こんな時にそういうのいいって! もう! 二人は星宮の事見ててあげて!!」
伊藤さんは間山さんと長尾くんにそう指示して教室を飛び出す。幸い朝のホームルームが近かった為先生は教室の近くまで来ており、すぐにボクは先生に抱えられて保健室へと連れていかれた。
この時には既に痛みで意識が朦朧としていて、先生の他に誰かがボクの名前を呼んでいるのも聴こえてきたけどそれが誰の声なのかは分からなかった。
*
「なんで、血、なんか。俺、そこまで強く蹴ってな」
ガシャーンと大きな音を立てて俺の立っている近くの席に椅子が飛んできた。椅子を投げてきたのは間山だった。長尾もその傍らに立っており、暴れようとしている間山を抑えているように見える。
「椅子を投げるのはやばいって! 危ないって間山!」
「うっさい! あたしよりもっ、アイツでしょ!!? 屑! ゴミ!! お前、自分の友達になにやってんのよ! 頭おかしいんじゃないの!?」
「い、いや、だからそんな強く蹴ってないって」
「知らないわよお前の力加減とか! 現に血を流してたじゃん星宮は!! 遊びでそこまでやんの!? 馬鹿なんじゃないのマジで!!!」
「う、うるせぇ! 元はと言えばお前が首を突っ込んできたからだろ!」
「だから何!? いじめまがいなだっさい事してる方が悪いだろ! お前のそのノリもう寒いから! 星宮だって困ってたじゃん!」
「知るかよ! 関係ないのに首突っ込む方が寒いから! お前のせいでああなったんだよ! お前さえいなきゃあんなこと」
「なんであたしのせいなんだよ!! いい加減にしろよお前! このっ!」
「だからっ、椅子投げんのやめろって! 横井も手伝えよー!」
「お、おぉ」
「だからあたしじゃねえだろっつってんのよ馬鹿男ども! 普通に考えてアイツが悪いだろ! こっち来んな死ね!」
間山が横井に蹴りを浴びせ、長尾の顔に後頭部を当てて二人を仰け反らせると再び椅子を持ち上げる。そのままこちらに投げてくる直前に、担任とは違う別の先生が教室に入ってきて間山の暴挙を止めさせた。
間山は先生に捕まると少し無言になった後に泣き始めた。どういう感情なのか分からない、あんなに怒っていたのに急に泣くとか。
「……きめぇんだよ。ブス!」
先生に連れてかれていく背中に向かって暴言を吐く。その言葉に反応した先生がこちらに怒りの言葉を投げかけてくるが、そんなものよりも間山が俺に向けた憎むような視線の方が余程印象に残った。
間山の行動、表情を見る度に胸が酷く痛む。その痛みの理由に気付かないうちに、教室に戻ってきた担任が「星宮は早退する」とだけ発言した。
そのままホームルームを始めようとしていたんだろうけど、床に落ちた星宮の血液を放置する訳にもいかずみんなに「全員、静かにしているように」と言って雑巾で血を拭き取った。その行為が終わってホームルームが終わるまで、誰一人として発言することは出来なかった。
全員の目が俺の背中に刺さる。目が合いそうになるとすぐに目を逸らされる。唯一、先生から解放されて教室に戻ってきた間山だけが俺の事を強く睨みつけていた。
「海原」
「……なんすか」
給食の時間になると、担任が俺の方まで歩いてきて名を呼んだ。肩を強く掴まれる。
「話がある。放課後、残れ」
「……今日は用事が」
「残れ」
肩を掴む力が強まる。暴行罪だろこんなの。クソッ。
「分かったか?」
「……」
「おい。聞いているのか」
「いたっ! き、聞いてますよ! 残るからっ」
「言ったぞ。帰ったら、分かってるよな?」
「なんすか……」
「家の人に連絡する。今日あったこと、それと普段の行いについてもだ」
「は、はぁ!? そんなんアイツがっ」
「アイツが生意気だった、か? アイツに嫌な事でもされたか? アイツが嫌いだった、そんな程度だろうな、お前が人を蹴った理由なんて」
「そ、そんな程度って」
「お前は分別出来るほど賢くないだろ。だからああいう事になるんだ。ったく、どんな親に育てられたらお前みたいな人間が出来上がるんだか」
「ッ、で、でもそれなら間山だって椅子投げてきたし」
「聞いてる。間山はもう叱った。周りをよく見て行動すること、周囲に配慮すること、とな。次はお前ってわけだ」
「い、いやそれだけ!? 椅子投げるとかイカれてるでしょ!? 絶対もっと厳しく言うべきでしょ!」
「はぁ。それを言う資格はお前にはないだろ。血を流させてるんだぞ、お前」
「あれだって絶対おかしい! 俺そんなに強く蹴ってないし」
「そうか」
肩を掴む力が更に強くなり体が強ばる。痛すぎて担任の腕を殴るも全然振りほどけない、そこそこ鍛えられた腕に対して子供の力では太刀打ちできなかった。
「痛いって、離せよ暴力教師!」
「痛いのか? そんなに力入れてないぞ?」
「あんたにとったらそうだろうけどっ、大人の力で掴んだら痛いに決まってるだろ!」
「そうだな。俺にとっては大した力じゃなくても、受ける側のお前は痛がるよな」
「あ、当たり前だろっ」
「そうなんだよ。当たり前なんだ。お前が大した力で蹴ってなくても、蹴られた星宮が痛がるのは当たり前」
「そ、それはっ」
「倒れた後も蹴られてたらしいなー星宮は。伊藤から聞いたぞ。何度も何度も、無抵抗な相手をなぁ。そこまでしといて、なんでお前だけ許される? 考えてみろー海原ー」
「いっ!? 痛いっ!」
「なあ、海原。お前、星宮と仲良かったよな? 仲良い相手に血を流させて、何度も何度も痛い目に遭わせて、それでなんで被害者ヅラしてるんだ? お前は」
「お、折れるっ」
苦しみながら必死に声を出していたら担任が俺の肩をパッと離した。痛みが消えて引いていくと同時に心臓がバクバク鳴る。殺されるかと思って少し涙が出ていた。
「これ以上やったら問題になるからな、やめておこう。だが、星宮は出血しているからな。言っとくが、アレはもう既に問題になる段階まで行っているぞ」
「なっ、はぁ!?」
「なあなあで済まされるとでも思っていたのか? 星宮にも親はいるんだぞ? 息子が友達と喧嘩して血を流して倒れたってなったら問題になるのは当然だろ」
「そ、そんなの……だって、あんな力で……」
「まだそれを言うのか……まあいい、言っても無駄だろうしな。それよか俺も担任である以上責任を取らされる立場だ。俺と海原は対等な立場というわけだ。心を強く持っていこうな、これから」
「こ、これからって……?」
「星宮さん家への謝罪とか、慰謝料とかな。まあ諸々あるが子供には分からん話だ。責任の大部分は俺が担うが、お前も無罪放免とはならない。俺からなが〜いお説教を食らうことも確定してるしな。その心構えを持っとけよって話だ」
担任は怒りを滲ませた声で言うと、俺に冷たい視線を向けた後に背中を向けた。即座に明るい声音に戻し、蓋の着いた鍋を重そうに運んでいるデブ女子の所まで行くと「手伝うぞ〜」と言って持つのを代わってあげていた。
担任が離れた瞬間に周囲がザワつき始める。「あいつ終わったな」だとか「海原くんってやばい人だよね」だとか。耳障りなので声のした方を睨むとすぐにザワつく声が止まり全員が俺から目を逸らした。
「星宮くん可哀想……」
「は?」
誰だよ今の。なんで可哀想なんだよ、だってアイツ俺よりも、ずっと仲良くしてた俺達よりも別の奴らの方に絡みに言ってたじゃん。男の約束だってしたのに、親友だと思っていたのに、裏切ったのはあいつだったじゃん。しかもあのクソ女と仲良くしてるし。どう考えても然るべき制裁は加えるべきだったろ。
あいつは、可哀想じゃない。あいつが悪いんだ。だって、おかしいし。どう考えても出血するような威力で蹴ってないし。どうせケチャップか何かを仕込んでたんだろ、イタズラのつもりで。そうに違いない、以前のあいつならやりかねないし。
そうじゃん! そうだよ、以前あいつ口の中にケチャップ詰めて「吐血した!」とかやってたじゃん! 完全に同じ流れだったじゃん今日のは! 何騙されてんだよみんな!? おかしいだろ、あいつが少し優しいからって、みんなあいつの肩持ちすぎだから!
「ちっ。……横井、消しピンしようぜ」
「お、おう」
「んだよ」
「いやっ、えーと……なんか今日のお前、怖いよ?」
「あ?」
「朝早くに呼び出されたと思えば、星宮の事無視しろとか俺の擁護しろとか言い始めるし……ゲーム代くれんのは嬉しいけどよ、流石にやりすぎっつーか。どうした? アイツと揉めたか?」
「うるせぇなぶん殴るぞ!!」
「ッ!?」
イライラする事を言い始めた横井を黙らせようと大声を出したら教室中が静かになった。唯一担任だけが大きなため息を吐き、鍋を椅子の上に置いてこちらに振り返った。
「海原」
「な、なんすか。今のはただのっ、友達同士の軽口でしょ」
「ん。そうだな。お前今日は別室な」
「は?」
「別室。職員室横にカウンセリング室あるからそこで飯食え」
「はぁ!?」
「俺も同席するからな」
「なっ、なんでだよ!? 今のはまじでそういうつもりで言ったんじゃなくて!」
「お前といるとクラスみんなの飯が不味くなる。和気藹々と給食タイムを満喫するのに協力してやってくれ」
「し、知ったことかよ! もう何も言わねぇから!」
「なんだよ〜。先生とご飯食べるのそんなに嫌か〜? 俺は悲しいぞ〜」
担任に無理やり腕を掴まれ引っ張られる。どんな抵抗をしてもやはり大人の腕力に適う筈もなく、俺はカウンセリング室までは連れてかれてしまった。途中、職員室を通る時に担任を呼ぶ声が聞こえてきたが担任は「今はコイツの事を見させてください」と断りを入れていた。
……明らかに生徒を連れているのに声をかけるってことは緊急の用事でもあったのかな。それってやっぱ、星宮関連の……?
「星宮……」
死んでたり、してないよな? あんな蹴りで……あんな蹴りでも、当たり所が悪かったら内臓破裂とか、するのかもしれない。そうなったら死ぬことだって……。
俺は取り返しのつかない事をしてしまったかもしれない。そんな風な事を考えた瞬間、今まで抑え込んでいた不安と罪悪感を抑えられなくなり胸がザワザワし始める。
その日以降、星宮が学校に姿を現すことは無かった。
初めのうちは誰もが星宮の事を噂し、それに絡めて俺を影で「人殺し」と呼ぶ奴も居たが、星宮の噂は1年経った頃には誰もしなくなり、まるで元から存在していなかったように、『星宮憂のいない学校』の雰囲気は以前と変わらない平和な日常へと戻っていった。