7話『気付き』
「学校を休みたい?」
「うん。なんか熱っぽくて。それになんか、全身が少し痛むし」
「……熱は無いみたいだけど?」
「で、でも……」
「体温計で計っても平熱だったんでしょ? 全身が痛いのは筋肉痛かなにかでしょ。別に異常はないみたいだから休むのはダメ。さっさとご飯食べて学校行きなさい」
「……はぁ〜い」
日に日に全身の痛みが強くなっている事を母さんに伝えてみたものの、母さんは学校を休ませてくれなかった。平熱だからって、体温はそうかもしれないけど本当に熱っぽい感覚するんだけどなぁ……。
両手を頬に当ててみると、やっぱりじんわりと火照った感じの熱が頬に伝わる。気怠いし、ランドセルを背負うと肩が痛いし、金具が肌に当たると嫌なゾワゾワに襲われるし、休んでもいいくらい体調が悪いと思ってるんだけど、それは母さんには分からない事だから仕方ない、のかな。
「なんだ、疲労でも溜まってるのか? 学校まで送ってくか?」
「……大丈夫。ありがとう父さん」
「無理するなよー」
先に朝ごはんを食べていた父さんが気を遣ってくれたけど、学校と職場は方向が逆だから提案は断った。仕事前に寄り道させるのも悪いしね。
「……? 海原くん来ないな」
待ち合わせ場所の水車小屋で海原くんが来るのを待っていたけど、10分くらい経っても海原くんはやって来なかった。今日は学校休むのかな? そろそろ遅刻しそうだし学校向かうか。
「よぉ星宮。おはよー」
「おはよう長尾くん」
「あれ? 今日は海原と一緒じゃないの?」
「んー」
下駄箱で上靴に履き替えていたら長尾くんと鉢合わせた。珍しく長尾くんと廊下を歩く、相変わらず迫力のあるお腹してるな〜。
「あれ? 星宮、お前太った?」
「え。いや、太ってないと思うけど……」
階段を上る直前になって長尾くんから聞き捨てならない言葉が飛び出してきた。別にそこまで大食いという訳でもないし、お腹を触っても以前とあまり変化ないと思うんだけど……。
「いや、そこじゃなくて。なんか胸膨らんでね? お前」
「胸?」
長尾くんがボクの胸を触ってきた。……? 確かに、なんか膨らんでる気する? こんなに前に出てたっけ? ていうか男も胸が膨らむものなの?
「おー。なんか女みたい、星宮って実は女だったりするん?」
「なわけないでしょ、ちんちん生えてるし」
「だよな。でもこの感触……」
「それを言ったら長尾くんだって胸でかいじゃん」
「デブだからな。そりゃデカいよ」
「でもボクは別に太ってないし……なんだろうね、これ」
「あんたらなにしてんの……?」
長尾くんと胸を触り合っていたら後ろから伊藤さんに話しかけられた。彼女はドン引きしたような目でボクらから少し距離を置き睨んでいる。
「男同士で胸を揉み合うとか、きも……」
「ほら、見ろよ星宮。お前の胸、伊藤のよりデカくね?」
「本当だ」
「はぁ?」
長尾くんの発言に伊藤さんが困惑したような顔を見せた。彼の手がボクの胸から離れると、伊藤さんの目がボクの胸の位置で止まる。
「え、本当に膨らんでる……星宮、あんたもしかして女なん?」
「だから違うって」
「でもこれ……やっぱ本物だ」
伊藤さんまでボクの胸を触ってくる。全然触るのはいいんだけど、少しだけ胸がズキズキするから力加減は程々にしてほしい所だ。
「いっ!?」
不意に伊藤さんに胸の肉をつままれ引っ張られる。ズキッ、と鋭い痛みが胸に走ってボクは伊藤さんの手を払い胸を押さえる。
「いったいなぁ!? いきなり何するのさ!」
「偽物かな〜って思って。でもその反応、本当に胸が膨らんでるんだ?」
「当たり前でしょ、偽物なんか入れる理由ないし!」
「そっちの方が不思議だと思うけど……星宮」
「な、なにさ」
「ちんこ生えてる?」
「生えてるよ!?」
「えー? 本当に? 本当に男のサイズのちんこ生えてる? ちっこいのじゃなくて」
「ちっこいのってなに!? そ、そんなに大きくは無いけど、でもちゃんと付いてるから!」
「本当に〜? それ、あんたがちんこって思い込んでるだけで、実はちんこじゃないかもよ?」
「どういう意味!? ボクは女じゃないから!」
「本当に〜?」
「確認すればよくね?」
「馬鹿じゃないの!? 長尾くんは何言って」
「たしかに」
確かに? 確かになわけなくない??? 何言ってるの伊藤さんは。
「うーん、よし! 長尾、ちょっとあっち行って!」
「え、な、なんだよ。なにか思いついたんだろ? 俺にも聞かせろよ!」
「ダメ〜。あんた頭悪いから居ると厄介だし、あっち行って!」
「はあ!? テストの点とか星宮とそんな変わんねーし」
なんならボクの方が点数低いんだけどね、算数とか60点超えた事ないし。それなのに変わんないとか言ってくれるとか長尾くん優しいなぁ。
「とにかくあっち行って!」
「なんだよー。怪しいぞー?」
「着いてきたら絶交だかんね! もう一緒にゲームしてやんないよ?」
「ぐっ……勝ち逃げされるのは良くないな。仕方ない」
長尾くんは名残惜しそうにしつつも階段を上っていった。にしても長尾くんがボク関連の事であんな態度をするとか珍しいな。海原くんと仲良いからつるんでくれるだけなのかと思ってたや。
「あ、そっか」
「? なに?」
「や、長尾くんって伊藤さんの事好きなのかなーって思って。それなら今の態度も納得できるというか」
「えー? アイツが私の事好き? なんで?」
「分かんないけど、今の態度とかでそうかなって。伊藤さん可愛いし有り得そうじゃない?」
「わっ、可愛いとか目を見て言ってくれるんだ星宮って。良い奴〜!」
「良い奴って言われるほどのことでもないと思うけど……」
「まあそんな話はいいや。こっち来てみ」
伊藤さんがボクの手を引く。何処へ連れて行かれるのかと思っていたら、彼女は女子トイレの方へとボクを引っ張った。
「ちょっと、伊藤さん!?」
「大丈夫だよ〜。こっちにあるのって障がい者の子達のクラスじゃん? ここを利用する人なんてあんまり居ないよ」
「でも女子トイレに入るのはまずいよっ!」
「大丈夫だって。トイレ掃除の時とかそんなの気にしないでしょ?」
「気にするよ!? 女子トイレには入らないようにしてるし!」
「まあまあ。いいからいいから」
グイグイと手を引っ張ってくるので仕方なく着いていき、個室の中に押し込まれる。何故か伊藤さんもそこに入ってくる。ギューギューだ、狭いよ……。
「こんな所に連れ込んで何する気なのさ……」
「星宮。しー、大きな声出さないでね?」
「出せるわけないでしょ……」
「よし。えいっ」
そう言って、伊藤さんはボクのズボンとパンツに指を引っかけ、その指を引っ張った。
「ちょいっ!?」
「あれ? ちんこついてる……けどちっさいな」
「何してるのぉ!?」
驚きの行動に伊藤さんを突き飛ばそうとするも扉はしっかりロックがされていた為伊藤さんを離すことは出来なかった。伊藤さんはそのままズボンを下にずらそうとしたので必死に腕を掴みそれを静止させる。
「待っ、伊藤さん!」
「いたたっ、離して星宮! 力強いって!」
「離すわけなくない!? なんで脱がすの!」
「いや……えーと、ほら。ちんこはついてるけど小さいじゃん? もしかしたら大きいタイプなのかなって」
「何言ってるのか分からないんだけど!? 小さいのか大きいのかハッキリしないな!?」
「つまり、ちんことして見たらちっちゃいけどちんこじゃない方として見たらもしかしたらって思って。それを確認する為に下から確認しよ〜、みたいな」
「ずっと言ってる事が意味分からないんですけど!?」
「だって有り得ないじゃん、星宮ってチビのガリッガリなのに胸があるとか。ただの肥満だとしても有り得ないくらいちゃんと膨らんでるし。どう見てもそれ、女の胸じゃない?」
「しっ、知らないし! てかボクは男だから!」
「証拠は?」
「今見たよね!?」
「本当にそのちっこいのでおしっこしてんの?」
「してるよ! 当たり前だろ!?」
「嘘だぁ」
「じゃあどこから出るって話になってくるよ!?」
「もっとこう、体の中心真下から出さない?」
「出るかぁ!? 皮膚突き破って放尿してることになるじゃんそれは!!」
「……んー。実際見た事は無いし、証拠にならないな」
「なんで!? 女の子にもちんこついてるの!? 違うでしょ!」
「でもなぁ」
伊藤さんがズボンから手を離す。慌ててズボンを上にあげる、なんでこの子は冷静な顔をしていられるんだろうか!?
「んーーー……説明しづらいんだけど。どうしよ……んー……星宮、私の見る?」
「!? 見ないよ!?」
何故かそこで自分の履いてるスカートの端を掴み持ち上げようとする伊藤さんの腕を掴む。なんなんだろうこの子、変態なの? 変態だよね間違いなく。
「見せないと説明が出来ないんだけど。私これの名前知らないし」
「やっ、見なくても知ってるから! 小さい頃に母さんのとか見た事あるし! だから大丈夫だから!」
なにが大丈夫なんだ。自分の発言にツッコミを入れる。
「…………でもよくよく考えると、男子だったらエロいものに興味津々だよね。ここで断れるってことはやっぱり……」
「いや男だから! 男だとしても友達のそういうのを見たいとはならないでしょ!?」
「たしかに?」
「伊藤さんの"たしかに"は本当に理解できてるか分からない発音だなぁ!?」
「テキトーに言ってるしね。じゃあ星宮、両手上げて」
「嫌だよ! パンツ脱ぐ気だろ!」
「私別に変態じゃないから、見せつけたい訳じゃないから。そうじゃなくて、確認したいことがあるから」
「それって何!」
「星宮の胸を直で確かめようかなって」
「そ、それもなんか嫌だぁ!」
「ばー」
「っ!?」
今度は伊藤さんが自分のTシャツの端を掴み持ち上げようとしたので慌てて目に手を当ててそれを見ないようにする。スカートから離れた瞬間、伊藤さんはボクの服を掴んでそれを思い切り上に捲りあげた。
「やっぱり本物だ……」
「何してるの!」
「目を開けないでー。私のおっぱい見えちゃうよー」
「なんなの!?」
淡々とした口調で言いつつ伊藤さんはボクの胸を指でつついたり下から持ち上げて離したりする。……あれ? 下から持ち上げて離したら揺れるほどボクの胸って大きかったっけ?
「本当だ、私よりちょっとある。Cカップくらい? すごいなー、てか肌白くない?」
「そりゃ服着てるから胴体は日焼けしないだろうね!」
「そうじゃなくて。んー、女の子的な白さ? 私と長尾を比較したら私の方が肌白いでしょ?」
「日焼けしたらどっちも変わんないよ!」
「冬場とか思い出してよ」
「えぇ……確かに、伊藤さんの方が白いかもだけど!」
「でしょ? そういう体色してるかも。星宮、自分で服持って支えといて」
「なんなんですかこれは」
「性別チェック。もし星宮が女だったら体育の着替えとかで問題になるじゃん」
「余計なお世話だよ!? 男だし!」
「今の所女って自認した方が納得出来る状態だけど?」
「ちんこの有無での判断は!?」
「それは保留。小さいちんこなのか大きいアレなのか難しいところ」
「アレってなんなの!?」
指示された通り自分で服を持ち上げる。よく分からないけど怖い、何この時間? ボク、伊藤さんに襲われかけてない? 誰か助けてー!
「肌色も私と大差ないし……やっぱ星宮、女でしょ」
「いやだからっ……!? あ、ご、ごめん!」
何をどう言っても女にしてこようとする伊藤さんに反論しようとしたら、服をまくり上げてボクの胸と自分の胸を見比べていた伊藤さんの姿を目視してしまった。あ、胸と脇の下にホクロが二つずつある……じゃない! 何見てるんだボクッ、ぐうう不可抗力……!
「あ、見られた。エロだー」
「見るつもりはなくて! てかどういう状況!? なにしてんの!?」
「見比べないと分かんなくない? もー、私まだブラしてないのに」
「ごめんって!」
「でもまあ、どう考えても星宮は女だし。いいけどね」
「男です! お、と、こ! 女じゃない!」
「じゃあ」
「させるかっ!」
再びズボンを下げようとする伊藤さんの行動を先読みして腕を掴む。指が離れたことで服がピラッと下がった。もうちょっと見ていたかった気持ちもあるけどそれはそれとして、割と力を込める伊藤さんに抵抗するためこちらも力を入れる。
「いいの? 星宮が無知なだけで実は本当に女なのかもよ? そうだった場合困るのは星宮なんだよ?」
「100パーセント男だから! 親もそう言ってるし無知ってことは無いよ! 絶対!」
「手、離して?」
「なら力抜いて!?」
「離さないとキスするよ?」
「仮にボクが女だったとしてもそれは無理でしょ! キスなんて出来ないでしょうが!」
「出来るけど? ほらっ」
なんて言いながら俊敏な動きで伊藤さんがこちらに顔を近づけて来た。唇が当たる本当に寸前の所でボクは手を離し後ろに下がって回避する。あっぶな!? マジでキスする気だったじゃんこの人、さっきボクの顔があった位置にガッツリ頭突きしてるし!
「隙ありっ」
「あぁ!?」
伊藤さんが勢いよくボクのズボンを脱がせる。ランドセルが音を鳴らすくらい力強く下げられたことで下半身を露出する羽目になり、伊藤さんはそのあられのない姿になったボクを下から眺めるようにしてじっくり観察する。
「……あれ?」
「な、なんだよぉ!」
「……んー? こ、れは……男? 女?」
「男でしょどう考えても!?」
「い、いや……えっと、うーん……」
困ったように伊藤さんはボクのズボンから手を離し立ち上がる。
「星宮ってさ、自分の股間触ってどうなってるか確認した事ある?」
「えぇ……体洗う時とか、タオル越しに感覚でなんとなく……?」
「指で触ってよく確かめた方がいいんじゃない?」
「えっ? ……えっ、嘘でしょ? だってボク、金玉あるよ」
「あったけど……」
「あったんじゃん!?」
「あったんだけど……そのー、他にも、構造的に、おかしいのが」
「えっ」
「あ、そろそろ時間だ。教室行こう星宮、遅刻扱いになる!」
「待って? 気になる所で話を辞めないで? なに? なんなの、ねぇ!?」
伊藤さんはそれ以降ボクからの質問には何も答えずに困ったような顔で上まで走っていった。怖すぎるんだけど? 幼い頃から母さんに「そこを見たり触ったりするのは情けないから洗う時以外絶対に触らないこと。見るのも駄目」と厳しく言われてきたから特に気にしたこと無かったんだけど、ボクの股間って何か変なの!? 最近全身が痛いし、股間とか下腹部辺りは特に痛いし熱いしでもうなにがなんだかわからない。ボクの体に何が起こってるんだよぉ〜!