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49話「嫌だ」

「どうして海原くんが悪いの?」



 星宮があたしの目を見て静かに問いただしてくる。あたしの考えている事を見透かしているかのような表情でただ返答を待つ彼女に対し、後ろめたさからあたしは目を逸らす。



「どうして目を逸らすの」

「……っ。そ、そんな目で見ないでよ」

「普通に見てるだけでしょ? ボクら話すの久しぶりだもんね、ちゃんと目を見て話そうよ」



 そう言って星宮はあたしの頬に手を当てて顔を上げさせてきた。震え声になりそうなのを必死に耐えながら、なんとか声を絞り出す。



「……ほ、星宮の噂。あれバラしたの、海原だから」

「どうして?」

「知らないっ。あたしはただ事実を言ってるだけだから。なんでそんな事をしたのかなんて知ったこっちゃない」

「んーん、聞きたいことはそういう事じゃなくてね? なんでそんな嘘を吐くのって言ってるんだ」

「嘘なんか吐いてない」

「じゃあどうして海原くんがボクの家庭の事なんて外部に話すわけ? 得ある? それ」

「だからっ、あたしは海原じゃないからそんなの知らないって!」

「無責任な事言わないでよ。ないでしょ、理由なんて。海原くんがボクの話を流布する理由なんてない」

「分からないじゃんそんなのっ! ア、アイツは星宮の事をいじめてたんだよ? 1度悪いことした奴はっ、また同じ事を繰り返すよ……!」

「繰り返すにしても何かきっかけが必要じゃない? 最近までまた普通に仲良く出来てたのに、突然そんな行動を取るかな」

「う、裏で馬鹿にしてたんだよ! 星宮の事!」

「ボクを馬鹿にするような人が身を呈して守ってくれるとは思えないけど」

「っ」

「海原くんは真剣に野球に打ち込んでいたよ? それなのに、馬鹿にして見下していたボクを守る為に肩でバットの攻撃をガードする? それはおかしくない?」



 つらつらと星宮の口から言葉が紡がれる。反論される事は分かってたけどここまで流暢に話されるとは思わなくて言葉が詰まる。でもここで引いたら今までの会話が無意味になってしまう。星宮の息継ぎをしタイミングを見計らってあたしも言葉を繋げる。



「でも状況的に考えてさっ、星宮が子供を産んだってのを知ってたのは海原だけでしょ!? 子供がいるって事情をちゃんと目にしなきゃ不登校期間と妊娠を結びつけるのなんて不可能でしょ、不自然だよ!」

「間山さんだって知ってたじゃん」

「あ、あたしが星宮を困らせるようなこと言うわけないでしょ!?」

「それはボクには分からないよ」

「分かってよ! あたしにとって大切な人なんて星宮だけなのっ! 胸を張って言える! だからっ」

「でも小学生の頃、ボクが陰口を言っているなんて噂を流したのは間山さんでしょ」

「……えっ」



 想定していたのと違う答えが返ってきて思考が停止する。


 こういう言い合いになった時、『でも間山さんだって』という言及に対する防衛策として予めあたしは海原の悪評をSNSを使って匿名で流すなんて事をしていた。その匿名アカウントはもうログアウトしてるから、アカウント一覧の画面を見せて『証拠もないのに決めつけないでよ』って訴える事で罪悪感を抱かせ、星宮の言及する内容を1つ潰そうと企んでいたのに、準備していた罠より更に過去の時系列の話をされて頭が混乱する。



「なんだっけ。ボクが海原くんの陰口を言って伊藤さんがそれを聞いて? 勅使河原くんから間山さんにその話が渡って最終的に海原くん本人に伝わった、だっけ? あれさ、無理あるよ流石に」

「む、無理……?」

「無理だよ。勅使河原くんを噛ませているんだもん。いつも虚言ばかり口にする勅使河原くんを自分の直前に配置した理由ってさ、もしその話が嘘だってバレても彼に責任をなすり付けることが可能だからでしょ? 彼の言葉は誰も信じない、だから彼に罪をなすりつければ必然的にみんな間山さんの事を信じてくれる。そう思ったから勅使河原くんの名前を出したんだよね」

「そ、そんなのっ! 勅使河原本人からなにか聞いたわけ!? アイツが言ってた事を真に受けるの!?」

「真に受けないよ、ボクだってあの人の言葉は信用してないもん。勅使河原くんから話を聞いてそう判断した訳じゃなくて、あの事件が起きた後日に勅使河原くんのゲームのログイン履歴を遡らせてもらったんだよ。勅使河原くん、噂が流れ始めた時期はずっとゲームにお熱だったみたいだよ」

「………………ス、スマホで連絡を取ることは出来るじゃん」

「ゲームの履歴を見に行った日にスマホの履歴も見せてもらったよ? 勅使河原くんと伊藤さんのトーク履歴、小3の頃からいきなり飛んで伊藤さんの『ねぇ、私らしばらく話してなかったよね!?』っていうメッセージしか残ってなかった。あまり仲良くない男女の駄べり、駄べりというか噂についての確認という業務的すぎるLINE履歴だったよ」

「……」

「以上の状況証拠から勅使河原くんはもちろん白だし、そこが破綻するなら勅使河原くんから話を聞いたとされる間山さんが怪しいと思っても不思議じゃないよね」

「……で、でも、でも、さ、最終的にさっ? 伊藤も星宮の事いじめるのに加担してたじゃん。最初こそ親切にはしてくれたかもしれないけど結局星宮の事裏切ったんじゃん!?」

「そうだね。悲しかった」

「そうだよね!?」

「だからボクから伊藤さんと、ついでに海原くんを引き離そうとしたんだよね。2人とも、ボクにとって害になると間山さんが判断したから」

「そうっ、そうだよ! 現にあたしは今でさえ星宮の味方になれてるし! 今後もその姿勢は変えるつもりないし! あたしの邪魔しかしなかった伊藤と違って、あたしは本当に星宮の事を大切にっ」

「ちなみに今の勅使河原くんの確認を取ったって話、嘘だけど」

「えっ……?」



 あっさりと口にした星宮の言葉に再び脳が停止する。嘘? 嘘って……? 履歴云々とか、そういう話が嘘って事?



「ボクはあれ以降勅使河原くんと喋った事がないよ。ごめんね、間山さんの口から本当の事を言ってほしくてカマかけちゃった」

「なんで、そんなこと……」

「ボクの事を大切に思ってくれてるのはありがたいけど、そう思うあまり他人の事を無下に扱うかどうか試したかったんだ。今の話を聞く限り、ボクが思っていた通り……いや、それ以上に酷い事を思ってたみたい」

「ほ、星宮……っ」

「大切にしてるとかそういう話はさておいて。事実として、間山さんはボクが孤立するように裏で手を回していたんだよね? 海原くんと伊藤さんが傷つくような方法で。それを今、自分で認めた」



 淡々とそう口にした星宮の視線があたしの心を少しずつ追い詰める。狙いを外した驚きでありのまますぎる言葉を吐き出してしまった。



「それと最近まで流布されてた海原くんのレイプの噂、あれを流したのも間山さんでしょ」

「っ! ち、違うっ、あたしじゃない! 疑うのならほらっ、スマホ渡すよ!? そのSNS開いて見て! あの噂を流した匿名アカウント、ユーザーの欄に入ってないから!」

「? SNS?」

「っ、あ、の……あの噂は、えっと……」

「素性の分からない何者かの匿名アカウントが流布させた噂だった?」

「……そうっ! し、知らなかったんだ! でもほら、あたしじゃない証拠はここにある!」

「別にアカウントなんて好きな数作れるしすぐ消せるくない? それが証拠になるの?」

「な、なるよっ。少なくとも犯人があたしであるという証明はできないでしょ? 確率的には潔白であるって思った方が自然にならない!? わざわざ他人のスキャンダルなんて流す人がログアウトなんてするかな!?」

「そのアカウントがまだ消されてないのなら呟きを表示して位置情報を調べるくらいは出来るんじゃないかな」

「無理だよ! 位置情報は出ないように設定してあるし!」

「そうなんだ。でも位置情報が出ない呟きでもコピペしたら位置情報出せるツールってネットに転がってるよね。今ここでそれを調べたら黒か白かハッキリするけど」

「っ!?」



 そう言ってスマホを出した星宮の手からスマホを強奪する。彼女は小さなため息を吐き、あたしの方を見る。



「ねぇ。もうどうあっても誤魔化せないって自分でも分かってるんでしょ。想定してたより早く噂が悪い方に傾いたもんだからまだ誤魔化す準備が不十分だった、違う?」

「あ、あたしじゃないって!」

「無理でしょ。今衝動的にボクからスマホを奪ったのもそうだし、てか既に間山さん自分で『位置情報は出ないように設定してある』って言ってたし。言い方が明らかに犯人目線だったよ」

「そ、それでも、あたしは……」

「ツールの話も実際はよく知らないけど分かりやすすぎる過剰反応したしね。間山さん、この程度のカマかけにひっかかりまくる時点で内心焦りすぎだよ」

「な、あ……なん、で、そんなっ、騙すような事……っ」

「……唯の件さ」

「それは本当に違うっ!!!!」



 星宮が考えていた、彼女が本当に求めていた噂の真相が何なのかに気付いた瞬間、あたしはありったけの大声を出してそれを否定した。


 言い切る前に否定をした事で逆に怪しんだのか星宮は目を細めるが、でも唯ちゃんの事をバラしたのは本当の本当に違う。それに関しては広まったら星宮の立場が絶対的に危うくなるって分かるからこそ、あたしがそれを流布したと星宮に思われたくなくて口がしきりに動き言葉を発した。



「それこそあたしが流布する理由がないよ! 確かにあたしは星宮を独占しようとしていたけどっ、子持ち説なんてものが広まったら星宮は孤立するどころか学校に居場所が無くなっちゃうでしょ!? あたしはそんなの望んでない! ただあたしは星宮と仲良く一緒に日々を送りたいだけなの! 星宮が困るだけの行為なんて絶対にやらない! あたしがやる行動は全部あたしと星宮が一緒にいれるようにって思って行ってきた事なんだもん!! お願い信じて! 星宮を追い出そうとしてるわけじゃないの! 星宮には……っ、あたしの事だけを見ていてほしいのっ!!!」



 言っている最中に感情が抑えきれなくなって目から涙がぼたぼたと零れてきた。これだけは絶対に嘘偽りないあたしの本心。こんな伝え方じゃどれだけ伝わるのか分からないけど、それでももう後に引けなくなってあたしは真正面から思いの丈を星宮にぶちまけた。


 星宮はただじーっとあたしの目を見て、何も言わずにあたしの手から自分のスマホを取り返しそれをポケットに仕舞った。



「……ごめんね。ボクには間山さんの気持ちが分からない。何がきっかけになってそんなにボクに固執するのか、実の所あまり分かってないんだ。だからさ、そんな風に言われてもイマイチピンと来ないんだよ」

「あたし、は」

「大切にしてる、味方でいるって言っておきながらやってきた事はボクを孤立させるっていう意味の分からない手段でしょ? 独占欲、なのかな。でもさ、されてきた事を考えるとボクを排斥しようとしてるようにしか思えないよ」

「違う、違うの……」

「独占欲だったとしてもその行為は成立するくない? ボクが学校に通えなくなれば暇になる時間が増えるから、間山さんがボクの元に来れば長い間一緒に居れるじゃん。そういう風に解釈したらさ、ボクが学校に来れなくするように唯の噂を広めたって考えに至っても違和感はないでしょ」



 星宮の言葉がギロチンの刃に変わってあたしの首に少しずつ食い込むような錯覚を覚える。彼女の言う事はもっともかもしれない。他の人が干渉できない場所で星宮を独占するのなら確かに、彼女を学校に来れなくしてしまうのが1番手っ取り早い。


 でもあたしはそこまでの事はしたくない、星宮と仲良くスクールライフを満喫したいんだ。根本的に見ている所が違う、でもそんな意思は当の星宮には伝わらなかった。



「……だって、みんなあたしが星宮と話すのを邪魔してくるんだもん。星宮がどんどん友達の輪を広げるから、その度に、少しずつ星宮の中のあたしが小さくなっていくんだもん。星宮にとってあたしは数ある友達の1人に過ぎないかもしれないけど、あたしにとって星宮はたった唯一の親友、になりたい人だったの……それ以上の関係になりたかった人なの。でももうそうなれないから、だからあたしは……あたしは……星宮があたしの事を見てくれれば、それでいいの……それだけでいいのに……」



 もう疲弊した心を支える事が出来なくてその場に膝を着いて泣きながら訴える。顔を覆って泣いていたら、少し間を置いて星宮があたしの頭に手を置いてきた。


 手が置かれただけで、髪を撫でてはくれなかった。一瞬ポンって手を乗せると、なにもせずにそのまま手を頭から離して厳かに言葉を吐いた。



「本当にごめん。信用、出来ないよ。間山さんは自分が思うよりボクの事を大切になんかしてない。……そんな人に味方ヅラされても、嬉しくないよ」

「……っ!?」



 星宮の口から、あたしの事を全否定する言葉が飛んできてつい顔を上げてしまう。彼女は僅かに苦しそうな顔をしながらも、あたしを突き放すような目をしながら言葉を続ける。



「驚いたよね。ボク、みんなが思うより性格良くなんかないしむしろ最悪な人間なんだ。他人を傷つける事に関して、ぶっちゃけなんとも思わないし。……そんな人の親友になっても嬉しくなんかないでしょ? だからさ……もう、ボクに関わらないでよ。正直言うと、間山さんの事苦手だからさ」



 あたしの事が、苦手。嫌い。星宮の口から1番言われたくなかった言葉を聞かされて頭が割れるくらいの衝撃を受ける。


 あたしは今までずっと星宮の事を第一に考えてきた。星宮と一緒に居たい一心で嫌な事も悪い事もしてきた。他の連中が星宮にちょっかい掛けようとしたのを阻止してきたつもりだ。


 あたしは喧嘩が強いわけでもなければ実は気だってそんなに強くはない。男の人は怖いし海原の言うように元はただの弱虫で泣き虫だった。でも、星宮が変な輩の毒牙にかかるのは絶対に嫌だったから、最近は星宮を付け狙う怖い男子や先輩方を裏に呼び出して何度も脅しつけたり、時には叩かれたり罵声を吐かれたりしながらも立ち向かってきたのに。


 どんな事をされてもひたすら耐えて耐えて、星宮が何も気負わず生きられるように頑張ってきたのに……!



「なんで……そんな事言うの……あたしは、星宮の事が……」

「……ごめんね」



 冷たい声でそう言うと、星宮は踵を返してあたしの元から離れていった。


 星宮が居なくなった後、長い時間壁に背中をつけて三角座りで静かに泣いた後、あたしは教室に戻らず荷物を回収しないまま学校を出て帰路を歩いた。野球部の連中がやけに星宮の事を付け狙ってたから、誰よりも早く学校に来て部室の物陰に隠れて見張っていたから1人で通学路を歩くのには慣れていた。


 慣れている筈なのに、指先が震えて胸の中がゾワゾワした瞬間、耐えきれないほどの悲しみが腹を逆流してきてあたしの口から泣き声が勝手に漏れ出てしまった。



 その日からあたしは学校に通えなくなった。学校に行く理由のほとんどが星宮の為になにかする、星宮と一緒に居たいという物だったから、もう学校に顔を出す目的を失ってしまった。だから学校には行かない、意味が無いから。


 もう学校には通わないけど。でももし、もう一度星宮があたしの前に姿を現すようなことがあれば。その時は……と、考えていた思考を止めて目を瞑る。


 子供の頃から思ってた。きっとあたしは、星宮と一緒に居れない呪いかなにかに掛かっているんだ。次に出会ってもまたどちらかが傷つくだけ、だからもうあの子の事は意識しないように生きていよう。



「……そんな事、出来るわけないじゃん。無理、無理……こんなの耐えきれない……死んじゃうよ……」



 小5の頃に星宮が置いていった落書き帳を抱きしめながら弱音を口にする。もうどうしようもならないって事を噛み締めながら目を閉じる。

 せめて夢の中で星宮と話せたら……そんな願いを込めながら目を閉じたのに、いつまで経ってもあたしは眠りにつくことが出来なかった。




 *




「今日あの子居なくない? 星宮ちゃんにまとわりついてる美人ちゃん」


「そういえば確かに」


「てかさ。星宮が何をされても抵抗しない、妊娠させられても告げ口しないって噂あったじゃん? あれマジらしいぜ」


「へぇ〜」


「……海原も部活来ないで彼女さんと居るんだろ? 実質今、邪魔する奴居なくね?」


「でも大会前にやらかすとあとが怖くね〜?」


「噂は本当だったんだろ? なら大丈夫だろ。てか弱み握りゃどの道問題なくね? あの子、普段のセクハラには何も言わないしさ」




 *



 やっべ。やっべぇ〜、明らかに言い過ぎてしまった。間山さんとの話し合いで噂の真相を確かめるつもりだったのに、勢い余って実質上の縁切り宣言してしまった。やっべぇ〜心痛い。どうしようかな〜これ。


 でも、された事を考えたら流石に怒るのも当然だと思うんだよね。ボクだけじゃなくて他の人が巻き添え食らってるわけだし。そこら辺が気になって若干怒りに身を任せた結果が縁切り宣言だったわけで、つまりやばいなぁと思いつつも落とし所としてあれは妥当だったよね……?



「あ。子持ち女が来たぞ〜!」

「はぁ……」



 ほんで教室行ったら『子持ち女』呼ばわりだし。やっばいなぁ、これ流れ的にいじめが始まりそうな気配を感じる。



「馬鹿な事言ってんじゃねえよ」

「いでっ! なんだよ海原〜!」



 間山さんは今日は登校してないみたいだけど、代わりに海原くんがボクの事を茶化した男子の頭を叩いてくれた。お礼を言おうと近付いたら海原くんは「やめろ」とだけ言った。ぐぅ……彼からも事情ありきとはいえ絶縁状態なんだもんな……。


 え? なんだこれ、いつの間にかボクの学生生活ハードモード突入してない? 仲良かった友達が同時に3人絶縁状態になるし、他のクラスメートはほぼ全員がボクを見下すような目で見てくるし。朝練の時の野球部員たちのセクハラがいつも以上にエスカレートしてたし。詰んでない? 心折れますけど?


 今のストレスの大半を担ってるのは間違いなく野球部員からのセクハラなんだよな。びっくりした、今朝なんと体操服のズボンに手ぇ突っ込まれたからね。やばいでしょあれ、つい反射的にビンタしちゃったよ。イカれてるまじで。



 海原くんに何とかこの事を伝えて助けてもらいたいんだけど、生憎の絶縁状態で話を切り出す前に逃げられちゃうし。いっそこのままボクも部活に向かわず幽霊部員になってやるか。



「よぉ星宮ちゃん、迎えに来たぜ」

「えぇ……」



 今日は真っ直ぐ家に帰ろう! 今日から毎日直帰しよう! そう決め込んで帰り支度をしていたらなんと先輩の方からボクの教室にやってきてしまった。あまりの出来事に顎が外れそうになる、多分この世界がギャグマンガならボクの下顎は床を突き抜けていただろう。



「……うなばっ」

「ほら早く行こうぜっ!」

「んむっ!?」



 運が悪い事に廊下側の席に座っているので、窓際に座る海原くんに向けて大声で救援要請を出そうとしたら先に先輩が肩を組んで来て彼から見えないように口に手を当てられる。


 ……なんか、様子がおかしい? そういえば今日は顧問が他校に行くから練習に出ない日なんだっけ。


 やばい予感がする。先輩の目付きと息遣い、ボクに触れる力の強さが記憶の中の何かに引っかかる。


 頭の中の引っ掛かりを手繰り寄せると、ボクの脳裏にレイプされた時の記憶が蘇った。先輩の目付き、息遣い、力は間違いなくあの時の興奮を隠した男達のそれと全く同じだった。背中を冷たい汗が伝い、ボクは先輩の胴体に手を当てて逃げようとした。



「はっ、離してください!」

「なんだよ? 一緒に部活向かうだけだろ?」

「ごめんなさいっ! き、今日はちょっと家の用事でっ」

「なに?」

「え、あっ……家の、用事……」

「……」



 先輩の顔から表情が消える。ボクを感情なく見つめるその顔には覚えがある。それは、飲みの席からボクだけ外し、人としてではなく道具として見てる時の男と同じ顔だった。


 無機質な顔で睨まれて萎縮する。体の芯が震える。怖い。ボクは先輩から視線を逸らし、黙って床を見るように俯く。



「騒ぐなよ。騒いだら、分かるよな」

「……お願い、です。離してください」

「駄目〜」

「っ」



 先輩の手がボクの右胸に当たる。そのまま彼は服の上からボクの胸を力強く掴んできた。



「俺をキレさせるとどうなるかわかんないから。大人しく従った方がいいよ」

「……」



 そこから先は何も言い返すことが出来ず、黙って先輩の指示に従い部室の中まで歩いた。


 部室の中は1年生を除く野球部員達が所狭しとボクの到着を待っていた。ボクを連れ出した先輩が部室の扉を占めると、棚を動かして外から部室を開けられないように固定しボクの背中をドンッと押した。



「よぉ、星宮」



 同級生の男子がボクの名を呼ぶ。



「やっぱし可愛いな〜。星宮の処女を奪ったのって誰なん?」



 先輩がボクに答えられようもない質問を投げてくる。



「コイツおっさんどもに体売ってるんだろ? やる事やってるよなー」



 別の先輩がボクの過去のトラウマを口にする。……ん? なんでその事を知っているんだろう。それを知ってるのって間山さんか、海原くんしか居ないはずなのに……。


 え、嘘でしょ。冗談だよね? まさか、本当に海原くんが……? だって間山さんは学校を休んでるし、野球部の先輩とはなんの繋がりも無いはずだし。


 分からない。分からない。頭の中がぐちゃぐちゃしてくる。海原くんしか知りえない情報を何故この先輩は知っているんだ? ……もし海原くんがバラしたのなら、それは何故? というかそれだと、間山さんが口にしてた事が真実だったって事にならない!?



「あ、あのっ! その話って」

「おい。ゴム出せ」

「ウィッス!」

「3ミリィ? 分厚いよ馬鹿」

「安くて量が多いのこれしかなくって」

「まあいいや。おい星宮、お前セックス慣れてんだろ?」

「え? い、いや、そんな事……」

「これ。口で着けさせろ」



 ボクから見て目の前の最奥に位置する椅子に座っていた先輩かズボンとパンツを脱ぎ、股間をむき出しにした状態でボクに未開封のコンドームを1つ投げつけてきた。



「え……っと」

「はよしろ」

「い、いやです」

「……あ?」

「おいこらー」

「いっ!?」



 突然背後から頭を殴られる。振り向くと、ボクを連れてきた先輩が拳を握った状態でボクに怖い顔を向けていた。



「先輩の言う事に刃向かってんじゃねえよボケがー。2年は3年の奴隷なの。ほら、袋開けて口に含めや」

「い、いやですっ! 嫌だっ!」

「しゃーねーなー」



 髪を捕まれモロだしの生殖器の前まで引きずられる。すぐ目の前に現れた汚物から必死に顔を逸らそうとするも、股間を露出させている先輩に後頭部を捕まれ抵抗できない状態で顔を引っ張られる。



「ぃ、嫌ぁーっ!! 嫌だーっ!」

「口で付けないんならそのまま咥えて出させっぞー」

「やだっ、やだやだやだ誰か助けっ、ぃううゔゔうぅぅっ!?」

「誰かコイツの背中蹴ったって」

「あいよー」

「がはっ!? あぼぁっ!?」



 背後から思い切り背中に蹴りを食らい、口が空いた所に無理やりねじ込まれる。



 そこから先、ボクはひたすらに泣き叫ぼうとするも口の中に出されたりパンツを口に突っ込まされたりして助けを呼ぶことも出来ず、最終下校時間になるまで延々と肉体を蹂躙される事となった。


 全員1回ずつしてくるのかと思いきや、何度も何度も突っ込んでくる奴がいたせいでコンドームがなくなり途中から普通に中に出されてしまった。


 色んな角度からハメ撮り写真や動画を撮られ、誰かに告げ口したらそれをネットにばら撒くと脅されてしまった。もうそういう事とは無縁になったと思っていたのに、気付けばまた同じ地獄に戻ってきてしまっていた。


 1番学校から家が近い先輩の家に連れて行かれ、そこでシャワーを浴びて家まで帰る。帰っている最中、今日一体何をしていたのかを思い出し嘔吐してしまった。フラフラの足取りで家に着く頃には時刻は21時を回っていた。

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