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4話『禁断の書』

 月曜日。約束通りドラマの感想を話そうと間山さんに話しかけに行ったら避けられてしまった。どうやら女子禁制のエロノート『禁断の書』を見られてしまったらしい。仲良くなりたかったのに、残念だ……。



「集まれお前ら! 今日もランドセルジャンケンするぞ!」

「勝つぞー!」

「絶対今日は長尾に持たせてやる! 痩せさせてやる!」

「負けないよーっ! 今日はボクが勝利を収めっ」

「星宮」



 おっ? これまで避けられていた間山さんに話しかけられた。彼女はボクのランドセルの暇を掴み、グイグイと引っ張っている。



「どうしたの? 間山さん」

「んだよー、邪魔すんなよ間山!」

「黙れハゲ海原! 星宮、こっち来て」

「えっ?」

「は? なになに、お前らそういう感じなん? うわー! そういう感じなんだー!」

「ちっがうわ! 本当ガキだねお前! きも!!」

「はー!? ガキはお前だろ!!!」



 毎度恒例の口喧嘩がボクを挟んで始まってしまった。特に間山さんのキンキン声が耳に辛いなー、せめて横にズレて言い合ってほしいな。



「あたしは星宮に文句があるの! それだけだから!」

「文句? お前なんかやったの?」

「いやー……心当たりあり……」

「まじか。星宮の命もここまでか〜、今までありがとうな。お前の事は忘れないぜ、親友」

「海原くん……!」



 海原くんと拳を合わせると、呆れたようにため息を吐いた間山さんがボクのランドセルを引っ張る。彼女に着いて行くと、人目のつかない給食室前の通路脇に到着した。



「禁断の書、アレ何?」

「やっぱり見られてたか……」

「当たり前じゃん。ねぇ、アレ何。……の、裸とか、描いてあったんだけど」

「い、いや〜……あれもまた芸術と言いますか」

「エロじゃん」

「……」

「ああいうのも好きなの?」

「すっ、好きじゃないよ! 全然! あれは勉強の一環だから!」

「本当は?」

「本当に!」

「……」



 疑うような目で間山さんがボクを睨んでくる。信用ないかー、そりゃそうだよね。全部エッチなイラストだもんね、あのノートに描いたもの。



「……ごめんなさい」

「なんで謝るの?」

「だって、女子にあんなもの、見せるべきじゃないし」

「趣味に誇り持ってるんでしょ?」

「そ、それは……」



 その言葉、何度も何度も使われると困るなぁ〜。自信を持って行った分ダメージが大きいよ……。



「……ドラマ観た?」

「み、観たよ! 全部は観れてないけど、これとこれは全部観た!」

「! どの話が一番好き!?」

「ボクは〜、こっちのドラマは4話の話が好きだったな! 親友の子の闇が晴れるシーンが良くて! このドラマは8話で、このドラマは……」



 ドラマの感想を訊かれたので思う存分に好きだった点や悲しかった点、感動した所などを話していたら先程までの殺されそうな雰囲気が一気に消えて間山さんと和やかな談笑タイムになった。


 やっぱりボクと間山さんは好きの趣向が同じなのかもしれない。同じ場面での感想で盛り上がり、同じ場面で悔しさや悲しさを共有する。あまりにも話すのが楽しいから時間の流れを忘れていて、いつの間にか外は夕陽のオレンジ色に染め上げられていた。



「今日はこのドラマの続きを観るよ! また面白そうな作品あれば教えてほしいな、多分今週中には完走すると思うし!」

「そ、そうだな〜! えーっとね……って、もうこんな時間だ」

「時間経つの早いな〜! 間山さんと話すと全然時間足らないや!」

「そ、そう……?」

「うん! もっともっと沢山話したい!」

「……ねぇ、星宮」

「うん?」



 間山さんはそっとポケットからスマホを取り出し、ボクにLINEのQR画面を見せてきた。



「も、もし良かったら、LINE交換しよ。あたしら交換してないよね」

「してなかったね! そっか、でもボク家にスマホ置いてあるや。学校には持っていくなって親に言われてるんだよね」

「……そっか」

「グループから追加しとくよ! あ、もし今夜暇だったらさ! 感想の続き話し合わない!?」

「! 話し合う! 忘れないでね!」

「忘れないよ! 帰ったら速攻追加してなにか送るね!」

「絶対だよ!? てかあたしからなんか送っとく!」

「了解!」



 互いに約束をし合い、海原くん達は当然もう学校には居ないので間山さんと二人で駄菓子屋さんまで一緒に帰る。やっぱり間山さんとお話すると時間があっという間だ。いつもより体感早く駄菓子屋に着いてしまった。



「名残惜しいけど一旦ここまでかー……」

「か、帰ったら話すんでしょ!」

「そうだね。じゃ、また後で!」

「ん。後でね。……絶対忘れないでよ!」

「あはは、忘れないって!」



 間山さんと手を振りあって走って家まで帰る。やっぱり笑うと可愛いなぁあの子、人気あるのも頷ける。好きな男子とか多いんじゃないかな? 恋愛ドラマが好きなんだし、彼氏とかすぐ出来そうだ。中学行ったらモテるんだろうな〜。


 家に帰って靴と靴下をぽぽーいと脱いで、手を洗ってすぐにスマホを取る。開くと、間山さんからメッセージが『あ』っていうメッセージが届いていた。



『あって、それだけ?』

『おかえり』

『ただいま!』



 メッセージを送ったらすぐに返信が来た。ずーっとスマホを見ていたのかな? 現代っ子ですなぁ。


 数件ちょっとした雑談をして、ドラマの感想を言い合う。文章でもやっぱり間山さんと話すのは楽しくて、初めてベッドに寝転んだまま何時間もスマホと向かい合った。母さんの呼ぶ声でやっと経過時間に気付く。



『間山さん、ご飯食べてくる』

『いってら』

『すぐ戻ってくる!』

『ゆっくりでいいよ。私お風呂入ってくる』

『了解!』



 間山さんは今からお風呂か。もう夜ご飯食べたのかな? それとも夜ご飯を食べながら文字を打ってたのかな、イメージ湧くなあ。ご飯食べながらスマホをいじっておばちゃんに注意されてる姿。意外とそういう所、海原くんとそっくりだし。


 てか、間山さんって文章だとすごい淡白な感じなんだ。男子と喧嘩して怒ってるイメージと女子と楽しく笑ってるイメージしかないから、文の感じがなんだか新鮮だ。時々うさぎさんのスタンプが単体で送られてくるけど、それ以外はシンプルな短文しか送ってこないもんなぁ。


 ご飯を食べ終え、ゆっくりでいいと間山さんに言われたのでボクもそのままお風呂に入ることにした。珍しく早い時間にお風呂に入ったことで母さんに驚かれた、いつもは頼んでも入らないのにって。だって、早く絵を描きたいって気持ちを優先しちゃうんだもん。お風呂なんて後回しにしちゃうよ。


 あ。間山さんちからノートを回収するの忘れてた。見られちゃったものはしょうがないにしても、今日も絵の練習を出来ないのは嫌だなぁ……。


 仕方ない。板書用の予備ノートで絵の練習しよう。お風呂上がったら何描こうかなー、あーでも間山さんへの連絡が先かな。何も言わないで放置してたら失礼すぎるし。


 ドライヤーを終えて部屋まで戻りベッドに飛び込む。スマホを見ると、1時間ほど前に間山さんから『戻ったよ』と送られていた。



『僕も戻ったよ!』

『おそ』

『ゆっくりでいいって言ったじゃん!』

『何してたの? 星宮ってご飯食べるのそんなに遅くないよね』

『お風呂入ってた!』

『そうなんだ』



 またしても返信が早い。手元にスマホを置いてくつろいでたっぽい。それか宿題とかしてたのかな? スマホをすぐにさわれる場所に置いてたら宿題捗らなさそう。ボクはそもそもやってこないからそれ以前の問題だけどね。



『ねえ星宮』

『うん?』

『絵って私にも描けると思う?』



 おや? ドラマの感想を話し合うのかと思いきや意外な切り口だ。絵? 間山さんも絵に興味が湧いたのかな? なんでだろ。



『描けるよ! みんな練習すれば描ける!』

『それは言いすぎじゃない? 才能とかあるでしょ』

『誰かに評価されたいって思うならいるかもだけど、自分が良いなって思う絵はきっと誰でも描けると思うよ!』

『下手くそな絵を描いても良いなってならない』

『じゃあ練習しないとだね!』



 間山さんからの返信が止んだ。それまですぐに返信が来ていた分ちょっと不安になる。ボク、もしかしたら失礼な事とか言っちゃったかも?



『私絵の描き方知らない』

『? 線を描いたり色を塗ったり出来たらそれは絵なんじゃないかな』

『違う。画法? みたいなやつ。なんにも知らない』

『僕もそういうのはよく分からないよ!』

『分からないの? 星宮絵上手いじゃん』

『ありがとう嬉しいよ! でもそんなに上手くないよ?』

『私も星宮みたいな絵を描いてみたい』

『僕みたいな?』

『絵、教えて』



 教える!? 人に教えれるような実力は持ってないんだけど!? 自己満足で描いてるだけだし……。



『僕なんかに教わるより、今だったらネットに沢山そういうの教えてくれる所あるから、そっちで学んだ方が上達するんじゃないかな?』

『星宮が教えて』

『僕でいいの?』

『星宮みたいな絵が描きたいって言ってんじゃん。星宮の絵は星宮からしか習えないじゃん』



 ボクみたいな絵、ボクに似た画風? を真似たいって事なのかな。変なの、上手い人のを真似た方が絶対上手くなるのに。


 どう返信するか悩んでいたら間山さんから通話の呼び出しが飛んできた。初めて通話する人だからか緊張してすぐには通話ボタンをタップ出来なかったけど、意を決して緑色のボタンをタップし通話に応じる。



「こんばんは」

『う、うん。こんばんは』



 いつもよりも間山さんの声が大人しい、というか緊張してる? 相手から通話を掛けてきたのに緊張してるってことは無いか。通話の音質の影響でそう聴こえるだけかな。


 突然の通話に驚いたけど、文字を打たなくて良くなった分スマホを離せるから丁度いい。スマホを机の上に置いてノートを開き早速グラスの模写を始める。お腹空いた、じゃがりこ食べよ。



『……なんか食べてる?』

「んぐ。あっ、ごめん。食べる音うるさかった?」

『うるさくはないけど。なに食べてるの?』

「じゃがりこ食べてるよ」

『ふーん。……今も絵を書いてるの?』

「えっ、なんで分かったの!? すごいね!」

『描く音聴こえた』

「音入るんだ」

『うん。さっきの話の続きなんだけど、あたしに絵の描き方教えてよ』

「それなんだけど、いいの? ボクなんかに描き方なんて教わっても」

『いいから。サイトなんかで見ても真面目に勉強できる気しないし。一緒に描いてもらった方が集中力続くタイプだし』

「そっか。でもなんか急だね。間山さん、絵とかあんまり興味無さそうなのに」

『……星宮の絵を見てたら、ちょっといいなって思った』

「あははっ、そう言ってもらえるのは嬉しいなぁ」

『明日あたしんち来て。放課後』

「明日?」

『海原とかと予定あったら次の日とかでいい、空いてる日来て』

「いいけど……あ、てかあれ返してもらわないとだね! ノート!」

『……それさ、一冊あたしに貸してくれない?』

「えっ、ボクのノート?」

『うん。星宮が帰った後、それで練習したい』

「なるほどね。いいよ! そういう事なら前のノートとかも貸そっか? ページ埋まってるやつ」

『! 貸して!』

「おっけー」



 シャッシャッとペンを走らせながら間山さんと会話する。人と話しながら絵を描く事なんてないから新鮮な気分だ。



『……そろそろ寝ないとだから、通話切るね』

「あ、うん。おやすみだね」

『明日、あたしの家来れる?』

「明日は行けるよ! てか基本前もって遊ぶ予定を決める事はないから大体いつも暇かも?」

『そうなんだ。……じゃ、じゃあさ、これから放課後あたしの家に来てって言ったら、どう?』

「行けるよー!」

『! 言ったからね! あたしが物覚え悪かったり、下手だったりしても来なくなったりしないでよ!』

「そんな酷い事しないよー! でもたまには海原くん達と遊びに行くかもだけど。ゲームとか外遊びとかもしたいしね」

『本当? 男子って女子の誘いより男子と遊ぶ方優先するじゃん。怪しい〜』

「本当だって! ボク、間山さんと話すの好きだしさ」

『っ!? あ、そういえば! ママに変な事言ったでしょ!』

「変な事? なんか言ったっけ?」

『あ、あたしの事……き、みたいな。これからも仲良くしたい、みたいなことも」

「それか。言ったよ!」

『!!?!? へっ、へぇ〜! そうなんだぁ。あたしと仲良くしたいの?』

「勿論! 友達になりたい!」

『…………いいよ。なろ、友達』

「本当!? やったー!」

『てか、友達って別に改めてなるって決めてなるものじゃなくない? 一緒に遊んだりしたらもう友達じゃないの?』

「そうなの? よく考えた事ないから分かんないや」

『変なのー。……じゃ、明日あたしの家来てね! 絵のノートも持ってくること! 忘れないでよ?』

「メモした!」

『偉い。じゃあおやすみなさい』

「おやすみ! いい夢見てね!」

『っ、う、うん。……星宮も、あんまり夜更かししちゃダメだよ?』

「ありがとう! そうだね、それじゃそろそろボクも寝ようかな? もう遅いし」

『…………じゃ、じゃあ、切るね』

「うん!」



 少し待った後、間山さんとの通話が切れた。スマホに充電器を挿して明日の支度、それと間山さんに言われたノートを適当に一冊選んでランドセルに仕舞ってベッドに入る。


 間山さんと友達になれてよかったな。絵に興味を持ってくれたのは意外だったし嬉しかった。それにまたドラマの感想を言い合ったり、興味があればアニメとか漫画とか勧められたらいいな!

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