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37話『中二になったよ』

 中学二年生になりました。でもぶっちゃけ言うと、あまり楽しくありません。



「ねえ、間山さん」

「?」

「あんまり飲みすぎると唯の分なくなっちゃう」

「っ。……そんなに飲んでない、これ意外とお腹膨れるし」

「そうですか」



 ボクはこう見えても一児の母です。0歳児の乳児を持つ母親なのですが、何故か、紆余曲折を経あって去年の三学期から同級生の女友達に母乳を飲ませています。


 馬鹿なんか? 誰がこんな文章をお悩み相談室に送れるか。頭の悪い妄想官能小説か通報案件かの二択で取られるわ、送れるはずがない。削除削除!



 打ち込んでいた文章を全削除し、開いていたWebページをタスクキルしてスマホを置く。視線を下げると、ボクにしがみつくようにして胸に口をつけてちゅーちゅー母乳を吸っている中学二年生の女の子の姿があった。なんなのこの人、性癖捩じ切れすぎだってもう何回ボクに思わせればいいわけ?



「素朴な疑問なんだけど、母乳って美味しいの?」

「……んくっ。飲んでみればいいじゃん、自分の」

「嫌すぎる。それ、自分のおしっこ飲むようなものでしょ」

「あたしにおしっこ飲ませてるって思ってんの?」

「思ってるよ? 普通に」

「……自分の赤ちゃんにもおしっこ飲ませてると? そう思ってるならあんた、相当の変態だよ」

「間山さんは他人に変態って言う資格ないと思うよ」

「うざ」



 べちっ。とビンタされた。なんでだよ。事実だろ、この変態女。棚上げ甚だしいよ。



「しっかり定期的にお腹下してるよね。それ、確定でボクの母乳飲んでるせいでしょ。なんでやめないのさ」

「いいじゃん」

「よかないよ。どんな気持ちで同い年の子に母乳飲ませてると思ってるの。地獄だよ、こっち視点」

「……ふんっ。じゃあなに、あたしのも飲む?」

「出ないでしょ」

「分かんないじゃん。吸ったら出るかもよ」

「人間はミルクサーバーじゃないんだよ。はぁ……零れた母乳、時々ベタつくから嫌なんだよ。それなのになんでこんな……」

「嫌がらないでよ」

「……嫌がってないよ」



 嘘だ。嘘だけど、間山さんはボクから拒絶されてるって感じると著しく傷つくみたいだし。別に気持ち悪いだけで傷つけたい訳では無いから方便を使っておく。



「後なんでそんなにくっついてくるようになったのさ……」



 2回目の授乳を間山さんに行った辺りから、間山さんは段々とボクに甘えてくるようになった。放課後、学校で2人きりになった時もそうだし、間山さんの家に行った時もそう。間山さんはボクの体に体重を預け、ボクに支えられる事でリラックスしたみたいに脱力する。


 比較したら間山さん家に行った時の方がそれが顕著だ。ベッドの上でこの行為をさせられ、間山さんは決まってボクの太ももに頭を乗せて目を瞑って体を横向きにする。人の母乳飲んだ後に勝手に膝枕をして、普通に幼児退行してる。穿った性癖の持ち主を受け入れてしまったなぁと後悔の尽きぬ毎日だ。



「いつになったら母乳出なくなるんだろうね」

「授乳が終わるまでは出続けるって見た気がするけど」

「え? じゃああたしがいる限り永遠じゃん」

「何でそんなキモい事平気で言えるのって。なんなの、いつの間にボクは2人目を産んだんだよ」

「星宮はあたしに対して言うようになったよね〜。……あたしの事嫌いになった?」

「なるべきだとは思う。嫌いにはなってない」

「良かった。星宮に嫌われたらあたし、自殺しちゃうから」

「自分の命を使ってそんな事言う人は結構ガチで嫌い」

「冗談だよ」



 冗談、と口にする間山さんは全然笑っていない。人の乳を飲んで人を枕代わりにしてる癖に憔悴したような顔付きになっている。……この人は本当に何がしたいんだろう。



「……そろそろ帰らないと。唯の世話しないと父さんが潰れちゃう」

「母親代わりなんだね。星宮は」

「代わりじゃなくて母親だよ。……はぁ。反論させるから気持ち悪い事言っちゃったじゃん。やめてよ、ボクに女っぽい話させるの」

「まだ星宮は男だった頃の自分に縋ってるんだ」

「……どういう意味」

「なんでも。深い意味は無いよ」



 ボクの苛立ちを察したのか、誤魔化すような口振りで間山さんがそう言うと身を起こして鞄を手に持った。


 ……この所、間山さんは部活にも行かずに毎日こんな行為に耽っている。間山さんが部内でどう思われようとボク的にはどうでもいいけど、部活に行ってくれないと一緒にいる時間が自動的に長くなるから部活には行ってほしい。そして、健全な人間関係を築いてこんな事を止めてほしい。まあ、もう無理だろうけど。



「じゃあね、星宮」

「……うん。またね」



 駄菓子屋まで歩いて別れる。与能本さんや冷泉さんとはクラスが離れてしまったため若干疎遠気味になっている。今は何人かの小6の頃のメンツと間山さんがクラスメートで、過去のアレコレがあったせいで基本的には間山さんとしか教室内で話す相手はいない。


 短い間ではあったけど、一年生の頃は毎日が楽しくてキラキラしていた。あの頃が恋しい。今はなんだか、教室に行く度に息苦しくなるような閉塞感を感じる。……こんな思いをしながら通うくらいなら、不登校になって一日中唯の世話だけをしていたい。なんで義務教育なんてあるんだろう、今のボクにはそれがただただ煩わしかった。



「ゔああぁぁっ! おんぎゃああぁっ!!」

「わあ」



 家に帰ったら唯がギャン泣きしている声が聴こえてきた。玄関にカバンを放って乱雑に靴を脱いで唯の元まで行ったらオドオドした様子で唯をあやしている父さんがボクを出迎えた。



「ただいまぁー」

「憂! すまん、急ピッチで授乳してやってくれ、多分お腹ペコ状態だこれ!」

「あれ、粉ミルクは? 買い足してなかったっけ」

「哺乳瓶イヤイヤの日だったらしい! 最近粉ミルクを拒否る頻度が高くなってきたんだよ……」

「あらら。やはり母の愛が欲しいと。唯はやっぱり父さんよりボクの方が好きなんだね〜」

「そういう話今はいいから! とっとと脱いでくれ!」

「はい家庭内性的DV。イエローカード」

「そういう意味で言ってないっての!」



 泣きつくように叫ぶ父さんを冷笑しつつ、セーラー服の前を開けて唯を抱き寄せる。口元に胸を近付けたらおんぎゃあ泣きしていた唯がボクの胸の存在に気付き勢いよく口を付けてチューチューと吸い始めた。


 ……げ。これ、間山さんと関節キスじゃん。キッモイ事考えちゃった、なーに考えてるんだボク。……はぁ。本当に狂ってる、なんで家でも学校でも別々の人間に授乳しないとなんないんだよ。非常食かなにかなの? ボクって。



「父さん。あんまりおっぱい見ないでよ」

「す、すまん」



 こっちをいつまでも不安そうに見ている父さんに強い口調で叱りつける。不純な意志を持って胸を見てるわけじゃないってのはわかるけど、それはそれとして気持ち悪いんだよ。どいつもこいつも、人の肉体を無遠慮にジロジロ見やがって。本当に苛つく。



「唯はボクが見てるから。父さんは夕食の準備しなよ。いつまでも突っ立ってないでさ」

「あ、あぁ。じゃあ、任せた」



 近くにいるのが邪魔くさくて父さんをさっさと向こうにやる。唯は満足するまで母乳を飲むと、口を離して安らかな表情をした。


 ……皮膚に母乳がこぼれた。苛つく。綺麗に飲めよ。制服にもこぼれてしまった。シミになったらどうするのこれ。あーもうっ、むしゃくしゃするなぁ。



「けぷっ」

「っ。はぁ……!」



 腹いっぱいに母乳を飲みすぎたらしく唯が吐き戻しをしてしまった。制服が汚れる。肌も汚れる。汚物の臭いが鼻腔に入ってくる。唯はまた大泣きを始めた。


 苛つく。苛つく。何もかもが苛つく。なんでボクばかりこんな負担を負わなければならないんだろう。世界は不公平だ。周りの人間はみんな楽をしている。楽な生活を送ってるくせに人に救いを求めてくる。自分が恵まれている事にも気付かずあたかも自分がボクより不幸だと錯覚してボクに施されようとしてくる。


 まじでこんな村、というかこんな世界滅んでしまえばいいのに。そんな邪悪な事を考えながらボクは唯の吐瀉物を拭いて、洗い落としてまた授乳する。



「……みんな、死ねばいいのに」



 子供の頃なら絶対思わなかったであろう本心が口からボソッとこぼれた。唯はそんなボクの言葉を理解できないから純粋にキャッキャと笑っている。


 ……最近、唯から得られる癒しも減った気がする。現時点では苛立ちの方が勝ってるし。このままじゃ精神衛生上悪いし母乳の質? とかも悪くなるかもしれない。どうにかして心のリフレッシュを行うべきだとは考えてるけど、どうしよう。…………望みは薄いけど、母さんと連絡を取って相談でもしようかな。多分連絡が繋がっても『子供を作った』って事実に失望されるか口汚く罵られるかの二択だろうけど。





「よう。星宮」

「おはよ〜」



 休日。ボクは父さんに唯のお世話を押し付け海原くんの家に来ていた。


 以前は海原くんのお父さんと遭遇するのが心から嫌で彼の家には近付かないようにしようって考えていたけど、今は家に居る方が苦痛だからボクの方から海原くんに『家に行ってもいい?』と連絡し遊びに来た。


 夕方までに帰れば仕事に行ってる海原父と遭遇することもないだろうし、今日は日々のストレスを忘れて海原くんと純粋に子供として遊ぼう。久しく来ていなかった海原くんの家に上がる。



「しかし野球部なのに休みなんて珍しいね」

「野球部は休みじゃねえぞ。今日も練習してる」

「え? じゃあなに、サボり?」

「おう。サボり」

「熱血野球少年ソウルはどうしたんだよー」

「お前が急に連絡してくるからだろ。お前から連絡してくるとかどう考えても訳ありじゃん。放置する方が熱血少年観に背いてね?」

「……わお」

「んだよ」



 特に何も考えなしにそんな事を言ったんだろうけど、海原くんの言葉にちょっと心が軽くなった。昔よりも性格が丸くなったな〜、良い意味で人間関係とか気にしなくなったんだなって思ってたけど友達思いな所は昔のままなんだね。



「わ! お兄ちゃんが女連れてる! ニュースだ!」

「部屋から出るなっつったろ愚妹が。すっこんでろマジで」



 海原くんの部屋に入る直前、隣の部屋から出てきた妹ちゃんがボクを見て両手を上げて「わー!」と騒いでいた。昔見た頃は人見知りな性格をしていた記憶があるけど、相当明るい性格に変わっている。海原くんは小うるさいゴブリンみたいに言ってるけどこんな子が家族に居たら毎日楽しそうだなってボクは思うよ。



「また腕を上げたなー星宮!」

「あははっ! 唯の世話をする時間以外は基本ゲーム漬けだからねっ!」



 遊ぶ前はまだまだストレスで明るくなりきれなかったけど、レースゲームが白熱してくるとそんな重たい心持ちも胸からすっ飛んで純粋に楽しくなっていた。


 海原くんは変にボクを女扱いしてこないから遠慮のない煽りや暴言をぶつけてくるけど、それは悪感情から来るものではないって分かってるから全然言われても不快には思わなかった。



「げぇっ!? そのショートカットなんだよ!!」

「へっ。甘いな星宮。ベイビーにうつつ抜かしてるお前に俺が負ける道理はない!」

「しかしボクの先を走ってるのにその技を見せてしまった、それが君の敗因だ! 模倣させてもらっ、角度急すぎぃ!!?」

「だっはっはっっ!! 見よう見まねの一朝一夕で真似出来る芸当じゃあねぇんだよ馬鹿め! 驕ったな星宮ァ!!」

「止まれぇ!!!」

「リアル攻撃はやめろぉ!!!」



 挽回不可能なくらい差が開いてしまったのでボクは海原くんのコントローラーを奪いにかかった。しばらく取っ組み合いをした後に無事海原くんのコントローラーを奪取し、人為的に逆走をさせて同時進行で自分の操作キャラに順路を走らせる!



「お前やってる事ヤバすぎ! 昔からなんも成長してないなそういう卑怯な所!!!」

「運も実力のうちだよ!」

「運じゃねえんだよガッツリ妨害してんだよ! コントローラー返せ!」

「ボクに触るな! 脱ぐぞ! この場で!」

「女体化の利点活かして狡するのやめて!? お前本っ当にずるっこいぞ!!! 卑怯すぎる!!!」



 女体化の利点とか言っておきながらそんなの全然ガン無視で体にのしかかってコントローラーを奪いに来た海原くんを膝十字固めで固定して自分のキャラに独走させる。海原くんは「ぎいやああぁ〜!!!」と愉快な悲鳴をあげながらその一方的なレースを眺めている。



「しゃおらぁっ! 勝ったぁ!!!」

「そんな勝ち方して嬉しいか貴様ァ!!」

「嬉しいね! 嬉しすぎるね! 勝利の美酒うめ〜ごくごくごく〜!!!」

「コイツほんまっ……!」



 ゴールしたので海原くんを解放し酒を呷る勝ちポーズを見せつける。思いっきり卑怯な事しかしなかったにも関わらず海原くんは怒らず、そんな行動を取ったボクを見て呆れるようにため息を吐いたあと、爽やかな笑い声を出した。



「あははっ。やっぱしお前っておもろい奴だよな〜。羨ましいわ」

「羨ましい? 海原くんも女になりたいの? ハサミ持ってこよっか」

「違う!? そこは別に羨ましくない!? そういう所じゃなくてさ」

「なにさ?」

「……いや〜。楽しむ時は存分に楽しむ、みたいな所? 人にどう見られてるか気にせず楽しめるのってある意味才能かなって」



 少し気恥しそうに海原くんが頬をかきながら言う。ふむ、確かに。海原くんは友達思いだし色んな遊びを提案するけど、はっちゃけるかどうかで言えば結構セーブかけるタイプだしな。言いたいことは分かる気がする。



「野球やってる時の海原くんは存分に伸び伸び楽しめてるなって思うけどね」

「あ〜。まあ、野球に関しては、元はちょっとした興味程度しか無かったんだけど。全力で打ち込もうって思ったの、お前の真似してるみたいなところもあるからさ」

「ボクの真似?」

「おう。本人を前にして言うのは気恥しいけどな」



 ふーむ? ボク、別に全力でなにか特定のスポーツに打ち込んだことは無いんだけどな。陸上部に入ってたのも元から素養があったからって自覚出来てたから入ってただけだし。でも、そう言ってくれるのは素直に嬉しい。ボクは荒れたベッドのシーツを直しそこに腰かける。



「海原くんにも気恥しいって感情あるんだね〜」

「そりゃあるだろ。あるからあんな馬鹿みたいに高いプライド引っさげて女に対して躍起に敵対してたわけだし。お前に嫌がらせしてたのも、結局は俺の間違ったプライドが原因で起きてた事だしな」

「プライドってか勘違いでしょ?」

「いや。心のどこかで星宮が悪い事をするはずが無いって思ってはいたんだよ。だけどな、なんかその頃はお前に見下されてるように感じてさ。友達だと思ってるのに、俺の事を下に見やがって。そんな風に思っていたからお前に悔しい思いをさせたかったんだ」

「へぇ」

「お前に嫌がらせをしてお前が俺にやり返しをしてくれたらさ、俺らは同じ穴の狢ってなるだろ? だから執拗に嫌がらせをしてたんだ。……恥ずかしい限りだけどな」

「あははっ。言ってくれれば腕の一本や二本へし折るよ?」

「二本折られたら生活出来ねえよ。てか殴れよ。なんで骨折る、過剰防衛だろそれは」

「生活出来なくなったらボクが身の回りの世話をしてやろう」

「唯と俺の世話を兼任するのか。どんな二足のわらじ? プライベート無くなるぞお前」

「確かに。それはしんどいな。腕一本足一本にしとくか」

「折るな。だから殴れって。なんでお前の中の暴力は肉体破壊にまで及ぶわけ? もはや狂気しか感じねえよ」

「せーいっ」

「いてぇっ!?」



 殴れと言われたのでお望み通り海原くんのお腹にパンチしてみる。いきなり殴られたせいで腹筋に力を入れてなかったらしく、海原くんがお腹を押えて前屈みになる。やべ、やりすぎたや。



「ご、ごめん海原くん。大丈夫?」

「大丈夫なわけあるかぁ!? なんで殴った今!」

「……昔の仕返し?」

「じゃあなんも言えないわ! でも一応予告くらいはして!? みぞおちにガッツリ拳沈みこませるのはキツすぎる!」

「えへへ」

「褒めてねぇよ!」



 照れたように笑っていたら海原くんからガツンと拳骨を食らわされた。仕返しに仕返しを返すなよー! たんこぶ出来たらどうするんだ! 痛いなぁもう。



「また今度不意打ちしてやる」

「やめろ、攻撃するなら予告してからにしろ。不意打ちされたら今度こそ取っ組み合いの喧嘩だぞ」

「ボクに勝てるかな?」

「圧勝だわボケ。舐めんな、女に喧嘩で負けるわけないだろ」

「うわーそこでボクのこと女扱いしてくるんだ。サイテー」

「何がだよ。女扱いされるのコンプレックスか? なら頭剃って顎髭生やして声低くしてればいいんじゃねーの」

「ハゲにはなれるけど顎髭はどう考えても無理でしょ」

「移植すれば?」

「ちょっとキモすぎるな、その発想」



 移植ったって誰が髭のドナーになんてなってくれるのさ。考えただけでゾワゾワするわ。



「てかお前巨乳のくせによく男にベタベタ取っ組み合えるよな。お前のそういうスキンシップ、他の連中からしたらオナネタに過ぎないからな。男友達に確定でシコられてるぞ、お前」

「海原くんにしかこんな事しないよ。海原くんはボクでシコれるの? そんな事してたらホモ認定するけど」

「……おぇっ」

「吐き気催すのは違うだろぉ!!!」



 海原くんがボクの顔をじーっと見て本当に顔を青くしてガチめに嘔吐いた。流石に失礼すぎてびっくりした。



「ボクの事ブスとか言うし! ブスじゃないだろー!」

「おー自認顔整いか。絶対お前とLINE以外で繋がりたくないな、日々の投稿絶対にキモいもん」

「え!? ……えっ? ブ、ブスじゃない、よね?」

「なにガチで不安がってんだよ女か。ブスではないよ。単に中身が星宮だからキショいってだけで」

「少しは言葉をオブラートに包んでくれてもいいんだけどな。海原くんノンデリスキル極まりすぎてるよ」

「俺なんかに優しくされたいの?」

「優しくはされたいだろそりゃ。ボクとて人の子だよ? 言われすぎたら傷つくよ」

「そうか。なら、ほれ」



 精一杯のむくれっ面を作って海原くんを批難していたら頭の上に手を乗せられた。海原くんはそのまま優しく頭を撫でてくれた。



「……は?」

「よしよし。お前は可愛いやつだなぁ」

「舐めてる?」

「舐めてるぞ?」

「ぶち殺すよ?」

「頭撫でたくらいで殺されたらたまんねぇよ。動物かお前」



 言いながらずっと頭を撫でている。言葉の面で優しくしてくれって頼んだんだけどな。てかそんな無表情で頭撫でられても嬉しくないんだけど。……いや、でもちょっと心が安心するな。なんだこりゃ、頭のツボ刺激されてる? 美容院行った時のヘッドマッサージと同じ感じ?



「エロマッサージ師の才アリ、か。海原くん、将来店舗立ち上げたらぜひボクも雇ってね。おこぼれを貰いたい」

「何言ってんの? お前まだ同人誌大好きエロ小僧なの? 度し難いな」

「男はいつまで経ってもエロ小僧だろ!」

「まんこ付いてんのに小僧とかクソウケんね」

「まんこ言うな! ほんっとーにデリカシーないな!!?」



 ちんこはセーフだけどまんこは駄目だろうどう考えても。相手は曲がりなりにも女だぞ? ストレートにぶつけていい単語じゃないでしょーよ。本当にそこら辺昔のままの接し方だな何から何まで! 嬉しいけど複雑だわ!



「てかお前髪サラサラなのな。美髪じゃん、女扱いコンプ持ってんのに生き方矛盾しすぎだろ」

「勝手にサラサラになってるんだよ。別に意図して美容に気を使ってるわけじゃない」

「おー。同じセリフをSNSで発信しろよ」

「それはなんとなく怖いからかやめとくけど。てかいつまで頭撫でてるのさ?」

「お前の頭蓋骨ちっちゃいから面白くて」

「頭蓋骨??? 普通そこは髪がサラサラで気持ちよくて的な言い方しない? 主人公力著しく低いセリフだけど大丈夫そう?」

「俺とお前がラブコメカマしたら両方ゲロ吐きすぎて衰弱死するんじゃねーの」

「間違いない」

「ならこれでいいじゃねえか」

「でも海原くん。今、部屋を覗き見てた妹ちゃんが『きゃー』って言って嬉しそうに逃げていったよ? 勝手に外堀埋まってるけどいいの?」

「……終わってんな。兄の部屋を勝手に覗くとは。躾のなっとらん妹だわ、まったく」

「シコってる最中とか見られてるかもね」

「ゲロ吐いていいか?」

「トイレ行きな?」



 そう提案したら海原くんは悠然たる態度で立ち上がり部屋を出ていった。数分後、部屋の外から妹ちゃんと思しき絶叫が聴こえてきた。何をしてるんだろうね、兄妹喧嘩のベーシックが分からないから想像がつかないや。



「これに懲りたら覗きはしない事! いいな!」

「お兄ちゃんの馬鹿! 死んじゃえ!」

「背中ペンペン二往復目行くか〜?」

「やだー!」



 背中ペンペン。そこはお尻じゃないんだ。まあ、もう海原くんも妹ちゃんも大きくなってるんだし流石にお尻ペンペンはしないか。



「ただいま」

「いいな〜。ボクも妹ちゃんのお尻ペンペンしてきてもいい?」

「鼻の下伸びてんぞ。変態ロリコン野郎」

「バレたか」

「バレるわ。人の妹狙ってんじゃねえよボケ。てかもうちんこ生えてないんだから性欲自制しとけ」

「ちんこ由来じゃないから、性欲は。女にだって性欲は存在するからね」

「聞きたくねえよ気持ち悪い」



 ドカッと海原くんがベッドに腰を下ろす。海原くんの体重分ベッドが軋む。



「てかさ。お前、野球部のマネージャーするんじゃないの?」

「む。その話をここでするんだ?」

「どこで話してもいいだろ別に。来ねえの?」

「んー……」



 マネージャー、なぁ。ボクが練習を見に行くのはあくまで海原くんを見に行ってるのであって、他の部員さんに興味がある訳でもないからな……。



「お前がうち来たらみんな喜ぶぜ? 先輩方からも人気高いし」

「単に女が身近にいてほしいだけでしょ」

「かもな」

「行きたくないなぁ。野球部の人って女の子に性欲剥き出しでがっつく印象ある」

「偏見だろ。そんな犯罪者予備軍の集まりだったらとっくに廃部に追い込まれてるよ」

「分かってるけどさー……」

「何度か検討してくれるとは言ってたじゃん?」

「それは……うーん。野球してる時の海原くんがかっこいいから、それを身近で見れるのならいいかなって思っただけで。マジでそれ以外の理由ないんだけどな……」

「……」



 心情を吐露したら海原くんが押し黙った。どうしたんだろう? 横目でチラリと海原くんを見たら少し頬に朱が差していた。ボク、なんか変な事言ったかな?



「……そういう理由なら入った方が色々都合いいだろ。他に興味ないっつっても、今まで以上に……見れるじゃん?」

「海原くんの話? うーん、それはそう。ボク、真剣になってる時の海原くん結構好きだからさ。常に行動を共に出来るってのはかなりアツくはあるんだよね」

「……お、おぉう」

「オットセイの真似?」

「ちゃうわ。……そういう姿が好きだってんなら、入るべきだろ。たまに応援に来てくれるのも勿論嬉しいけどさ、所属してるかどうかの違いは大きいだろ」

「でもノイズが多いんだよね。他の人から言い寄られるのもめっちゃ嫌だし」

「言い寄られる? うちの部員にか?」

「そう。そこがやっぱり懸念点なんだよね。ほら、同じコミュニティに属してる人同士が折り合い悪くなったら空気最悪になるじゃん?」

「いや、そこは俺が何とかするよ」



 ほう? 海原くんが急に意志強めな口調で言葉を吐いた。



「お前を困らせるような奴からはちゃんと守ってやる。だからまあ、来いよ。星宮が入ってくれたら俺も嬉しいしさ」

「ほんと? マネージャー業なんて今までやった事ないけど」

「大体の奴がそうでしょ。分からない事があったら俺も一緒になって考えるしさ」

「む〜?」



 意外だったな、海原くんってボクがマネージャーになるの賛成派だったんだ。今まであまりこの手の話をしてなかったから、そういう形で干渉されるのは嫌なんだと思っていた。



「海原くんが喜んでくれるのならボクも入りたい。けど、子育てがなぁ……」

「あー。唯の事も見てあげないとか」

「うん。部活に入るってなると休日も時間使うことになるだろうし、学校帰るのも遅くなるかもだしさ」

「じゃあ厳しいか。負担も増えるしな……」

「うん……」

「……んー。あんま意味あるかは分からんけど、お前が良ければ俺もなんか、手伝える事があれば手を貸そうか?」

「うん? マネージャー業?」

「もあるけど、唯の事も。部外者なのは分かってるけど、お前だけに負担増やすのは悪いしさ」

「えっ」



 えーと……。まじか。なんだその提案、流石に予想外すぎる。



「赤ちゃんのお世話って結構大変だよ?」

「だろうな。そのうち音を上げるかもしれん。けど、音を上げるまではちゃんと手ぇ貸すぞ。負担は分け合おうや」

「そ、そこまで海原くんにしてもらう理由なくない? 割と謎のお節介ではあるよ」

「いやあるくね? 俺がマネに誘ったんだから相手の事情は汲むべきじゃん。やってよって頼むだけ頼んで後は放置ってのは人として終わってんだろ」

「そうかなぁ……」

「まあいるだけ無駄ってか、余計に忙しくなるってんならすぐに手を引くしさ。そこはお前が決めてくれ」

「……そう言ってくれるのは本当に嬉しいんだけど、でも」



 でも。うーん……。まあ、血縁的には確かに赤の他人ではないんだけど、それは海原くんの知り得ない情報だ。そこを省いて言うなら本当に何の関係もない部外者なわけで、そんな相手に自分の子供の世話をさせるのはさすがに気が引けるというか。むしろ悪い気しかしないというか。子育てがどれだけストレスになるか身に染みてる立場としてはどうしても頼み辛い仕事ではあるんだよな。



「まあ部活が一緒の時点であんま意味無いかもしれないけどさ。それでも帰った後とか空いた時間に手伝える事はあるだろ」

「……夜遅くに帰るのは危なくない?」

「こんな田舎だし、言うて俺ん家とお前ん家、近道使えば10分掛からねえじゃん。そんな変わんねえよ」

「そうだけど。でも……」

「労力の面で悪いなって思ってくれてるんだとしたらそこは気にすんな。言うて俺、部活してる時以外暇してるからさ。空いた時間を埋めれるって点ではめっちゃ助かるし」

「勉強しなよ」

「授業受けてるだけで平均点余裕で越せるわ」

「頭良いな!?」

「だろ。だし、シンプルに俺自身の願望としてお前の助けになりたいんだよ。昔あんな事をしたのにお前、アッサリ許してくれたし。その分のお返しはしないとだろ」

「き、気にしなくてもいいって!」

「いーや気にするね。対等な友達なんだろ? なら黒歴史もちゃんと精算して天秤釣り合わせないと。それに、間山の件があるってんで学校では話せない分、もっとお前と沢山話したいなって思ってたし」



 海原くんが小さく笑う。今の言葉も気恥しいと感じながら発した言葉だったらしい。……今のはちょっと、受け取ったボクも気恥しいというか、照れくさくなっちゃった。いきなり変な事を言い出すんだもん、びっくりするよ……。



「……じゃあ、お願いしたいかも」

「おう。って事は、マネージャーの方も引き受けてくれるのか?」

「うん。……ふふっ」

「? どうした?」

「なんでもないよ。なんか、海原くんが変な事言い出すから戸惑っちゃっただけ」

「戸惑いで笑いが出るのか。変わってんなお前」

「う、うるさいなぁ! なんでそんな流れるように人を小馬鹿にするんだよ! 今抱いた感情返せ!」

「何故そこで取っ組み合いになる!? のしかかんなお前っ! 重い!」

「重くないわ! デブ扱いするな!」

「いや順当に人間の重さしてるから重いでいいだろそこは!?」

「女の子に重いって言うなぁ!!」

「女扱いコンプレックスどこいった!? お前自分が思ってるほど男ムーブ出来てないからな!?」



 やかましいわ。海原くんがあまりにもボクを女扱いしてくれなさすぎるから逆にムキにさせるんじゃんか。デリカシーまじでなさすぎるんだよ。他の人だったらここまで失礼な対応しないもん、過剰に女扱いされるのも嫌だけどされなさすぎるのもそれはそれでムカつくんだよ!!!



「! お、お兄ちゃんっ、お姉さん! 今日お母さんいるから! エッチするのはまずいよ!」

「!?」

「ち、ちげーわ馬鹿かお前!? てか覗くなって言ってるだろうがぁ!!」



 ボクらの取っ組み合いは途中から部屋に飛び込んできた妹ちゃんのグロすぎる声によって中断された。海原くんは妹ちゃんを追跡して1階まで降り、それに着いて行ったら海原くんのお母さんに「あら、いつぞやの」と言われてしまった。


 お母さんと妹ちゃんがニヨニヨした顔でボクら2人を見てくる。その視線に耐えかねてボクはその日は逃げるように退散した。まったく、なんでボクと海原くんをそういう関係にこじつけようとする輩が多いんだこの村は! 全員カプ厨なのか!? 見た目だけで判断しすぎなんだよまったく!!!

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