13話『買い物』
放課後になった。さっき伊藤さんに呼び出しを食らったのでとりあえず伊藤さんの席に向かう。久しぶりの学校だし男子と遊びたい気持ちもあったけど、先に予定を組んでしまったのでそれは我慢だ。
「あ、ほしみ」
「よーし星宮、買い物行くぞー!」
「行くぞー、おー!」
む? 今一瞬間山さんに話しかけられた気がしたけど、彼女の方を向いたら全く別の方向を見ていたから気の所為だったみたいだ。幻聴かなぁ、変な病気にかかってないか心配だ。これ以上病院のお世話にはなりたくないよ、ボク……。
「私らも着いて行きたいなー!」
「わ、前原さんと……えっと?」
「達海だよー! よろしく、星宮さん!」
「さん付け! くぅ、よろしくっ!」
初対面の女子にさん付けされた! 今のこの体でさん付けされると明確に女子扱いされてる感じがしてなんだか複雑な気分になる。でも悪意とかは無いもんね、そこはボクの器量だ。気にしないでおこう!
「二人はなんで一緒に来たいの? ドラッグストアに行くから自転車移動だよ?」
「ウチは星宮くんとはそんなに仲良くはなかったけど、でも男から女に変わるってすごいじゃん? 色々見てみたいなって!」
「色々〜?」
「胸囲とか気になるし!」
「きょうい?」
「胸のサイズね。そういう事かー、前原も大概男子みたいだよねー」
「てか胸大きいのに他人のそんな所気になるものなの?」
「星宮くんどこ見てるのさー、エロッ」
「わーごめんごめん! つい!」
「気にしなくてもいいでしょ。星宮も女子になったんだもんね?」
「心は男子なのでつい反応してしまいました……」
ボクの言葉を聞いて前原さんがプッと吹き出した。男子に胸を見られるの慣れてるんだろうなー、どことなくそれを分かってて小馬鹿にしてる空気を感じた。これが小悪魔ってやつなのかな?
「達海さんは? 星宮と面識ないっしょ?」
「面識は無いけど、元男? ってみんな言ってるのが気になって。実は女顔の男なんじゃないかな〜って」
「胸あるのに?」
「偽乳の説!」
「あーそれは盲点。確かに。星宮ー」
「なに? ってうわぁっ!?」
伊藤さんがボクの名前を呼んだと思ったら急にTシャツに手を突っ込んできた。そのまま腕を上げてくるから服がめくれ上がるが、女子二人が息を合わせて周りに胴体を見えないようにガードしてくれた。それはいいんだけど、ボクは一体何をされて……っ!?
「わっ、やめてっ、くすぐったいよ!」
「むむむ。これは……本物の胸だ!」
「当たり前でしょ!」
「ちゃんとブラつけてるね! 偉い!」
「言いながら揉まないでよー!」
わしゃわしゃと伊藤さんに胸を揉みしだかれる。くすぐったいくすぐったい! なんでみんなボクの胸なんかに興味を引くのさ、おかしくない!? 男の胸を揉んで楽しいかー!?
「大変良き触り心地でした。触診結果、暫定C+!」
「プラスってなに?」
「もしかしたらDかもしれないそんな揉み心地ってこと!」
「初めて聞く単位だなぁ」
「いきなり揉むなんて酷いよ! びっくりしたじゃんか!」
「ごめんよぉ、代わりと言ってはなんだけど前原の胸も揉んどく?」
「なんでウチ!?」
「私の胸ちっこいんだもん。どうせ揉むなら大きい方がいいでしょ?」
「そんな理由で!? 別にちっこくないじゃんか!」
「揉んでいいの?」
「駄目!」
駄目らしい。ガッカリ、同じ女同士だって言うならボクだって女子の胸を堪能してもいいじゃないか。この体になってラッキー! って思ったのにとんだぬか喜びだよ……。
前原さんと達海さんは家の方向が全く違うらしいので現地集合する事になり、伊藤さんと二人で徒歩で帰る。新鮮だなぁ、この人と一緒に帰るの。去年辺りから少しずつ女子との交流も増えてるな、もしかして今のボクモテてるのかな!? だとしたら嬉しいな〜!
「そういえばさ、星宮」
「うん?」
「海原に胸触られた時さ、怒ったりしなかったよね。なんで?」
む、中々に痛い質問をしてきたな。伊藤さんは道路の白線を踏みながら言葉を続ける。
「あそこで怒らないと男子、調子乗っちゃうよ? 何されても抵抗しないって思われたらおしまいだよー? 女子ならそこら辺気を付けないと」
「んー、具体的にどうおしまいなの?」
「スカート捲られたり今日みたいに胸触られちゃうかも」
「スカートはもう履かないよ。胸触られるのは……嫌だなぁ」
「でしょ? てかもうスカート履かないの?」
「履かないよ〜。試しに履いて見たけどこれ、風がスースーして心許ないんだもん。パンツ見えちゃいそうだし」
「でも中学入ったら制服はスカートだよ?」
「うげぇ。ズボン履いちゃ駄目なのかなー?」
「私らが行く中学は制服指定だし女子はスカートだけだって。都会に行ったらズボン履いてもいい学校もあるかもねー」
「引っ越す予定は無いしそこは諦めるかぁ」
「だね。まあ下に短パンでも履いたらいいんじゃない?」
「そうだね。そうしよう」
「ち、な、み、に〜。ブラは確認できたけどパンツはどうなのかな?」
「なにが?」
「ちゃんと女の子用のパンツ履いてるかなーって……それっ!」
「わああぁぁっ!?」
伊藤さんがボクのスカートを掴みそれを持ち上げた。心許ない布に隠されるべきエリアを伊藤さんにガッツリ見られる。
「やめて伊藤さん! それは流石に恥ずかしいって!」
「おー、パンツもちゃんと女物だ。意識高いねぇ」
「買い替えたの! 男物はサイズ合わないしこの体で履いてたら変だからって母さんが捨てちゃったんだよぉ!」
「なるほどね。しっかりしたお母さんだ。ほえー、星宮の肌綺麗〜」
「変な所見ないでよ!? はい、手を離して!」
スカートを手で抑えて伊藤さんを離れさせる。全く、なんて事をするんだこの人は!? 海原くんに胸を触られた時よりも今の方がもっとずっと恥ずかしかったよ!!!
「ふむふむ。いやぁ〜星宮、女子力結構高いねえ全体的に。女初心者なのに感心するよ」
「それ褒められてる?」
「褒めてる褒めてる! いいな〜、私も胸大きくなりたいな〜」
「その内大きくなるでしょ……」
「貧乳にそのセリフは地雷だと覚えておきなさい! ノンデリ発言禁止!」
貧乳って。以前事故って見てしまった時はちゃんと膨らみがあったからぺったんこって程でもないだろうに。……エッチだったなあ、伊藤さんの生胸。男子としてちゃんとドキドキしたもんな、入院中とか。刺激が強いよあれは。
「話を戻すけど星宮、なんで怒らなかったの?」
「話戻されちゃった」
「聞かれたくない?」
「うーん、そんな事はないけど。女子にとってあの行為って、やっぱり怒るものだよね?」
「当たり前でしょ! 急に胸を触る男子とか普通に犯罪者だからね! 激怒するべきだよ!」
「だよねぇ。それは分かるんだけどさ……」
「長尾に触られた時とかはちゃんと怒れてたじゃん。海原の時はなんで怒らないのさ」
「長尾くんのはまぁ、不意の出来事だから怒ったというより驚いて反射的に蹴っちゃったって感じなんだよね」
「海原も不意に触ってなかった?」
「そうだけど、一応あの場は仲直りしにいった場だったからさ。そこでボクが怒ったり海原くんを拒絶したりしたら破綻しちゃうかなって。仲直りが遠のくのは嫌だったからさ」
「あ〜、そういう事か。仲直り出来た後にあんな事されたら怒ってた?」
「一応ね。揉まれる時の感触とかゾワゾワするし、強めに殴ってた可能性は高いかな」
「殴られなくてよかった〜」
「女子は殴らないよ! そんな事したら母さんに怒られ……」
や、もう怒らないか。母さんは家に居ないんだもんな……。
「ま、まあ。とにかくそんな感じ。別に海原くんだから特別に触らせたとかじゃなくて、タイミングだったって事」
「なら安心。貞操観念をしっかり教えこまなきゃなって思ったけど、そこら辺は大丈夫そうね」
「貞操観念?」
「女の子が守らなきゃダメな事。みだりに異性に体を触らせない! 下着を見られたら怒らなきゃダメ!」
「そういうやつか! それなら大丈夫、ちゃんと分かってますよ」
「おっけー。と言ってる間に着きましたと」
話しながら歩いていたらいつの間にか伊藤さんの家に到着していた。伊藤さんとも話すの結構楽しいな、時間があっという間だったや。
「ランドセルはそこに置いときなよ。ドラッグストアで買い物だけしたらここに戻って改めて帰宅で」
「了解!」
「じゃ、財布持ってくるからそこで待ってて。すぐ取ってくる」
「あ! そういえばボクお金そんなに持ってなかったや……」
「いいよ、奢ったげる」
「え!? それは悪いよ! ちゃんと自分で払う!!」
「いいよいいよ〜。そんな高くもないし、ここは貸一つで許そう!」
「え〜!? なんでそんなことしてくれるの、親切すぎない!?」
「誰かが教えてあげないと星宮、女の子の事何も知らないだろうし困っちゃうでしょ? そこそこ仲良かったんだし、少しくらい面倒を見てあげる」
「良い人すぎる……!」
めっちゃ面倒見良くない? この人。どうしよう、友達としての好きじゃない方の好きになりそう。いやガチで、ネタじゃなくて。めちゃくちゃ素敵な女の子じゃんこの人!
「お母さーん、買い物行くからお小遣いちょうだい!」
「買い物? どこ行くの?」
「ドラッグストア!」
「街の方か……またゲーム買いに行く気でしょ」
「も、あるけど。生理用品買いに行くのがメイン!」
「あら、そうなの。ちゃんと他に目的があるなら許してあげましょう。はいお駄賃」
「わーい5000円!」
「あんまりゲームをやりすぎないようにね。目を悪くしちゃいますからね」
「はーい」
家の奥で伊藤さんがお母さんと話してるのが聞こえてくる。お母さん、かぁ……いけない、暗くなっちゃダメだ。母さんの事は意識しないように、明るい星宮憂だけを見せられるように気を張らなきゃ!
「おまたせ〜星宮」
「全然待ってないよ! ゲーム買いに行くの?」
「ふっふっふ。星宮のおかげでちゃんと動機を作れたよ。ありがとう星宮!」
「? どういたしまして?」
「さ、行くぞー!」
「おー!」
家を出て、庭に停めてあった自転車に伊藤さんが跨る。自転車を押して道に出た伊藤さんがボクの方を向いて荷台を手で叩くので、彼女の指し示す通り荷台に跨り二人乗りの状態になる。
「ちゃんと乗ったー? 手はお腹に回してね〜」
「えっ。女子の体にみだりに触るのは……」
「同じ女子同士でしょって。なに、私の体にコーフンしてるのー?」
「興奮……?」
「無知だなー星宮は。純粋すぎ! 私の体にエロい感じのイメージ持ってるのってこと!」
「えぇ!? べ、別に? そんな変な事考えてもないけど?」
「ならちゃんと掴まりなよー? 運転しにくいじゃんかー」
「い、いいの?」
「いいよー」
む、むう。いいよって言われたから、伊藤さんのお腹に手を回す。女子の細い胴体、それにいい匂い、女子の甘い匂いがする。なんだか悪いことをしてる気分になってドキドキしまくってる、よく伊藤さんはこんなの許してくれるなぁ。
「出発しますよー。星宮の方は準備おけ?」
「おっけー。だけどちょっと股が痛い……」
「大股開きしてるもんねー。まあそこはしょうがない、安全の為だ」
「これ、スカートが靡いて後ろからお尻とか見えちゃわない?」
「見えるだろうね〜」
「えぇ!? ど、どうしよう」
「まあいいでしょそれくらいは! 私も時々そうなってるし! というわけでレッツゴー!」
「諦める感じなの!?」
掛け声と共に伊藤さんがペダルを踏み自転車が発進する。だが二人分の体重が乗っている自転車は走り出しが遅くてノロノロとバランスを崩しながらの発進になった。
「えーと、運転変わろうか?」
「大丈夫! ちょっと立ちこぎするね!」
「えっ、でも伊藤さんスカート……」
「パンツくらいなんぼのもんじゃい!」
「さっきと言ってる事違う!?」
宣言通り伊藤さんが立ち漕ぎを始める。あわわわわわ、ボクの視点だと伊藤さんのスカートが風に靡いてお尻がめっちゃ見えちゃってるよ!? これ見てもいいやつ!? 絶対ダメだよね! 絶対ダメだよねーっ!?
てか手の位置がズレて太ももに腕を回す感じになってるけどこれもよく考えたらダメじゃない!? 女子の太ももとか触ったら絶対怒られるやつだよね!? 伊藤さんこそなんでボクには怒らないの!? 今この状況が謎で仕方ないんだけど!?
「スピード乗ってきた〜!」
「はやぁ! 下り坂でフルスピードは危ないよ伊藤さん!」
「そう? 意外とそういう所ビビりなんだ星宮って」
「ビビりというかっ、スカートがすごいことになってる!! 伊藤さん、パンツがっ」
「きゃーへんたーい」
「うんだから一旦座り漕ぎに直さない!? 目の前がずーっとそれ一色になってるの、気まずすぎるからさ!」
「可愛くない? このパンツ」
「見られるの嫌じゃないの!? 可愛くはあるけどさ!」
「でしょ〜。星宮のパンツは無地だったもんなー、もっと可愛いの履こうよ!」
「履かないよ! 無地でいいよ別に、じゃなくて! パンツが」
「おっと!? びっくりしたー、ガタッてなったよね今。転ぶかと思った〜」
転ぶかと思ったというか、確かにガタンって自転車が揺れたのは驚いたけどそれより気にするべき所があるよね! 思いっきり前傾姿勢にするもんだから伊藤さんのお尻が思い切り顔面に押し付けられたんだけど今! なにこれ、深夜アニメ!? さっきからエロ系のハプニング起きすぎじゃない!?
「坂おわったー。よいしょっ、きゃあ!? 星宮、強く掴まりすぎ! スカートめくれちゃったじゃんか!」
「そりゃそうなるよ! スピード出しすぎ!」
「前に人いなくて良かった本当に! 一回力緩めて! 手の位置直すよ!」
伊藤さんに言われたので腕の力を緩める。彼女はボクの手を取って改めてお腹の位置に掴み直させた。女子に密着してるドキドキじゃなくて命の危機の方でドキドキしたよ、豪快すぎるよ伊藤さん……。
「よし着いたっ」
「うわぷっ!」
ドラッグストアに到着し急ブレーキをされるから伊藤さんの背中に体を押し付けてしまった。もうめちゃくちゃだ、思いっきり伊藤さんに抱きついちゃってるみたいになってるじゃん。なんなのこれ、知り合いに見られたら絶対やばいって。
「大胆だな〜。私の事好きなの?」
「急ブレーキかけるからこうなったの!」
「照れなくていいのに〜」
「照れてないよ!?」
「正直に言ってみぃ。なんならキスしたげよっか?」
「キス!? キッ、キス!? なに今日熱でもあるの!?」
「あはははっ! 反応おもしろーい」
「おもしろーいって……からかうの辞めてよ伊藤さん。トイレに連れ込まれた時も急にキスしてこようとしたし。なんなの、キス魔なの……?」
「小2の頃はキス魔だったね。その時見たアニメに影響されて」
「知られざる過去すぎる」
「あれ? 星宮ともキスしなかったっけ?」
「いやしてないでしょ絶対!」
「あれー? 3組だよね?」
「……3組だね」
「新聞発表の授業で一緒だったよね?」
「…………わっ、思い出しちゃった。してるわ」
「ね。発表するの嫌だーって私が駄々こねて、代わってって言って、キスしてあげるからーって言って断り続けるもんだから無理矢理キスしたよね。なつかしー!」
「よく覚えてるね……てかよくそれ本人を前にして語れるね」
「てっきり星宮も覚えてると思ってたー。だからトイレの時もキスしようとしたんだし」
「うんどういう事??? 一回キスした相手とは何度でも出来るの? キス魔直ってないじゃん」
「まあ星宮なら別にありだよねーって。おっ、前原達も来た!」
前原さんと達海さんの自転車を発見した伊藤さんがそちらへ歩いていく。なんか、すごい人だな伊藤さん。なんでボクならキスしてもいいんだ、謎すぎるでしょ。意味不明すぎて怖いよもはや……。
ドラッグストアに入ったボク達は、女子三人を先頭にして真っ直ぐとある売り場へ向かう。洗濯用品の向かい、生理用品と書かれた看板が下がったコーナーに入る。
「説明します。これが生理用ナプキン」
「はい」
「生理の時に股につけるやつです。主にこれで生理が外に漏れるのを防ぎます」
「おー、天才的な商品だ」
「生理ってなにー?」
「あれ、達海さんはまだ生理来てないんだ? なんかアソコから血が出る事とかない?」
「アソコって?」
「ここ」
伊藤さんが達海さんの下腹部を指差す。おおう、男のボクには中々刺激のあるやり取りだ、目を背けよう。
「おまた?」
「ちいちゃい子みたいな言い方するね。うん、おまた。おまたから血が出るの」
「えぇっ。めっちゃ痛そう」
「めっちゃ痛い。ね、二人とも」
「ウチはそんなにだよ?」
「痛すぎて吐きそうになるね」
「前原は軽いタイプで星宮は重いタイプか。最近女になったばかりなのに大変だね」
「最初見た時は手術失敗してるじゃんって思ったよ……」
「それは怖いなぁ。ま、とりあえずこれ買っときな。達海さんもそろそろ来るだろうし買っておきなよ、あって損は無いしさ」
「はーい」
「買い物これでおしまい? 下着屋さん行こうよ星宮くん!」
「下着屋さん? なんで?」
「バストサイズ測りに行こう!」
「なーんでそんなに星宮のバストサイズ知りたがってるの?」
「なんとなくだよ〜」
なんとなくって感じの話の出し方じゃないけどなぁ。前原さん、なんか結構しつこくボクのバストサイズ? 知りたがってる感じ出してくるし。母さんに買ってもらったブラジャーが十分フィットしてるから、ぶっちゃけ測らなくてもこれと同じような大きさ? のブラジャー買えばいいだけじゃない? ちゃんとした数値とか別に興味無いんだけど。
「まあ知っておいたら何かと話のネタになるかもだしいっか。次は近くの服屋さん行こう!」
「行こう行こう!」
「えぇ……別に何も買わないよ?」
「測るだけだから」
「ナプキンってどれがいいのー? オススメとかある?」
「私はこれ使ってるよ、安いし。達海さんもとりあえずこれにしとけば? 使用感とか後で色々調べてけばいいし」
「あ、ウチサプリ買っとこう〜。先レジ行っとくね〜」
「はいはーい」
前原さんが輪から離れていった。女子って意外と学校の外だと団体で動かないのかな? ずっと固まって同じ売り場をグルグルしてたボク達とはまるでタイプが違うや。
「Dカップなの? でかっ」
「でかっ!」
「へ、へぇ。中々やるね、星宮くん」
「えーと……でかいの?」
ドラッグストアでの買い物を終えて服屋に赴き下着コーナーでカップサイズを測ってもらった後、それを3人に共有したらなんか驚かれた。大きいの? これ。
「星宮。どんなブラしてるのか見してよ」
「えっ。嫌だよ」
「なんでよ」
「恥ずかしいからだよ!? なんで人に下着を見せなきゃならないのさ!」
「いやいや。小学生でDカップって安く売ってるブラにサイズなくない? 絶対どこかオシャレめなお店のブラでしょ」
「そうなの?」
「持ち主でしょ? どこで買ったのか分からないの?」
「知らないよ〜。母さんが買ってきたんだもん」
「へぇ……」
「ちなみにウチはワコールジュニアのブラだよ!」
「わこーるじゅにあ?」
なあにそれ。服のブランド? よく分からないけど伊藤さんは盛り上がってるな、達海さんはボクと同じくポカーンってしてる。完全に2対2の構図が出来上がっている。
「よく分からないね」
「ねー。でも星宮さんって本当に女の子なんだね、ますます男だったって言われてるのが謎だな」
「以前のボクを知らないんだもんね〜」
「それもあるけど、星宮さんってすごく可愛いじゃん? その顔で男子とか有り得ないよ〜」
「いやー……」
顔に関しては手術後にこうなったから完全に後付けなんだよなぁ。元からこんな顔をしてた訳じゃないんだけど、それを伝えると「じゃあ整形ってコト!?」みたいな事言われそうだから黙っておこう。ちょっと嫌だもん、してないのに整形って言われるのは。
「星宮、こっち来て」
「え? うん」
達海さんと話していたらいつの間にかどこかへ行っていた伊藤さんと前原さんが戻ってきた。伊藤さんがボクの手を引く、どこへ連れていくんだろう?
「ここに入って」
「試着室?」
「うん」
「入るの? なんで?」
「いいからいいから」
何故かを答えてもらえないまま試着室に入れられる。なんだろう?
「よいしょ」
「えっ」
「もっと奥詰めて、二人が入れないよ」
「えっ、えっ? 全員入るの?」
「うん」
「私も入るのー?」
「おいでー達海。ウチの前おいで」
狭すぎない??? なにこれ、1つの試着室に女の子3人が入ってきたんですけど。密着してるって全員、ボク心はガッツリ男子だよ? 刺激強いってば!
「あ、の……ごめんね。全員胸当たってる……」
「私そんなに胸大きくないんですけど? 嫌味ですか???」
「いや当たってるじゃん……腕動かせないんだけど……」
「さっ。星宮くん、上を脱ごう」
「何を言っているのかな前原さん」
「ブラ見して!」
「見せないって! それだけの為にこんな事してるの!? お店の迷惑じゃない!?」
「しー。静かにしてよ、バレちゃうでしょ」
「すごいデジャブなんだけど。以前にもこんな事あったよね……」
「狭い場所だと何かと縁があるねー、私と星宮って」
「本当にね……!」
これで二度目だよ、狭い空間に伊藤さんと入るの。でも今回は人数が4人だからなぁ。女の子の匂いが濃いなあ、股間の棒を失って今初めて良かったなって思ったよ!
「さ、脱いでっ」
「嫌だって!」
「脱がないと出れないよー? それとも女の子3人とギューギュー詰めになってるのが好きなの? 変態だー」
「変態じゃないよ! てか脱ごうにも脱げないって、みんなくっつきすぎだよ!」
「そんな事言われても」
「私が下からTシャツ捲ってあげようかー?」
「達海さんそれナイス!」
「ナイスじゃないナイスじゃない。何を言っているの達海さん? ボク男だよ!?」
「んー。私、男子の頃の星宮さんを知らないし」
「確かにそうだっ! ってやめてやめて捲りあげないで!」
「きゃっ。ちょっと星宮くん、腕動かしたらウチの胸持ち上がっちゃうって」
「ごごごごめん! あーもう、久しぶりに学校来たのになんなのこれ!? なんでこんな事になるの!?」
「声大きいって星宮」
「胸の上まで捲ったよ〜」
「おー、これは確かに無地……サイズ合ってなくない?」
「本当だ。星宮、これキツくないの?」
「キツくないよ! 見ないでよぉ!」
「いや全然サイズ合ってないって。息苦しいでしょ。下着も買い直そっか」
「結構です! 正確なサイズも分かったんだし後日買うから!」
「ウチ選びたーい」
「私もー」
「お金無いから! これ以上は借りれないし大丈夫です本当に! 試着室から出させてー!」
女子達に揉みくちゃにされた挙句、服をまくり上げて下着丸見えの状態のまま胸を揉みしだかれてから試着室から開放された。なんていうか、女子ってすごいんだな。ある意味男子といる時よりも体力使うよ……。
でも、女子3人と密着出来たのはちょっと良かったな。考えてみると今までそういうイベントが起こる事そうそうなかったし。ある意味楽園だったかもしれない。そう考えたらこの体になってお得なのかもしれない。絶対今日悶々として寝れないなこれは。
「ただいまー」
3人と別れて家に着き、玄関を開けてただいまと言うも反応は無かった。でもリビングの明かりは着いている。
リビングを覗き込んだら父さんが床に大の字になって眠っていた。お酒を飲んで潰れた感じだ。飲む量増えてるな〜、体調大丈夫かな。心配だ。
ご飯は……一応机の上に袋は置いてある。勝手に食べていいのかなこれ。
とりあえず父さんに毛布だけ掛けて、弁当を1つ拝借して自分の部屋まで上がる。風邪引かないといいなぁ。仕事はしてるみたいだし、疲れとアルコールで体を壊したら可哀想だ。
あっ、海原くんと結局仲直り出来なかったな。明日また話してみよう、喧嘩にならなければいいなぁ……。