旅は道連れ世は情け
たびかさなるラッキーデー
「…はい?」
「だから…あの…バッテリーが上がっちゃって…」
涙目でもじもじされながら目の前で助けを求められている…
なんだこの状況は。
そして私はバッテリー上がった車の救助なんてやったことがない。
「く、車だけちょっと貸してくれれば大丈夫なので!ケーブルとかは積んであります!」
このスープラ女子、用意周到なのかどうなのか。よくわからないが、そういうことならと車を貸すことにした。
無事にスープラのエンジンはかかり、お礼としてファミレスを奢ってくれるらしい。
今、私は机を挟んで向かい合って座っている。
「えっと、ほんとにさっきはありがとうございました」
改めてお礼を言われるが、正直お礼を言われる筋合いがあるかと言われると無い気がしてならない。
「いえいえ、車貸しただけですし。私自身は何も…」
「いや、恥ずかしいんですけど私、人と喋るの苦手で…男性に声かけとか…」
全然目を合わせてくれなかったスープラ女子と、ふと目が合った。
なんとも丸メガネが非常に似合う美少女ではないか。少しくるくるっとした髪は肩くらいまでの長さで、見た目のおかげでスープラとのギャップがすごい。
「それで、ND乗ってて女性だったから勇気だして声かけて…」
なるほど。だがしかしわからないこともない。
私自身、人に話しかけるのは苦手だし。
というか。
「車好きなんですね。私と同じじゃないですか!」
共通の趣味を持つ女子なんて珍しい。話題にしないわけがない。
「えっ、あっはい!」
露骨にテンションが上がっている。初対面ながら、少々可愛いと思ってしまう。
「乗ってるのスープラですよね。GR…でしたっけ?」
「そうですそうです!トヨタのGRスープラ…ちょっとこだわってマニュアル仕様なんですよ!」
走り方から軽く察していたが、やはりマニュアル車だったか。まさかマニュアル女子とは!
そして女子どうしと言うことも相まってか、とても話が盛り上がる。
「私もマニュアルのNDなのでわかりますよ。マニュアル車っていいですよね!」
「あの操縦してる感が楽しいんですよねー!」
この人、すごく趣味が合うようだ。会話がとても楽しい。
「って言うか。もしかして昨日の浜松バイパスで会いました?」
訊かれて、はて?と思う。
私はSAとかそう言うのに寄った覚えはない。顔を合わせたのは今が初のはず…
「あー!」
電撃が走るように思い出した。
「渋滞の時の!あのスープラ!?」
記憶が確かなら、あの時見たスープラに特徴は一致するが
「そうですそうです!おっ、NDだって思ってたんですけど、まさかこうなるとは…」
なんとびっくり。渋滞の時に見たスープラの人だったとは。
世の中狭いものである。
というところでウエイターが料理を運んできたため、会話が一時中断となった。
「そういえば名前訊いてなかったですね」
モーニングの食パンを食べながらスープラ女子がぱっとこっちを見た。
「私は鈴木加奈です。名前、なんですか?」
「麻衣です。望月麻衣。」
加奈さんと言うのか。これを機にドライブ仲間を作れないものか…。
「望月…ってなんだかかっこいいですね!私は鈴木なのでちょっと憧れちゃいます」
望月も別にレアな苗字でもないのに。感性は人それぞれだな…と思った。
「そっちこそ、加奈って名前。めちゃいいと思いますよ」
褒め合い合戦になりそうな雰囲気だが、ありがたいことに加奈さんの方から流れを断ち切ってくれた。
「そんなお世辞なんて。そうだ、連絡先交換しませんか?車好き女子なんて会ったことなくて…」
向こうからお誘いが来るとは。
「私もです!私も車好き女子全然あったことなくて。ぜひ交換しましょ!」
手早くスマホを取り出し、連絡先を交換する。
この人、アイコンがちゃんとスープラになっている。しかもおしゃれな写真で…。
「ありがとうございますっ!ちなみに、麻衣さんはこれからどこに?」
「んー、最初の目的の海も来れたことですし、何も考えてないですね」
料理を眺めながらぼんやりとこの後どうしようか考え始める。
「だ、だったら一緒に行きませんか?」
まさかのお誘いだった。どうせ今日は土曜日。最悪明日も日曜だ。時間はたっぷりある。
乗らない手はない。
「えぇ、ぜひぜひ!ちなみにどこに?」
加奈さんの表情がぱあっとなる。まさかほんとに誘いに乗ってくれるとは思っていなかった様子だ。
「美浜の方まで行こうかと!私からすると半分くらいは帰路ですけどね」
美浜と言うと知多半島の先の方…。ここから三河湾沿いにぐるーっと行くと到着できる場所だったはず。
「美浜の方住みなんですか?」
「細かく言うと、知多ですよ。知多半島って聞いたことありません?」
知多か。私はまだ行ったことないな…。
「それじゃあ、朝ごはん終わったら行きますか」
「ほ、ほんとにいいんですか!?行きましょう!」
ついでにスープラをじっくり見せてもらおうと悪だくみながら、私たちは残りの朝食を片付け始めた。
旅先での出会いって、憧れますよね…
私自身、コミュ障なので絶対に無理ですが…だからこういう場で
書きたいと思うんだ!うん!
次回は完璧ドライブ回になりそう…