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夢と共に羽ばたく

ども。ハツラツです。

冬童話2024、最終日ギリギリアウトっぽいセーフの投稿です。


今回は、ツバメと人間の少女の物語です。

是非とも読んでってくださいまし。

 町の端にある小さな民家。

 その二階では、少女が窓を開けて、冬空を眺めていました。


「私も、あの鳥みたいに空を飛べたらなぁ」


 澄んだ青空を泳ぐように、小鳥たちが横切っていく姿に、ため息が出ます。

 すると、一羽のツバメが高く舞い上がったかと思うと、くるんと宙返り。


「わぁ」


 そのまま落下してきて、見事に窓枠へ着地して見せました。

 サーカス団のような身のこなしに、ついつい少女は拍手をしてしまいます。


「スゴイスゴイ!」


 少女は朝ご飯のパンの残りをちぎると、チップ代わりにプレゼントしました。


「どう? おいしい?」


 ツバメは嬉しそうについばみます。


「うふふ。喜んでくれてよかった」


 ツバメはひと鳴きして答えました。


「ツバメさんは上手に飛べるよね。うらやましいなぁ」


 ツバメはわかっているのか、いないのか、小首をかしげて少女を見ます。


「ううん。なんでもない」


 パンのかけらを食べきると、ツバメはまたどこかへと旅立っていきました。


 次の日もまた、少女が外を眺めていると、あのツバメが宙返りしながらやってきました。


「ツバメさんこんにちは。あら?」


 ツバメは何かを咥えていました。

 少女が手で受け皿を作ると、ツバメは渡してくれます。

 それは、小さな青色のお花でした。


「これ、私にくれるの?」


 ツバメは頷くようにひと鳴き。


「ありがとう! いい香りがするね!」


 お礼にパンのかけらを渡すと、ツバメは嬉しそうに羽ばたいていきました。


「じゃあ、またね!」



 その日の夜。

 少女はとてもいい香りのするお花を枕元に置いて眠りにつきました。


 夢の中、少女は青空の下にいました。


「わあ! 私、外にいる!」


 走り回ろうとしたとき、少女は自分の異変に気が付きます。


「あれ、なんだろう。これ?」


 自分の両手を見れば、なんと、紺色の翼になっていたのです。


「もしかして、私……」


 両手をはためかせ、飛び上がってみました。


「スゴイ……スゴイ!」


 ぐんぐんと上空へ浮かび上がっていく体。

 少女は鳥となり、大空を羽ばたきます。


「飛んでる! 私、飛んでるわ!」


 どこまでも、どこまでも続く青空を、自由に、優雅に泳ぐように飛び回りました。

 それは、とても幸せな時間でした。

 ですが、幸せな時間は長くは続きません。


「夢、終わっちゃった……」


 小鳥の鳴き声と共に、鳥かごのような部屋で目を覚ます少女は、名残惜しそうにつぶやきました。

 夢には、タイムリミットがあるのです。



「ねぇ、ツバメさん。私、夢だけじゃなくて、現実でも空を飛びたいな」


 何日も経って、何度も夢の中で羽ばたいたとしても、現実では走り回ることもままなりません。


「けほっけほっ。そんなこと言っても仕方ないよね。だって、外に出ることもできないんだもの」


 少女は遠い目をして、零します。


「お薬が手に入れば、お外に出られるのにな……」


 ツバメは小さく鳴くと、どこかへ飛び立っていきました。


「またね、ツバメさん」



 それからというもの、ツバメが姿を見せなくなりました。

 その間も、花の香りをかいで、夢の中で空を飛びます。

 ですが、ここ最近はあまり楽しくありません。

 なんてったって、夢の中で飛べる空は鉛色で、冷たくて乾いた風が翼を叩くのです。

 ついには、花は枯れてしまい、もういい香りも、そこから繋がる夢も見れなくなってしまったのです。


「ツバメさん、どこにいるのかな……」



 少女が心配していたある日のこと。

 体調が優れなくて、ベッドで丸くなっていた時でした。

 コンコンと、何かが窓を叩く音が聞こえてきたのです。


「何かしら?」


 ふらつく足取りでカーテンを開けると、そこにはツバメの姿がありました。


「あら! ツバメさん、久しぶりね」


 そのツバメは、どこか弱っていましたが、その口には、あの花とは違う植物が咥えられていました。


「これは?」


 ツバメがその植物を少女に預けると、小さくひと鳴き。


「待って!」


 ツバメの体はやはり、キンキンに冷えていました。寒空の下を飛び回って、この植物を探しにいってくれたということの証明です。


「ダメよ。まずは体を温めなきゃ」


 優しく包み込むと、体が温まるまでじっとしていました。


「ありがとね、ツバメさん」


 やがて温まったツバメは身をよじったので、少女はゆっくり開放します。すると、羽を広げて体を震わせました。


「もう行くの?」


 ツバメはひと鳴きすると、元気よく遠くへ、ずっと遠くへ飛び立っていきました。


「またね、ツバメさん!」


 その姿が見えなくなるまで、少女は手を振り続けました。



 それから季節は巡って、また冬がやってきました。

 ツバメが、かつての少女のもとへと向かいます。

 とある民家の二階の部屋。今日はカーテンが閉じていて、あの日のようでした。

 ツバメが首をかしげてから、窓をノックします。

 しかし、少女が現れる気配はありません。

 何度も、何度もノックしますが、やはり、返事はありません。

 ツバメがあきらめて飛び立とうとしたときでした。


「ツバメさん!」


 下から聞きなれた声がします。

 ツバメが振り返ると、土の上に立つ少女の姿がありました。


「私、元気になれたよ!」


 ツバメはひと鳴きすると、駆け出した少女のもとへと飛び出します。

 少女は空を飛べませんが、それでも幸せでした。

 だって、大好きなツバメと一緒に、外を駆け巡れるのですから。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


少女とツバメの友情は、これからもきっと続くことでしょう。

果てしない空のように、隔てるものは何もないはずです。


一月二日から今日まで駆け抜けた日々、衝撃と絶望が日本を襲ったお正月でしたが、少しずつ、希望は見えてきたのではないでしょうか。

まだまだ、油断もならず、苦しむ人が多い中ではあるかと思いますが、私の小説が不安を抱えて生きる皆さんの希望の種になれればいいなと思います。


今年の企画は終わりですが、いつでも読むことはできますので、いつでも読みに来てください。

では、また。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「冬の童話祭」から参りました。 ツバメと少女の交流に心が温まりました。 夢で空を飛んだ少女が現実でツバメと外へ出られるようになって、本当によかったです。 素敵なお話でした。
[一言] 素敵なタイトルですね! 爽やかな気持ちにさせてくれるお話でした。 飛べなくても一歩踏み出すことはできましたね^_^
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