1話
凄く暑かったような・・・
寒かったような・・・
まだ「よっつ」だった私と「ななつ」のおねぇちゃんを置いて
ママは何処かに行ってしまった・・・。
「おねぇちゃん、ママどこいっちゃったの?」
「わかんない・・・」
家の中はママの再婚相手が置き手紙を読んで、
泣いて暴れてメチャクチャだった。
ママは私が産まれてすぐに本当のパパと離婚したから、
私たちはママの再婚相手と一緒に住んでいた。
小さかった私はその人が本当のパパだと思っていた。
ニセパパは私たちを毎日虐待した。
お風呂に投げ飛ばされたり・・・
包丁を突きつけたり・・・
「死ね」と毎日言われた。
昼も夜もお仕事をしていたママは、いつも家にいなかった。
だから私とおねぇちゃんは
毎日カップラーメンを食べていた。
ニセパパは機嫌が良いとお金をくれた。
そのお金で近所のおそば屋さんにも何度か行った。
「姉妹仲良しね〜。ちーちゃんはお姉ちゃん大好きだもんね〜」
おそばのおばちゃんに言われると何だかとっても嬉しかったのを
今でも覚えている。
ママとの思い出といえば・・・
お誕生日のケーキを一緒に
「ふぅ〜」
したこと。
あとは・・・
???
無いかもしれない。
お姉ちゃんは覚えてるだろうけど・・・
私にはママとの楽しい時間の記憶がお誕生日ケーキしかない・・・
でもとにかく
私はママが世界で一番大好きだった。
居なくなってしまうなんて・・・
思うはずもない・・・
それからどう過ごしていたかは正直あんまり覚えていないけど・・・
親戚を転々とし、
誰からも必要とされていなかったことは
幼いながらに分かった。
ある日、不思議なことが起こった。
後ろ髪の少し長い
知らない男の人が私たちの手を引いて
新幹線に乗せてくれた。
「この人私たちの本当のお父さんだよ」
お姉ちゃんが小声で言った。
よく分からなかったけど、
でもその人は私たちを
地獄の日々から連れ出してくれた。
付いた場所にはとっても優しそうな
女の人が居た。
「お母さんって呼んでくれる?」
「でもママじゃないよ?」
その人は悲しそうな顔をした。
その姿がとってもかわいそうに見えて、
「お母さん」
と呼んだ。
私達はその日からその人の子供になった。
それから10年。
私は何不自由なく
幸せな女の子だった。
ある意味それは
幸せな女の子を
演じていたとも言える。
中学生になった私は
親への感謝など
すっかり忘れて、
スカートを引きずり、髪を茶色く染め、
処女を簡単に捨てた。
人生自分中心で回っていると思っていた。
「あんたの母親みたいになっちゃだめよ」
そう言う母に
「本当の親じゃないくせに。うるせぇよ!」
何度も母親をののしった。
自分を捨てた母親の面影は
黒いもやもやした影のようでしかなくて、
その怒りを
育ててくれた母親にぶつけることしかできなかった。