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呪われた世界の終わり

 

 カリーナが世界中に仕掛けた呪い。

 一刻も早くアレックスとカリーナの亡骸を見つけるしか解除の方法は無い。


 私は世界中の国々に、一刻も早く亡骸の発見と謝罪を訴えた。

 しかしマンフを含め、世界の国々は自力で呪いを解く事を考えてしまった。


『死んだ奴に謝れだと?』


『何が心からの謝罪だ!』


『下らん呪い等、我々が解除してやる!』

 息巻く王族達だったが、カリーナの性格と実力を知る私は分かっていた。

 絶対無理だ、解除は失敗すると。


『畜生...』


『...何故だ?』

 案の定、王族の用意した魔術師では呪いが解けなかった。

 それどころか、益々呪いが強くなる仕掛けまでカリーナは施していた。


 その間にも呪いは世界を蝕み続けた。

 土地は痩せ、作物は全て枯れる。

 水害の頻発、そして疫病...

 最早手のつけようが無かった。


 事態を理解した世界の国々はアレックスとカリーナの亡骸を探すと思っていたが、そうはならなかった。


 呪いを受けてない土地を巡って世界中で戦争が始まったのだ。

 全く馬鹿げた話、なんの為に魔王を倒したのか。


『そんな事をしていたら世界が滅んでしまいます!!

 早くアレックス達を見つけて謝罪を!!』

 いくらマンフに言っても、首を縦に振ろうとしなかった。


『それならお前1人でやれ!

 俺は謝らんぞ!!』

 血走った目をしたマンフの言葉、その時ようやく分かった。


 心からの謝罪とは、口先では無く、本心で思わないと実行出来ない呪いなのだと。


 最早マンフや世界の国々はあてにならない。

 かといって事態を傍観し、世界が滅びるのを黙って見過ごす事も出来ない。


 私は教会を通じ、世界中に有志を募った。

 アレックスとカリーナの亡骸を見つけ、心からの謝罪をしましょうと。


 結果は散々だった。

 民衆は呪いを掛けたアレックス達を恨み、戦争を止めない国々を恨むばかり。

 彼等の心に、何故カリーナが呪いを掛けるに至ったか、全く理解が無かった。


 それでも僅かに人間は集まった。

 私は彼等の中から魔法を使える人を選抜し、アレックス達の捜索を開始した。


「マリア様どうですか?」


「駄目ですね。ここでまた転移魔法を使ったんでしょう」


「...そうですか」


 私の言葉に同行していた仲間達は力無く項垂れた。

 一年を掛け今度こそ、そう思っていたのに。


「次は何処を探しましょう?」


「そうね...」


 なんと答えて良いか分からない。

 カリーナは世界を転移して回っていたのだ。

 魔法の残滓を辿り、一つ一つ、探し回る日々。


 気は遠くなるが、これしか方法は無い。

 広い世界、二人の死体が偶然見つかるなんてはあり得ない。


 ひょっとしたら海の底か、獣に食べられてしまったのかもしれない。

 嫌な予感を振り払い、気持ちを奮い立たせた。


「ここで転移魔法を使ったのなら、また私達も転移するしかありません」


「しかし...何処に転移を?」


「前回と同じです、ここからカリーナの転移魔法で行ける範囲を虱潰しに探します。

 転移先で二人の目撃証言を聞き込むのよ」


「...ですが...もう魔力が」


 仲間達は目を伏せる。

 転移魔法に使う魔力量は膨大、身体の負担が大きいのは分かる。


「早くしましょう、こうしてる間にも呪いは進行しています。

 世界を救うには一刻の猶予もありません」


 聖女の力を失い、聖魔法は使えなくなった私だが、それ以外の魔法なら使える。

 私が絶望してはダメだ。


「...畏まりました、直ぐに魔力を補充致します」


 仲間達の言葉は丁寧だが、その目に反抗的な物が見える。

 世界が呪われたのは私のせい、そう思い始めているのだろう。


 冗談じゃない!

 私は確かに討伐隊を抜けたが、四年も魔王軍と血みどろの戦いを強いられたのだ。

 その間あなた達は何をしていたと言うの?


 安穏な生活を貪り、平和を享受していたのではないか。

 怒鳴りたい気持ちを必死で堪え、唇を噛み締めた。


 携帯していた魔力回復薬を仲間と飲む。

 魔力だけは回復するが、身体への負担が大きい。

 乱用すれば、身体は半年も持たないだろう。

 そんな薬を三年間も飲み続け、戦ったカリーナは化け物だ。


「...化け物か」


 最後に会ったカリーナの姿を思い出す。

 酷い火傷を顔に負い、誰もが羨む美しいカリーナの姿はそこに無かった。

 アレックスも、土気色の顔で足を引き摺る姿は廃人その物だった。


 討伐がいかに過酷な物だったか痛い程分かった。

 正直なところ、みすぼらしい二人の姿に私とマンフはホッとした。


 もし離脱せず、あのまま戦っていたなら、私達もそうなっていたかもしれなかったのだと。


「ゲェェ...」


「...ウップ」


 仲間達がつぎつぎと倒れる。

 せっかくの薬を吐き出し、白目で痙攣を始めた。


「どうしました?」


「...身体が薬を受け付け無かったのです」


「...だらしない」


 吐き出された薬を口から垂らし、仲間は呻く。

 そんな事では足手まといだ。


「言い過ぎですぞ!!」


 思わず出てしまった言葉に仲間の1人が噛みつく。

 役立たずな上、口だけ達者ね。


「事実ではありませんか」


「...それは」


 ほら何も言い返せない、なんて下らないやり取りだ。


「分かりました、一旦帰りましょう」


 これ以上続けても良い結果は得られそうに無い。

 黙り込む仲間達を連れ、ハムラ帝国へ転移魔法を発動させた。


「...ふう」


 戻って来た私は仲間と分かれ、私室に戻る。

 1ヶ月振りか。


「マリア、帰っていたのか」


「マンフ...」


 扉が開き、疲れきったマンフが顔を出す。

 目の周りがどす黒い。

 凛々しかったマンフ、今は窶れ果てていた。


「どうだった?」


「ダメ...全然上手く行かない」


「そうか」


 マンフは椅子に倒れ込む様に座り、天井を仰ぎ見た。


 『無駄な事を』

 一年前、そう言っていたマンフだが、最近は進捗状況をよく尋ねてくる。

 それだけ事態は悪化しているのだ。


「...カブル王国が滅んだ」


「カブル王国が?」


 カブル王国はカリーナの母国だ。

 あの国は呪いの影響が余り無かった筈。


「世界中から攻められ、王族や民衆は皆殺しにあった...」


「...そう」


 カリーナは見越していたのだ。

 世界から母国が狙われる様に、だから呪いを...


「民衆の反乱も世界中で相次いでいる...徴兵、増税、略奪もな」


「聞きたくない」


「...畜生、どうしてなんだ?」


 マンフは両手で顔を覆う。

 彼はすっかり小さくなってしまった。


『俺に任せろ』

 そんな言葉に私は抱かれてしまった。

 ...失敗だった。


「教皇は?」


「民はこんな呪いを受けたのは教会のせいだって...もう誰も神を信仰してない」


 教会の権威は失墜した。

 父である教皇は職を辞し、今は行方不明。

 どうしてるのか....どうでも良いか。


「俺達はアレックス達に押し付け過ぎたな」


「今更よ」


 今更だ、せめて呪いが始まった時に私の訴えを聞いてくれていたなら。

 こんな腐った連中を助ける為に私は...


「世界の殆どは最初から腐っていた、魔王なんか関係ない」


「...マリア」


 私の言葉を驚愕した表情で聞くマンフ。

 否定の言葉は返ってこない、醜い争いに何も言えないのだろう。


「マンフ様!」


「どうした」


 突然1人の衛兵が私室に駆け込む。

 酷く狼狽えた様子はただ事じゃ無い。


「反乱です!

 民衆がマンフ様とマリア様を殺せと叫び、王宮を取り囲んでおります!!」


「何だと!?」


「...まさか?」


 慌てて王宮の窓から外を見る。

 幾万もの民衆が武器を掲げ、殺到するのが見えた。


「...何が起きた」


「生け贄よ」


 民衆は生け贄を欲している。


『全ての元凶は私達』

 おそらく一部の奴等に煽動されての事。


 ここまで気づかなかったのは帝国内に内通者が居たからだろう。

 中には先程分かれた私の仲間も居るに違いない。

 私が戻って直ぐなのだから。


 なんて事は無い、私達も世界の人々から切り捨てられたんだ。

 アレックスやカリーナと同じ様に。


「どこに行くの?」


 マンフは扉に向かう、何をしようと言うのか?


「俺の命で良ければ、くれてやる」


「そんな事をしても、何にもならないわ」


「分かってるさ」


 マンフは諦めてしまったのか。

 気持ちは分かる、だがそれでは何にもならない。


「私達は自害します、皆にそう伝えなさい」


「は?え?」


 衛兵は狼狽える。

 計画が狂うからでしょ?


「私達の首を掲げて助かろうなんて...浅ましい事ね」


「どうして...」


「早く行って...」


 慌てて部屋を出る衛兵を確認し、私室に火を放つ。

 燃え盛る炎、熱気と煙が私達を包んだ。


「逝くか?」


「まだよ」


 剣を私の喉に突きつけるマンフに首を振りながら微笑む。

 今なら出来る気がするのだ。


「カリーナに会いましょう」


「何を...お前は...」


「あなたもアレックスに」


「...そうだな一言、言ってやる」


 剣を収め、マンフは笑った。


「転移!!」


 燃え盛る王宮から転移魔法で向かう。

 目標は二人の眠る世界。

 座標など必要無い、ただ導かれる様に...



「ここが?」


「ええ」


 着いた先は薄暗い洞窟。

 辺り一面は氷に閉ざされている。

 だが寒くは無い。

 先程の炎で私達の身体は焼け爛れていた。


「...居た」


「おぉ...」


 氷の中で、アレックスを抱き締めるカリーナ。

 なんて穏やかな表情...


「...アレックス」


「...カリーナ」


 二人の前に座る。


 涙が止まらない。

 これは怒り?

 違う、私達はお互いに頷いた。


「...すまなかった」


「ごめんなさい...」


 ...心からの謝罪、世界がどうとか関係ない。

 ただ謝罪する気持ちだけが溢れ、止まらなかった。


『...赦してあげる』


『ああ』


「「...ありがとう」」


 二人の言葉が頭に響く。

 私達は静かに抱き会い、崩れ落ちた。


 こうして私達は旅立った。

 腐りきった人間が滅び去った世界を残し...

 

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、覆水盆に返らずだね。そうならないようによく考えて行動すべし。後悔先に立たず。先立つまえに深く思慮を巡らせるべし。
[一言] やはり人類は愚か アレックスとカリーナが救った世界がこんなのとは救われないですね
[一言] タイトル通りなら最後の言葉は幻ですかね
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