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異世界対魔戦記  作者: 長山宏隆
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第8話 祖父母との団欒

    第8話 祖父母との団欒


『今日は、何か、ヘマをしたかな』


 スサノハンクは、館長室に向いなら、今日一日を振り返っていた。


 王宮に行く前に、謁見のマナーは、館長や双翼家の二人にチェックしてもらっていたので、問題は無かったはずだった。パッと右手を胸に当て跪く姿は、自分でもそれなりに様になっていたと思うし、挨拶の口上についても、これなら問題ないと、三人からもお墨付きをもらっていたのだ。


 接見後、王宮の侍従からも『立派でございました』と声を掛けてもらっていた。


 年齢の割には、自分でもそこそこ頑張ったと自負していた。スサノハンクは、自分に落ち度があったとはとても思えなかった。


『国王様に質問したのがまずかったのかな』


 わざわざ、館長室に呼び出される理由について、スサノハンクには『これだ』というものが思い当たらなかった。


 別邸に戻り、館長に王宮でのことを報告した時には、何も言われなかった。


 呼ばれる前に、別邸内で家人たちが慌ただしく動き回っていたようなので、祖父スサノカミル公爵が王宮から戻っていると思って間違いないだろう。


『帰ってきたカミルおじい様から、直々に、何か言われるかな』


 でも、それなら、館長室ではなく、公爵の執務室に呼ばれるはず。


 首を傾げ、色々なことを考え巡らせながら廊下を歩いていると、スサノハンクはいつしか館長室の前に到着していた。


『コン、コン、コン』とスサノハンクは、館長室のドアを三回ノックした。


 二回ノックするのはトイレのドアだけ。だから、部屋のドアを二回しかノックしないとマナー違反になる。誰から教えてもらったわけでは無かったが、スサノハンクは、幼少の頃よりそう認識していた。こんな些細なマナーも、どうしてなのか分からなかったが、スサノハンクの頭には、自然に浮かび上がってくるのだった。


 そのため、スサノハンクに対して、ボーっとしているようで利発な子という評価が、いつの間にか出来上がっていたのだった。


「入って」


 そう言う、館長で祖母のアマルレオナの声が聞こえた。


「今日は、御苦労だったな」


 スサノハンクが、そう言って、館長室のドアを開けると、スサノハンクの労をねぎらうスサノカミルの声が聞こえた。


 部屋に入ると、執務机脇のテーブルに、公爵家館長家の四人の祖父母、その左右には、双翼家夫妻が座っていた。


「まあ、座りなさい」


 スサノカミル=オーブ=プフェルトナァ公爵。スサノハンクの父、スサノバルトの父親にして、スサノハンクの祖父。プフェルトナァ家の当主だった。黒い髪の毛は、オールバックに撫でつけられ。スサノハンクを前に目尻を下げていたが、普段は、顔で笑っていても、人の心の奥底をまで見通しそうな鋭い眼光を黒い瞳の奥から覗かせているような人物だった。


「はい」


 怒られるのではなさそうなので、スサノハンクは、安心して祖父母たちと向かい合うよう席に着いた。


「では、始めようか」


 スサノカミルは、その背後に控えていた公爵家執事のブルーノに合図を送った。


「かしこまりました」


 公爵に一礼しながら、そう言うと、ブルーノは、館長室から退室していった。


「今日は、大活躍だったな」


 スサノカミルは、スサノハントの顔を見ながら嬉しそうに言った。


「それにしても、初めての実戦が魔法使いとは難儀なことでしたね」


 スサノカミルの妻、クリスティーナが、スサノハンクに言った。


「真っ向から勝負を挑んだのは、父と母です。僕は、そのスキを付いて側面から援護攻撃を仕掛けただけです」


 スサノハンクは、謙遜するように言った。


「それでも、凄いことですよ。魔法使いを相手に戦うなんて、それ相応の勇気がなければできないことです」


 アマルレオナが、スサノハンクを褒めるように言った。


 肝の据わった騎士でも、魔法使いの攻撃魔法を前にすると足が竦むことがあると言われていた。剣同士の戦いでは、相手が多少トリッキーな技を使ってきたとしても、剣は剣。それほど驚くことは無かったが、相手が、魔法使いとなると勝手が違ってくる。同じ属性の魔法を使うにしても、個々により千差万別。その対処法は、殆ど無いに等しかった。


 かつて、魔法使いが沢山いた時代には、そのような攻撃に対する研究も進んだのであろうが、今では、一生魔法使いと対戦することなく生涯を終えるものが殆どだった。平和な時代が続き、魔道具の発達もあり、魔法使いの需要が減少してゆくに従い、そのような研究もすたれ、現在では、ロストテクノロジーと化してしまっていた。


 そんな時代に、石畳をいともあっさり切断してしまうような魔法使いが現れたのだ、大騒ぎにならない方がおかしかった。もし、そんな魔法使いが何名かいれば、王都周囲を囲む城壁や王宮を囲む城壁でさえ、防御壁としての役割を果たさなくなってしまう可能性もある。


 王国にとって由々しき問題だった。


「それに、得難い経験でもあるね。後で、儂にも詳しく話を聞かせて欲しいよ」


 アマルレオナの配偶者、スサノエッカルト=オーブ=プフェルトナァが、目を輝かせながら言った。彼は、ファーストネームにスサノを冠することから分かる通り、スサノ系プフェルトナァ家の人間、スサノカミルの弟だった。スサノカミルに似た顔立ちだったが、輪郭はややスサノカミルよりシャープだったが、やや目尻が下がり垂れ目気味で、スサノカミルより優しい印象を与えていた。


 だが、おとなしいのかというと、顔の与える印象とは裏腹に、やや戦闘狂のような一面を持っていた。スサノハントが、魔法使いと戦ったという話に興味津々そうだった。


 複雑に絡み合うプフェルトナァ公爵家の血筋だったが、本来、スサノ系プフェルトナァ家とアマル系プフェルトナァ家の次期当主同士の婚姻は禁じられていた。プフェルトナァ家の婚姻は、双翼家や六肢柱家と呼ばれるプフェルトナァ家所縁の貴族との間で行われることが多かった。


 双翼家と六肢柱家というのは、プフェルトナァ家がフリードランス王家に仕える前からのプフェルトナァ家の家臣で、円空流武術の師範代や高弟だった家系を祖にしていた。プフェルトナァ家やそれを取り巻く一族の女性たちも、当然、円空流武術の訓練は受ける。相当、ハイレベルで……。円空流武術の館長に就任するかどうか議論中で、今はまだ大目に見られている、アマルフィーネの訓練も、これから日を追うごとに厳しさを増していくことだろう。そんな女性たちが、自分たちより軟弱な男に興味を引かれるわけはなかった。結局、婚姻は、プフェルトナァ家とそれを取り巻く一族との間で結ばれることになるのだった。


 それに加え、王家の戦略もあり、叙爵してからは王家との婚姻も何回か繰り返していた。スサノカミルとクリスティーナは、その例だった。


 結局は、アマル系プフェルトナァ家とスサノ系プフェルトナァ家の次期当主同士の婚姻が禁止されていても、他の一族郎党たちとの婚姻が繰り返された結果、両家を含め、全一族が親戚筋に相当するのだが……。


 そんな中、唯一、禁忌とされている婚姻ルールを破ったカップルがいた。


 スサノハンクの父と母。スサノバルトとアマルリーニアだった。


 当然、二人の結婚に反対する両家。二人は、いとこ同士でもあったのだ。


 切羽詰まった二人は、家を捨て駆け落ちをする計画を立てた。が、その計画は事前に察知され、二人は、公爵と館長の元に引きずり出された。


 公爵と館長は、烈火のごとく怒り狂った。除籍され、追放されそうになった二人を救ったのは、婚姻禁止ルールの厳格さを知らぬ公爵の妻でありスサノバルトの母であるクリスティーナだった。実家である王家にも働きかけ、二人を王家直轄地で謹慎させることでことを収めた。


 直ぐに、音を上げるかと思った二人は、そこで、開拓民として黙々と働き実績を築き上げていった。また、子供、スサノハンクが生まれるに至って、ついに、両頭家も折れ、二人の公爵家復帰を認めたのだった。孫は、やはり可愛いものなのだろう。その笑顔にメロメロだった。それに加え、二人とも一人っ子であったことも大きく影響したのだろうが……。


「パパとママって農民だったことがあるの」


 スサノハントは、かつて、スサノバルトにそう聞いたことがあった。


「そうだよ、ママとの結婚をおじい様やおばあ様たちに反対されて、おうちから追い出されちゃったんだ。でもね、ママとの結婚を認めてもらいたくて、一生懸命働いたのと、お前が生まれたことで、結婚を許してもらえたんだ」


 スサノバルトは、当時を思い出すように、スサノハンクに言った。


「まあ、大事無かったから、そんなこと言っていられますけど、まだ、ハンクは、ザート学園初等科の一年生なのですよ。私としては、まだ、こんな危険なことには巻き込まれて欲しくありませんわ。バルトも、大過なく、魔力切れで済んだのだって不幸中の幸いです」


 クリスティーナが、顔を顰めるようにしながら言った。


 王家出身のクリスティーナは、脳筋的というか武闘派的な話題にはあまりついてこれないようだった。


 ザート学園というのは、王立の初等科3年と専門科3年からなる6年制の学校で、貴族ばかりでなく、平民でも入学試験で優秀な成績を上げれば通うことのできる学校だった。


「まあ、その話は、それぐらいにして」


 スサノカミルが、マーマーと仲を取り持つよう話に割って入った。王家から嫁いできたクリスティーナが、孤立しないよう配慮してのことだった。


 タイミングよく、その時、コンコンコンとドアがノックされた。


「ブルーノか、頼む」


 スサノカミルが、そう声をかけた。


「かしこまりました」


 ブルーノが、ドアを開けると、その背後から、ワゴンを押したメイドたちが入ってきた。


「今日一日、何も食べてないんじゃないの」


 アマルレオナが、スサノハンクに言った。


「そ、そう言えば……」


 スサノハンクは、自分が空腹であることを思い出した。


 朝から、魔法使いとの戦闘。その後は、公爵別邸や王宮にその報告。と緊張の連続。その間、自分が何も食べていないことさえ忘れていたのだった。


 いつもであれば、早朝訓練後、ここでこうして祖父母や両親とテーブルを囲み朝食を、学園の食堂で昼食を摂るのを摂るのが常だった。


 メイドたちは、テーブルの上に、ローストチキンや子羊の骨付き肉、ウサギ肉の煮込み料理、川魚の塩焼き、白パンなどの料理を手際よく並べていった。公爵家といえど、合憲実直の家風。普段の食事は、平民並みに質素なものが多かった。今日の夕食は、スサノハンクの為に用意してくれたのは間違いないだろう。


 また、列席者の前には、取り皿やフォーク、ナイフが、やはりメイドたちによりセットされていた。


 グーッと、スサノハンクのお腹が鳴った。


 ご馳走の臭いをかぎ、刺激された内臓がエネルギーを欲しているようだった。


「まあ、大分、お腹が空いてるようですね」


 クリスティーナが、クスッと笑いながら言った。


「仕方あるまい。今日は、食事を摂る暇もなかったじゃろうからな」


 スサノカミルは、いつもの引き締まった顔付を捨て去り、好々爺の笑顔をスサノハンクに向けながら言った。


「おじい様、でも、僕は、ここで食べていってもいいのでしょうか」


 スサノハンクは、ちょっと惑い気味に聞いた。


 夕飯は、それぞれの家族で食べるのが習わしだった。スサノハンクは、プラムスの公爵邸で自分の分の夕飯まで用意されていてはと懸念したのだった。


「子供のくせに、要らぬ気を回しよって。案ずるな。プラムスには、使いを出してある。ハンクには、ここで夕飯を食わせるからとな」


 スサノバルトは、優秀な孫を慈しむように言った。


「そうですよ。今から気を回し過ぎては禿げの元です。もっと、おおらかに振舞っておればよいのです」


 クリスティーナの言葉に、皆、クスッと笑いを漏らした。


「これ以上、ハンクを待たせるのは酷じゃろう。さあ、皆、食べようか

 スサノカミルの言葉を合図に、皆、料理に手を伸ばした。


「何が、食べたいのですか」



 スサノハンクが、どの料理を取ろうか迷ってキョロキョロしてると、アマルレオナが、スサノハンクに聞いてきた。子供の手では、料理を取るのが大変だろうと判断したのだろう。


「それじゃあ、それとそれ」


 スサノハンクは、自分の食べたい料理、子羊の骨付き肉とローストチキンを指さした。


 若い時は、何よりも真っ先に肉料理に食指が伸びる。スサノハンクも、例外ではなかった。


「それでは、失礼させていただきます」


 スサノハンクの近くに立っていたメイドが、そう言って、スサノハンクの前に置いてあった取り皿を手に取った。


 アマルレオナが、そのメイドに、目配せしてスサノハンクの欲しいものを取るよう指示したのだった。


「それで、今後、魔法使いの件は、どのようになっていくのでしょうか」


 双翼家の一翼を担うギルベルトが、食事をしながら聞いた。


 プフェルトナァ家の次期当主、スサノバトルに、大した損害が無かったと分かれば、次に気になるのは襲撃者魔法使いのことだった。


 誰の手により何の目的で、プフェルトナァ家を襲撃してきたのか、目標は、プフェルトナァ家だけなのか、他にもあるのか。そのような情報は、王宮から何も伝わってきたいなかった。勿論、箝口令が敷かれている、襲撃してきた魔法使いが、魔族らしいということも含め。


「それについては、騎士団からの検死結果が上がってきてからということになろうな」


 スサノカミルが、難しい顔をして言った。


「と、言いますと……」


 双翼家のもう一家、ヘルマンが、聞いた。


 彼にとっても、これは、大いに興味ある問題だった。武家の者にとって、その解答いかんによっては、今後、自分たちも関わりが出てくる問題かもしれないのだ。


 家族同士の話と、口を挟むのを遠慮してきたが、食事も始まり、一段落ついたので、彼らも、自分たちの最も気になることを口にしたのだろう。


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