第13章 先代たち
第13章 先代たち
「よう、来たか。遅かったな」
前公爵のアマルデニスが、部屋に入ってきたスサノハンクをチラッと見ると、視線を再び目の前のテーブルの方に戻した。
「申し訳ありませんでした」
スサノハンクは、二人に向かって軽く頭を下げた。
あの後、直ぐに、手桶に入ったお湯とタオルを別のメイドが持ってきてくれた。先代たちにスサノハンクの先触れとして向かったアンナが、その前に他のメイドに指示して手配してくれたのだろう。
それから、急いで身支度を整え戻ったアンナと共に侯爵邸に向ったのだが、アマルデニスは、待たされるのがあまり好きではないのがありありと見て取れた。
昨日、スサノハンクたちが、どのような災いに見舞われたのか。その概要については、アマルデニスも知っているはずだったが、公爵という国王に次ぐ地位に長く身をおいたせいか、アマルデニスには他人に対してやや配慮を欠くようなところ、いってみれば、自己中心的なところがあった。スサノハンクを可愛がってくれてることに間違いは無かったが……。
「ここに来て、座れ」
前館長のスサノホルガーが、一つの椅子を指さしながら言った。
二人は、テーブルを挟んで対峙するよう応接セットのソファーに座っていた。テーブルには、この世界でブラック・アンド・ホワイト、通称BWと呼ばれるボードゲーム、こちらの世界で言うオセロゲームのことだが、それが、置かれていた。
スサノハンクが幼小のみぎり、暇つぶしで丸くて平べったい石を集め、その片面を白く塗って始めたオセロゲーム。それが一般にも広まり、貴族平民を問わず人気を博していつの間にか製品化されたものだった。それは、何故こんなゲームを知っているんだろういるんだろうという疑問も抱かず、ただ単に、こんなゲームがあれば楽しいかなと、スサノハンクが無自覚にやったことだった。要求したわけではないが、発案者が、公爵家の嫡孫。無料で商品として製作するのは恐れ多いということで、1セットにつき20パーセントというアイデア料が自動的にスサノハンクに入るようになったといういわくつきの製品だった。
娯楽らしい娯楽は殆ど無かった世界である。ブラック・アンド・ホワイトは、爆発的にヒットし、あっという間に国中に広まった。現在では、他国にも輸出されてるという。
今までに支払われたアイデア料がどのくらいになるのかは、両親に管理してもらってるので、スサノハンクには分からなかったが、ブラック・アンド・ホワイトの驚異的売り上げから考え、新たに分家を建てたとして、本家からの援助が一切なくても、与えられた領地を円滑に治め、尚且つ貴族の体面を保つのに困らない程度には貯まっているはずだった。嫡孫であるスサノハンクが、分家を建てるはずも無かったが……。
スサノホルガーにスサノハントが指定された席は、二人の挟むテーブルの横にある一人がけのソファーだった。アンナは、黙ってスサノハンクの席の後ろに立った。
「昨日は、色々と活躍し大忙しだったようじゃが、体の調子はどうじゃ」
前館長のスサノホルガーが、パチッと盤上に石を打ちながら聞いた。
前公爵のアマルデニスに対し、前館長のスサノデニスは、現役の騎士や兵士、中には礼儀もわきまえぬ荒くれ者もおり、そのような者たちを相手にしてきただけに、合憲実直の中に泰然自若としたもの、厳しいながらも物事を冷静に判断できる目を持った人物だった。
「一晩ゆっくり休むことができましたので、問題はありません」
スサノハンクは、そう言ってゆっくりと頭を下げた。
「若いし鍛えておるのじゃから当然じゃろう。もう、昼じゃしな」
前公爵のアマルデニスが、皮肉る様に言った。
「儂らの若い頃は、……」
アマルデニスは、キッと引き締まった顔付をスサノハンクに向けた。
『また、長いお説教が始まるのかな』
スサノハンクは、顔ではポーカーフェースを保ちながらも、心の中でアーアッと嘆きの声を上げていた。前公爵のお説教が一旦始まると、同じことを何度も繰り返しながら延々と続くのが常だった。嫌そうな顔を少しでも見せれば、『貴族たる者感情を顔に出してどうする』云々と更に説教は長引く。そんなことは、スサノハンクも、重々承知していた。そのために、頑張ってポーカーフェースを維持するよう努力していた。
「デニス殿よ。今日は、そのような用向きでハンクを呼び出したのではあるまい」
前館長が、今打った石で黒に挟まれた白い石を全て黒にひっくり返し終わると、元公爵の方に顔を向けた。
「折角ハンクが初手柄を挙げたのじゃ。説教など不用。その武勇伝を聞かせてもらおうではないか」
前館長は、笑顔で言った。
「そうであったな。ハンク。昨日あったことを我らにも詳しく話さんか」
前公爵は、スサノハンクを呼び出した目的を思い出したように言った。
先代たちも、スサノハンクの口から直接話を聞きたかったのだろう。どこまで知っているのかは分からなかったが、過去のツテを用いて、もしかしたら、昨日の襲撃が魔族によるものかもしれない。という情報も、既に、この二人ならどこからか入手していそうだった。
スサノハンクは、昨日、宮廷で語ったような報告を二人の前でもした。宮廷内での話し合いについては、二人はもう把握している可能性もあったが、他言無用が建前であるため、二人には話さなかった。
「なるほどな」
元公爵が、盤上に石を打つと、自分の顎を撫でながら言った。
「従士たちからの報告では、襲撃されたと言うだけで、詳しい戦闘状況までは分からなかったが、ハンクの話を聞くと、狼藉者が、容易ならざる者であるのは間違いなさそうじゃな。ハンクも、かなり奮闘したようじゃしな」
元館長は、元公爵が石をひっくり返し終わったのを確認すると、自分の色の石を盤上に打ちながら言った。
「それにしても、フィーネには驚いたな」
元公爵は、そう言うと、ウーンと唸るように口をへの字に曲げた。
「左様。まさかフィーネに『鑑定』の才があろうとはな」
元館長は、盤に手を伸ばしたまま動きを止めると、顔を上げ、スサノハンクと元公爵を交互に見ながら言った。
「使いようによっては、大きな戦力になり得るかも知れんな」
元公爵は、そう呟いた。
『そんなこと考えるの止めてくださいよ』
スサノハンクは、そう叫びそうになった。
アマルフィーネを戦いの場に出すなど、スサノハンクとしては今回で終わりにして欲しかった。
「フィーネのことは、今後の課題じゃろうが、それだけ奮闘しながら、ハンクの訓練が今後強化されることになったのは何故じゃ」
前館長は、スサノハンクをギロッと横目で睨め付けた。
『な、何で、そんな情報が、大おじい様のところまでいってるの』
スサノハンクは、ギョッとしたように、眼球だけ動かして二人を交互に見た。二人の視線は、睨みつけるようスサノハンクに向けられていた。スサノハンクの額には、汗が噴き出してきた。
大方、従士長のヴォルフか、双翼家あたりが二人に報告したのだろうが、スサノハンクは、『余計なことを』と、彼らがこんなに恨めしく思えたのは初めてだった。
スサノハンクは、諦めたようにため息を付くと、狼藉者との戦いの最中、恐怖で体が竦み、今まで自分が培っていた自信が崩壊したことを告げた。
「フィーネの頑張りを見なければ。僕は、戦いの間、ズッと固まっていたかも知れません」
スサノハンクは、狼藉者との戦いの中で自分に何が起こったのか話した。
「臆病風に吹かれよって」
元公爵は、吐き出すように言った。
「侯爵や館長も、孫にはオオアマのようじゃな」
元館長が、呆れたように言った。
「ハンクは、自信が無くなったと言ったが、それでは聞くが」
元公爵は、スサノハンクの方にググッと顔を近づけた。
「剣はさておき、其方、公爵館長は無理にしても、円空流武術で双翼家の当主に勝てるか」
元公爵は、フンと鼻を鳴らすように言った。
「そんなの無理に決まってるじゃないですか」
スサノハンクは、速攻で元公爵の問いを否定した。
「双翼家ギルベルトの息子アルフォンスならどうじゃ」
元公爵は、続けて聞いた。
「十回に三回なら勝てると思います」
スサノハンクは、アルフォンスとの最近の戦績を思い出しながら、得意気に言った。
小学校に通う年齢の子供で、二年の差は大きい。スサノハンクとしては、ここまで追いついてきたのです。凄いでしょ。そんなニュアンスを込めた回答だった。
「では、もう一方の双翼家ヘルマンの娘イリーネならどうかな。其方とは歳も同じであろう」
元公爵は、眉間に皺を寄せながら言った。
「剣では殆ど負けることはありません。体術でも、最近では、六対四または七対三で僕の勝ちですの」
アルフォンスもイリーネも、剣技や体術のような格闘術に関しては国内でも屈指の資質を有しているといわれていた。その二人から、勝ち星を上げたり勝ち越したりしていたのだ。スサノハンクとしては、当然、褒めてもらってもよい戦績だと思っていた。
「馬鹿者が」
元公爵は、スクッと立ち上がると、顔を真っ赤に潮紅させてスサノハンクを怒鳴りつけた。
「そのような戦績で、何故、自信が持てる」
元公爵は、叱責の声を上げた。
「……」
首を竦めて、スサノハンクは、前のめりになり声を荒げる元公爵を見上げるばかりで、声も出なかった。
褒めてもらえると思っていたにも関わらず、真逆の反応をする元公爵に唖然としてしまったのだ。
剣技と体術は、プフェルトナァ家にとってどちらも欠かせぬ重要な両輪。
その両方を、自在に使いこなせなければ、プフェルトナァ家の後継者としては不十分といえた。ギートとの戦いにおいて見せたように、剣に関しては、スサノハンクはその才能を認められていたが、体術においては今一歩。それが、スサノハンクに対する大人たちの評価だった。とはいえ、一般的感覚からすれば、スサノハンクの体術の才能でさえ天才的と呼ばれるにふさわしいものでだったが……。
「そういうのは自信とは言わぬ。ただの慢心じゃ」
元館長が、まーまーと元公爵に座るよう手で合図しながら、ゆっくり言った。
「ちょっと強くなると、一人前になったような気になりおって、先達や師さえ簡単に超えられるような思いに駆られる。初心者が、よく陥る心理状態じゃな」
元館長が、スサノハンクの方に顔を向けると、睨みつけるように言った。
物心ついてからつい二・三年前まで、一方的に負けていたスサノハンクだったが、イリーネから、まがりなりにも勝ち星を上げられるようになった。全く相手にもされなかった双翼家の師範代たちにも、勝てはしなかったが、かかり稽古ではそれなりに相手ができるようになっていた。一緒に練習する従士や騎士たち相手では負けることが殆ど無くなっていた。これが、スサノハンクの中では、大きな自信となり、やや剣術や武術を軽視するようになっていたことは否定できなかった。
「馬鹿者が、ほんの入り口に足を踏み入れたばかりでしかない其方に何が分ると思っておるんじゃ。公爵の嫡孫がそんな様でどうする」
座り直したばかりの元公爵が、叱責するように言った。
「申し訳ありません」
現公爵のスサノカミルたちに比べはるかに辛辣な先代たちの言葉に、スサノハンクは、身を縮こまらせて素直に頭を下げるしかなかった。辛辣ながらも、思い当たることばかりなのだから、抗弁のしようも無かった。
「それにしても、現公爵のカミルや館長のレオナも、孫に甘すぎる」
元公爵の怒りは、祖父母たちにも向けられていた。
「慢心を粉々に粉砕され自分の未熟さを悟らねば、先には進めぬのじゃから、狼藉者との遭遇は、ハンクにとって僥倖と言えば僥倖。じゃが、確かに、現公爵らには、厳しさが足りぬ」
前館長は、どうしたものかと考え込むように言った。
「最近、道場の掃除も手を抜くようになってきたとの報告もある。現公爵らは、もっと早く其方の鼻をへし折るべきじゃったな」
前公爵は、苦々し気に言った。
『そ、そんな報告、いったいどこから』
スサノハンクは、目を真ん丸にすると、心の中で驚きの声を上げていた。
先代たちの情報収集能力は、スサノハンクの予想をはるかに凌駕していた。
現役時代に使っていたその手の者たちをそのまま、従者として使い続けているのかも知れなかった。
「イリーネに全く歯が立たぬ頃には打倒イリーネを目標に精進しておったが、最近では、イリーネと互角以上の戦績をのこせるようになった。大方、それで、慢心しおったのじゃろう」
前館長は、心の奥を覗き込むよう、スサノハンクを穴が開くほど凝視しながら言った。
「……」
スサノハンクは、心の中で『その通りです』と呟くばかりで何も言えなかった。
「それはまあよいとしても、公爵たちの言う通り、自分よりはるかに強い者が存在すると知れたことは、良い経験であったな。これに懲りて、精々精進することじゃな」
前館長の目は、曾孫の成長喜ぶ、曾祖父の目に戻っていた。
「どうせなら儂らも、ハンクの再教育に協力してやろうではないか」
前公爵が、ニヤッと笑いながら言った。
「エッ……?」
スサノハンクは、意味が分らず疑問符付きの声を漏らした。
「其方や儂が、スサノハンクの訓練の相手をしてやってはどうじゃ」
元公爵は、元館長に向かって楽しそうに言った。
「それも一興であるな」
元館長は、腕を組んで、自分の考えをまとめるようにしながら言った。
「大おじい様たちに、そこまで手を煩わせずとも、錬心舘で、特別メニューを組んでくれるそうなので大丈夫です」
スサノハンクは、慌てて先代たちの申し出を断った。
現公爵や館長の許しを得て公爵家に復帰した両親が、忙しく飛び回っていた頃のことだった。幼いスサノハンクは、曽祖父母たちに面倒をみてもらっていたことがあった。
家の中では、祖祖母たちが面倒を見てくれていたが、庭を散歩させたりして運動させることは曽祖父たちが担当してくれていた。
「家の中を走り回らぬよう、もっと外で運動させてくださいませ」
曾祖母たちのそんなリクエストにどうやって答えるか。頭を悩ました曽祖父たちは、スサノハンクに剣術を教えることにしたのだった。自分の身長より長い剣を持たされたれ、勿論刃引きされていたが、それで、剣の握り方を教わったり、素振りをさせられたりした。金属製の剣は、二・三歳児にとって、正眼に構え維持するだけで重くて腕がプルプルと震えてくる代物だった。
この世界においても、剣術を教えるのは通常五・六歳になってからだったが、スサノハンクに武術を教えるのは、疲れさせゆっくり昼寝してもらうのが目的。異例の出来事といえた。体術ではなく剣術が選ばれたのは、重い剣を振るう剣術の方が、幼い子供をより早く疲れさせられるとの曽祖父たちの判断からだった。
「馬鹿者、鍛え方がたらんからじゃ」
本物の剣を持って素振するなど、拷問みたいなものだったが、泣いても許されず、スサノハンクは、それを一日に十回やることが日課とされた。少し休憩すると、木剣によるかかり稽古が始まる。手加減はしてくれていたのだろうが、スサノハンクは、毎日、曽祖父たちに何度も打ち据えられた。泣いて駄々をこねても無駄だった。
「軍家プフェルトナァ家の子が、そんな軟弱でどうする」
更に激しい叱責と木剣による打ち込みがスサノハンクを襲った。
スサノハンクは、泣きながら曽祖父たちに立ち向かっていくしかなかった。
まだ、思うように自分の想いを人に伝えられぬ年頃だったことに加え「訓練のことは誰にも話してはいかんぞ」と、スサノハンクは口留めされていた。まだ物心もついていないような幼い子供に、剣術を教えることなどこの世界でも推奨されていなかったのだ。怖い顔をされて脅かすように大人にそう言い含めてられては、幼いスサノハンクは、それに唯々諾々と従うしかなかった。
スサノハンクが、剣術の才を早々に認められるようになったのは、曾祖父たちにこんな訓練を受けたためといえるかも知れなかった。
代わりというか、訓練の時間以外の時間は、先代たちもスサノハンクに優しかった。必要以上に。結果、先代達の度を過ぎた行為は、その奥方たちにばれることは無かった。
「最近、よく寝るようになって助かったわ」
曽祖父たちによるスパルタ訓練を知らない曽祖母たちは、当時、そう言って喜んでいたらしい。
スサノハンクが、この人たちには逆らってはいけないと思うようになったのは、このような過去が有ったからだろう。一般的な訓練が始まって、体術ではイリーナに歯が立たなかったが、剣術では当初よりひけをとらずに済んだのは、この先代たちによる訓練のお陰だろう。
「ザード学園の入学式まで、まだ二週間ぐらいあったはずじゃな」
前公爵は、スサノハンクをグッと睨みつけ確認するように聞いた。
「はい。そうです」
スサノハンクは、背筋をピンと伸ばして答えた。
今年、ザード学園一年生になるとはいえ、実際には、父母を交えた入学説明会が数日前に開催されただけで、まだ入学式も終えていなかった。
平民を全く受け入れないわけではなかったが、貴族は全てザード学園に入学することを義務付けられていた。即ち、どの貴族家の当主・家族も、特別な理由がない限りザード学園の卒業生ということになる。その様な父兄が子供の入学式で一堂に会すればどうなるか。と言えば、入学式会場は、さながら同窓会会場に様変わりしてしまう。
入学式が厳粛な儀式であるのは誰もが認識していたが、昔話の尽きない親たちは、式中にもヒソヒソと挨拶や会話を繰返す。
学園では、王族であろうとも教師の言うことに従うということにはなっていたが、父兄の中には、校長より身分の高い者もいる。なかなか教師たちも父兄には注意し難かった。
そこで、考えられたのが、入学説明会という名目の同窓会だった。父兄たちも学園の卒業生であり、またこんな時期に改めて説明会を開く必要も無かったが、父兄対策としては有効だった。入学式の二・三週間前に説明会を行うことにより、再開を喜び合う挨拶を終わらせてもらう。更には、入学式迄の滞在期間に同窓会を兼ねたお茶会や夜会、ダンスパーティーなどの社交を入学式前に終わらせてもらう。これにより、入学式は、無事、厳粛な雰囲気で行えるようになったのだ。一旦、貴族が王都に赴けば、一か月二か月、稀には、数か月滞在することなどザラ。二・三週間の王都滞在など貴族たちにとっては当たり前のことだった。
学園説明会が終われば、子供が入学したのも同じという認識が父兄たちには広まっていた。祖父母たちが、スサノハンクがすでにザード学園に入学していると思っていても何ら不思議はなかった。
「そうすると、それまでの間は、早朝訓練後時間があるということじゃな」
前公爵が、嬉しそうにニヤッとした。
「……」
スサノハンクの背筋に、ゾクゾクッと悪寒が走った。
『これ、絶対、ヤバいことの前触れじゃん』
スサノハンクは、顔に出さないよう気を付けながら、心の中でそう叫んでいた。
「その間は、早朝訓練から帰ったら、ここに来るように。儂らも、其方を鍛え直すのに協力してやろう」
「……」
スサノハンクが、予想した通りの最悪の展開だった。
その後、父スサノバトルの容態などを聞かれ、会談は終わりになった。
「それでは、お暇いたします」
スサノハンクは、右手を胸に当て軽く会釈しながら、そう言って、退出の挨拶をした。
「御苦労だったな」
「今日は、ゆるりと休むがよい」
二人の老人が、ハンクの挨拶に答えてそう言ったが、二人の目は、スサノハンクに向けられてはいなかった。テーブルを挟んで相対して座った二人の目は、テーブルの上に置かれたボードに釘付けになっていた。




