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異世界大紀行10億年

作者: きーち

■だいたい10億年前


 おや、気が付きましたね。

 はい。あなたは何某かの理由により、命を落とし、この異世界へと転生する事になりました。

 死んでしまった理由は重要ではありません。あなたにとって重要な事は、今、あなたが存在するこの世界においては、漸く、多細胞生物が誕生したばかりだという事です。

 そう、この世界にはまだ人と呼べる存在は誕生していません。まだまだ静かで、落ち着いた世界が、今なお続いているのです。ですが、命がまったく無いわけではありません。

 それが今、あなたが見ている生物なのです。

 あなたの世界においても大凡10億年程前に誕生したこの生物。たった一つの命から、複数の命を持つに至ったこの生物が、いずれは多様性を持ち、そうして世界を覆う生命の輪を作り出す事になる。今はその始まりの瞬間に、あなたは立ち会っているのです。

 この生物の目的は、あなたの世界の生物と変わりありません。ただ生き残ろう。自分を残そうとする方向性。それが今、自分とは違う何かと手を組み、もっと力強く生きようとあがいているのです。

 一方、あなたの世界とは違う部分もあります。単体として生きていたこの生物は、とある特殊な力を持つ生物と一つになる事で、新たな能力の獲得を目指しているのです。

 それはこの世界において、もっと後、ずっと後に、もしかしたら魔力と呼ばれる事になる不可思議な力。その感知する能力を獲得するために、この生物は、これまでも気の遠くなる時間、進化を続けて来たのでしょう。

 ですが、ここからさらに世界の変化を待つには、あまりにも長い年月が必要です。

 ほんの少しのズルになりますが、あなたの時の流れを早め、次の世界の訪れを待つ事にしましょうか。

 



■だいたい5億5000万年前


 起きてください。ほら、聞こえませんか?

 この世界においても母なる海と呼ばれる、大きな大きなその水溜まりが、随分と騒がしくなっているのを。

 いったい、この海で何が起こっているのでしょうか? まだまだ、この世界に人の声は聞こえて来ませんが、いったい、誰が騒いでいるのか。また少しだけ、観察を続けてみましょう。

………

 驚きましたか。小さな小さな命しか無かったはずのこの世界は、何億年という時間を掛けて、あらゆる命の形を生み出すに至ったのです。

 例えばあの、固い殻に包まれた生物を見てみましょうか。

 殻に包まれたとは言え、その隙間から見える柔らかい部分を器用に動かし、海の中を泳ぐあの生物は、いずれ虫と呼ばれる生き物の祖先となるかもしれません。

 一方で、あの生物に追われている、まだまだ小さな、平たいナメクジの様な生き物。弱弱しい姿ですが、殻に包まれた生物よりもっと器用に身体を動かし、海を泳いでいますね。

 もしかしたらあの生き物が生き残る中で、人と呼ばれる種族が生まれて来るのかもしれません。

 ですが、今はただ追われ、食べられてしまうだけの命にしか見えません。いったい、あのご先祖様はどうなってしまうでしょうか。

 おっと! 小さない生き物を追っていた殻の生き物が、海底の砂に隠れていた、もっと大きな殻の生き物に襲われてしまいました。

 そうして、大きな殻の生き物は、口から何かを吐き出すと、小さい方の殻の生き物が動けなくなりました。

 その吐き出した何かこそ、そう、この世界で初めてと言えるかもしれない魔法です。

 この世界に溢れている魔力というものを感知できる力を手に入れた生き物は、その力を、どうやって自分達の力にするかを試行錯誤し続けて来ました。

 どうやら大きな殻の生き物は、自分の口元から、相手を動けなくなる魔法を使える様に進化した様ですね。

 追われている側であった小さなナメクジの様な生き物はその隙に、遥か遠くまで逃げ出します。もしかしたら、速く泳げる様な魔法を使っているのかもしれませんが、何にせよ一安心。どうやら生き延びる事が出来た様です。

 一方、大きな殻の生物は砂の中にまた隠れて行きます。その大きな体は、どうにも泳ぐのが苦手なのかもしれません。

 こうやって海底に潜み、長い長い時間、獲物を待つ。一方、身体を大きく大きくしていき、何時かは水の底に潜み、毒を吐きかける、ワームなどと呼ばれる怪物に至って行く。そんな気もします。

 魔法という力を手に入れた生き物たち。そんな生き物たちは、多様性を増し、そうして力で力を競わせる、そんな世界を作り出したのでしょう。

 ですが、そんな世界はまだこの海の中だけの話。世界が海を越え、遥かな大地へと至るまで、どうやらもう少し時間を待つ必要がありそうです。

 それまで、あなたにはまた眠って貰う事にしましょうか。




■だいたい4億年前


 おや、今日は随分と早く起きたみたいですね。ですが丁度良い事かもしれません。

 ほら、見てください。あの海辺を。はい。あれは魚です。魚が陸に上がろうとしているのです。

 そう。生き物たちは漸く、海以外の世界へその生命の手を広げようとしているところなのです。

 あれが生き物たちの初めての試み……というわけでもありません。ほら、大地の方を見てください。

 すっかり緑に覆われた、その大地を。

 そのすべてが母なる海の中で生まれた命たち。ですが、真っ先に親離れをしたのは、あの緑色の葉を茂らせる植物達でした。

 彼らは素早く動けませんが、長い長い寿命を持ち、そうして、その寿命の中で、どうやら知恵の様なものを得た様なのです。

 ええ、そうです。あなたの世界ではそうではありませんか? ですがこの世界においては、彼らもまた魔力というものを持ちます。

 彼らは魔力という変化の力を、知恵の獲得のために使ったのかもしれませんね。

 もっとも、あなた達の様な、複雑な事を考える思考は無い様です。どちらかと言えば、木々同士、少しだけ単純な会話をする中で、全体としての動きを決める。そんな事を可能にする力こそ、彼らにとっての魔法の力と言えるのでしょう。

 彼らはまず、自分達の動きは鈍い。いつもいつも、他の生き物に食べられる側。なんとか、海以外にも生きる事が出来る場所は無いかなと考え、この大地に根を張る事を選びました。

 それは長い長い時間を必要としましたが、彼らの寿命もまた長く、ゆっくりとしたもので、焦る事も怠ける事も無く、遂にはそれを実現させたのです。

 大地はすっかり、植物達の楽園へと変わります。彼らの中には、彼らの知恵の集積体と言えるかもしれない植物の王の様なものも生まれています。

 あなた方が想像する王とはちょっと違います。彼らの世界が緑の絨毯だとすれば、そこに出来た皺。瘤の様なものを、彼らは王としています。

 王はまるで、そこに本当に知恵があるかの様に振舞える、そんな巨大な木の姿をしていますが、その実、多くの木々の知恵が、偶然、そこに集まっているに過ぎないのです。

 やはり長い時が流れれば、そんな王もまた消え、また違う場所に現れる。そんな姿こそ、この世界における植物の在り方でした。

 ですが、その植物の楽園に闖入者が現れます。

 先ほどの魚でしょうか? いいえ。虫です。海の中で、既に頑丈な殻を手に入れていた彼らもまた、植物に遅れて、大地へと乗り出して行きます。

 大地において彼らは、手足となる節を、身体を飛ばす羽を手に入れ、植物達だけの世界へと入って行きました。

 勿論、彼らにとって主な食事となるのは植物達です。その葉を食べ、樹液を啜る事で、彼らは植物達の楽園を、すっかり豪華な食卓へと変えてしまったのです。

 虫達の多くは、その身の内にある魔法の力を、身体を大きくする事に使い、強く、さらに貪欲になって行きます。

 一方、黙っていられないのは植物達の方です。せっかく敵がいない場所へやってきたのに、ここに来てまた、食べられる側になってしまったのですから。

 だから植物達も、虫達に対抗します。彼らはのんびりとして、動きが鈍い生き物でしたが、植物の王の中から、少しだけ速く動け、少しだけ素早く考えられるモノを生み出して行きます。

 そうして、虫達の捕食対象から逃れられる様に動き回る力を得ました。

 今、この時点では、虫達の侵略から逃げるためのその王達ですが、何時かは、虫達と戦えるだけの力を手に入れられるかもしれません。

 そうなった時、その生き物をあなた方は何と呼ぶのでしょうね。もしかしたら、エルフと呼ばれる種族は、そうやって生まれて来るのかも……。

 さて、そんな植物と虫の戦いの場となったその世界に、漸くその魚は、不器用に大地へ上がって来ました。海の中と同じく、過酷な戦いの世界。

 そんな世界に、陸へ上がって来た魚は、どの様に生きて行くのでしょうか。さらに時間を進めてみましょう。




■だいたい3億年前


 見てください、あの太い四本足で、大地を踏みしめる姿を。

 今日もおはようございます。あなたが見守っていたあの魚ですが、今ではすっかり立派な姿へと変わっています。

 あちらの丘で歩いているあの生き物を、あなたはどんな風に見ますか? 犬とトカゲの合いの子? なるほど。あなたにはあの生き物がそんな風に見えるみたいですね。

 ですが、そんな生き物こそ、以前、一生懸命大地へと上がろうとした魚が行き着いた、一つの形なのです。

 陸に上がり、より呼吸しやすく、より乾燥に強く、より動き易い身体を目指し、進化した結果として、あの様に力強い姿になったのでしょう。

 海で生きて来た魚が、今や陸上の覇者に……は、残念ながらなれていません。

 注意してください。ほら、来ましたよ!

 ………

 驚きましたか? ええ、巨大な虫です。蜘蛛に見えますが、その大きさと来たら、ちょっとした木よりも大きく、のっしのっしと大地を歩いています。

 そう、大地の先達である虫達もまた、魔法の力でより大きく、より強く進化を続けて来たのです。

 このままでは、この世界における蟻という言葉は、大きな生き物を指す言葉になってしまうかもしれませんね。

 ですが、彼らだけが大地の王者ではありません。森へと進む巨大な蜘蛛の前に、森の中から何かが立ち上がります。

 二本の腕と二本の足を持ち、頂点には瘤の様に丸い部分。

 それは人だと、あなたは思いましたね?

 惜しいと言えるかもしれませんし、その通りと言ってしまえるかもしれません。

 ただ、その姿を良く見てください。その皮膚は樹皮の様なものに覆われ、その大きさと来たら、森のどの木々よりも大きく、押し分ける様に巨大蜘蛛に接近すると、その腕を振り下ろして、叩き潰してしまいました。

 巨人です。

 植物達の王が行き着いた一つの形。自分達の食べようとする虫達に対抗した結果、森を守る存在として、遂に巨人が現れたのです。

 その動きは、他の植物達と比べれば遥かに素早く、多様性に富んだ動きをします。彼らは森の警備員の様に動き回り、巨大な虫を見つけると、さっさとその手で潰してしまいます。

 そんな彼らですが、一方で、代わりに、森の一区画ごと、削り取られる事もあるでしょう。大地を這いずる巨大ヤスデ。巨大な蜘蛛よりさらに大きい巨人。それよりも大きなそのヤスデは、巨人ごと森を平らげてしまいました。

 そう、この大地では未だ、植物と虫達の戦いが続いているのです。

 せっかく海から出て来た魚が、漸く大地に適応した姿になったというのに、未だ植物と虫が戦う大地の間で、ほそぼそと暮らしていくしか出来ない彼ら。

 いったい、彼らはどうなってしまうのでしょうか。その答えが出るのは、さらに時間を進める必要がありそうです。

 準備はよろしいですか?




■だいたい2億年前


 今日は空の上でお目覚めですね。

 はい。今、我々は上空1000m程の空にいます。

 大地を見下ろせば、やはり緑の大地が世界に広がっています。

 世界は相変わらずの姿が広がっている。あなたはそう思ったのではないですか? ですがもう少々お待ちを。

 ………

 ほーら来ました。

 凄い羽ばたきでしたね! 見ましたか? あの背中から蝙蝠の様な羽根を生やしたトカゲみたいな生き物を。

 そう、あなたが犬とトカゲの合いの子と表現したあの生き物は、この時代においては、あの様な姿になっていたのです。

 植物の巨人と巨大な虫が戦う世界の、小さな隙間に生きて来た様な生き物が、今では力強く空を羽ばたく、そんな存在へと進化しました。

 その進化はどの様なものだったのか。その答えは魔法の力にこそありました。

 植物と虫がひたすらに魔法の力を、自分達の力強さに変えて行ったのに対して、先ほどの生き物は、魔法の力を、多様性を得るために使ったのです。

 例えば、口から吐く息が熱かったり冷たかったりすれば、より寒かったり熱かったりする環境で生きられたりするでしょう?

 自分の身体を一時的にでも軽く出来れば、身体に対して小さな羽根であったとしても、羽ばたきさえ出来れば、空へと舞い上がれるかもしれません。

 そうやって、植物や虫の脅威から逃げる中で、彼らは何時の間にか、その二者を越える力を手に入れるに至るのです。

 息は時に炎や氷のブレスへとなり、羽根は虫とは比較にならない程に力強く、自由に飛び回れる様になりました。

 そうして、その力が、今まで逃げ回るだけであった植物や虫を圧倒できる様になった時点で、彼らは強靭な身体も手に入れるに至ったのです。

 彼らの事を、こう呼ぶ事も出来るでしょうね。ドラゴンと。

 そう、ここに来て、あの不器用に大地へ上がった魚は、漸く大地の覇者たるドラゴンへと変わったのです。

 いえ、もはや大地だけでは無く空にも海にも、ドラゴンは進出していきます。逃げ回るために手に入れた魔法の力による多様性。

 それは彼らをこの世界へより自らを適応させ、遂には彼らを生物の王者へ至らしめたのです。

 植物の巨人も、巨大な虫も、彼らの敵ではありません。炎により燃やされ、氷により凍てつき、少し傷を与えたとしても、その羽根により空へ飛び回られれば、追い付く事も出来なくなる。

 かつての王者達も、ドラゴンには敵はいませんでした。ドラゴンはこれから、長らく世界を支配する事になるでしょう。

 絶対の王者たるドラゴンはこの時代に生まれ、そうして、生き続ける事になるのです。

 ですが、彼らの支配が、これからもずっと安泰とは……少々言えないかもしれません。




■だいたい1億年前

 ドラゴン達の様子はどうでしょうか? 未だに世界を支配していますか?

 ええ。その通り。未だ彼らの支配は続き、ドラゴン達は過酷であるはずの戦いの世界の、絶対の頂点に君臨し続けています。

 それでも、そろそろその変化に気が付いて来たのではありませんか?

 その通りです。その数が少しずつ、減って来ているのです。

 彼らを獲物にする何かが現れたのでしょうか? いいえ、彼らはまさに生物たちの頂点と言える強靭さを維持していますし、それに抗える存在は未だ姿を現していません。

 彼らが減って来たのは、子ども数が少なくなっているという単純な理由のせいです。

 彼らは元々、多産とは言えませんでした。魔法の力による多様性を、最大限発揮する身体を作るためには、多くの準備期間と餌が必要であり、子どもをそう多く産める生き物では無かったのです。

 彼らの子は卵の形で生まれ、親に守られながら生まれれば、その後も幾らかの養育期間を必要とします。

 それでも、彼らの力強さが子どもを無事に育て上げる事に繋がり、彼らの繁栄へと繋がって行ったのですが、どうにも状況が変わって来た様です。

 孵化するまでの期間と、成体になるまでの期間が、これまでよりも長くなって来ていました。

 それはドラゴンの個体数にも影響を与え、彼らの数は少しずつですが少なくなって行きます。

 この原因はどこにあるのか。

 その正体は、かつて、多細胞生物が感知する機能を必死になって獲得したはずの、魔力にこそありました。

 この時期、明確に、世界における魔力の量と呼べるものが少なくなって行ったのです。

 その量はこの時代の少し前に下降線を辿り、未だ減少傾向にあります。

 魔力に寄り多様性を得ていたはずのドラゴンは、他の生物より魔力への依存も高く、その生態に大きく影響を与えるに至ったのです。

 世界の王者とすらなり得たドラゴンも、世界そのものの変化には対抗出来ませんでした。彼らには強靭な肉体と絶対的な力がある以上、滅びこそしないでしょうが、その個体数をどんどん減じて行き、遂には孤独な王となっていく未来が待っていると思われます。

 そうして、魔力の減少という事態は、世界の環境にも影響を与える事になります。

 この後、長い長い、凍てつく様な冬の時代がやってくるのです。




■だいたい5千万年前


 世界を見てください。一面銀世界。などと表現出来れば良かったのでしょうが、もはや、そんな生易しい世界ではありません。

 魔力の減少に伴い、気温も下がり続けたこの時代。ドラゴンが王者として君臨した時代ですら世界を覆っていた緑の森すらも、この吹雪の世界ではその面積を減らしています。

 生物達はひたすらに寒い環境の中で、その活動が鈍くなっており、かつて生存競争に満たされた賑やかな世界もまた、生物が生まれる前へ戻ろうとしている様でした。

 世界はまた、生物が姿を消し、本来あった静けさだけの世界へ変わってしまうのでしょうか?

 いいえ、違います。凍り付く大地の隙間を見てください。その隙間にしぶとくも生き続ける命の姿を。

 あれはネズミでしょうか? そこにいるのは蛇? 蟻や苔の様なものも見えます。植物の巨人が、巨大な虫が、ドラゴンが争っていた時代と比べれば遥かに小さく、儚い命達が、未だそこに息づいているのです。

 彼らの正体は、魔力の少ない時代に適応した新たな種です。以前の苛烈な時代にあって、魔力への依存が少ないままに進化し続けた種が漸く、この凍てつく時代に至り、主役へと躍り出たのでしょう。

 その中でも、ドラゴンに至る前。多様性を得ながらも、ドラゴン程にはその力を発揮していなかった種類の動物達が、この時代により適応する形になりました。

 それはドラゴンの進化に似ていましたが、ドラゴン程に極端ではありません。

 今よりもう少しだけ、狩りが得意な形態に。今よりもう少しだけ、危機から逃れられる様に、ほんの少しだけ、この時代でも残っている微かな魔力を利用した結果、より多くの種を生み出すに至ったのです。

 そうして、吹雪く世界の中で、それは生まれました。

 ドラゴンの個体数が減じて来た時代に、猿に似た生き物から始まり、凍てつく時代において、微かな魔力をより感知できる様に進化した種。

 それを人と呼びます。

 この世界において人という種はこの時代、少ない魔力を効率的に扱うために生き物が進化を続けた結果、生まれた存在なのです。

 収斂進化と言えば良いのか、生物達はこの時代に、似た様な進化を遂げています。植物の巨人は小さくなり、未だ森に住み続けた個体はエルフと呼ばれる種の祖となりました。一方で吹雪く大地の中において、植物が根を深く張る様に地面を掘り進め、生活空間を作り上げた種類はドワーフの祖となります。

 巨大な虫達は、残念ながら小さくなってしまいましたが、未だその形を保ち続けています。

 世界からは騒がしさが消えません。その騒がしさはそうして、遂に、この冬の時代を乗り切るに至るのです。




■現代


 魔力の減少は、5000万年前をピークとして、再び回復を始めます。追う様にして再び上がり始めた気温の中で、再び植物達は大地を緑に染め上げて行きますが、その速度は緩やかなものでした。

 現代、減じた魔力が全盛期に戻るにはまだ時間が掛るでしょうが、それでも、冬の時代を乗り切った生き物達は隆盛を取り戻しつつあります。

 一方、ドラゴンや巨大な虫、植物の巨人達はその勢力が衰退したままと言えます。この時代、新たな主役が、この世界を満たす魔力を支配し始めたからです。

 この時代において、主役となるのは人。

 より効率的に魔力を、魔法の力を扱える様になった彼らは、文明というものを築き上げたのです。

 進化の中で獲得した、新しい知恵は、それぞれの種族と語り合い、時に争い、時に手を組む中で、その力を増して行きます。

 この時代、騒がしさは言葉を伴うものとなりました。

 自らの内にある意思を、言葉として発し、文字として残し、次の世代の発展へと繋げて行く。

 彼らの繁栄は、もしかしたら5000万年前から約束されたものだったのかもしれません。

 しかし、彼らの繁栄が何時まで続くのか、それは分かりません。それぞれの時代に、それぞれの王者が居た様に、また次の時代には、別の主役が来る可能性もあるのですから。




 ようこそ、異世界10億年の大紀行の、その果てへ。

 未だこの世界は変化を続け、その道は続いています。あなたはこの世界に降り立ち、変化し続ける世界を見つめるのか、それとも、新たな変化をもたらす事になるのか。

 今、それはあなたの手に、握られているのです。

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