9:10:34 アグレス教会前にて
「肝心の魔帝は常にこのsilver duck towerの頂上にいる。だから……」
「ミソシタニィ・todayのスタジオか、ヴィヴィドリーの生産工場を襲って、ヤツをおびき出すってことだな」
兄の考えていることはなんとなくわかる。
「exactly、今日は偉く冴えてるじゃないか。弟よ」
兄は感心する。
「やだなー、その言い方じゃ、いつも俺が冴えてないみたいじゃないですか」
匡が兄弟団らんを見飽きたのか。
「で、どっちからやるんですか」
眉ひとつ動かさずに言う。
「うむ、そのことだが……」
兄がパソコンをいじる。
プレゼンテーションにスケジュールっぽいものが表示された。
木曜日の10時アグレス教会集合、12時ヴィヴィドリー生産工場着、2時「魔法の粉」製造ライン着、4時解散 ちなみに制服着用――
ずいぶんおおざっぱだなー。
と思いつつ、当日その通りの行動をしていた。
遅い!
時計の針はすでに0時から315度傾いている。
なのになぜ誰も来ない。
「おかしいな……」
俺は携帯電話を取りだしメールを確認した。
自前に全員のメールアドレスをお互いに公開したため連絡が容易になった。
するとやっぱり――
「急遽予定変更、集合時間を1時間繰り下げて、11時とする」
From真壁慎二 更新 2時間前。
2時間前かよ!?
連絡遅すぎだろ。
あと30分もここで待つのか……
俺はため息をついた。
教会の前のカフェで、3杯目のカプチーノを飲み干す。
「お兄さん、ここ座っていいかな?」
どこからか、声がした。
俺は360度見回したが、声をかけてきたようなヤツはいなかった。
「ここだよ」
制服の裾を軽く引っ張っているそれを見つけるのに、0.5秒とかからなかった。
だいたい9歳くらいの、ブランドの髪と、青い眼をしたたれ目の、西洋人っぽい外見の子どもだった。
その子は俺と同席し、向かい合う。
困惑
「ええと、君のお父さんお母さんはどこかな?」
とりあえず、そう話しかけてみた。
若干うっとうしいと思っていた。
俺の心境を悟ったのか、その子の表情が暗くなる。
「いないよ」
ぼそっとつぶやく。
「え?」
一拍開けて――
「ぼくにはお父さんもお母さんもいない」
俺はその言葉を聞いた時、「しまった」と思った。
こんな小さな子にそんなことを言うのはまずかった。
と同時に俺と同じ境遇だけに同情が芽生えてくる。
「ところでお兄さん」
「ん?なんだい」
俺はなるべく優しく接する。
「アセロラジュース」
おれの脳は一回転したが、なぜこの子がアセロラジュースと言ったのか理解不能だった。
「アセロラジュース、いいかな。僕、喉が渇いてるんだ」
やっと意味が理解できた。
俺は親切に許可の言葉を言おうとしたが、その間にその子はアセロラジュースをウェイターに頼んでいる。
俺の堪忍袋に、あたかもピシッと音がしたような気がした。
だがこの子を責めることは出来ないし、責める気もしない。
「ところでボウヤ、名前はなんて言うんだい」
先ほどのウェイターが、ジュースを持ってくる。
「僕はフィル、フィルフレッドだよ。お兄さん」
フィルは美味しそうにアセロラジュースを飲んだ。
10秒と立たないうちに、飲み干した。
「おかわり!」
俺はウェイターを呼び止め、アセロラジュースを注文する。
ついでにカプチーノのおかわりもオーダーした。
「ところでお兄さん、考えたことはあるかな」
それぞれのおかわりがテーブルに並べられる。
「天国と地獄は本当にあるのかな」
子供らしかぬ話題――
「まあ、あるんじゃないかな」
俺は少し考えたが、適当に答えることにした。
するとフィルはしたたかな口調で話す。
「僕はあるとは思わない。だって神様は人を愛すことは出来ても、自分を愛することは出来ないから、心の中はひとりぼっちで空っぽなんだ。きっと悪魔の頂点に立つ者も、とてもとても孤独なんだ……」
フィルのブルーの瞳はどこか寂しそうだった。
おれはカプチーノに角砂糖を4個ほど入れて、スプーンでかき回しながら聞いていた。
「だからそんなものは要らない。神も悪魔も人もみんな公平に仲良くすればいいんだ」
「そうすればみんなハッピーになれる……はずなんだ……」
彼の言葉は明るい、けどどこか切ない。
昔は俺もそんな存在を信じてはいなかったが、最近は悪魔絡みのことにつきあわされているため、フィルフレッドの話がどうも現実味を帯びて聞こえる。
カプチーノをすする。
まだ熱が残っておりしたを軽くやけどする。
「ねぇ、お兄さん。今度は循環型社会と食物連鎖について話そう」
明るい声で重そうな話題を切り出してくる。
おいおい、天国と地獄の次は循環型社会と食物連鎖って、一体どうゆう方向転換の仕方だ。
と思いつつ、俺はカプチーノをフーフーと冷ましながら言った。
「一定のサイクルを持った社会と、食べる食べられのバランスのことだろ」
この間社会科で習った環境問題にそんな話題があったことを思い出した。
「うん、そうだね。でも僕の言いたいのは、そのサイクルの中での人間の末路のことなんだ」
フィルには落ち着いた物腰で物事を考える能力がある。
それは外見上の歳と不相当なくらいだった。
フィルは空になったグラスの縁を指でなぞりながら、続ける。
「例えば、この街の人達を見てみてよ」
フィルフレッドがその場にいる全員を、包むように小さい両手を広げる。
カプチーノを一口、苦い――
だが思いっきり飲み込む。
「彼らはエサなんだ。ぜーんぶ悪魔のエサ」
ブーッ!
俺は思わず吹き出してしまった。
何を言い出すかと思えば、この子は……。
俺は一瞬警戒したが、フィルは続ける。
「彼らがその正体を疑わずに飲んでいるあのジュースだって悪魔の毒だ。それで人々を洗脳し、肥やし、喰う」
俺は立ち上がった。
この少年が危険だと判断したからだ。
全ての注目が集まる。
だが周囲の人々の目には、闇がこもって、顔が怪物のように歪んでいた。
それに俺は嫌悪感を憶えた。
「そんな『一般人』と歩調を合わせられない『異端者』がいたなら、監視カメラ、衛星、果ては『一般人』によって見つけ出され、処理される。そしてTVによって人々は我々の言う通りに動く」
俺は身構えていた。
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