8:大雑把な計画
山小屋に着いた時点で、先客は2人、圭と匡――
俺たちはソファーに座った。
兄は新たな来訪者を見て――
「よし、揃ったな。では話を始めようか」
「あーと、待った!」
美雪さんがこれでもかとばかり、ぴょんぴょん跳ねて手を挙げる。
「ひとつ提案がアリマース」
「なんだ」
このハイテンション娘を普通に受け流してるとか、知り合いかよ、兄さん。
「あたし、自己紹介した方がいいと思いマース」
そういえばまだ彼女について、何も知らない。
「なんだ、まだやってなかったのか。まあいい」
「じゃあ、マズあたしから……あたしは慎二君の協力者兼学生ってトコかな。武器はこれ、風神を込めた小山筒と古の風の剣ナーテ。ちなみに言うけど、あたしは辺獄に行けるって言う特種性質だけで、普通の人間だからね」
ようやく明かされた。
俺は彼女がどんな子なのかずっと知りたがっていた。
「次は僕でしょうか」
匡が立ち上がる。
「僕は、僕等はあなた方のご存じの通り、血族です。一四年前、母によって人間界に降りてくる時に、ちょっとしたトラブルで猛の肉体のみが、置き去りとなり彼の精神が僕と融合したことで、いわゆる多重人格になっています。猛はエリクスの制御を担当しています。僕も武器は持っています」
と制服のどこにかくしていたのやら、ごっつい大型リボルバーを取り出し、テーブルに置いた。
「これが僕の愛銃レッドクイーンです」
匡の顔は至ってきまじめ、そのままソファーに座り込む。
「あ、私安東圭と言います。えーとその、何の力もないけれどよろしくお願いします!」
圭はもじもじしながらお辞儀した。
続いて俺も自己紹介した。
俺は冷蔵庫から、人気ドリンクとして有名で俺も飲んでみようかなと以前から思っていた「ヴィヴィドリー」を見つけ、取り出し、席に着く。
「これで全員紹介したな。ではプランの内容を説明しよう」
兄は部屋を暗くし、液晶テレビに自分のプランのプレゼンを公表した。
「Silver duck tower……この街の金融全てを牛耳る大銀行だ。ここのCEOが誰だか知ってるか?」
誰も口を開かない。
画面にこの街のシンボル的存在で、市民で知らない者は誰もいない。
そのCEOがどうしたっていうのだ?
兄が先に進める。
「フィルフレッド・ダグラス。魔帝が人間界で使っている名だ」
名前までは知らなかった。
ん?
これが魔帝……?
この40代半ばのいかにもカリスマって感じのおっさんが、魔帝だって言うのか。
「そしてヤツはこの街を人間を悪魔の餌食に変える工場にする巨大なシステムを作り出した。その人間を管理する手段のひとつがこれだ」
と言って急にテレビを付けた。
4Channelでちょうどミソシタニィ・todayがやっている最中だった。
「えー、今日未明にまた味噌司谷高校でテロが起こりました―」
ジム・クレマンソーだ。
このキャスターは好きだ。
その持ち前の毒舌と鋭い切り口がとても人気だ。
「学校を狙うとは、全くテロリストとは、何とも卑劣な連中でしょう。この前もこの学校で、不自然な崩壊が起きましたが―」
ヘリからの上空中継が映る。
「これ私達の学校だよね。悠君」
圭が話しかけてきた。
確かにあの半壊した校舎はあの学校以外あり得ない。
「そしてこれらの一連の事件も全て、テロリストのものによると、判明されました。さて、そのテロリストですが――」
指名手配犯の顔写真が映し出された。
その瞬間俺はギョっとして立ち上がった。
真壁慎二という見覚えのある漢字4文字と、見覚えのある顔――
これ、兄貴じゃないか。
「兄さんが……テロリスト……」
いつの間にそんなことに――
「そう、これが連中の情報操作さ。人間に悪質なプロパガンダを植え付け、管理している」
兄はテレビを消し、再びプレゼンテーションを表示した。
「そして、人間もこうかつな手口で悪魔のエサになっている」
「例えば?」
おれはヴィヴィドリーを一口の飲む。
兄はふっと笑い、俺の持っているヴィヴィドリーの120ml缶を指さした。
「その全国No1ドリンクジュース『ヴィヴィドリー』。それ、悪魔の毒だ」
ブッー――
吹き出した。
だって今飲んだものが実は毒だったなんて知ったら、誰でも吹き出すだろう。
「て、てことは俺……」
毒に犯されているのか。
場が静まりかえった。
背筋が凍り付く。
みんな涙を耐えている顔になっている。
そして突如――
爆笑――
と同時に俺は混乱した。
「!?」
兄は腹を抱え、話すのがやっとという風情だった。
「大丈夫、それは人間にしか効果がない」
一周回って、意味を理解して笑う。
「やだなー、それを先に言ってくれよ。兄さん」
俺はこの変化に馴染んでいた。
新たな仲間、新たな目的、今それに新鮮みを感じている。
それは今まで考えたことの無かったような、感覚だった。
ただ唯一気がかりなのは、圭のみがその輪に加われなく、一人無言で寂しそうにしていたことだった。
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