6:三匹の子豚
なんてことだ。
俺の捜していた人物が、同じクラスでしかもあちらから声をかけてくるとは――
ものすごいラッキッキーなシチュエーションなんだけど受け止めがたい。
とりあえず何と言おう。
①そ、そうなんだ。
へえ~。
②マジで、スゲー偶然。
③俺や兄貴と一緒に魔帝を倒そう!
どれもだめだ!
話を切り出せずに困っている。
長い沈黙――
よし言うこと決めた。
「あ、あのさ……」
「おかしい」
なんてバットタイミング、ていうか何がおかしいんだ。
「さっきから10分間も待たされているのに、いまだに待たされている。しかも廊下に誰も人が通らない」
匡が当たりをきょろきょろし始める。
「のどこがおかしいんだ?」
すると匡が呆れた表情で――
「アホか。気付よ。フツーにさ」
「だからなにをだよ」
ちょっとむかついた。
「この前もお前この学校で、辺獄におとされただろう。そしてその後、校舎が半壊したにも関わらず学校再開。そしてここにこうして魔王の血族が2人集められている」
つまりこれはワナなんだよ。
とつけくわえた。
「おお、そうか」
「ということは俺たち、超有名人ってことか」
「そうだ。わかってくれたか…………(^_^)√☆ (^ ^; ナンデヤネン!?」
どこにかくしていたのやらハリセンで叩かれた。
その漫才の最中、ぞくっと来た。
まさか俺もボケとして覚醒したのか。
いやちがう。
この感覚は……。
「また辺獄かよ」
舌打ち――
「遅かったか。とにかく脱出するぞ!」
走り出した矢先、壁にSTOPという文字が浮かび上がった。
前に盾と剣を構えた、骸骨に肉のついたような奴2体とスティンジア3体が立ちふさがった。
「デスナイトか。準備がいいな」
デスナイトっていうんだ、あいつら。
「仕方がない、僕は争いなんて手荒なコトするガラじゃないからな」
といって匡は眼鏡を外す。
「出番だぞ。猛!」
「おうよ、任せろ匡!」
そいつは1人で2人と話していた。
そしてみるみるうちに、豹変していく。
漆黒の黒髪から、燃えさかるような赤髪へ――
冷静沈着な頭脳派から、好戦的な熱血漢へと――
印象が大きく異なる。
そして拳はめらめらと悪魔の力で燃えていた。
「エリクス!」
つぶやいた。
「おうよ、これが俺の、俺たちの力……エリクスだ」
デスナイトもこちらの動向に気づいたらしく。
盾を構えながら近づいていく。
猛(または匡)は肩をならす仕草をする。
「久しぶりに一丁派手にいくか」
そして猛は一瞬身をひいて、拳に力を貯め込み、思い切り相手に右フックを加える。
いかに強固な盾で護られているデスナイトでも、今の一撃で完全に体勢を崩した。
もう彼のペースだ。
殴る、ひたすら殴る。
その強烈なパンチで相手を圧倒していた。
しかし、がら空きになった後ろをもう1体のデスナイトが、襲う。
させるか――
俺はリベレイダーを抜いた。
これが辺獄の中でなら、いつでも出せるのだと、昨日までは知らなかった。
斬る……と思ったがデスナイトが瞬時に盾で防御した。
堅い!
その後も攻撃するがそれもむなしく盾に傷のひとつも付けられず、
ただ反動が帰かえってくるだけだった。
デスナイトがせせら笑う。
その間にも「邪魔だどけよ!」と猛がストレートを決める。
「くそ、俺のリベレイダーじゃ力不足だっていうのか!」
「ちがう、お前にも悪魔の血が宿っているはずだ」
!?
「どういうことだ」
リベレイダーを振り回しながら、尋ねる。
「『求めよ、さらば与えられん』ってこととだよ」
猛も悪魔を殴りながら、答える。
俺はその言葉を信じて、自分の胸に問いかける。
明石悠太――
お前の欲しているものはなんだ?
誰かが問いかける。
俺が、俺が欲しいのは力だ。
仇を討つための力を……
いいや、違う。
お前に必要なのは、大切なものを護る力だよ。
大切なもの……それは……。
言いかけたところで、意識が戻る。
そして俺は自分の中の何かが変わっていることを悟った。
リベレイダーが別のものになるのを感じた。
父親譲りの悪魔の力によって、それは異形の大斧、アービターへと変貌した。
「おそかったな、いつまで自分と向き合ってたんだ」
やれる。
今の俺なら――
向かい側から、炎をまとったナイト、ヘルナイトが現れた。
DIEと浮かび上がった。
「またやっかいなのが出てきちまった」
「おれがやる!」
新しい力を使う。
俺はアービターを持ち上げ、振り下ろす。
ヘルナイトの盾はこの粉々に砕け散った。
俺はそのまま重力に任せてアベンジャーを振り回した。
ヘルナイトは膝を突き剣を立てて膝まずいているのが精一杯となった。
俺は死刑執行人のごとくアベンジャーを振り上げ、降ろす。
「さて、片付いたことだし、俺もう帰るわ」
と猛。
「待てよ、まだ北校舎に圭がいるんだ。おれはあいつを助けなきゃ」
「好きにしろ」
と言ってメガネをかける。
おっとそうだ。
「おい、土井山の山小屋にいけよ。忘れるなよ」
危うく言い忘れるところだった。
「……」
無言、大丈夫か、伝わったのか?
それより今は、圭を助けなくては……。
俺は階段を駆ける。
そのころ学校から数キロほど離れたSilver duck towerの屋上、社長室から見つめる視線があった。
「ああ、市長さん、ご無沙汰してますか?」
9歳ほどの子どもだった。
髪がブランドで青い眼(しかもタレ目)をしていかにも西洋人という容装だった。
「そのことならもういいんだよ、市長さん。彼らは見つけました。今までご苦労さまでした」
今、携帯電話で話をしているこの子どもがシルバーダック銀行のCEOフィルフレッド・ダグラスだと知っている人は、どれほどいるだろう。
そしてこの若社長が魔帝だと知っている人間は、数えるほどしかいない。
「でも、アナタは無能すぎる。あなたがこの3ヶ月捜してやっと分かったのが味噌司谷高校の学生と言う情報だけと言う事実は、あなたの管理能力と我々への忠誠心の欠如をあらわにしました」
おっとりと落ち着いた、声変わりのしていない子どもの声で話す。
「と言うわけで、アナタはクビです。もっと有用な者をあなたの後釜として用意します」
しかし話していることが物騒なのに変わりはない。
「今更泣きついたって無駄です。恨むなら才無き己をうらんで下さい。そもそもあなたは、そんなこと言える立場じゃありませんけどね」
電話越しにかすかな怒りの声が漏れる。
「マスコミに訴える?ふーん、いいんだ。我々に逆らって、後悔しても知らないよ。みんなから軽蔑の目で見られて、罵声を浴びせられて、つばを吐かれるような立場になるのが、好みかな。それとも地獄で死ぬよりむごい仕打ちにされるのがいい?」
その大人しそうな子どもの容装とは裏腹に、何ともサディスティックな言道だった。
「わかったら、潔く『辞任します』って言ってください。そしたら我々もあなたもみんなハッピーです。バイバイ、『市長さん』」
電話を切った。
フィルは社長席にくつろいだ。
「さあ、見つけたよ。魔王の子孫。僕はただここでどうやって君たちを、面白おかしく殺せるか考えてるだけで、ワクワクしてくるんだ」
君が戦いを求めていなかろうが関係はない。
なぜなら、戦いが君を求めているからだ――
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