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2:綻びの記憶

 俺の兄貴は、七年前に自殺したはずだ。

 

 俺の家族は良く思い出せない。

 俺が2歳の頃、ある事件に巻き込まれて死んだと言うことしか、知らない。

 

 俺は瞬間的に、記憶の断片がよみがえっていくのを感じた。

 

「悠君、悠君!」


 俺はその呼び声でハッとした。

 

「大丈夫?」


 圭が心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。

 

「俺は大丈夫だ。圭も大丈夫か」

「うん、平気だよ。でもまだあの変なのが出てきてるけど……」


 圭は指を指した。

 また性懲りもなく、例の奴らは現れているようだった。

 しかし今度は、若干色が違う刃をもったのが現れた。

 

 壁に文字が浮かび上がった。


 KILL THEM ALL――


「スティンジア共か。今はお前達に構っている暇はない!」


 男は少し焦った様子だった。


「着いてこい、離れないようにしろ。状況がわからずに混乱しているかも知れないが、詳しい説明は後にしてくれ」


 と言って彼は刀で空間に大きく円を描いた。

 するとその円のなかには元いた味噌司谷の町並みが映し出された。

 男はその中に入っていき、こちらに手を出した。

 

「さ、早く入れ」


 よくわからないが言われた通りに、中に入った。


 戻ってきた。

 おれは腕時計の針を見た。

 そして駅の時計塔と照らし合わせた。

 明らかにずれが生じていた。

 

「戻ってきたんだ。私達」

「そうみたいだ、けど……」


 こんな目にアワされて疑問がないはずがない。

 

 おれは抱いていた疑問を順繰りに質問する準備は出来ていた。

 

「聞きたいことが山積みという顔をしているな。けど、もっと落ち着いたトコで話そう。着いてきてくれ」


 と喉の奥に詰まったたくさんの議題を言う間もなく、ただ大人しくついて行くことにした。

 

 ソレもつかの間だと思ったが、街の外れドコロか、いつの間にか郊外の土井山まで、歩いていた。

 

 もう耐えきれない。

 

「一体アレはなんなんだ。そしてあんたは何者で、俺が何なんだか全て知りたい」


 だが男は答えをはぐらかすように決まって。


「まあ、待て」

「着けばわかる」


 と応えるだけだった。

 

 そしてそのまま10分、山道を歩いて、ようやく1軒の山小屋が見えてきた。

 一同は山小屋に入った。

 

「さて、何から説明しようか」


 ようやく、応える体勢になったようだ。

 

「おれは真壁慎二。いや、お前と同じ魔王Bの血族だ」


 魔王の血族?


「ちょっと待ってくれ。よくわからない」

「すまないな、弟よ。おれは説明するのが苦手なんだ。まず、説明しよう。ここ味噌司谷では一四年前ある実験が行われていた」


 まてよ、一四年前と言えば――


「一四年前!?俺の家族が死んだ年……」

「そう、お前の本当の両親は死んだんだ。あの事件でな」


 なにか関係があるのか?


「偶然ではない。お前の父は魔王でお前の母はかつてお前の父を倒しに来た勇者だ。だが2人は禁断のLOVEに……(中略)。で、なんだかんだで女にうつつを抜かしていた魔王は9000年の眠りから目覚めた魔帝ムンドゥスによって殺されてしまったのだ。しかし彼の子ども達、つまり俺とお前……。俺たち……兄弟の絆というのは大切にしなければ。……とそれからもう2人が魔界から人間界へと瀕死の母の空間転送によって連れ出された」


 もう2人ほどいたのかよ。

 先に言え!


「え、ってことは……」

「そう、お前は人間をではないんだよ。魔王と人間の血を持っているんだ」

「いや、そうじゃなくって……経緯とか。何で自殺したはずの兄さんがここにいるのかなとか……」


 さっきから説明の手順がぐっちゃぐちゃでよくわからない。

 

「ああ、そうゆうことか。そうか、俺は自殺したことになっているのか……」

「ねえ、どうゆうこと。悠君のお兄さんは七年前に死んだって私も聞いたよ」


 圭はあたふたしている。

 

「おれは跡継ぎのいなかった真壁家の養子となり、そこで真壁流剣術をたたき込まれた。そして俺はある日、自分が何であるかを思い出した。そして魔術などをこの刀『へし切れ長谷部』に込めた結果、邪道として道場を追放された」


 兄は自分の愛刀を挙げる。

 

「ええと、それがどう関係するんだ」


 さっぱりちんぷんかんぷん。


「まあ聞け。そして七年前、親の仇である魔帝に復讐するために、魔帝の軍門に下った。その際に魔界に降りたため、自殺扱いになったんだろうな」

「へえー、じゃあ今でも魔帝の配下なの?」

「いや、ちがう。魔帝が成長したお前を恐れて、真実を知る前に殺そうとした。そのとき俺は猛反対したもんだから、素性がバレて危うく殺されかけた。そして窮地のお前を見つけて、助けた」


とまあ、そんな感じだ。

 と付け加える。

 

 さすが兄貴、離ればなれに暮らしていたから、あまり知らないけれど、いい人なんだな。

 

 おっと、そうだ。

 まだ聞きたいことはあるんだ。

 

「あいつ等は一体なんだ。それからあの世界は一体……」

「あの空間のことは、我々は辺獄と呼んでいる。魔界と人間界の狭間の空間とも言うべきだ。一四年前の実験で、作り出された亀裂なんだ、あれは。魔帝によって意図的に落とされることがある。そしてお前達を襲ったアレは、魔帝の軍勢、俗に言う悪魔だ。とは言っても辺獄の中でしか動けないから安心しろ」

「でも、またあそこに落とされて、襲われるの、怖いよ」


 圭がぶるぶると身震いしている。

 よほどトラウマになったらしい。

 

「大丈夫、その時は俺が圭を護るよ」


 俺は圭を安心させようとした。

 せめて幼なじみだけでも護りたかった。

 

「悠君……」


 圭が照れる。

 俺も内心、すごい照れてる。

 仮にも兄だが、人前でこんなことを言うのは、なんというか……

 嘲笑――


「護る?今のお前にか?無理だな。今のお前はあまりに非力だ。雑魚一匹にすら、抵抗できずに、身を寄せ合うだけだな」


 兄にこんなバカにされたのはおそらくこれが初めてだろう。

 

 確かにその通りだ。

 俺はあまりに無力だ。

 なにもできやしない。

 

「そんな落ち込むなよ。これから強くなればいいんだ。お前は十分強力な力を宿している。あとはその使い方と、その強さに見合った武器を手に入れれば良いだけのことだ」


 俺の……力?

 だからおれが、お前に残された親の遺品をお前のために用意してやったんだ」


 そういって兄は、地下室へと歩き出す。

 

「遺品……」


 俺も自然と着いてきた。

 

「そうだ、親の形見だよ」


 地下室にあったのは、浮世絵離れした異形の大剣と奇妙な形をした二丁の拳銃だった。

 

 この世界は本当は理不尽なルールが幅を利かせている。

 ただ俺たちがそれに気づかないだけだ――

 と刻まれている。

 

「これがかつて魔王が使っていたという、魔剣リベレイダーと銃アトラス&クラトシスだ。

 これをお前に託すと、遺書の中にあった」


 恐る恐る歩き出す。

 これが俺の力――

 剣に触れる。

 どこか懐かしい感触――


「!!」


 剣を握った瞬間、俺の身体中に何かが巡る感じがした。

 そしてそれは激しい苦痛に取って代わった。

 

「うおおぉぉ!!」


 全身に巡る何か熱いもの、俺の脳裏にとても懐かしい、古めかしい記憶が甦る。

 

 ひどい少年時代、孤独だった俺に接してくれた圭。

 

 さらに遡って、母と父と兄とそして俺、幸せな団らん。

 

 でもある日突然崩壊が訪れた。

 あいつだ。

 俺は知っているぞ。


 魔帝A、そうだアイツが、父を八つ裂きし、俺の目の前で、母の心臓をくりぬいて見せた。

 笑っていた。

 許せない!!

 堪えがたい怒りが身体中からこみ上げて来るのを感じた。

 

 そこで意識が戻った。

 

「どうだった?」

「はあ、はあ、許せない。あの野郎だけはこの手で殺す!!」


 その言葉に確かな憤怒が感じ取れた。

 俺が豹変しているのを見て、圭はびくっとしている。

 兄はにやりとして――


「その意気込みが大切だ。いいか、俺たちはアイツを倒すために、俺たち兄弟で戦う。そして俺のプランに協力してくれ」

「なんだってやるさ。アイツに復讐するためなら!」


 殺す。

 ただそれだけしか頭になかった。

 

「では計画その一。『俺がお前の手合わせしてやるから、剣の腕を磨け』だな」


 兄としてはなかなかユーモラスなジョークだったらしい。

 だが――


「!?」


 ふざけているのか。

 コイツは――


「まあ、落ち着け。焦りすぎても何もいいことはない。故にお前の腕を磨くことから始める」

「望むところだ!」


 それからというモノ、おれは放課後は常に例の山小屋の道場に行き、兄と手合わせしていた。


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