16:圭
突然声をかけられて圭がビックリする。
「あ、悠君。体……よくなったんだ」
なぜか元気がない。
「ああ、美雪のおかげでばっちりな」
「!」
圭は何か気がかりなものを感じた様な顔をした。
「どうしたんだ?」
「あ、ううん、何でもないの」
圭は洗面台で一人顔を洗っていた。
蛇口からは水が出しっぱなしで、水たまりが出来ていた。
大丈夫。
あれはそうゆうことじゃない。
そう自分に言い聞かせる。
「だって私は悠君を信じてるもん……悠君はそんなことしない」
圭は居間に足を踏み入れる。
俺と兄と美雪で楽しく団らんしていた。
「それで俺はラクだから落馬しちまったんだ!」
「兄さん~またつまらない冗談を言わないでくださいよ」
「おいおい、おれにユーモアが皆無っていうのか。それなら他のも言って……(以下略)」
「いいじゃないの。一周回って面白かったよ」
美雪さんと悠君があんなに楽しそうに、親しそうに、笑っている。
美雪がお茶のおかわりを取ってこようと、立ち上がる。
だがフラッと倒れかける、それを俺が受け止める。
「大丈夫か、美雪」
「ゴメン、立ちくらみがひどくてね。あたしは兵器だよ。悠太」
圭はその場を走り去る。
その目にはひとしずくの涙がこぼれた。
「圭! どうしたんだ。圭!」
俺は圭の後を追う。
「圭……」
美雪が神妙な顔にになった。
「何かあったのか? あの二人」
兄が問う。
短い沈黙――
兄は仕方がないのでニュースを付けた。
くそっ、見失ったか!
俺は駆けていた。
匡とすれ違ったが――
「おい、匡! 圭を見かけなかったか」
「圭さん……なら学校の方向に行きましたよ。全く鞄も持たずに登校とは……」
「……わかった、ありがとう、匡!」
俺は猛ダッシュで学校へ駆ける。
道中他の生徒から、不快な視線を感じた。
が今はそんなことは関係ない。
俺は圭に会わなくては……。
さらに違和感――
「やだぁ、アイツってさ。……だよね」
「おい、アイツってさ。……じゃね。ほら昨日TVで……」
やけに「テロリスト」という単語が多用されている。
何だ、俺のことか?
俺ってそんな有名人でもないと思うのだが……。
だが人々の目は明らかに軽蔑の目だった。
集団社会において集団に融け込むことの出来ない人間に初めて送られるものだ。
それは底辺を這うゴキブリを見るようなまなざしだった。
俺は不安を覚えた。
何かわからない不安……だが俺はそれを振り払い、駆ける。
学校に着いた。
そこでも軽蔑の目と、ひそひそ声が絶えなかった。
「圭は……圭が行きそうなところ……」
そうだ、一つあるじゃないか!
俺は直観的にそこだとわかった。
そして向かった先は
屋上では圭が待っていた。
「圭、どうしたんだよ?」
何も言わない。
風がサーとながれる。
「話してくれ、俺が何かしたのか?」
俺は圭の手をつかむ。
「『美雪』って……」
ボソッとつぶやく。
「悠君、美雪さんのこと美雪って呼んでた」
それがどうかしたのか?
「美雪さんも悠君のこと悠って……」
「何言ってるんだよ」
互いを名前で呼び合っちゃ行けないっていうのか。
「おかしいよ! 美雪さんって呼んでたもん。悠太君って呼んでたもん」
「……昨日までは……」
俺は彼女の……圭の悩んでいることをわかってやれなかった。
その輪郭すら掴めていない。
「今朝から……違う……」
「おい、圭、しっかりしろよ! 何訳のわからないこと行ってるんだよ!」
「だってみたんだもん!」
見た?見たってまさか……。
今朝、俺と美雪が端から見れば誤解されるであろうあれやこれ……。
そうか、そういうことだったのか!
「違う、それは誤解だって……勘違いだよ。俺と美雪がそんなことするはずないだろう!」
声を張り上げて言う。
逆に怪しまれたか。
だがそれは誤解だ。
俺は必死に弁解する。
「また、『美雪』って言った」
くっ、なんでこうなる。
「圭、俺を信じられないのか?」
圭が俺の胸先に抱きつく。
そして小さく一歩離れて、目を瞑り唇を差し出すポーズ……
俺は圭が俺に好意を抱いているのだと、初めてわかった。
いつも気遣っててくれるのもそう。
俺と毎日一緒にいるのもそう。
すべては彼女が純粋に俺に恋しているからだったのだ。
その気持ちは嬉しい。
けど――
「ごめん……こんな気持ちじゃ出来ないよ…………俺は……」
圭は大きくショックを受けた顔。
しまった!
圭が走り去っていく。
「圭!」
俺もそれを追おうとした直後。
違和感――
この感覚……まさか――
気づいた時には空は真っ赤で、俺はまた辺獄に落とされていた。
「くそっ、ナイスタイミングだな、畜生!」
軽く皮肉を言った。
ベーソスやペーソスが浮遊しながらやってきた。
「望むところだ! かかってこい!」
俺は……そうだ……あのとき言いかけたのは――
「俺は……こんな血濡れた手で、何もかもが終わっていないまま、こんなことをしたくはないんだ」
俺は飛んだバカだ。
女の子一人を喜ばすことも出来ずに……。
だが体は勝手に動いてしまう。
いつの間にかあの引きつった顔で、悪魔を殺していた。
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