11:指名手配
タイラントに正面切って飛びかかる。
だが刃はタイラントの腹を貫くどころか、かすり傷ひとつ付けられなかった。
ちっ、なんだよ!
「ぐははは、見たか!これが我が絶対のヨロイ、三段腹だ!」
タイラントは自分の腹を自慢げに豪語する。
俺はふと気づいた。
三段腹?そうか、ということは……
タイラントは勢いに身を任せ突っ込んでくる。
おれはそれを軽く躱した。
だがタイラントはそのまま、直進して教会の壁を突き破った。
タイラントはかなり疲れたようで、よろめいている。
可能性は高いが試すしかない。
俺はリベレイダーを変形させ、エンジェルプルなる鞭に変え、それでタイラントの背後をつかむ。
手から力を抜き、俺の体はタイラントに吸い寄せられるように、急接近する。
そして今度は引っ張る。
タイラントは見事に体勢を崩して、倒れる。
その重い体のせいで、なかなか起き上がれないでいる。
俺は倒れた巨大な肉塊の背中をリベレイダーで2回、つなげてアベンジャーのトリニティスマッシュで砕く。
「自分の体重で潰れてろ!」
タイラントの弱点は背中にあるであろうことは大方想像がついていた。
タイラントは起き上がって――
「くっ、この屈辱忘れないぞ!」
と軽く負け惜しみを言ってから、タイラントはその巨体で逃げていった。
俺はそれを追う気はなかった。
と言うより追うことが出来なかった。
なぜなら、教会の床がいきなり割れたからだ。
「悠君!」
大きな窓ガラスの向こうから、圭の声が聞こえた。
「圭!? そこにいるのか」
床に文字が大きく出てきた。
NO ESCAPE――
「悠君! 走って!」
「今やってる!」
ヒビは大きくなっていき、二段ジャンプでも飛び越せないくらい幅が開いていた。
くそっ、どうすれば……。
おれは頭の中で約23通りの今の状況を打開するヒントとなるものを記憶の中から見つけた。
そのうちのひとつがまさに、最もぴったりな解決方法だった。
俺は思い出した通りに、二段ジャンプしてエンジェルブーストで滑空する。
その容量でどんどんヒビ(と言うよりも溝)を通り越していく。
そして最後、エンジェルプルで教会の奥の光溢れる窓を飛び出す。
そこはまぶしい陽光のさす普通の世界だった。
突然窓から飛び出してきたことに驚いたのか、群衆の注目を一度に浴びる。
圭以下全員集まっていた。
「悠君。ケガとかしてない?」
圭が俺の制服の襟に付いた血を見て言う。
「なんてことないさ。にしてもパネェな、教会」
俺はなんてことのないそぶりを見せて、悪のりしてみる。
その瞬間、アグレス教会の鐘楼が崩れる。
警察がやってきたので、俺たちはその場を後に、ヴィヴィドリーの工場へ急ぐことにした。
「次はミソシタニィ・todayの時間です」
ジム・クレマンソーキャスターが真剣そうな顔で、淡々と語る。
「今日午前11時頃、我が市の歴史的重要文化財のアグレス教会の鐘楼がテロにより破壊されました」
教会の鐘楼崩壊の瞬間が映る。
画質の荒さから現地の人によって取られた、携帯電話のカメラだろうことはだれでも想像が付いた。
「――その犯行を行ったと目される集団がこれです」
画面がどこかの監視カメラのものに切り替わる。
そこには5名の若い男女がくっきりと捉えられていた。
そうのうちの一人の顔がクローズアップされた。
「この男です。ピンときた方はすぐ110番して下さい。決して近寄らないで下さいよ。こいつは目に付いた者は誰でも殺すイカレ野郎ですから―」
その男の名前がふりがなと共に表記された。
明石悠太……彼はたしかにそういう名前でこの街で管理されていた。
「神の代弁者ジム・クレマンソーから、お送りしました」
ジムは〆のお決まりの台詞を言った。
その顔にはかすかな悪意が、さらけ出されていた。
だが誰もそんなことに気づきもしなかった。
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