10:フィルフレッド・ダグラス
フィルフレッドは依然、話し続けていた。
一体何者なんだ。
この子は……。
俺の気は動転していた。
「今や味噌司谷は、人間という家畜のための牧場だよ」
いつの間にか辺獄におとされている。
「ね、すごいでしょ、お兄さん。これ全部僕が作ったんだ」
フィルフレッドが笑顔で問いかける。
まるで小学生がテストで100点を取ったのを親に見せるような、純粋なものだった。
「まさか、お前が……」
おれは悟った。
と同時に畏れていた。
さっき話していた子どもが、俺の仇だなんて!
「いかにも、この方こそが悪魔を統べる者にして、魔界最強の悪魔。Demon emperor Aである!」
どこからともなく、デカイメタボ体質のヤツが、フィルフレッドの、魔帝のすぐ後ろにいた。
「ああ、おデブちゃん。来てたんだ」
フィルフレッドは今までの態度とは一変して、冷たいものとなった。
「ええ、陛下の窮地かと存じまして……」
その大柄な悪魔は、小さな帝王の前に、ひざまずいた。
「いいよ、お前どうせ木偶だし、それから僕の半径3メートル以内に近づかないでくれないかな。君の体臭が気に入らないんだ」
そいつは何も言わずに、言われた通り半径3メートルきっかり離れた。
「ごめんね、お兄さん。僕の部下はみんなバカばっかだからさ」
俺はリベレイダーを抜く。
「それでどうするの。僕を殺す? 君の憎んでも憎みきれないほど憎い、親の仇である僕を」
フィルフレッドが両手を広げ、いかにも殺すのかと言うジェスチャーをした。
そんなこと、決まってるだろ。
「もちろんだ。てめぇをぶっ殺す!」
おれはリベレイダーを突きつける。
今のコイツは魔帝だ!俺の倒すべき存在だ!
「貴様、陛下に向かって何を言う!」
軽く無視――
フィルはその青いタレ目でそいつを睨み――
「黙っててもらえないかな。僕と彼の会話を邪魔するくらいなら、その脂肪を何とかしたらどうかな。おデブちゃん」
一瞥する。
するとその巨体のヤツは――
「お言葉ですが陛下! 私の名前はデブではなくタイラントです。
いい加減おぼえて下さい」
今のセリフにカッと来たらしい。
タイラントはかすかな怒りを込めていった。
おそらくささやかな抵抗だろう。
だが言い終わるとすぐに、魔帝の、フィルの表情を見るなり、恐れをなした。
フィルはにやっと笑い――
「僕に口出ししていいの。きっと後悔するよ。久しぶりに臓器という臓器を取り出されて、悲鳴を上げて、命乞いをしながら絶命する瞬間の顔を見てみたいんだ」
とタイラントに言う。
無言――
沈黙――
「まあいいや、今のことは許すよ」
フィルはそう言うとタイラントを踏みつけた。
「あ、有り難き幸せ~」
とタイラント――
全く何やってん……だか……。
脱力感――
「それから、彼の相手は君に任せたよ。君もメタボ消費するいい運動になるだろう」
と言ってフィルはその場を立ち去ろうとする。
「おい待て、てめぇ逃げるのかよ! てめぇをこの手で倒すのはおれだからな」
フィルはとても残念そうに答える。
「ごめんね、お兄さん。ぼくは今日ただ確かめただけなんだ。だから今日はお兄さんとは遊べないよ。でもまた今度遊ぼうね」
確かめるってなんだ?だがどっちにしろ逃がす気はない。
おれはイシスを構えて突進し最後に体ごと回転させるストリークの技を使った。
だが途中で止まった。
何か巨大なものにぶつかったのだ。
どうゆう事だ?と思って顔を上げる。
すると巨大な影を落とすタイラントだった。
コイツが俺の技を止めたのか。
そうしている間にもフィルとの距離は開きていく。
「邪魔をするな!」
おれは横をすり抜けて、再びフィルに迫ろうとしていた。
が、
背後からどでかい棍棒に殴られたかのような衝撃。
それはタイラントの猛烈なラリアットだった。
「お前の相手は俺だ」
血が口からかすかにこぼれる。
フィルは深い霧に包まれて、ただでさえ小さい人影が、より一層小さくなり、終いには跡形もなく消えてしまった。
「お前、俺の邪魔をしたよな? じゃあぶっ潰されても文句言えないよな!」
俺は半ば狂乱状態だったといっても、よかった。
自分の倒すべき存在を、みすみす目の前で逃してしまったのだ。
その原因はお前だ!
俺は笑っていた。
その顔は悪魔と大差ないくらいに、ひどく歪んでいた。
何でも良かったんだ、壊せるのなら悪魔でも、人でも、神でも……何か壊したい。
今の俺はそんな破壊衝動のみに突き動かされている、破壊魔だった。
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