ツンデレ人魚姫
海の底、人魚たちの住む国には姫が何人もいました。
その中で一番末っ子の人魚姫は特に国民から愛されていました。
姉妹は誰も見た目が美しく、声も心も美しいのですが人魚姫は姉たちにはない美しいものを持っていました。
それは……
「ベ、別に、アンタ達のために歌うんじゃないんだからね」
ツンデレでした。
人魚姫のツンデレは男性だけでなく女性にも人気があり誰からも愛されるのでした。
ある日
「ねえ、私たち海上に行くんだけど、一緒に来る?」
「いいわ、行きたかったら1人で行くし」
「そう……」
「だから私は今から行くわ、姉さん達も、勝手にいけば?」
「ふっふ~!ツンデレ~!」
人魚姫が海上に上がると大きな船がありました。
船の上にはイケメンの王子がいました。王子は海を見つめていました。
「ねえ、ねえ、あの人間かっこよくない?」
「そうかしら?さえない顔してるわよ、まあ、悪くはないと思うけど」
人魚姫は王子に一目惚れしました。
その夜、嵐が起こり海は荒れました。
嵐が少し弱まったころ
「人魚姫、どこへ行くの?」
「ちょっと海上に、別に王子が気になるとかそういうんじゃないからね」
人魚姫は海上に上がり王子を探しました。
王子はすぐに見つかりました。壊れた船のマストにしがみついていたのです。
人魚姫が王子を抱きかかえ移動しようとしたとき王子はうっすらと目を開けました。
「う……ん……君は?」
「ベ、別にアンタを助けてあげるわけじゃないんだからね、海に落ちたゴミを陸に返すだけなんだからね!」
人魚姫がツンデレセリフを言うと王子は微笑み再び目を閉じました。
急がないと危ない、そう思った人魚姫は猛スピードで浜辺に向かいました。
浜辺に着くと王子を転がし海の底に帰っていきました。
溺れかけた王子を見て海にすむ人魚と地上に住む人間は一緒にいられないと改めて実感した人魚姫は人間の脚を手に入れ地上に住むことを決意しました。
「お父様、私人間になって地上に行くわ」
「そうか、寂しくなるな」
「私は鬱陶しいお父様と離れられてうれしいけどね」
それを聞いて王様はショボーンっとしました。
「でも、まあ、会いたくなったら、海上まで来ても、いいわよ」
「フゥー!!ツンデレー!!」
別れのあいさつを終え人魚姫は魔女の元へ向かいました。
「人間の脚が欲しいのかい?だったら対価としてお前のその美しいツンデレをいただくよ」
「いいわよ」
思ったより対価が安いと思った人魚姫は即答しました。
脚を手に入れた人魚姫は魔女にお礼を言って陸に上がりました。
なれない脚に苦戦しながらも人間たちのいるところまで行くととある噂を耳にしました。
「知ってます?王子様がある女性を探しているんですって、なんでもその女性は美しいツンデレの女性で王子様を助けてくださったそうよ」
「まあ、それでそのお礼を言うために探してるの?さすがは王子様ね」
「それもあるみたいだけど、どうも惚れたらしくて嫁に取ろうとしているそうよ」
それを聞いて人魚姫はうれしくなりました。両思いだったからです。
でもそれと同時に不安にもなりました。
今の人魚姫はツンデレをなくしてしまいました。それでは王子様は自分に気づいてもらえないんじゃないだろうか? 自分から名乗り出るのもなんか嫌な感じではないだろうかと。
今までの人魚姫ではこんなネガティブなことは考えなかったでしょう。
ですが人魚姫が失ったツンデレとは人魚姫を強気にさせるための物だったのです。それを失った人魚姫は弱気な女の子になってしまったのです。
王子様に会いに行けずにいるうちに王子様を助けたと名乗る女性が現れたといううわさを耳にしました。
人魚姫は偶然浜辺でその女性と王子様が歩いているのを見ました。
「ベ、別に王子様だから助けたんじゃないんだからね」
それは見事なツンデレでした。女性は王子様のうわさを聞いてツンデレを死ぬほど練習したのです。それを感じ取った人魚姫は王子様のことをあきらめて海に身を投げようと崖に向かいました
「やっぱり、あきらめられない……」
しかしどうにも身を投げることができませんでした。
数十分ほど悩んだ末、人魚姫は自分が助けたことを告白することを決心しました。
ツンデレを失い弱気になった人魚姫にとってそれはとても大きな一歩です。
「王子様!あなたを助けたのは私です、その人ではありません!」
「うむ、そのようだね」
突如現れた人魚姫の指摘を王子は何のためらいもなく受け入れました。
「ちょ、アンタを助けたのは私よ!あの女じゃないわよ!あの女全然ツンデレじゃないじゃない!」
「いや、彼女だ、確かに君のツンデレは美しい、あの時聞いたときのようだ」
「だったら……」
「だが声が違う、そして顔もね」
王子はうっすらとだったが声と、顔も覚えていたのです。
しかしどこを探してもその女性はいなかったので何とか似せようと努力した彼女の心意気を買って結婚するつもりでした。
ですが探していた本人が現れたとなれば話は別です。
「美しい女性よ、ツンデレはなくしてしまったようですが、私はあなたに恋をしています、どうか私と結婚してください」
「はい、こちらこそ、お願いします」
人魚姫は目に波を浮かべながらそう言いました。
こうして人魚姫は王子と幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。