願い事を一つだけ その4 暴言と罪悪感
ある日、私はランプを拾った。
しかも家で。
それは何故かお風呂場にあり不思議に思って手にとってみるとその時に微かに擦ったらしく魔法の精が出てきた。
「私はカナエル。お前の願いを1つだけ叶えよう」
お風呂場にあったランプは魔法のランプらしくどんな願いでも1つ叶えてくれるそうだ。何故そんなものがお風呂場に?と思ったがカナエルいわく魔法のランプは願いを叶え終えるとランダムでどこかにワープするそうだ。
ふーむ。願いかぁ。俺はそれなりに金持ちだし仕事にやりがいを感じてるからお金が欲しいとかはないし特に叶えて欲しいこともないな。何より欲しいものは自分で手に入れるのが好きだし。
俺はとりあえず何も願い事をせずに思いついたら願うことにした。
それから幾日か経った頃、私はイライラしながら家に帰ってきた。部下の仕事の出来なさに腹が立っていたのだ。
そんな気持ちの私にカナエルは帰宅早々、まだ願い事は決まらないのか?と聞いてきて、私はついカッとなって暴言をカナエルに吐いた。
私はしまったと思ったがカナエルは特に気にした風でもなかった。怒らないのかと聞くとカナエルは相手に暴言を吐いたりは出来ない決まりなんだそうだ。
なるほど。これは、、いいかもしれん。欲しいものは自分で手に入れれるが好き勝手に暴言を吐くことはそうそう出来ないからな。しかもこれなら願い事をストックしたままストレス解消が出来る!
私はその日からカナエルをストレス解消に使うことにした。
やってみて気づいたことだが気にせず暴言を吐けるというのはなかなか気分がいいものだった。相手は絶対に怒れないと分かっているし誰かに迷惑がかかることもない。私は段々エスカレートしていった。
そんな日々が半年ほど続いたある日、私は出張で田舎に行くことになった。泊まりの仕事だったためランプも持って行くことにした。カナエルに暴言を吐かないとスッキリ眠れないからだ。
2日間の仕事を終え、田舎で何もすることもないのでいつもよりも沢山カナエルへ暴言を吐いてスッキリしてから車で帰ろうと走らせたところ山道で車が故障した。
故障だけならそんなにイライラすることもないが山道だからか電波が通じず人がいる所までかなりの距離もあるため私はカナエルにひたすら暴言を吐きながらどうしようか悩んでいた。
田舎の車の通りが少ない道な上に時刻は夜な為、車が通るかすらあやしい。
私は長い時間歩いて人がいるところまで行くか、車の中で朝になるのを待つかカナエルへ暴言を吐きながら考えていた。
そんなことを考えていると遠くからライトの光が近づいてくるのが見えた。
助かった!これできつい思いをせずに山を降りられる!私は意気揚々と手を振りながらトラックに合図を送った。
しかしトラックはスピードを落とさない。近くまで来て運転手を視認出来たが彼はスマホを見ながら運転していた。私は慌てて横に逃げたが間に合わずトラックに轢かれた。
私はなんとか生きていたがかなりの重傷らしく身体がうまく動かなかった。トラックの運転手が車を止め私のもとへやってくる。
そうだ。早くしろ!このままだと私が死んでしまうではないか!
しかし、トラックの運転手はすぐ近くまで来て私を見ると慌てた様子でトラックに引き返し猛スピードで逃げていった。。
嘘だろ。。。このままでは死んでしまう。私は最後の気力を振り絞りカナエルへ命じた。
「俺の傷を治せ!」
しかし、、、カナエルはさぞ嬉しそうにニヤニヤしながらこちらを見るばかりで何もしてこなかった。
くそ!こいつ!絶対聞こえてるだろ!早く治せよ!
私は最後の力を振り絞ってなるべく大きな声で傷を治せと命じた。
しかしカナエルは一向に動く気配はなく私をニヤニヤしながら見下ろして楽しそうにしていた。
くそ!なんなんだこいつ!こんなところで、俺が、、こんなところで、、、死ぬ、、わけが、、、、、、
次の日
「一体、何が死因なんでしょうね?」
「さあな。鑑識にまわすしかないだろ」
そこには1つも傷がない男の死体があった。
そんな不思議がっている二人には見えていないが真上でカナエルが大笑いしながら叫んでいた。
「フハハハハハッ!治してやったぞ!お前の傷を!フン、、暴言吐きまくりやがって。すぐに願いを叶えなきゃいけないルールはなかったからな。お前が俺の怒れないルールを利用したように俺もすぐに願いを叶えなくてもいいルールを利用しただけだからな。お互いさまだ」
カナエルは死んでから傷を治した死人に最後に一瞥くれるとランプに戻りまたどこかへとワープした。
終
~おまけ~
あぁ~人を!人を轢いてしまった!俺は、、俺はなんてことを!
轢いてしまった相手があまりにも無残な姿で助かりそうにないと思った瞬間、気が動転してしまって私は猛スピードで逃げてしまった。
あの人は死んだんだろうか?せめて、せめて生きていてくれ!じゃないと俺は罪悪感で死んでしまいそうだ!
ん?ふと助手席に見覚えのないランプがあるのに気づいた。これは、、幻なんだろうか。それとも神様が俺を助けようと魔法のランプでも出してくれたのかな。
なかば自棄な気持ちでランプを擦ってみると中からモクモクと煙があがり本当にランプの精が出てきた。
「私は、ん?お前は、、、まあいい。私はカナエル。お前の願いを1つだけ叶えよう」
「ほ、本当か!じゃあ轢き逃げをしてないことにしてくれ!」
「なんだ、そんなことでいいのかお安いご用だ」
そう言うとカナエルは傷のついたトラックを直してくれた。
「こ、これで車も轢いてしまったあの人も無事なのか!?」
「いや、轢かれた相手は死んだぞ」
「な、それじゃ意味がないじゃないか!俺は罪悪感で死んでしまいそうなのに!」
「知らん。私は轢き逃げをしてないことにするという願いを叶えただけだ。それ以上のことは関係ないのでな。さらばだ」
そう言うとカナエルはランプの中に入り、入り終えるとランプごと消えてしまった。
轢き逃げをしてしまった彼は罪に問われることはなくなったが人を殺してしまったという罪悪感は消えることがなかった。むしろ、罪悪感は日に日に増すばかり。そして我慢できなくなり人に話しても誰も彼の言葉を信じなかった。何故なら証拠がないから。
そして彼は。。。。。
終