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竜に拾われた少女〜竜に乗ってスローライフ〜  作者: にあちん
第1章 始まりのケイレスト王国編
9/11

9.働き蟻の苦労

今回、長めです

 ガイウス様の表情は、何処か上の空で、何かを諦めているように見えた。



「ひとまず馬車の中に入ろう。外は寒いし、ずっとこの場に立ち止まっているわけにはいかんのでな」



 その通りなので、私達は改めて馬車へと戻った。

 暗殺者達は、全員縛って森の中に放置しておいた。

 ちなみに、全員を縛ったのはガイウス様だ。

 何故ガイウス様が縄を持っていたのか……多分、こういう時のためなんだろうと、気にしないことにした。



「さて、何処から話せばいいのだろうか……」



 そんな、起点が多いような話なのかな?

 今はリトには黙ってもらっているとはいえ、リトも他人事じゃないわけだから、より詳しく知りたいんだけど。



「じゃあ、最初からでお願いします」

「分かった。では、私が妻と出会った馴れ初めから……」

「待った待った!」



 思わず、敬語も使わずに止めてしまった。

 流石に、私もそんな純愛話から聞く気にはならない。

 まず、それ関係あったの?



「必要なところ以外は端折ってお願いします」

「ふむ、本当は聞かせたかったのだが、致し方あるまい」



 この人、今明らかに聞かせたかったって言ったよね。

 私は身分差も気にしないでガイウス様を睨みつけるが、何処吹く風といった表情で話を続けた。



「私は外相だ……それは、あの村の村長に説明されたな?」

「はい」



 今更だけど、ここでそんなことを言い始めたということは、仕事に関する話ってことか。

 ここまで来て、本当に聞いてしまってもいいのか気になったけど、もう引き返すことは出来ない……私、引き返せない状況作ってばっかだな!



「外相に就く貴族は王侯貴族となるんだがな、これまた複雑な事情があるわけで、この仕事は表向きは国王や宰相の意向は聞かず、全て外相に一任するものとなっている」



 ここで、話の雲行きが変わる。

 ガイウス様の目からは、疲れが滲み出ているような気がした。

 やっぱり、さっきの馴れ初めは関係なかったんじゃ……そう思ったけど、最初からと言ったのは私だから、ある意味間違ってはいなかったのかもしれない。



「国王や宰相、その他大臣どもが、ここぞばかりに有利な条件を取り付けようとして、王宮中を巡って、内乱を始めたのだ……」



 外相大変すぎない!?

 私は、ガイウス様が抱えている気苦労を察してしまった。

 それからもガイウス様の話を聞く度に、だんだんとガイウス様の表情が落ちていくのが分かった。

 想像以上に苦労人だった。

 これでは、精神に異常をきたしても仕方がない……あ、でもちょいちょい変なことを言い出すのは別ね。

 あれは本来の気質のせいでもあると思うから。



「ついさっきの暗殺者も、まず王宮の誰かの手の者だろう。とはいえ、本気で私達を殺そうとしたわけではないはずだ。大方、誘拐でもして弱みを握ろうとでもしたのだろう」

「人材の無駄遣い!?」



 てことは、あそこで放置したのは不味いんじゃ……

 と私は取り返しのつかないようなことをした気分になっていたけど、ガイウス様の方は毅然とした態度のままだった。

 むしろ、清々しいくらいだ。



「暗殺者達のことなら心配は要らんだろう。ああ見えて、個々が冒険者Cランク程の実力はあるし、縄抜けの法も心得ている。それに、あそこは滅多なことでは魔物は現れん」



 ということは、この人はそれが分かってて縄を抜けやすいように縛ったのかな?

 襲ってきた人に対して、結構甘いね。



「まあ、私は早々抜けられないよう、格別にきつく縛っておいてやったがな」



 ……前言撤回。

 この人、よくある一度起きたことは根に持つタイプの人だ。



「しかし、本当にハルカの従魔は恐ろしく強いのだな。ああまで一方的に嬲るとは」



 私だって、あそこまで徹底的にやるとは思わなかったんだよ。

 リトの性格が飄々としているせいか、やることが大胆なんだよね。

 これから、ちゃんと自重を分からせないと面倒になりそうだ……



「じゃあ、他の人に外相をやってもらうとかは」

「……やってくれると思うか?」



 それを言われると、私も言葉を喉に詰まらせてしまう。

 やりたくないのに、やめられない。

 誰もやりたがらないって、本当にどれだけ外相ってブラックなの……



「働き蟻みたいですね」



 無意識に、口からそんな言葉を吐いてしまっていた。

 慌てて口を塞ぐが、出てしまったものをまた戻すことなど出来ない。

 ガイウス様も聞いていたようで、苦笑いを浮かべていた。



「働き蟻、か。言い得て妙だが、そう言われれば、確かにそうかもしれん」



 何処の世界にも、とんでもないブラック企業があったもんだね。

 相手とは険悪にならないギリギリの綱渡りの交渉術を繰り返し、長距離移動は当たり前。

 失敗すれば、国家全体に響くため、常に相手の心象を推し量り慎重にならなければならない。

 身内内でも内輪揉めに巻き込まれ、日々色んな方面からの敵に気を張る必要のある日々。

 下手したら、日本のブラック企業より酷いかもしれない。



「今日はこの辺りで野宿にでもするか」

「そうですね、もう結構暗くなってきましたし」

「ハルカ、我はもう口を開いてもいいのか?」



 あっ。



「ごめん、本気で忘れてた……」

「おい! それはひどいだろう!?」



 今のは流石に自分でも反省しないと……



「おい、いちゃいちゃするのもいいが、まずは野営の準備を手伝え」



 忌々しげに呟くガイウス様の方を見てみると、1人でテントを組み立てて居るところだった。

 ガイウス様、貴族なのにテントの設置なんて出来たんだ……



「でも、私達は別のテントですよ?」

「お前……まあ、冒険者になりたてなら知らなくてもおかしくはないが、普通は依頼内容に関係なく、依頼主の野営は手伝うのが当たり前なんだぞ。大体、自分でテントを組み立てる貴族が何処に居る」



 いえ、目の前に居ますよ?

 しかも結構手つきが手馴れてる感じがしますよ?



「冒険者って、色々と大変なんだね……」

「他人事のように言うな。ハルカも今は冒険者の仕事でここに居るんだろうが」



 おっしゃる通りです……

 それから私はガイウス様のテントの組み立てを手伝っている間、晩飯のために使う鶏のガラをとるための鍋をリトに見てもらった。

 今日の晩飯は、簡単なスープだ。

 こう見えて私、料理は基本趣味でやってたから、そこそこなら作れるんだよね。

 普通ならかさばるから黒パンみたいな腹持ちがよくて保存にも適した食べ物だけを持ち歩くものだけど、ここは例によってリトの空間魔法から食材を出している。

 リトの空間魔法は時間も止まっているらしいので、こういった食べ物の保存にも使える。

 鍋みたいな重くて普通なら持ち運べないものまで簡単に持ち運べるから、本当に空間魔法って便利だよね。

 他の冒険者達には使えないのかな?

 このことをガイウス様に説明したら「失われたはずの古代の魔法を、便利道具みたいに使うとは……」と頭を抱えられた。

 え? リトの魔法って、そんな大層なものだったの?



「はい、どうぞ」



 私は出来上がったオニオンスープとパンを、ガイウス様、リトの順で手渡していく。

 ガイウス様は興味深そうに、スープの入った皿を眺める。



「まさか野営で、このような食事がとれるとはな……」



 躊躇いもせずにガイウス様はスープを口に含むと、目を見開いた。



「これは……!かなり美味いぞ。ハルカは料理が得意なんだな。これなら、宮廷料理人にもなれるんじゃないか? いや、絶対になれる」

「はは、大袈裟ですよ……」



 だってこれ、材料は玉ねぎ、黒胡椒、バターと、この世界にはコンソメは存在しないから代わりにさっきの鶏ガラを使い、風味付けにちょっとオリーブオイルを入れただけのなんちゃってオニオンスープだよ?

 これだけで、お世辞なんていらないよ……お世辞だよね?



 私はあくまで冗談だと笑ってみたりしたけど、ガイウス様は真剣な表情でスープを飲んでいた。

 正直、かなりシュール。



 この世界、技術はこんなに進んでるのに、料理に関しては圧倒的に遅れてるとか、なんてもったいない……



 私はよろめくように、地に手をつけて項垂れるように肩を落とした。



「ハルカよ。今まで、こんなに美味しい食べ物は見たことないぞ!」



 リト、貴方もなんですか……

 スープを食べ物、と言っている時点でリトが今までどんな食生活を送っていたのか、なんとなく察したけどさ……



「馳走になった。では、私はそろそろ寝るが……」

「分かりました。私はここで見張りでもやっておきます」

「……すまん」



 ガイウス様は後ろめたそうに、テントの中に入っていった。

 本来、護衛任務は数人がかりで行うものだから、こうなるのも当然だった。

 1晩中見張りってこれ、相当きついよ……



「ハルカ、お主も寝ているといい」

「いや、リトに悪いから、私も起きてるよ」

「勘違いしているのだろうが、竜は数年一切寝ずとも活動出来る種族なのだぞ? この程度、屁でもないわ」



 そりゃ凄い、凄いんだけど、リトは今日の朝、全然起きてこなかったよね?

 今更そんなこと言われても、全く説得力ないから。



「じゃあ、暫く話でもしない? その後、ここで寝るから」

「ここでか?」

「うん、ここで」



 自分でも何を言ってるのか、とは思う。

 この季節に外で寝るような馬鹿みたいなことをする理由だってないし。

 それでも、本来の仕事をリトだけなら押し付けるのは、私の方が許せない。

 先に折れたのは、リトの方だった。



「分かった。が、少し待て」



 リトは小声で何かぶつぶつ呟いたかと思うと、急に風がやんで、心なしか空気が暖かくなった気がした。



「防風と保温の結界を張った。これなら、少しはマシなはずだ」



 リトが、気を使ってくれたようだ。

 これも、魔法の力なのかな。

 そうだとして、こんな都合のいい魔法が、ぱっといきなり思い浮かんで使えるのかな。

 それに、リトから出た防風や保温といった言葉……これくらいの環境なら、平常と対して変わらないと豪語する割には今までまともち人と関わりあってこなかった竜が、何故そんな言葉を?

 まるで、この状況が以前からあったかのように……



 いや、詮索するのはやめよう。

 リトも本意じゃないだろうし、私も本意じゃない。

 助けてくれたんだから、それでいいじゃん。



 私達は小一時間ほど、空を眺めながら、他愛のない話を続けた。

 その時、空には、赤く伸びる一筋の彗星が輝いていた。

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