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竜に拾われた少女〜竜に乗ってスローライフ〜  作者: にあちん
第1章 始まりのケイレスト王国編
8/11

8.アクルータ道中

 私達は一度、依頼準備のために急いで必要なものを買い揃えていた。

 食糧、野営道具など、必要なものはかなり多い。

 私達の旅はまだ始まったばかりだったし、基本移動にはリトが居るから、こういった準備が必要なかったんだよね。

 まあ、リトの家に旅に必要な道具と言えるものが全くなかったからってのもあるけど。

 今まで旅をする気はあったのに、道具は一切用意していないなんて、リトはやっぱり不用心としか言えない。

 大体、私が現れなかったら、誰と旅をしてたんだろうか。

 って、今は準備準備。

 そんな余計なことを考えてる暇はない。

 もし今の金で足りなくなったら、申し訳ないけど道具屋さんには剣と鎧まみれで犠牲になってもらおう。



 などと思っていたけど、結局用意する分なら銀貨3枚程度で買い揃えることが出来た。

 金貨30枚をポンと出そうとするガイウス様は、やっぱりとんでもない。



 空を見上げると、南方の空から曇天の空が迫ってきていた。

 しばらくすると、この村に雨雲がやってくるかもしれない。

 早い所、準備を終えて出発してもらった方が良さそうだ。



 この依頼には、どうにもきな臭さを感じてならない。

 だって、そうでもなければいくら王侯貴族であろうと、こんな何処の馬の骨ともとれない私相手に金貨30枚を躊躇うこともなく出そうとなんてするわけがないし。

 とはいっても、もう受けてしまったんだから今更撤回は出来ない。

 



「準備は出来たな?」

「はい。もう大丈夫です」

「うむ、分かった。では、行くぞ」



 ガイウス様の合図で、馬車が動き出す。

 この馬車は魔石というもので動いているらしく、御者は存在しないらしい。

 この世界も、思っていたより技術が進んでいるようだ。

 馬車は村を出ると、森の中を特に速くもない速度でゆったりと移動していた。



 そういえば、護衛の私達が馬車に乗ってしまってもいいのかな。

 と思っていたけど、ちゃんと護衛の役割さえしてくれれば、馬車に乗っていてくれても全然大丈夫とのこと。

 それで、本当に護衛が出来るのかなぁとは思うけど、今の馬車には五感が人間とは比べ物にならない(らしい)リトが居るので、周りに魔物が寄ってこようがすぐに気付くことは出来る。

 そもそも、リトが常に馬車の周囲に並の魔物では近寄ろうともしないくらいの殺気の放ってくれているようなので、ぶっちゃけ魔物に襲われる心配すらない。

 ちょっとずるい気もするけど、ただ道中を護衛するだけだから全く問題はないよね。

 それでも一応、念の為にリトには周りに気を配ってもらう。

 こういう時、私は全く役に立てないのが歯がゆい。



「じゃあリト、索敵はお願いね」

「うむ。任せておくがいい」



 そんな返事をした後、リトは私に向けて手を伸ばして……



「って、なんで頭を撫でてるの?」

「む……な、何故だ?」



 分からないのにいきなり頭を撫でる人なんて普通は居ないよ。

 一応、これでも高校生くらいの年齢だから子供扱いは……リトにとっちゃ子供どころか赤ん坊みたいなものか。

 それでもなんとか手を払い除けると、その様子を見ていたガイウス様が一瞬寂しげな笑みを浮かべた……気がした。



「ふむ、随分と仲がいいようだな」

「それはまあ、色々と事情がありますから」



 元々、この旅を始めたことだって、私は地球に帰る方法を探し、リトは自分の使命を思い出すためだし。

 私はまだリトのことをほとんど知らないし、私の方もまだリトには異世界から来たことを話してはいない。

 仲が良いように見えて、実際のところは無意識にそれぞれが自分で線引きを決めてお互いのことを干渉しないようにしていた。

 例えることの出来ないくらいに名状しがたいものが、私達の契約の間に存在する。



 暗黙の了解。

 私達の間にはそれがあった。



「ところで、あなた達はその……アレな関係であるのかな?」

「……はい?」

「いや、だから夜も一緒に寝泊まり……」

「それ以上は言わないでください!」


 この人、何かいきなり変なことを言い出したんだけど……

 さっきまでは、いきなりナンパされたけど、良い人そうだなーとか思った私の心を返せ。



「なあ、ハルカよ。アレな関係とはなんだ?」

「リト、この世界にもね、知らない方がいいこともあるんだよ」

「むう、それを言われると余計気になるが……まあいい、どうせ、しょうもないことだろう」



 すみません。

 本当にとてつもなくしょうもないことです。

 それにしても、本当にリトって純粋だよね……

 人間の子供と遜色ないかもしれない。



「ねえ、リト……」

「ダメだ、今は喋るな」



 突然、リトに口を塞がれた。

 何事かとリトに問いただしてやりたかったけど、リトの目にはいつもより少しばかり剣呑な雰囲気を漂わせているように見えた。

 今の状況から見るに、魔物か何かが近付いてきているとかかな。



「7人か……この足音、恐らく暗殺者だな」



 一瞬、場が寒気立つのを感じた。

 って、人!?

 このタイミングで現れたのって、絶対に偶然じゃないよね。

 ガイウス様の方へと視線を移すと……苦虫を噛み潰したような顔で、あさっての方向を向いていた。

 あ、これ絶対に知ってたやつだ。

 でも暗殺者相手にするなんて聞いていなかった。

 こんなの、Fランクどころか、Eランクにすら渡すような仕事内容じゃない。



「まあ、これくらいなら20秒はあれば片付くだろう。少し出るぞ」

「え? あ、うん。頑張って」



 いや、他人事のように喋ってるけど、この状況で危ないのは私もだからね?

 ガイウス様も、この状況でよく目を逸らして口笛なんて吹けるね。

 しかも、めちゃくちゃ下手くそだし。



 私は人の姿のリトでそんな数の敵と戦えるのかと不安になったけど、すぐにその不安は解消されることとなった。

 以下、外の様子をダイジェストで。



「な、なんだこいつ……ぐぱぁ!?」

「た、隊長!? こ、この野郎……隊長のかたきぃぶふぅ!?」

「こいつ、やべえぞ! 総員、散れ、散れ!」

「嫌だ、まだ俺は失いたくな……あああ!」

「だ、誰か助けてくれぇ!」



 外から、やけに生々しい音が連鎖して聴こえてくる。

 別に、血や肉が飛んだり潰れたりするような音ではない。

 生々しいのは、返り討ちにあった哀しき暗殺者達の声のことである。

 見ると、私と同じくガイウス様も顔を引き攣らせていた。

 リトは一体何をやってるの……?



 暗殺者達の悲鳴が終わったあと、外から「終わったぞ」という声が終わったのでゆっくりと馬車の扉を開けてみる……と、そこには泡を吹きながら、かつ頭を必要以上に腫らして倒れている7人の暗殺者の姿にがあった。

 まさに阿鼻叫喚とでも言うべきか、暗殺者達の中に、まともな表情をしている者は誰一人として居ない。

 全員が全員、打撲跡で顔が歪んでるせいかも知らないけど。

 あれだけの時間で一体何があった……と言いたいが、なんとなくあまり聞かない方がよさそうだったので、ここはあえてスルー。

 ここまでやらなくても良かったような気がするけど、この暗殺者達はいわゆる犯罪者なわけだし、まあ自業自得ということにしておこう……別に、殺したわけではないし。

 結局、私は何もしていなかった。



「あなたの従魔……リトだったか。本当にとんでもないな……」



 ガイウス様も私の後に続いて出てくると、この場の惨状に息を呑んだ。

 私ははにかんで、リトに感謝を捧げた。

 私だけじゃ、絶対に助からなかった。



「さて、ガイウス様。これがどういうことか、ちゃんと説明していただけますよね」



 私達も巻き込まれてしまったんだ、自分の身を守るには、情報が必要だろう。

 私の声に呼応するように、一層強い風が私達の間を通り抜けた。

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