6.村事情
無事道具屋に到着した私は、売る予定だった荷物をリトに全て出してもらうと、ものの見事に山が出来てしまった。
特に、なんでここまであるのか分からない剣や盾、鎧がほとんどの割合を占めているようだ。
私もだけど、道具屋の店員も流石の量に顔を引きつらせていた。
「ねえ、なんでこんなに剣とか鎧とかがあるの?」
「今まで討伐だ遠征だとかで我に向かってきた奴らを返り討ちにした際に拾ったものだな。流石にそのままにしておくのは環境にも風景にも悪いのでな。我が預かっていたというわけだ」
「まさかのエコ意識!?」
何度も人と戦ってきたってことにもだけど、それ以上にリトが環境のことを考えていたことに驚いてしまった。
だってさ……これでも、リトってドラゴンだよ?
エコなドラゴンって、全く想像出来ないんだけど……出来ないよね?
「それで、どうなのだ? 道具屋の主よ」
「いや……はは。すまんが、流石にこれだけの量は俺の店じゃ買い取れないな。街で売るしかない」
そりゃそうだよね。
だって、これでもまだ合計の半分以下しかないらしいよ。
絶対、軍の一個小隊分くらいはあると思うし。
リトを倒しに来た討伐隊って、多分軍隊か何かだったんだと思う。
結局、剣と盾をそれぞれ10個ずつだけ売ることが出来た。
稼ぎは銀貨22枚と、意外にも多かった。
あれ全部売ったら、どれくらいするんだろう……
まあ元々死蔵してたものだし、いくら売っちゃってもいいんだけど、目立って旅に影響が出るようなことになるのはちょっとめんどくさいな。
軍隊一つ分の装備なんて売っちゃったら、当たり前だけど目立っちゃうよね。
これからは旅先でちょっとずつ売っていくことにしよう。
村の中を歩いていると、昨日は日も落ちてきていたから分からなかったけど、この時間帯となると結構の人が行き交っていた。
冒険者ギルドもあるくらいだし、結構通りがかる人が多そうだ。
それなら、近くに街があるのかもしれないな。
後でハイルさんに聞いてみよう。
次に私達は、いよいよ目的の服屋へと来た。
今の私はまだ学校の制服のままだったから、無駄に目立つし早く着替えたかったんだよね。
服屋には、日本で来たこともないような服がほとんどだった。
この世界は魔物とかも居るし、出来るだけ機能性重視にしないと。
「そうだ、リトも服を買っていく?」
「む……我は要らんぞ」
「そんなこと言わなくてもさ。リトのお金なんだから、リトが使わなくてどうするのよ」
「そうは言うがな、この服は元々ハイルが我のために仕立ててくれたものなのだ。無碍には出来ぬ」
「別に、無碍にしてるわけじゃないけどね……ってか、あの人そんなことまでしてたんだ」
通りで、服装に違和感がないと思ったよ。
リトは多分、ファッションセンスがないタイプだろうし。
きっとハイルさんがそこも考えたんだろう。
ただの知り合いと言っていた割には、随分と仲のいいことで、やっぱり友達じゃないか。
私が服を選んでいると、ふと気になる会話が耳に入ってきた。
「聞いたか? 今Dランク以上の冒険者がアクルータに招集されているらしいな」
「ええ、私も聞いたわ。なんでも、巨兵蟻の群れがいくつも発見されたんですってね」
「そのせいで、片っ端から薬草が買い上げられていて、この村も薬草不足になってるんだよな……全く、困ったもんだ」
そんな話を聞き流しながら、私は5着の服を選んで支払いを行った。
今の私は、村人と言われても何ら遜色はないだろう。
ついでに寒さ対策のため、フード付きのマントも買って、私は服屋を出た。
空を飛んでいる間は寒いし、今の季節も秋頃のようだから買っておいた方がいいだろうという判断だ。
それに、この世界には黒髪黒眼というのは居ないらしく、私の姿を隠すのにも丁度よかった。
リトはずっと待たされたこともあってか、辟易しているようだった。
「薬草が不足していると言っていたな」
「うん」
リトには興味がないと思ってたんだけど、話聞いてたんだ。
まあリトは竜だから、盗み聞きというよりも、勝手に耳に入ってきたという方が正しいのかもしれない。
竜なら、五感が人よりも優れていても、何らおかしくはないし。
それよりも、村のことを考えていたことの方が意外だった。
リトって結構、感情が人間寄りなところがあるよね。
そのおかげで、私は今を生きることが出来たわけだし、そういうところがリトとしての個性だよね。
「心配なの?」
「そうではない。ただ、少し気がかりなだけだ」
それを心配って言うんだよ。
でも、流石に村ひとつ分の薬草となると、私達が何をしても雀の涙にしかならないんだよね。
大体、私達が集めて村に売ったところで、また街に流れていくのは目に見えてるし。
何にも出来ないわけではないと思うけど、その招集というのがいつまで続くか分からない以上、どうやっても一時的な措置にしかならないしね。
私達もずっとここに留まるわけにもいかないから、むしろ不干渉でいる方がまだこの村も自分でなんとかやってくれると思う。
ちなみに私はまだ登録したばかりだから、ランクは最低のF。
だから、私達が招集されることはないだろうな。
「この村も、平和そうに見えて結構大変なんだね」
これは誰に言ったのでもなく、ただの独り言だ。
「そういえば、リトってなんで旅がしたかったの?」
「我か? そうか、そうだな……自分探しの旅とでも言おうか」
「リトが!?」
あまりの似合わなさすぎる発言に、流石の私もびっくりせざるを得ない。
リトは馬鹿にされたとでも思ったのか、ムッとした表情になってるけど、別に馬鹿にしたわけじゃないよ。
ただ、予想外だっただけだよ。
「そういうことではない。ただ、我がこの世界に生まれ落ちた理由が知りたいのだ。竜というのは、何かしら使命を帯びて突然産まれるものなのだが、我にはそれを思い出せない。何か、重大な指名であることは分かっているのだが……」
「そうなんだ」
産まれた時から使命がある。
リトもリトで、私が知らない深い事情があるってことだよね。
竜というのは、ただ強くて恐ろしい生き物だと思っていたんだけど、そういった悲しい面もあるのは知れてよかった。
それにしても、その使命ってのは、誰が与えるんだろう。
まるで、誰かが竜を部下としているように見え……
「ハルカよ」
あっ。
顔を上げると、リトが不思議そうな顔で首を傾げていた。
ついつい、リトを放置して考え込んでしまっていた。
「出発は昼食を食べてからにするぞ。我は腹が減った」
「分かったよ。でもその前に、先にハイルさんのところに行かせてね」
「承知した」
ハイルさんに会いに村の中央広場に行くと、ハイルさんは別の人と喋っていた。
私はそれを見て、仕事の邪魔をするわけにはいかないのでその場を離れようとするけど、私に気付いたハイルさんに先に呼び止められた。
「丁度良かった、頼みたいことがあったんです」
ハイルさんは困ったような表情を浮かべながら、ついさっきまで話していた人に少しだけ視線を移す。
一般庶民には到底着ることの出来そうにない服装を着ている辺りから見て、貴族かな?
頼み事って、この人に関係するのかな。
うん、これは絶対に面倒だね、間違いない。
「この方を、街まで護衛してほしいのです」
やっぱり面倒ごとだった!
もしかしたら、私は何かと面倒なことに巻き込まれやすい体質なのかもしれないと、つくづく思った。
変更点
武具を売却した時の金額
銀貨8枚→銀貨22枚