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竜に拾われた少女〜竜に乗ってスローライフ〜  作者: にあちん
第1章 始まりのケイレスト王国編
3/11

3.旅立ち

本日の投稿です

 私はそんなことを言って目を逸らしたリトに目を丸くする。



「でも、なんで私?」



 こう言っちゃなんだけど、私よりももっといい人がいると思う。

 リトにだって仲良い人の1人や2人くらいな居るはずだ。

 そうでなくても、理解者くらい、いつかは現れるはず。

 そう思っていたのだが、リトは目を合わせようともせずに、身体を震わせていた。



「……我には、他に頼める者が居ない。竜というのは同族嫌悪が多く、とても一緒に旅なんてことは出来ない。人には姿を見せただけで畏れられる。そこそこの魔導師ともなれば、我が人の姿でいても我の内包する魔力を見抜かせれてしまうだろう。我と共に旅をするということは、最低でも魂の契約が必須となるのだ」



 私はリトに、少なからず同情してしまった。

 この人は、友達が1人も居ないということだ。

 そりゃこんな森の奥で引きこもってたらそうだろとは思うが、それ以外にもやむにやまれずここに居る事情があるみたいだし、今から「友達を作ってこい」なんて言っても無理があるだろう。



「魂の契約って、さっき私を助けたって言ってたやつ?」

「うむ、そうだ。魂の契約は我の魂を分け与えることで、互いに魂を共有するものだ。これを行っていれば、分かる者には他の者と信頼を結んでいることが分かる。最も、対等というより、一種の従魔契約(テイム)に近いが」

従魔契約(テイム)?」

「我がハルカの従魔になったと考えてくれ」



 なんということでしょう。

 私は知らず知らずのうちに、竜を従魔契約(テイム)していた……いや、従魔契約(テイム)されられた?

 ううむ……複雑。



「でも、死にかけてた私がいい人だとは限らないじゃない。そんな簡単に契約なんてしてもいいの?」

「それは問題ない。一応、対等という立場での契約なんでな。もし我に不利益になるようであれば、一方的に契約を切ることも出来る」



 なるほど、そういうことも出来るのか。

 あれ? でもそれって……



「もし契約を切られたら、私はどうなるの?」

「死ぬな」

「ええっ!?」



 何か、とんでもないことを聞いてしまった。

 これはつまり、私はリトに生殺与奪を決める権利を握られていることになる。

 自分でも顔が真っ青になっていくのを感じた。

 そんなこと、真顔で言って欲しくなかったな……



「契約のことなら心配いらん。我は、お主との契約を切るつもりはないぞ」

「それ、本当?」

「ああ。元々、我はお主と契約したことも打算があったのでな」



 打算? リトは、私がリトに対して、不利益を被るようなことはしないって分かってたってこと?



「我は古きより生きし白竜族。我ら一族には、相手の真贋を見抜く能力があるのだ。故に、ハルカの本質を見抜くことも容易いことだ」



 真贋ということは、善悪を見抜くのと似たようなものかな?

 私はその能力で、リトのお眼鏡にかなったってことなのかな。

 確かに、私に命の恩人であるリトをどうこうするつもりもないし、どうこうしたところで状況が悪くなることくらいは分かってる。

 ここが異世界であるのなら、私は身寄りがなく、いわゆる天涯孤独の身であることに変わりがないからだ。

 ましてや、この世界で私は本来存在していないはずの人間。

 戸籍というものが存在しているのかは分からないが、私の身分を証明するものは何もないし、その状況で生きていくならそれこそリトみたいに世俗から離れた所で1人寂しく生きていくしか方法はない。

 そんなこと、私にはまず耐えられない。



 このリトの提案は、提案なんかじゃない。

 私にもう一度命を与えてくれたリトからの、チャンスをくれているのだと思った。

 私の勝手な想像だけどね。



「分かった、私もその旅に、連れて行ってください」



 驚く程すんなりと、そんな言葉が私の口をついて出てきた。

 リトに対する不信感はもはや何もない。

 竜であろうとなかろうと、私には関係ない。

 この世界に来て助けてくれたのは、リトであることに変わりはないのだから。



「そうか……」



 リトは私の返事に目を閉じ考え込むような仕草を見せた。

 しかしすぐに元に戻ると、もう一度私と目を合わせた。

 さっきまではぶっきらぼうな顔だったが、今度は真剣な目になっている。



「ありがとう」



 リトは呟きながら、手を差し伸べてきた。

 それを言いたいのは、私の方だよ。

 私はその手を取ると、出来る限りの笑みを浮かべる。

 ちゃんと笑えているだろうか。



「こちらこそ……宜しく」

「ああ、宜しく頼むぞ」



 もしかしたら、旅の過程で地球に戻る方法が見つかるかもしれない。

 この世界に馴染めるかは心配だけど、私は1人ではない。

 まだ何も知らない私だけど、今はそれでもいい。



「それでは、すぐに準備をしないとな」



 え?



「もう準備? 早くない?」



 一応、私病み上がりなんだけど。

 リトが疑問のこもった目で見てくるが、それは私の方だよ。



「別に、旅に出るのにいつ、とかタイミングなどないだろう?」

「確かにそうだけど」



 でも、そんなにすぐに準備なんて終わるものなのかな。

 地球だったら、普通はその前に計画を立ててしっかりと事前準備を行ってから旅行を行うものだ。

 ここは異世界だし、そんな常識はないのかもしれないけど。



「それに、思い立ったが吉日、やら善は急げ、と言うだろう?」



 意外にも、私にも聞いたことのある日本の(ことわざ)が出てきた。

 私がトリップしてきたくらいだし、他にも日本人が居るのかな?

 それとも、そんな諺が元々存在していた?



「まあそれはいい。今から荷物を纏めるから、ハルカも手伝ってくれ」

「……分かったよ」



 もう少しゆっくりしたかった気持ちもあったが、どうあがいてもリトは折れそうにない。

 渋々、荷造りを手伝うのだった。



 それから3時間程で、最低限必要なものの荷造りは終了した。

 結構な荷物が、私の目の前に積み上げられている。



「これだけの量、どうやって持っていくの?」

「それは……こうだ」



 リトがその荷物に触れると……一瞬にして跡形もなく消え去った。

 驚き固まる私を尻目に、次々と同じことを繰り返すリト。

 あっという間に、全ての荷物が消え去った。



「よし、行くぞ」

「よし、じゃないよ! 何、今の!?」

「何と言われてもだな、ただの空間魔法だが?」

「ま、魔法?」



 そうだった、そういえばこの世界には魔法が存在しているんだった。

 それなら、何が起きても不思議ではない……のかな?

 さっきの荷物が消えていく現象は、魔法で異空間に荷物を収納していっていたからとのこと。

 魔法って、やっぱりめちゃくちゃだよね。



「もういいだろう。今から我は元の姿に戻る。少し離れておけ」

「え? あ、分かった」



 慌てて少し離れた私を確認したリトが、元の姿へと戻る。

 リトの姿は、先日見たような純白の竜へと変化していた。

 改めて見ると、神々しさを感じる。



「綺麗……」



 無意識に呟いた声を拾ったのか、竜になったリトが顔を逸らした。

 照れているようだ。



「さっさと乗れ」

「だ、大丈夫なの? 私、落ちたりしないかな?」

「心配するな。我が、そんなにヘマをするはずがなかろう。しっかり安全運転を心掛けるつもりだ」



 安全運転って、この世界にもそんな言葉があるの?

 兎も角、やっとの思いで身体を上りきった私は、白い背中を叩いた。



「上ったよ」

「了解した。しっかり、掴まっておけ」



 途端に、私の身体を浮遊感が襲い掛かった。

 一気に、目まぐるしく変わる景色の変化に、私は少しはしゃいでしまった。



「空を飛ぶのって、凄いんだね」

「そうだろう?」



 私達は談笑しながら、東の空へ向けて飛び去った。

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