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竜に拾われた少女〜竜に乗ってスローライフ〜  作者: にあちん
第1章 始まりのケイレスト王国編
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1.プロローグ

「ふんふーん!」



 私……(はるか)は、鼻歌を歌いながら学校帰りの道をスキップしていた。

 明日から夏休み……友達とも色々と約束をしていて、これから家で計画を立てようと思う。

 今年からは高校生なのでやることも多いけど、それでも休みというだけでやっぱり気分が良い。



「明日から、良いことがありそうだな……」



 とはいっても、明日からあるのはただひたすらの休み。

 バイトはあるけど、それだけでもまだ気が楽だった。

 フラグにも聞こえるけど、実際そんなことが現実にある訳がないので、気にする必要もない。



「あ、そういえば、おばさんが今日家に来てるんだっけ」



 私がまだ小さかった頃からよく世話をしてくれた親戚のおばさん。

 住んでるところは遠いけど、優しいしよく遊んでくれた。

 私ももう15歳、おばさんに会うのはどれくらいぶりだろう。

 その恩人ともとれるおばさんに会えると思うと、浮き足立っていた。

 私の第2のお母さんと言っても過言ではない人なんだから、仕方のないことだった。



 だからかもしれない。

 そのせいで、私が周りを見ていなかったのは。



「……えっ?」



 私が信号待ちで止まっていた時だった。

 ずっと考え事をしていたせいで、周りの声が一切聴こえていなかった。

 いつの間にか私の周りから人が消えていた。

 それに気が付いた時には、既に遅かった。

 ところ構わず走っていた暴走車が、真っ直ぐ私に向けて走ってきていた。



「嫌……」



 身体は動くことがない。

 震える声をなんとか絞り出すように呟くが、その声が最後まで続けられることはなかった。

 私の身体に、激しい衝撃が襲いかかった。

 とんでもない力によって私の身体は為す術もなく吹き飛ばされ、近くの建物の中まで吹き飛ばされる。

 その際、運悪く窓にまで突っ込んだせいで、ガラスが身体中に突き刺さっていた。

 身体中から止めどなく血が溢れ、全身を今まで体験したこともない激痛を襲う。



「痛い……痛い痛い痛い」



 消え入るような声で何度も連呼する。

 さっきまでの幸せな気持ちが、一気に吹き飛ばされた。

 どうしてこうなったんだろう。

 私がちゃんと周りを見ていなかったのが悪いのかな。



 私は、未だにやまない激痛に、瞼を閉じた。

 これから、まだまだ生きていけるはずだったのに。

 こんな所で死んでしまうのかと、ただひたすら、自分の人生を恨んだ。



 ふと、瞼を開いた。



「おお……かみ……?」



 朧気に開かれた目に飛び込んできたのは、倒れて血を流す私を見て唸る狼。

 その背景も、さっきまでのコンクリートの街並みなどではなく、何処かの森の中に居るように見えた。



「はは、もしかして私、幻でも見てるのかな……」



 唐突に訪れた非現実に、私は笑みを零した。

 それと同時に、目ならとめどなく涙が溢れ出てくる。

 段々と、身体が冷えてくるのを感じていた。

 なんとなく、自分が死に向かっていることが分かってしまった。



「死にたくない……」



 身体の痛みに耐えながら、そんなことを呟いた。

 もはや自分でも助からないことは分かっている。

 だけど、それでも生に縋りついてしまった。

 いっそのこと早く死んでしまった方が楽なのかもしれないけど、それても私は諦めたくない。



 狼が私に近付いてくると、口を大きく開いた。

 嫌……!



 その時、狼が何か白くて大きなものによって潰された。

 私の視界に、大量に飛び散る血飛沫が映る。

 私はなんとか顔を動かし、その正体を確かめる。

 信じられないものが映った。



「どら、ごん……?」



 真っ白いものの正体、それは巨大なドラゴンだった。

 食われる、と本能的に、そう思ってしまった。

 けど、目の前のドラゴンは一向に私の顔を窺うだけで、何もしてこない。

 いつ襲ってくるのか、私はハラハラしてしまっていた。



「少女よ、生きたいか?」



 既に私の意識はほとんどなくなりかけている。

 そんな中でも、その声は鮮明に私の耳を通った。

 一体どこから聴こえたのかは分からないが、私の心を揺さぶるには充分だった。

 だって、その言葉は私の心からの本心なのだから。



「生きたい……!」



 こんなところで死ぬのは嫌だ。

 ここが夢の世界だろうと、私は構わない。

 どうせ死ぬのなら、いっそ夢を見たっていいはずだ。



「良かろう。しかと聞き届けた」



 なんだろう、その声は何処か私の心を落ち着かせてくれた。

 死にかけているというのに、安堵してしまった。

 同時に、一気に眠気が襲ってくる。

 今の弱った身体に、その眠気を耐えうるだけの力は私にはない。

 そのまま、完全に私は意識を落としていった。



 次の人生は、なるべく平穏であることを願って。

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