従者になること5
朝、いつもとは違う布団の感触に目が覚めた。ここ、何処だっけ…?。上半身を起こして見ると、さぁっと昨日起こったことが蘇って来た。僕は、異世界トリップしたのだ。手のひらに髪の毛の感触を感じて、ふとそちらを見ると、藍色の長髪の男…クレさんが寝ていた。え?。ベッド一緒なの?。…そりゃそうだよね、だってベッド一つしかないもんね。ってそんなことないだろ。ソファあるし。何故そこにいる。
「アオバもう起きたのか。早いな。」
僕がパニックで固まっている間にクレさんが起きてきた。顔だけなら女性のようにも見れる。寝巻きはバスローブみたいなもので、クレさんは昨日は気づかなかったけど、結構ガッチリしている。書庫に篭っていたとは思えないほどだ。
「はい。あの…なんで一緒に寝てるんですか?。」
「あ?。別に普通じゃないか?。主従契約結んだんだから、家族みたいなもんだろ。俺とお前の関係は。」
そ、そういうものなのか…。
「じゃあ、着替えて食堂に行くか。この屋敷は無駄に広いから疲れるなよ。後で、やることが沢山待ってるからな。」
能力試験とフェアリア商団、だよね。キョウカさんはどんな能力を使うんだろう?。
朝食は、パン数種類とスープといういかにも外国風なものだった。そしてどれも美味しい。マルタさんすごいな。サティラさんも一緒に食べていたけど、ずっと何かしら紙を読んでいた。
食べ終わると、試験は屋敷の中でやるらしく、大広間に通された。かなり広い。キョウカさんはその部屋の真ん中に昨日と同じメイド服で立っている。僕はそれに向かい合うように立った。
「じゃあ、始めましょう。」
そう、にこりとしてキョウカさんが言うと、ぶわわっとキョウカさんの足下から黒い触手のようなものが飛び出てきた。これが異能力なのか…?。見た目がヤバい。本能で危険を感じるレベルだ。その触手が、僕に向かってぞろぉと近づいてくる。意外と速い。こんなの避けるしかないだろ!。とりあえず、触手は床を這うように近づいてくるので、トンッと床を蹴って避ける。でも避けきれなかったようで足先が掠ってしまった。その時、頭の中に稲妻が走ったような感覚になり、身体が動き出した。まるで夢の中にいるようだ。ふわふわとした心地で非常識が常識になるような。そして、僕は脳裏にある一つの情報を見つけた。
まず、この屋敷の中から出なければ。通路の窓ははめ込んであり、破ることでしか外へ出ることは出来ない。もし、出るとしたら角のバルコニーからだ。階段を登ったからここは二階のはず。触手を避けるのをやめて部屋の出口へと向かう。幸いそこはノーマークで簡単に廊下に出ることができた。少し走ったところで背後を振り返ると、キョウカさんが僕を追いかけてきて、さらに触手の数も増えている。これは圧巻だな。キョウカさんの後ろがほとんど黒で埋め尽くされている。時折、機動が高い触手を避けながら、一心不乱に出口を探す。僕の異能力もこんなのなのか?。さっさと使えるように成りたい。ふと、自分の進む方向を見ると床がきらきらと光っているように見えた。とりあえず光ってる道に進むか。そう思うより身体が動いていた。このきらきらは、足跡の形をしていて道標のようだ。急いできらきらの上を走ると頭の中がスッキリして冷静になってくる。途中、花瓶が見えてそこにもきらきらがあったので手で触れるとぐらぐらとした。それに気づいたキョウカさんが僕を追うよりもそちらを気にしたので、いい時間稼ぎになった。…花瓶破れてないといいけど。そのまま、きらきらを追い続けていると窓のところでストップしていた。ここの窓は他のと違い、開けることが出来るらしい。もしかして、ここから飛び降りろってことなのか?。というかここ二階だよね?……ええい、ままよ!。カチャリと窓の鍵を開けて、下へ飛び降りた。こんなの、絶対死ぬってぇぇぇぇぇ!!。
ふよんとした感触を感じた。何か柔らかいものに包まれているようだ。スベスベしていてなかなか触り心地が良い。ここが天国かな。
「…大丈夫?。」
わぁ〜。美少年が駆け寄ってくるよ。生まれ変わったら僕もあんなイケメンにして下さい。…あれ?あの子見たことあるな。水色の髪の男の子…ルークくん、だったかな。その子は、僕の隣に来ると手をおにぎりを握るような形にした。僕がそれをボーっと見ていると、突然バシャッと顔に水がかかった。
「ぷはっ。え?…生きてる。」
何故かずぶ濡れだが、生きている。僕が飛び降りたらしい窓のところを見ると、キョウカさんが呆気にとられた顔をしていて、ルークくんの後ろの方にはクレさんとサティラさんの姿があった。2人とも僕のことを心配しているようでかなり焦っているように見える。
「アオバくん、大丈夫?」
「アオバ、体は痛くないか?。」
「へーき、みたいです。ルークくんに助けてもらったのかな。」
「…急に窓が開いたから、何か、あったのかと思ったんだ。」
ルークくんを見るとその隣にふよふよとした物体が浮いている。持てる水の巨大なやつに顔文字がプリントされたみたいな。それは、もるーんもるーんと鳴きながら頭の上に乗ってきた。かわいいな。
「これは…?」
「その子は、僕の使い魔、さっきは大きくして衝撃を吸収したんだ。」
僕はこの子に助けられたのか。
「いやー、びっくりしたよ。二階から飛び降りるなんてなかなか勇気がいることをしたもんだね。あ、そうだ。異能力は分かった?。」
そういえば、異能力を知る試験だったな。
「僕はなんとも…?。」
「あぁ、アオバくんは分からないよね。クレは分かったよね。主人なんだから。」
ね?というようにサティラさんはクレさんの方を見る。
「…そうだな。アオバの能力は、相手の能力を把握し、最善の行動をとる、というものだ。ただし、条件があって相手の能力か相手に触れないと発動しない。」
ソ、ソンナノウリョクダッタノカー。ということは足先がかすった時に能力が発動したんだな。まぁ、そうでなくても、ほぼ100パーキョウカさんのあの異能力に触れないということはないだろうけれど。触手だもんな。
「すごい心当たりがありますね。」
「いいね。この能力なら、対人でも対魔獣でも活躍できそうじゃないか。」
「対魔獣?」
「そう。言い忘れてたけど、フェアリア商団に入ったら魔獣っていう村とか町を襲う害獣と戦って討伐するんだよ。」
なんだその二次元。商団なのに戦闘もするのか。
「商団は、移動型の便利屋だからね。基本的にどんな職業の人でも仲良くなれるんだ。だからね。アオバくんにはこの世界を知るのに最適かなって思ったんだよ。」
サ、サティラさん…有り難ぇ。 めっちゃ、考えてくれている。あっそうだ、制限とか言ってたよね。どんなものか聞いてみよう。
「あの、制限があるってどういうことなんですか?。」
「あぁ、制限か。従者の異能力って制限なしには使えないようにできてるんだ。理由はわからないけどね。キョウカちゃんにもあるよ。」
そうなんだ。
僕の異能力について、クレさんはどう思っているんだろう?。
「クレさん、僕の異能力どう思いますか?。」
すると、クレさんは、
「あぁ、すごく良いと思うぞ。その能力は使いやすそうだしな。」
ちょっと歯切れが悪い返事だった。不思議に思っていると、サティラさんが、
「あっはは、クレはこの能力に散々悩まされた時期があったからねー。自分の従者が持っててびっくりだよね。」
え?。なんだそれ。
「あー、と。その能力に似たやつなんだけどな。その能力を持つ従者は、クラッド・ギルシュタイン。俺の兄だよ。」
なるほど…なるほど?。