従者になること2
使用人の紹介の後、いよいよ主人になるらしい人がいる書庫を案内するらしい。正直、使用人は、もっとたくさんいると思っていたからびっくりした。魔法があるから人数が少なくてもやっていけるのかもしれないな。書庫は屋敷のはずれにあるらしく、ちょっと歩いた。途中に綺麗な庭も見えて、ルークくんを思い出した。キョウカさんが重そうな扉をギイギイ音を立てながら開けると、外国映画のように大きな図書館が視界に入ってきた。書庫っていうには綺麗すぎる。
「クレッドいますかー?」
キョウカさんの声が響く。相当広い場所みたいだ。
キョウカさんが奥へと進むのでついて行くとソファーに寝転がってパラパラと本をめくっている藍色の髪をポニーテールにした人がいた。男か女かわからない中性的な人だ。
キョウカさんが、
「連絡したのにこのざまとは…。」
とぼやいていたが、その人は気づいた様子でなく、キョウカさんにバシッと叩かれてようやくこちらに顔を向けた。痛そう。
「誰だ?」
声低っ!男の人かー。まぁ美少女が主人なんて二次元なこと起こらないよな。服装もぱっと見男性的なパンツスタイルだし。本当は、書庫に篭ってるって聞いた時、図書館にこもりきりで白くて細い美少女を思い浮かべました、すみません。
キョウカさんが怒った口調で
「さっき連絡したでしょう。サティラ様の手違いでこちらに来てしまった方ですわ。居候しているからには役に立ってもらいますからね。」
するとクレッドさん?は、
「仕方ないな。もう今までみたいに書庫に篭れないのは惜しいがサティラには世話になってるしな。それで、俺は主人…なんだよな。」
「ええ、すぐに契約出来る条件が揃っているのは多分貴方だけなので。」
キョウカさんがそう言うと頭をガジガジかきながら、
「そうか。あーっと、俺はお前の主人になる予定のクレッド・ギルシュタイン、よろしくな。名前を聞かせてくれると有難いんだが。」
せっかくのポニテがちょっと乱れてる。
「僕は、高梨青葉です。青葉って呼んでください。こちらこそよろしくお願いします。クレッド…さん。」
「…クレッドさんなんて長ったらしく呼ばなくてもクレさんでいいぞ。アオバ、だな。」
「はい、クレさん…。」
「おう。」
ひと通り僕らの自己紹介が終わると、キョウカさんが来て、
「サティラ様から許可を取って魔力の多い部屋で契約の儀式をすることになりました。お二人共仲良くなれましたか?」
魔力って多い少ないがあるのか。異世界っぽいっていうか異世界なんだけど、ワクワクするなぁ。
「ご案内致しますので付いてきてくださいませ。」
まだ部屋があるのか…。サティラさんの夫はよっぽど偉い人なのか、それとも趣味なのか。そういえば、まだ会ったことないな。まぁ、またサティラさんかキョウカさんに聞けば分かるだろう。それよりも契約についてだ。ふと、隣を歩くクレさんの長い髪に気がついた。すごい、腰くらいまであるんじゃないかな。じっと見ているとクレさんが僕の方をちらっと見た。あ、そうだ。契約のことクレさんに聞けば分かるかな?
「あの、クレさん。契約とは具体的に何をするんでしょうか。」
僕の隣をむっつりしながら歩いていたクレさんは、こっちを見て、
「あぁ、お前は違う世界から来たんだったか。基本的に従者はやることはなくて、主人…俺が呪文を唱えるからそれをひざまずきながら聞いてくれればいつの間にか契約が結ばれていると思ってくれて良いと思うぞ。まぁ、その…わからないことがあったらなるべく聞いてくれ。常識を知らないのはなかなかに不便だろうからな。」
「ありがとうございます。」
その後、クレさんと色々と契約について話しているうちに部屋に着いた。魔力が多い感じはしないけれどこの部屋の扉の装飾は、他と比べてかなり豪華だ。金で作られているだろう扉は、まるで一つの絵画のようでキョウカさんが足を止めていなかったらそのまま通り過ぎていただろう。僕に嵌めた指輪といいこの世界の魔法には装飾が関わっているのかな。
「開けますが、入るのはお二人だけでお願いしますね。」
「はいよ。」
「…?。はい。」
どうしてかをクレさんに訊こうと思ったが、目の前のドアに釘付けになってしまった。金色にキラキラと光り輝いて装飾の金の草花がシュルシュルと真ん中から離れていき両開きの扉になったと思うとゆっくりと開き始めたのだ。
「すげぇ…。」
クレさんが中に足を踏み入れたので、僕もそれに続くとキョウカさんが入らなかった訳が分かった。立っているのもままならないほど感覚が歪んでいるのだ。
ええっとひざまずくんだっけ、聞いた時は簡単そうだったけどこの状態だとな。クレさんを見ると意外と楽そうに歩いていた。体がこの空間に慣れてきたのかなんとなく部屋の中も分かるようになった。部屋の真ん中くらいでクレさんは立ち止まり、僕の方へ体を向けた。
「ここで契約する。魔力の多さには慣れたか?」
このふらふらするの魔力が関係してたのか。
とりあえず、膝を折ってクレさんが説明してくれた体制になる。
「大分慣れました。」
「そうか。じゃ、始めるぞ。」
クレさんは僕の右手を両手で包み何やら呪文を唱え始めた。すると、僕らの周りに謎の文字?が浮かんできた。クレさんに教えて貰った契約の方法では、僕はクレさんの方をじっと見ていなければいけないらしいので良くは確認できなかったけれど。最初は少しだったけどだんだん増えてきたその文字は列となり、しゅうっと僕やクレさんの体に入っていった。その文字が身体の中に入っていくたびに、身体の奥から熱が出てくる。大きな力を受け止めきれてないみたいだ。クレさんも僕と似たような感じで呪文こそ途絶えてはいなかったけれど顔の表情が最初よりも歪んでいて苦しそうだった。どのくらい時間がたったかわからないが、クレさんが呪文を唱え終わり、謎の文字が消え去ると僕らは入ってきた扉の前にいた。僕らはさっき契約していた時と同じ体勢で、扉も、元のようになっていたので、さっきまでのことは夢のように思えた。立ってみるとさっきの感覚が抜けてなかったのかちょっとよろけてしまったが、クレさんが僕の肩をぐいっと引っ張って転ぶのは避けられた。
「ありがとうございます。これで、僕はクレさんの従者なんですよね。」
従者という言葉の響きに契約の前には感じなかった重みを感じる。
「そうだな。そして、俺はアオバの主人だ。」
僕は従者で、この人は主人。すごいしっくりくる。ついさっきまで赤の他人同然だったのに。
あたりを見回すとキョウカさんがさっきと同じように立っていた。
「契約はどうでしたか。そろそろかと思って夕食の準備を致しましたわ。そこで、色々と伝えたいこともありますので。」