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運命代行魔法少女は終の雨を創生する。  作者: 翡翠しおん
運命代行魔法少女は、転生輪廻を逆行する。
20/25

未来までの二歩

「ただいまぁ、エルミナ」


「あ、おかえりー! 大丈夫だった?」


「……流石に消滅の危機を感じたわよ……」


 うわぁ、お疲れさま、と笑ったエルミナ。笑顔が引き攣ったのは言うまでもない。

 手早く人数分のお茶を用意してくれたガディにお礼を述べて、私は一つため息を吐いた。


「……その様子だと……輪廻の輪に行っちゃった?」


「知ってたら事前に教えてくれてもいーと思いまーす」


 イースが咎めたのを、柊が即座に睨み付ける。その辺りは容赦ない。

 エルミナは額に手を当てため息を一つ。


「ココルちゃん早いよぉ。……ウィンディちゃんの件が終わってからにしようって言ったのに」


「時間もないとは言ってたけどね。まぁ確かにあそこまで進んじゃってると、引き戻すのも一苦労だったもんねー」


「良かったな、もう一階層進んでなくて」


「ホント。最悪なメンツと顔合わせるところだった」


 柊の言葉に、イースは肩をすくめる。

 その口ぶりだと、イースはあの先を知ってるってこと?

 じっと真意を窺うために睨むようにイースを見つめていると、イースは私の視線に気づいた。


「うわ、ウィンが私を犯罪者の目で見る!」


「そんな目してないわよ!」


「してるしてるー!」


 けらけら笑うイース。だけどそれは案外煙に巻こうとしてるのかもしれないけど。

 ふと、イースは笑みを収めて、頬杖を突く。


「そうだよ。元々私はあそこにいたんだよね。でも面白くないっていうのと約束したからね」


「……約束?」


「そう。りぃくんとの約束」


 誰だろう。分からないけど、イースは凄く懐かしそうにしていた。随分前の事なのかもしれない。


「だからウィンには目一杯暴れてもらって、私が居なきゃもっと大変なことになってたんだ! って思わせないといけないんだよ、うん」


 神妙な顔をして頷くイースは、またとんでもない事言ってるし。

 まったく、しょうがないわね。苦笑が零れてしまう。


「……何かまた一つ、目標が見つかったんだね、君は」


 不意に話しかけてきた旦那さんに、私は視線を向ける。

 老眼鏡だって言ってた眼鏡の位置を直しながら、穏やかな笑みを浮かべていた。

 何でもお見通しって感じかな。


「うん。……助けてあげなきゃって、思うんだ。……だから私は、もっと強くならなきゃ、体も、心も」


 そうして、私は四方平坂も助けてあげたい。

 出来れば、シャドウも。私の目の前で悲しむ人がいるのは、何だか悔しいもの。


「きっと、君なら出来るよ。……そんな気がするんだ」


「ありがとう。……そう言ってもらえると、私も頑張れる気がする。あっ、そうだ!」


 カップを置いて、私は旦那さんに向き直る。

 小首を傾げた旦那さんに、私はお願いを口にする。


◇◇◇


「あー……まだ駄目っぽいんだね」


 透明な繭の中では、相変わらず溶けたり形成されたりを繰り返す赤ちゃんがいる。

 でも懸命に生きてることに対して、疑う余地もない。


「抱っこしてみたかったんだけどなぁ」


「いつでも会いに来ていいんだよ……って言ってあげたいところだけど……ウィンディちゃんは、そうもいかないんだよね」


「ウィンディにはゲートパスの付与があるわけじゃないですからね」


 柊の発した言葉に、エルミナたちは納得してたけど、私にはさっぱりだ。

 まぁいいか。残念だけど、この子とはこれっきりなんだろう。

 ……でも、一つ聞きたかった。


「この子、生まれてからどれくらいになるの?」


「そうだね……三十年は、こんな状態かな」


 旦那さんの口振りは凄く短いって感じだけど、私からすれば私の倍は生きてることになる。

 そしてきっと、この子がここから出るには私の何倍もの時間がかかるんだろう。

 でも、分かった。それだけでも十分だ。


「……ありがとう」


 そっと、私は感謝の言葉を届ける。誰にも聞こえないように、小さな声で。

 ほんのちょっとだけ、顔が緩んだ気がする。笑ったのかな。


「そういえば名前、聞いてなかった」


「キエラだよ」


「そっか……良い名前だね。……いつか話せる日が来るといいな」


 優しく、透明な繭を撫でる。

 私と、四方平坂と、キエラは何か似てるね。

 存在したいのに、上手くできないんだ。でもね、だからこそ私は頑張ろうって思う。

 二人のために、私は手本となれるような生き方をしなきゃって思う。

 振り返ると、イースと柊がそれぞれの表情で私を待っていた。


――帰る時間は、別れの時間だ。


「ばいばい、キエラ。……見ててね」


 貴方の時間を、私は借りてたはずだもの。その恩に、私は報いなきゃ。恥じない背中だったことを、いつかエルミナや旦那さんから伝えてもらいたいから。


「ご苦労様、ウィンディちゃん」


「ありがとう、エルミナ。……さよなら」


 握手を交わす。契約終了の合図だ。

 手が離れると、私の意識は急激に霞む。笑って手を振るエルミナと、それに穏やかに寄り添う旦那さんが、最後まで見える。

 私も、そんな人に巡り合えたらいいな。


――そして瞳を開けば、ノートが広がっている。


 帰ってきたんだ、私の運命に。

 机の上でカチカチと時を刻む音に目を向ける。

 十時……外は暗いし、夜だっけ。広げていたテキストとノートに、欠伸を一つ。

 仕事前に、つまり意識を切り離す前に書いたであろうメッセージがノートに一行。


『明日までの課題! 残り二十五ページ! 急げ!』


 絶望的な気持ちになった。


「あははっ、帰ってきたと思ったら過酷な現実だねウィン」


「笑ってないで手伝いなさいよ?!」


「それはお前がなすべき課題だ。学校に通っているのは俺じゃない」


 こういう時はさも当然とばかりに突き放すのよねこいつらっ!

 鬼悪魔! ああもう!

 ノートとテキスト、筆記用具を胸に抱え、私は部屋を飛び出す。


「パパぁッ! 勉強教えてぇぇっ」


 こういう時くらい甘えさせてもらうからね、パパ!


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