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初対面の恋人  作者: YUKARI
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4 三年寝太郎。

 ──すんげぇ、なんか俺ってば寝た気がする。

 ──うん。雄吾が寝てから、もう少しで3年経つよ。

 ──はぁ?! 3年?! そんなに!?


 あれから3年。雄吾はナルの中で眠り続けていた。

 ギリギリまで魔力を使った自覚は雄吾にもあるものの、自分の世界でも魔力をギリギリまで使ったとしても寝て次の日には完璧とまでいかなくても、回復するために3年も寝てたということに驚く雄吾。


 3年も寝てたと聞けば、もう1つ雄吾には気になることがある。

 時間の流れは自分の世界も、この世界も同じなのだ。そうなると、自分が居なかった3年の間に自分の店がどうなったか心配になる。


 ──とりあえず、帰るか……。

 ──え?! そんなに急に帰るの? 僕3年も雄吾やってたから、美和ちゃんとかなり仲良くなったから黙って帰るのヤダよ。

 ──あぁ、そうだった。 美和ちゃんで思い出した。俺はこっちの世界に居る気配はあったのか?

 ──それがね、やっぱり雄吾もそうだけど、僕もこっちの世界には居ないんだ。だけど、わかった事がいくつかあったから話すね。


 この部屋の部屋の所有者は美和ちゃんの母親の美里さんで、俺の世界の部屋の所有者と同じと言う事。


 雄吾の世界だと美里は旦那さんと2人で、子供は居ないって言ってた記憶が蘇る。

 大家と借主の関係だから、そんなに深い話はした事はないが時々ランチに雄吾の店に食べに来てくれてて、一緒に来てた人と話してるのを聞いた事がある。

 

 沙羅と美和ちゃんは親友でよくこの家に遊びに来てるが、この世界の沙羅は一人っ子と言う事。

 魔法研究所がこっちだと警察署ってやつらしく、後はご近所さんの隣は俺の世界と同じで特に変な事は無いって事らしい。


 ──うーん。なんだ? このちょっとした違いは……。

 ──雄吾、もう僕から出られるんでしょ? 今日は美和ちゃんバイト夜までだから一回戻って、研究所に行ってくれば? 僕ここで待ってるからさ。

 ──そうするか。じゃあ、俺が戻って来て怪しまれないように会話出来るように、なるべく脱衣所に居てくんない? なるべく早く迎えに来るし。


 雄吾はナルから飛び跳ねる用に出て洗面所の鏡の所に向かって、この世界に来たときと同じように鏡とツンと弾いて歪んだ鏡の中に飛び込んだ。


「って、なんじゃこりゃーーー?!」


 3年も家を空けてたから自分ではない住人が住んでてもおかしくはないと思うが、それとは違う違和感に驚きも隠さないで大きな声で雄吾は叫んだ。


 脱衣所の洗濯カゴを見れば、女物の洋服と雄吾の店のホールの女の制服と自身のコック服がある。

 カゴの中にある女物の服を見れば、美和が泣いてた日に着てた服だと雄吾は思い出した。それに、洗面台には明らかに美和の家で見た化粧水やらなんやらと、歯ブラシが2本コップに並んで立ててある。

 それを見て嫌な気分にはならないものの、雄吾の頭の中は「?」が行ったり来たりしている。


 混乱中の雄吾を後押しするかのように、ポケットに入れてた携帯が鳴り出し、着信画面を確認すると電話を掛けてきたのは雄吾の妹の沙羅だった。

 何か聞けるかもしれないと思い、恐る恐る電話に出ると沙羅の大声が雄吾の耳に響く。


『お兄ちゃん?! 休みの所悪いんだけどお店にちょっと来てくれない?!』


 大声が煩いと思いながらも、沙羅の発言から疑問がまた湧く。

 休みという言葉が出て来るってことは、自分が3年いなかった事にはなってないのか? その言葉について考えてると、沙羅の怒鳴り声がまた耳に響く。


『聞いてるの?! 美和のストーカーの剛志が来たから早く来て追っ払ってよ! 研究所に居るって言ってるのにしつこいの!』

「美和ちゃん? 剛志……?」

『いくら、休みだからって昼前まで寝てたの? 寝惚けてないで、しっかり起きてよ!』

「あ、いや、わかった。今から行く」

『早く来てよ!』


 言うだけ言って電話を切った沙羅に呆気にとられたものの、雄吾の頭はどうなってるんだ? としか言えない状況になってしまった。

 雄吾は美和のことは、あっちの世界で見ただけで自分の世界の美和のことは知らないし、剛志ってヤツもメールで一方的に美和のことを振った男だったはずで、それがストーカーになるというのも雄吾の考えではありえないんじゃないのか? と考えが行き着く。


 それでも自分が置かれた状況を探るには、自分の店に行って確認した方がいいと思い雄吾は急いで店に向かった。


 ******


 店に到着してから雄吾は店の外観を気にして見たが、あっちの世界に行く前となんら変わりは無かった。ここまで来る道も、工事中だった場所もまだ工事をしてて3年経ってれば工事も終わってるはずだが、こっちでは3年も経ってないということに雄吾は気づいた。


 外で考え込んでた雄吾を沙羅が見つけて、店の中から飛び出してきた。


「お兄ちゃん、遅い! 美和がここに居ないからって転移じゃなくてバイクでのんびり来るってどうなの?」

「お、おぅ。わりぃ……」

「ほら、あそこの席で居座ってる剛志なんとかしてよ」


 沙羅に腕を引っ張られて店の中に入ると、今時風の短髪の男が携帯を握りながら黙って座ってる。

 なんとかしろと言われても、家に美和の服があったからと言っていまいち美和と自分との関係がわからない雄吾は、店長として対応すればいいのか、美和の彼氏としての対応をすればいいのか悩む。


 それだとしても、陰湿な空気感を漂わせてる男をこれからランチ前だと言うのに、店にいられるのは流石に雄吾も嫌だと思って店長として対応することにした。


 ワザとガタンと椅子の音を立てて引いて雄吾は、剛志の前に座る。一瞬ビクっとした剛志が、睨みながら雄吾のことを見た。


「何も注文しないで、お客様は何をされてるんでしょうか? これから、ランチでお店が混み始めるので食べないなら帰って頂けませんか?」

「俺はあんたじゃなくて、沙羅に美和を呼べって言ったんだけど」

「美和なんて食べ物は、この店には置いてませんけど?」

「あんた、ふざけてんの?」

「ふざけてませんけど?」


 文句を言ってる剛志にニコっと笑って雄吾は返事を返す。

 何故か雄吾に敵対心を剥き出しで話す剛志に、どうしたもんかと雄吾が悩んでいると剛志が声を荒げる。


「って、聞いてんのかよ!」


 バンっとテーブルを叩いて立ち上がる剛志。


「あ、すいません、聞いてませんでした。なんですかお客様?」

「お前……俺をバカにしてんの? 美和があんた選んだなんて認めねぇからな!」


 剛志の「選んだ」って、言葉で自分が美和の彼氏の対応をしてもいいんだと教えてもらい、それに感謝しつつその対応が出来ることにニヤけそうになったのを我慢する雄吾。


「別にあんたに認めて貰う必要なんてないと思うけど? 美和ちゃんが、選んだのが俺なんでしょ? 俺は美和ちゃんが認めてくれてるだけで嬉しいし。そんで、あんた美和ちゃんのなんなの?」

「あ?! 俺は、美和の……婚約者だ!!」


 ここで雄吾たちの会話を見ていた人たちが、今にも笑い出しそうな堪えてる声が雄吾の耳に入って来た。

 もちろん雄吾も笑いそうになったが、剛志をこれ以上煽ると余計にゴタゴタするのが目に見えるため必死で堪える。

 もし、万が一に剛志の婚約者だとしても、美和の私物が雄吾の部屋にあるのは変な話だ。

 それにナルが言っていたことが事実ならば、雄吾が住んでるマンションは美和の母親が大家であって婚約者がいる娘が雄吾の家に行き来してるのは、きっといい顔はしないはず。


「婚約者ねぇ? それだったら……俺が住んでる家の大家さんが、俺になんで家を貸してくてるのか俺にはわからないね」

「はぁ? 金払えば家なんかどこでも貸してくれるだろうが!!」


 剛志の返答に笑いが堪えきれなくなった雄吾は、思わず吹き出してしまった。

 それを見て、剛志がいい顔をするわけもなく怒りを露わにする。


「何笑ってんだよ!」

「あ、ごめんごめん。あんまりにも、間抜けな事を言ってるからつい…ぷぷぷっ」

「ふざけてんのか?!」

「いや、俺が住んでる家が美和ちゃんの母親が大家って言っても、まだ婚約者ってあんた言い切れる?」

「……え?」


 売り言葉に買い言葉で、子供の喧嘩かよ! と、雄吾は思いながらも剛志の間抜けな反応のせいで、また雄吾の笑いは結局止まらなくなってしまった。


「そ、そ、そんで、剛志くんは本当に、美和ちゃんの婚約者なの?」

「くそっ。覚えてろよ!」


 捨て台詞を吐いて剛志はバタバタと店を出てってしまった。


「お、俺、初めてケンカして古典的な事を言われたわ……あははは! おい、沙羅も聞いただろ?!」


 後ろで話しを聞いてた沙羅に同意を求めるように話しかけると、沙羅もお腹を抱えて笑ってる。

 自分と笑うツボが同じだったことに、妹の沙羅と自分の関係もなんら変わりないことに雄吾は安心して沙羅と2人で顔を見合わせてまた爆笑する。


「いやぁ~! お疲れ、お兄ちゃん。面白かった!」

「だよなぁ? そんで、あいつ本当になんなの?」

「美和にはお兄ちゃんに迷惑かけるから本当は黙っててって、言われてたんだけど……先月位からどっかから現れて、美和のことを追っかけ回してる変態。いつもタイミングがいいのか悪いのか、美和とお兄ちゃんが居ないときにしか何故か来ないから、美和が居ないってわかればすぐに居なくなってたんだけど。今日は珍しく居なくならなかったから、お兄ちゃん呼んじゃったよ」

「先月から?!」


 あっちの剛志はメールで別れ話するくらい、軽いヤツだと思ってた雄吾はやっぱり違和感を感じる。

 世界が違ってもここまで性格が違うなんて、雄吾は聞いたことがなかった。


「あ、そうだ。俺、研究所に行くんだった。美和ちゃん居るんだろ? 大志もいるしだろうし、なんか作って持ってくわ」

「あ、サラダとスープとかがいいんじゃない? あそこの食堂、ギトギトの揚げ物しか出ないじゃなかった?」

「あぁ、そうする」


 この世界の美和に会えることが嬉しいのと、今の自分の状況がわかると思い心を弾ませながら研究所に持っていく料理をニヤニヤして雄吾が作っていたのは……ここだけの話にしとくことにする。


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