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初対面の恋人  作者: YUKARI
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3 お散歩。

 時は戻って、今日は雄吾の店の定休日。

 休みの日にナルと少しおもしろい所に散歩に行こうと、前に約束をしていたのを思い出し雄吾はナルにどうしたいか聞こうと話しかけた。


「今日はナルどこに行きたいんだよ?」

「うーん。面白いところなら何処でもいい!」


 雄吾とナルは雄吾が中学生のときに、ちょっとした事件で出会ってそれから雄吾が飼うことになった。

 ペットというより、年の離れた兄弟みたいな感覚で2人は過ごしている。


「あ、じゃあ、鏡の世界にでも行く?」

「あっちの世界だと、僕の魔力落ちるから雄吾がなんとかしてくれるなら」

「ん。わかってるよ。じゃあ、洗面所の鏡から行くか」


 鏡の世界の人間たちは魔力がないからなのか、動物の言葉がわからない。というのを前に鏡の世界に遊びに行った時に、雄吾は初めて知った。

 ナルと普通に会話をしていたら、変な目で見られたことを思い出し、ナルとの会話は気をつけよう。と考えながら、鏡をツンと軽く弾くと鏡が歪む。歪んだタイミングで鏡に飛び込むと、あっという間に鏡の世界に到着する。


「雄吾、なんかこの部屋おかしくない?」

「だよな? 俺の部屋から入ったから反対世界の俺の部屋のはずなんだけど、なんで女物ばっかりあるんだこの部屋」


 鏡の世界は雄吾の世界と物の置き位置が逆になるだけで、雄吾が部屋に置いてない物があるわけがない。

 1年前に来た時はそんな事は無かった。ベッドもテレビも雄吾の部屋と同じ物はある。だが、ベッドカバーもカーテンも女性が好きそうな色で雄吾の好みではない。


「ナル……俺って、いつの間に彼女出来てたんだ?」

「何寝惚けたこと言ってんの? 僕はここ数年、雄吾に女の影すら見たことないよ」

「冗談だよ。真に受けんなよ」


 イタリアから帰ってきてから、女の影すらなかったことは雄吾自信が一番理解している。軽くナルに冗談を言ったつもりが、真面目に返され雄吾は膨れる。

 そんな雄吾を無視をし、ナルが不思議そうに部屋中の匂いを嗅いでる。


「ねぇ、この部屋に雄吾の匂いないし、雄吾の物なんにもないよ」

「俺の匂いがない?」


 見るからに女物しかない部屋に、自分の物がないかも。とは、薄々は気付いていたが、自分の匂いがないと聞けば雄吾も少し不安になる。


「この世界の俺は、どこに居るんだ?」

「お店に行ってみる?」


 雄吾たちがこっちの世界(鏡の中)の人間と関わってはいけないって言う決まりはない。

 だが、なにも問題がなければ、自分とは接触してはいけないという決まりはある。だけど、この部屋が雄吾の部屋のはずが、雄吾の部屋じゃないとなれば雄吾がこっちの世界では存在してないのかもしれない。

 多少、何かが違えと雄吾の世界と鏡の世界は、基本的には並行世界なのだ。

 その為、自分と同じ存在の人間が存在していないのは、おかしなことで問題になるのだ。

 

 雄吾は2年程前から自分で、パスタがメインのイタリアンの店をやってる。

 自分が一番居るであろう場所、その店に行けばなんかわかるかもしれない。と、1人と1匹はそこに急いで向かった。


「ファ、ファ、ファミレスって、どういう事だぁぁぁぁあああ!!」


 雄吾の叫び声がファミレスの前で響き渡る。


 日本に帰ってきてから、なけなしの金でそれなりにいい立地の場所を借りた。そこそこ波に乗ってた。そんな、自分の店がここがいくら自分の世界ではないと言っても、自分の店が無いことがどうしても納得難く出来ず雄吾は叫んでいた。


「雄吾のバイクないし、雄吾の匂いしないよ」

「まじかよ?! なんかの弾みで違う時間に飛んだとか?」


 違う時間と自分で言ったものの、ここに向かってくる途中に今日の日付は確認してた雄吾。

 焦りつつも店の中を外から確認すると、雄吾の店で働いてくれてる人たちが働いてる姿が見える。


「金の向きを反転させて……店に入ってみて。あ、こっちの奴らは魔力ないみたいだから、堂々と魔法使っちゃいけないのか。裏行くぞ、ナル」

「あ、ちょっと待って! この裏にあの部屋の匂いの人が居るよ。隠れた方がいいよ!」


 部屋の匂いの人。自分の店がファミレスになっていて、自分の気配すらないのだから手掛かりとして、どういう人が自分の部屋に住んでるのか雄吾も気になる。


「うぅっ、メールで別れようとかありえないんだけど。なんで、電話にも出ないんだよぉ。剛志のばかぁぁぁぁぁ」


 何気なく聞こえた声に、メールだけで別れようとか最低な男だな。

 なんて、お気楽なことを考えてた雄吾に、小声でナルが話しかける。


「……あの泣いてる子が、部屋の匂いの子だよ」

「え?! まじ?!」

「雄吾、声デカいよ」

「あ、わりぃわりぃ……」


 泣いてる子の顔が雄吾の位置から見えない。しかたなく魔力で姿を消して、彼女を観察しよう。と思った雄吾だったが、思いとどまる。

 ナルもそうだが雄吾自身も自分の世界よりも、使える魔力が少なくなる。この後をどうするかまだ考えてなかった雄吾は、魔力を使うのを諦め彼女の行動だけを遠目から見ることにした。


「あれ? 美和もう休憩終わりだよ……って、泣いてるの?! 何? どうしたの?!」

「剛志がメールで別れるって、電話も出ないのぉぉぉぉ。わーーーーん。沙羅ぁぁぁぁぁぁ」

「はぁっ?! なにそれ? ……そんな顔じゃ、ホール戻れないね。ちょっと待ってて、店長に言って来るから」

「……ふぇぇぇん」


 失恋したときは泣きまくって忘れる! 自分の店の子だったら、家に帰してあげるなぁ。

 と、考えてると、雄吾はあることに気がつく。


「おい、ナル。美和って名前は聞いた事ないけど、沙羅ってあの沙羅だったか?」

「僕が見た限り、雄吾の店で働いてる雄吾の妹だね」

「だよなぁ? 声からして沙羅だったわ」


 雄吾の店には美和という名前の子は働いてない。

 さっき、外から店の中を見た感じだと店の従業員は雄吾の知ってる人しか居なかったが、妹の沙羅が自分のことを店長と呼ぶとも考えにくい。

 雄吾の店のある場所で、自分じゃない店長という人物に苛つきながら、誰が来るのかと裏口を雄吾はジっと見つめる。


「ちょっと、美和ちゃん! 大丈夫?!」

「てんちょおおおおおおおおお……うわぁぁん」

「はいはい、そんなに泣かないの。今日はもういいから明日夕方から元気に来てちょうだい」

「あい……わかりました。すいません。ありがとうございます。着替えて帰ります。ぐすっ」


 雄吾がしようと思ってたことを、裏口から出てきた店長がしたことによって好印象を抱いた雄吾だったが、登場した人物に対して驚きの声が上がる。


「うんうん。いい店長じゃん……って、なんで、ホールマネージャーの朱美ババなんだよぉぉ!」

「雄吾うるさい! 美和ちゃんって子、着替えたら出て来るんじゃないの?」

「あっ」


 ナルに文句を言われて、雄吾は問題を1つ思い出す。

 いくら、元の世界であの部屋が雄吾の部屋だとしても、こっちの世界では美和の部屋だとしたら。


「……あの部屋が美和ちゃんの家だったら帰っちゃったら、雄吾が部屋に入ったら変質者扱いされるんじゃないの?」

「だよな?! 俺バイクないし、美和ちゃんって子がなんか乗り物で来てたら追いつけな……」

「あ! 雄吾。あの子、原チャリ乗ってる!」

「げっ?! まじ? こっちで姿消さないで転移するのは禁止されてるし……ナル、ごめん! カラダ借りる」


 雄吾はナルのカラダに向かって飛び込むと、姿消して空を飛ぶ。

 自分の世界なら自分とナルの姿消しながら転移するのは簡単に出来るのだが、自分より体の小さいナルに入って魔力の節約することにした雄吾。


 ──やっぱ、こうなったよねぇ。

 ──だって、こうする以外に思い浮かばなったんだって。

 ──怒ってるわけじゃないけどさぁ~


 雄吾は体を借りたナルと頭の中で会話をする。

 雄吾は普通にしてるつもりでも、ナルには「あぁ、雄吾も魔力がギリギリなんだな」と感じているから、文句という文句は言えない。

 家に入れても、雄吾の部屋に帰れるかも微妙な状態なのだ。


 ──って、なんで俺ってばオートロックの家に住んでるの?! ナルのカラダじゃあエントランスの鍵に届かないから開けられないんだけど!

 ──僕に今そんな事を言ったって、魔力ないんだからどうしようもないんだけど……あ、美和ちゃんって子来たよ?!

 ──この世界だと、マンションには結界ないよな……。

 ──え?! 雄吾だめだって。あ、こら。だめ! 転移したら、魔力不足で僕から出られなくなるよ?!


 家の中に入るには、もう家の前でナルで捨て犬のふりするしかない。美和ちゃんが動物嫌いではないことを願って、雄吾は姿を消して部屋の前に転移した。


 ──雄吾……魔力ほぼないじゃん。これじゃあ、帰れないよ?

 ──とりあえず、美和ちゃんにナルとして拾ってもらおう。

 ──もう、僕知らないよ。ほら、美和ちゃんエレベーター降りて来たよ。


 魔力がなくなれば体力も同じくらい消耗する雄吾は、ナルと話す気力も無くて寝そべってたカラダを気合いで起こして座る。


「え?! なんで、犬がここに居るの?!」


 可愛くシッポを振りながら、必死に犬のふりをして美和の顔をここで初めて雄吾は見上げる。


 少し染めた茶色い髪の毛を頭の上でお団子で束ねて、小柄で色白で……泣いてたからか、目は赤くなってるけが目はクリっとしていて大きい。


 雄吾のタイプの女の子だった。


 ──俺、雄吾って言うんだ。


「ユウゴ……?」


 無意識に無い魔力を使って、ちゃっかり自己紹介をした雄吾。

 自分でも魔力を使ったことに気付いてない雄吾は、名前を呼ばれたことに驚くも、ナルは魔力を使ったことに気付いてたらしく「本当に単純バカ」と言ってるのを雄吾は聞こえない振りをする。


「とりあえず、お家の中に入ろうか? ユウゴ」


 美和はナルの頭をわしゃわしゃ撫でてから、自分の部屋に招いてくれた。


 ──あー、ナル。俺もうダメだわ。少し寝るから後は任せる。

 ──わかった。あとは任せて。


 それから、雄吾はナルの中で眠りに落ちた──。

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