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初対面の恋人  作者: YUKARI
2/14

1 出会い

 ここは雄吾の居る世界とはまた別の世界。

 魔法なんてものがあるわけでもなく、もちろん犬と会話が出来る世界でもない。


 そんな世界で自身のバイト先であるファミレスの裏口の方でシクシクと泣いてる女、河合(かわい) 美和(みわ)


「ううっ。いきなり、なんなのよぉ。メールで一方的にぃい」


 バイトの休憩中に仕事中に来ていたメールを確認したら『別れて。もう、メールも電話もしてこないで』と半年付き合ってた彼氏からの剛志からメールが来ていた。

 電話をして来るなって言われも理由も気になる、メールだけ別れ話なんてずるい。と思い、剛志と連絡を取ろうとしても取れなく、悲しいやらムカつくやらで美和の涙が止まらなくなってしまった。


 休憩が終わっても仕事に戻らない美和を様子を見に来てくれた同じバイト先の沙羅(さら)が、泣いてる美和を探しに来た。

 沙羅はその泣き顔を見て、これ以上は仕事をするのは無理だと判断し、店の店長に帰宅の交渉をしてくれて美和はそのまま家に帰ることになった。


 それでも美和の涙が止まることは無く、泣きながら出勤に使ってる原付きバイクに股がる。


 美和はマンションで、一人暮らしをしている。

 母親が結婚前に購入して賃貸に出していた少し立派なマンションがしばらく、空室であったため「二十歳も超えたんだから、自立しなさい」と言われて母親名義のマンションの管理費だけで住まわせてくれてる。

 そのおかげでフリーターをしながらでも、マンションに美和は暮らせている。


 泣きながらマンションに到着して、エレベーターを降りるとその家の前にこの場所に居るはずのない何かが居る。


「……ワンッワンッ!!」

「え!? 犬? なんで、うちの前に座ってるの?」


 どこかの家の犬かと、焦って周りを見渡しても飼い主らしい人は見当たらない。

 このマンションはペット可だが、ペットを飼うなら首輪は絶対と決まりあるがあるが目の前の犬は首輪をしてない。


 オートロックのこのマンションに迷子の犬、野良犬が入って来るはずもない。

 目の前の犬は黒くて綺麗な毛並みで、犬の種類はわからない美和だがつぶらな瞳で凛々しくてカッコよく見える。


 猫より犬派の美和だが、特別に犬が好きなわけではないが思わず犬の頭に手が伸ばして撫でみるといつの間にか、涙が引っ込んでいた美和の頭に何かが聞こえた。


 ──ユウゴって言うんだ。


「ユウゴ……? とりあえず、お家の中に入ろうか? ユウゴ」


 この犬に飼い主が居るかわからない状況のはずなのに、美和は無意識にユウゴを家の中に入れた。

 彼氏に振られた。そんなことは、美和の頭の中からすっかり抜けていた──。


 ******


 ユウゴと美和が一緒に生活を始めて3年。

 あれから、美和は同じ場所でバイトを続けていてその帰り道。


「……そういえば、なんでユウゴって名前にしたんだっけ?」


 ユウゴが家の前に居た時は、オスかメスもわからないのに男の子の名前を付けた美和。

 頭がいい犬だから部屋を荒らす事もしないし、エサと散歩だけで特に手の掛からない犬で良かっただなと。3年ユウゴと一緒に住んで、改めてそう思う美和。


「ただいま、ユウゴ……って、あれ?」


 いつも通り美和がバイトから帰って来ると、何か家の中に違和感を感じる。

 ユウゴが美和の足元にまとわりついて甘える仕草をしてるのは、いつもの事……なんだが、美和は家事とかは得意ではない。

 台所にお皿が溜まる、洗濯が溜まる、ゴミを出し忘れてそのままとか日常茶飯事。

 これでは「ユウゴが可哀想だから実家にユウゴを連れて来なさい!!」と抜き打ちチェックに来る母親に美和はいつも怒られている。


 そして家の中の違和感はそんな母親が怒りながら勝手に来て片づけてくれてる時の感じに似てるが、母親の姿はどこにも見当たらない。いつもだったら、美和が帰って来るまで家に居てお説教コースだ。


「お母さん来たの? ユウゴ?」


 そんな事を聞いても「くぅーん」と鳴いて尻尾を振ってるだけだから母親が来たかどうかは、わかるはずはない。


「ユウゴがやったの?」


 言ってみたものの犬がそんな事をする訳がない。きっと、お説教する時間がなくて母親がさっさっと帰ったんだろうと美和は自己解決する。


 とりあえず、ビールでも飲んでから夜の散歩にでも行こうかと冷蔵庫を開けるとまた不思議な事が。


「スープとサラダ……?」


 オカシイ。この家の冷蔵庫はビールと水とお茶しか入ってない事の方が多い冷蔵庫。

 その冷蔵庫の中に有名なさけちゃうなんたら以外の、誰かの手作りであろう鍋に入ったスープとサラダが入ってることは、料理を家ではしない美和の家の冷蔵庫にあることがありえないのだ。


 母親は掃除とかしても、ユウゴに餌をあげるだけでここまでしてくれない。

 他にこの家のカギを持ってるの人を必死に考えても、後は父親くらいしか思い当たらない。


 それだとしてもだ。怒ってるのか何を考えてるのか、基本的にわからない堅物の警察官の美和の父親が、こんなことをするわけはないと考え直す。


 父親以外の人と考え直してみると美和の頭の中には、不吉なことしか思い浮かばなくなる。

 空き巣、変質者、もしくはストーカー。

 でもユウゴは知らない誰かが来たらが、利口な子だから吠えたり暴れたりしてマンションがきっと騒ぎになる。

 大人しくしてるユウゴを見て、安心したのかポジティブなのか美和は小さな声で呟く。


「……た、食べれるのかな? ユウゴどう思う?」


 サラダのラップをはがして悩んでる美和を大人しく見てたユウゴは、サラダに入ってた生ハムをペロッと1枚食べてしまった。


「え、ちょっと、ユウゴ?!」


 生ハムは塩分が多い。犬に食べさせちゃいけない物だと思い焦った美和は、ナルの口から出そうとしたがもう飲み込んだ後で手遅れ。


「わんっ!!」


 舌を出して、美和を見ながらシッポをフリフリ。


 ──食べて大丈夫だよ。


 何故か美和にはユウゴがそう言ってる気がした。

 バイトが朝から通しで昼に賄いを食べてしまったから、夕飯は食べて無いので美和はもちろんお腹空いているが、ユウゴと散歩行った時にコンビニでなんか買おうかと思ってたくらいで、我慢出来きないほどではない。

 ビール片手にあぐら姿で冷蔵庫の前で「うーん」と、唸って悩んでる美和の姿は間抜けな姿だ。


「ユウゴ!! 私、食べるよ!! ユウゴ!! 箸持って来て」

「わんわんっ」


 ユウゴに後押しをされて食べる決意をした美和に、いつもコンビニで余分にもらって溜まってる割り箸を銜えて持って来るユウゴ。

 

 スープを温め直しながら、ゴクリと唾を飲み込みながら恐る恐る箸をサラダに持っていく。


「……あれ? これ、食べたことある」


 サラダにかかってるドレッシングは売ってる物ではない。そうなると、美和の家のキッチンで作った物ではない。

 料理は焼く事しかしないから調味料だって、塩コショウしかない美和の家のキッチンでは作れない。

 それにサラダの入ってるオシャレなお皿に、スープの鍋も美和の家のものではない。


 そして、またスープを口にすれば美和の心臓がドキッと高鳴る。


 何処かで食べたことがある。

 それに、このスープが大好きで毎回作ってと誰かにねだって呆れさせた気がする。


 だけど、そんなことをした気がするだけで、美和の頭にはそんな記憶はなく頭を悩ませるだけだった。


 ******


「あー、夜になっても外はまだ暑かったねぇ……ユウゴ、水置いとくよぉ」


 スープとサラダを食べてから、美和はユウゴの散歩に出かけた。

 暦では秋だっていうのに外はまだまだ暑い。散歩から帰って来てから、コンビニで買ってきた夕飯はそのまま冷蔵庫に入れてお風呂場に向かう。


「あぢぃ、あぢぃ……」


 ブツブツ言いながら、シャツとズボンを洗濯機の中に放り込んで美和は下着だけになる。


「ん? やっぱり、家の掃除してくれたのってお母さんじゃない…?」


 あることに美和は気づく。

 部屋は綺麗になつてたけど洗濯物は溜まったまま。母親が来れば文句は言いつつも、洗濯物まで片づけてくれる。

 散歩に行ってる間にあの料理は「母親が誰か作ってくれたのを持って来てくれた」なんて、勝手に納得してた美和だが、掃除してくれたのって母親じゃなければ「じゃあ、誰?」とまた頭を悩ましていると誰かの声が聞こえた。


 ──流石にちゃんと付き合ってない、女の子の洗濯までしちゃ変態かと思ってさ。


「え?! 何?!」


 男の人の声がしたと思い、驚いて後ろを振り向く。


「……あれ? 誰もいない?」


 誰が作ったかわからない物があって、警戒して変な声が聞こえた気がしたのかもしれない。

 いつも通りだが、バイトが通しだったから疲れてるのか。早くシャワー浴びて、寝たほうがいいのかと胸まである長い髪の毛を束ねてたのを解こうと洗面所の鏡を見る。


「えぇっ?!」


 鏡の中には、美和より首1つ分位背の高い男が、美和の肩に手を置いて美和の顔の横でニッコリ笑ってる。


「きゃーーーーーっ!! だ、だ、だ、だれ?! ユウゴっ!! ゆうごおおおおおおお!!」


 美和はその男に驚いて腰を抜かしながら、ユウゴに助けを求めて叫ぶ。

 しかし、狭い脱衣所をいくら見渡しても自分しかその場に居ない。


 あれ? 錯覚? そんな風に思ってるとまた男の声がする。


 ──雄吾って、俺の事なんだけど?

 

「お化けっ?!」


 美和が腰を抜かしてる位置からだと、脱衣所が見渡せる場所に居る。

 だけど、誰も居ない。


 この部屋を賃貸に出してた時に、この部屋で亡くなった人か? だけど、美和は母親からそんな話は聞いたことがない。

 ユウゴって俺だけどって言ったから犬のユウゴが人になった? 色々なことが頭を駆け巡り、何も考えられない状態で床をハイハイで脱衣所を出る。


「ユウゴぉ……ユウゴぉぉぉぉ!!」

「わんっ?」


 リビングでくつろいでたユウゴが、美和の所に来て不思議そうな顔で美和を見上げる。

 さっき美和が考えていた犬が人になった。と思ってたことが1つ解決したものの、さっきの声はやっぱり幽霊かと結論に行きつく。


「キャンッキャンっ!!」


 怖くなってしがみ付いてたユウゴが、美和の腕の中からスッと抜け出す。目の前に誰も居ないのに、その場に誰かが居るかの用に洗面所の前でシッポを振って吠えてる。


 ──洗面所の鏡見て。


 また、声がした。

 怖くなってその場を動けなくなってる美和に、また声が掛けられる。


 ──幽霊じゃないから、鏡見てって。


 何が何だかわからなくなった美和は、やけくそだと思いながら恐る恐る洗面所の鏡の前に立つ。


 鏡の中を見れば少し長めの黒い髪の毛に、フワッとした柔らかいパーマがかかってる男の人と鏡越しで目が合う。

 さっきは驚いてよく男の顔が見れなかった美和だったが、ユウゴが人だったらこんな感じなのかもしれないと、思わせる人懐っこい顔の男の人が美和の頭に手を置いてニコニコしてる。

 その人の足下を見ると、多少は吠えてるものの威嚇をした感じでもなくお座りをして男の人を見上げてユウゴがいる。


「だ、誰ですか?!」


 ──だから、俺が雄吾だって。この犬は俺の犬でナルって言うんだけど。


 鏡の中の男は美和とユウゴを交互に見ながら話をする。

 チラッと自分の後ろを振り見ても、やっぱり鏡の中の人は居ない。これで、この人が幽霊じゃないって言うならなんて言う物なのか。


 ──明日の朝になったら、多分わかるはずだよ。じゃあ、ゆっくりシャワー浴びて? じゃ、おやすみ~


 固まってる美和の髪の毛にチュっとキスをして、その男は消えた。

 何がなんだかよくわからなくなってる美和は、雄吾に下着姿を見られたことにも気づかないままボーっとしたままシャワーに向かった。


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