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初対面の恋人  作者: YUKARI
13/14

12 雄吾とナル

 買い物を終えて美和の実家に向かってる途中、美和はふと考える。


 美和の中の父親は、母親にあんな気遣いする人じゃなかった。いくら考えても、美和が知ってる父親の言動ではない気がする。

 「父親が大好きだったか?」と聞かれれば、大好きとは言えないし、父親を確かに避けてはいたが、尊敬はしている。だが、ナルの対しての優しい顔も自分の知ってる父親ではない。

 やっぱり自分が今までいた世界とは違うのか。と、ズキリと美和の胸が痛む。


 ただそれは、素直じゃない護のせいで美和が気付いてなかっただけで、余計な心配だったと気付くのはもう少し先の話になる。


 そして雄吾は美和と別のことを考えていた。


 成り行きで美和の実家に来ることになったが、美和の母親の美里とも話した事ない仲ではないにしろ美里の記憶がどうなってるかは雄吾は知らない。

 彼女の実家に初訪問。付き合って1年くらい経っているなら、初めての実家訪問ではないかもしれない。

 正しくは雄吾が店を出す前に1度、酔っ払った護を送って来たことはある。だが、その時は美和の存在も無かったはずだし、美里にも顔を合わせてない。

 護と顔見知りで良くしてもらってるかと言って、ここにいる雄吾は彼女の実家として初の訪問で緊張はする。


 緊張した時に何も出来なくなった時のためと思って、雄吾はナルも連れて来た。けれど、ナルと美里もこの世界だと挨拶した時にしか会ってないことを思い出す。


 どうしたもんか。と、考えてた雄吾に美和が到着したと声を掛けてきた。

 何を作ればいいか? と、緊張で焦ってた雄吾は思ってたより買い物をしてしまったため、美和の片手には買い物袋を持っている。

 浮遊させれば美和に持たせることもなかったのだったが、雄吾はそこまで頭が緊張で回っていない。


「あれ? お母さん、いないのかな?」


 家のインターホンを押しても反応がない事に首を傾げる美和。

 居ないのか。と、なんとなくホッとした雄吾だったが、後ろから声を掛けられて雄吾の安意は無駄になった。


「……あら? あなた達。なんでいるの?」

「あ、お母さん!」


 何故か買い物袋を持っている美和の母親の美里が雄吾と美和の後ろで、不思議そうな顔をしている。


「こ、こんばんわ。俺ら護さんに用があって、夕飯を俺が作るって話になってたんですけど……聞いてませんか?」

「護さんから? 何も聞いてないわよ? まったく、美和が来るから焦って、私に言い忘れたのねぇ。まぁ、いいわ。ほら、ナルちゃんもいらっしゃい!」


 ポンとっ美里がナルの頭を叩いて人の姿に変えて、家の玄関を開ける。

 美里のことをナルは「ママ」と呼んで、美和たちより先にはしゃいでナルは家の中に入ってしまった。


「ねぇ、美和ちゃん? こっちだと、ナルと美里さんほぼ初対面のだと思ったんだけど……あれって、普通なの?」

「え、初対面なの?! 人の姿に変える以外は、多分あっちでもあんな感じだった気もするけど……」


 そう言って、また首を傾げる美和。

 美和の居た世界だと美里がマンションに来ると、必ずと言っていいほど美里もナルを可愛がってた。

 人見知りは滅多にナルはしないが、ナルにとってはどっちの美里も知ってる美里になっていたようだった。


 その行動に驚いてる2人もいつまでも、玄関先にいるわけには行かないため続いて家の中に入る。

 

「美里さん、キッチン勝手に使っても大丈夫ですか?」

「何、今更なことを言ってるのよぉ。いつも勝手に使ってるじゃない! 今日も美味しいお料理楽しみにしてるわねぇ」


 いつも勝手に使ってる。と言った美里の言葉に、そんなに美和の実家に遊びに来るほど親公認の仲なのかと雄吾は驚くと同時に、美里は雄吾と美和に記憶がないことを知らないと気づく。


「それにしても、ナルちゃんは大人にならないわねぇ……ナルちゃん、いくつだっけ?」

「多分、雄吾と同じくらいだよー!」


 状況が掴めない雄吾は黙ってキッチンに入り、美里とナルの会話に聞き耳を立てると雄吾も前から思ってたことを美里がナルに聞いてるのが耳に入った。

 いくら魔力のある世界だからと言って、犬が年を取らないわけがない。

 雄吾が中学の時に拾ってから、犬の姿でも人の姿でもずっと子供の姿のナルに雄吾も疑問を持っていた。


 キッチンでリビングの美里とナルの会話を聞きながら、夕飯の下ごしらえをしながら雄吾は中学の時にナルに出会った日のことを思い出していた──。


 ◆◇◆◇


 雄吾が中学に入ったばかりのこと。

 雄吾と同じくらいの魔力を持った、同世代に初めて大志と知り合ってふざけて遊んでた頃の話。


「今日は大志、何して遊ぼうかー?」

「あ! ワンコ釣りしよーぜ!」


 「ワンコ釣り」名前からして、動物虐待としか聞こえない遊び。

 鏡の世界から鏡から手を突っ込んで、掴み取りしてどちらが大きい犬を捕まえるかというゲーム。

 名前からして怪しい遊びだが、怖がる犬はすぐに元の世界に返すし、人懐っこい犬とは遊んだりしてた。


 鏡の世界の犬はこの世界に来ても魔力のある人間が、犬に魔力を入れないと基本的には人の言葉は喋らない。


 いつも遊んでいる公園の裏に少し大きい姿見を立てかけてあるのを見つけた時に、喋らない犬なら誰かにバレて怒られることはない。と思った2人で考えた遊びだった。


「あれ? なんか鏡にヒビ入ってる」

「本当だ。こないだは、なかったよなぁ? でも、これ位なら平気じゃね?」


 いつも通りに「ワンコ釣り」をしに公園に遊びに来た2人は、その鏡には上の方に、うっすらと線が入ってた。

 その時は大志も雄吾も気にしないで、いつも通りに犬釣りをして遊んでいた。


「あーぁ、俺のは今日はちっこい犬だったー」


 ちぇッと軽く舌打ち交じりに、いじけつつも捕まえた犬を大志はグシャグシャっと撫ぜながらじゃれてる。


「よーし! 俺の番っ!」


 意気込んで雄吾が鏡の中に手を突っ込んだ時――!


 ――バチーンッ


「うわっ! いってぇ!!」


 雄吾が手を鏡に突っんだ瞬間に大きな音を立てて、鏡に弾かれて尻もちを付く。


「おい、雄吾? 何してんだよ。大丈夫か?」

「あ、うん。だいじょ……え? うぐっ……」


 大志に声を掛けられて、立ち上がろうとした時に鏡の中から犬が飛び出て来て、雄吾の上にドスンと落ちて来た。


「は? 俺捕まえてないのになんで?!」

「なんだ、こいつ?」


 雄吾の上に乗っかったままの犬を、大志は屈んでつっつきながら見てる。


「あっ」


 起き上がろうとて、犬を抱えようとした時に雄吾と犬と目が合う。


「お前、大丈夫?」


 鏡の世界の犬だから、話すとは思ってないが雄吾が犬に声を掛けてみる。


「……あんた、誰?」

「え? は、話したっ?!」


 話すわけないと思ってた犬が話し出し、雄吾と大志が驚いたと同時に犬は雄吾から飛び降りて2人に対して威嚇を始める。


「がるるぅぅぅぅっっ!!」


 雄吾と大志はそれに驚いて、距離を取ろうと少しずつ後ろに下がる。


「お、おい。あれって、威嚇だよな?」

「う、うん」

「早く、あっちに返そうぜ」

「でも、あいつ喋るよ? あっちの奴なの?」

「し、知らねぇよ。鏡……っ! あっ! 割れてる!」


 大志が鏡が割れてると言うから、雄吾も目だけで確認すると確かに割れている。


「ど、どうすんだよ。大志が捕まえた犬も返さないと」

「どうするって、言われたって。あの鏡からじゃないと返せないだろ?」

「あ! それより、あの犬やばいよ?!」


 2人を威嚇してる喋る犬は、こっちから視線を離さずまだ唸ってる。


「お前らーーっ! 何やってんだっーー!」

「「げっ?!」」

 

 どうしようかと、慌ててると鏡が立てかけてある壁の上から護の声がして、2人は同時に声を上げる。


「なんだ? この威嚇してる犬は」


 威嚇してる事をなんとも思ってないのか、トンと壁の上から飛び降りて平然と犬に護が近づいて行く。


「し、知らねぇよ! 急に威嚇してきて……」

「じゃあ、そっちの犬は? 怯えてるし魔力なさそうだけど?」

「あ、あれは、こっちの世界の犬じゃない……」


 護には隠し事が出来ないのが分かってる2人は、諦めモードで正直に話す。

 威嚇してる犬の事はなにも言えず、バレてるかもしれないが鏡から出てきた事でタイミングを逃して話せないでいると、軽く2人を睨んだ後に威嚇してる犬に近づきながら優しく話しかける護。


「おーい。何そんなに怒ってんだー?」


 それでも威嚇を止めるわけでもなく、頭がいい犬なのかパッと姿を消す。


「あ、消えちまった」

「お、おやっさん、どうすんだよ!」

「んだよ、お前ら……まだ見る事できねぇのかよ」


 その時の2人はまだ、姿を消してる物を見る術をもってなく威嚇して唸ってる犬の声だけが聞こえて挙動不審に怯えることしか出来ない。 


「さぁて……っと。おっ?」


 しゃがみ込んだ護が、ひょいっと何かを掴むポーズをすると、首根っこを掴まれた犬が姿を現した。


「離せ! なんで、僕にかまうんだよっ! わーっ! わーー!」


 首根っこを護に掴まれながらも暴れてる犬。


「はいはい。元気だなぁ! 暴れない、暴れなぁい!」

「触んなー! いーやーだぁ、は……な……」


 護がポンと犬の頭を叩くと犬が静かになる。 


「おやっさん、何したの? 大丈夫なの、この犬っ?!」

「あ? 大丈夫、大丈夫。この犬、魔力の使い過ぎだ。お前ら、きちんと起きたら面倒見てやれよー。あ、そっちの犬は、俺によこせ。首輪してるじゃねぇか」


 ビビりながら、大志が護に自分が捕まえた犬を渡す。


「でも、鏡割れちゃったから、あっちに返せない……」

「俺はだから、あれほどバカなことすんなって言っただろ」

「いってぇ!」

「いてっ!」


 ゴツンと雄吾と大志を順番に護は殴り、大志から受け取った犬を護は撫ぜて指をパチンと鳴らすと鏡が現れる。

 現れた鏡を護がツンと突いてから「アホなこいつらが悪かったなぁ」と言いながら、鏡の中に犬を逃がした。


「お、おやっさん、すげぇ!」

「すげぇ! じゃねぇよ。それ、渡しといて正解だったな……」

「それって、もしかして……」


 雄吾と大志は顔を見合わせて、腕に付いてる護が言う「それ」を見る。


「あ、それ、お前らが俺の魔力を上回るか、18にならないと取れないから。じゃ、俺は仕事に戻るからな。あはは」


 笑いながら去って行く護を見送る。

 

 護が言う「それ」って言うのは、どこにでも売ってそうなデザインのブレスレット。

 2人が強い魔力を発動させた時に護に通じるようになってる。護に渡された時は、少し色気始めるお年頃な2人は喜んで付けたのだが、雄吾と大志の悪巧みは護に筒抜けだったことに今2人は気づく。

 

 2人は知らなかったようだが、普通の人より魔力がある子供は中学と入学と同時に18歳まで監視が付くのは当たり前のことだった。


「わっ! ここどこ?!」

「起きた?!」


 犬が起きて焦った2人は固まる。


「なんで、僕……抱かれてるの?」

「え、あ、あれ?」


 寝ぼけてるのか、さっきの威嚇が嘘のように大志に抱かれてる犬は、きょとんとした顔で2人の顔を見る。


「お前、もう怒ってないのか?」

「……怒るって、僕が?」

「覚えてないのか?」


 さっきの事は覚えてないのか、少し落ち込んだ顔を見せる犬。


「僕、家に帰る……」

「お前、帰る家あんの?」

「……多分」


 多分って、何を言ってるんだ? と疑問を持ちながら雄吾は大志に「どうする?」と声を掛ける。


「あ! 俺、今日は早く帰んないといけないかった! その犬、雄吾に任せる。じゃあなぁー」

「お、おい……!」


 いつもは、帰る時間になってもだらだら時間引き延ばす大志。

 犬を雄吾に押し付けたかったことがバレバレの態度に呆れながら、犬を置いて走り去って行く大志を見送ると、犬は尻尾を振って雄吾の事を見上げてる。

 

「お前、家どこ?」

「送ってくれるの?!」

「なんか、俺らのせいだからな」

「んー? 僕になんかしたの?」


 なんかしたと言えばそうだが、鏡から勝手に飛び出して来た犬なだけで雄吾は何もしていないはず。

 それでも、無邪気な顔をして自分のことを見る犬に絆されて、雄吾は溜息をつく。


「はぁ……ほら、行くぞ。お前んち連れてけよ」

「うんっ!」


 何故かはしゃぐ犬に雄吾は黙って付いて行く……付いて行く?


「おい、お前……ここ、俺んちだけど?」

「うん! わかってるよ? だって、雄吾の匂い辿ったんだもん」

「へ? 俺の名前、なんで知ってんの?」

「大志が面倒な事は雄吾に任せよっ。って、言ってた……んじゃなくて、思ってたよ。あ、僕はナルだよ! よろしくねっ」

「よろしくって、お前まさか……」

「僕のことは、弟だとでも思ってくれればいいと思うよっ」


 そう言って、雄吾より先に家の中に入ってそれからナルは雄吾の家に住み着いたのだった──。


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