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初対面の恋人  作者: YUKARI
11/14

10 知り合い?

「帰っていいって言われたけど、本当に良かったのかな?」

「多分……あ! おやっさん、大事な話を美和ちゃんにするの忘れてるよ」

「大事な話?」

「うん。おやっさん他のことで頭いっぱいで、僕も久々にきちんと魔力を使ったから……大事な話が隅っこにあるの今気付いた。どうしよっかなぁ」


 ナルの言っていることが、よくわからない美和は首を傾げる。


「あ。僕は人の中に魔力流すと、はっきりと心の中で考えてることがわかるだ。あとは、僕のことを信用って言うの? してくれてる人なら見ようとすればだけど、なんとなくは考えてることはわかるよ」

「あ、だからさっき、研究所のパトカーのこと私は何も言ってなかったのにわかったの?」

「それは、美和ちゃん……ボーっとしながらブツブツ口に出してたよ。僕だって、毎回、毎回、人の考えてること見るなんて、失礼なことしないよ!」

「さようでございましたか……」


 自分が無意識に話してた独り言を指摘され恥ずかしくなって、美和は少し罰の悪い顔をする。

 魔法で人の考えてることがわかって、人の言葉が話せる犬がいる世界。美和はナルには絶対に変なところは、見せないと心に誓った。


 そんな誓いを心の中で決意してると、急にナルが周囲をキョロキョロと見渡して不快感を露わにした。


「なにこれ? この気持ち悪い気配。頭が痛くなりそう……」

「気配?」


 美和にはナルの言ってる気配というものがさっぱり分からない。

 だが、ナルがピリピリした様子で何かを探している。美和も一緒に周囲を見渡してみたが、美和の見える範囲には特別に変と感じるものはない。

 ナルにとって気分が悪くなるものなら、早くこの場から立ち去った方がいいと思った美和がナルに話しかけようとした瞬間――。


「がるるぅぅぅぅっーー!」


 ナルの姿が美和の知ってる大きさではなく、いつもより大きいの犬の姿に変わって美和の前に構えて威嚇を始めた。

 ナルのただならない行動に、ナルが自分と変わらない大きさになった驚きも忘れて慌ててナルに美和は声を掛ける。


「ナル?! どうしたの? 大丈夫?!」

「美和ちゃん! 僕の後ろにいてっ! さっきから、僕たちに付いて来てるやつ誰だ!」

 

 ナルは威嚇を解かずに物陰をジっと睨みつけて叫ぶ。

 ナルが普通の犬だと思っていた時から、威嚇してる姿を今まで見たことが無かった美和は心配をしてナルに触れようとした時、ヘラヘラと笑いながら物陰から男が出てきた。


「おいおい、そんな威嚇すんなって。ワンコがナイト気取りとかウケるんだけど」

「威嚇されるような気配を出してるあんたが悪いんだ! それに僕、そこらへんの人間より魔力あるよ?」


 男が現れてもナルは威嚇を解かない。

 その姿を見た美和はきっと何かあるんだなと思い、ナルの後ろから男の顔をジッと黙って見る。


「……美和ちゃんの知ってる人?」

「え? どうだったかな……」


 今まで一緒に生活してたナルが知らないということは、その間に美和と知り合った可能性は少ない。

 では、それ以前か? と聞かれても「どうだったかな?」というあやふやな反応しか美和には出来なかった。

 でも、確かに美和の中では目の前の男は初対面の気がするのだ。だけど、気がするだけで、何処かで会ったことがあるような気がして「知らない人」とは、はっきりと美和には言えなかった。


「美和……俺のことを知らないのか?」

「えぇ?! お店のお客さんですか?」


 自分が知らないのはずの男に下の名前を呼び捨てにされ、何処かで知り合った人かもしれない。と思った美和だったが、そんなことより怖いという気持ちが先行する。

 ただの知り合いだったら失礼だとも思うが、その男に話しかけられてから嫌悪感を抱くことしか、美和には出来なくなっていた。


「俺だよ! 剛志だよ!」

「剛志……?」


 美和より先にナルが男の名前に反応する。

 それなら自分の知り合いではなく、ナルか雄吾の知り合いか? とも、思った美和だったが、目の前の男はナルの名前じゃなくて先に美和の名前を呼んだ。

 

 ──美和ちゃん、ちょっと痛いけど我慢して!


 どこで知り合った人なのか、必死に思い出そうとしてる美和の頭の中にナルの声が響く。


「っ!」


 ガブリとナルが美和の腕に噛みついた。

 痛いっと抗議をしようと思った美和だったが、ナルの切羽詰まった様子から抗議する気にはなれなく美和は声を押し殺した。


 ――今、言葉で会話しないで! 姿消したからそのまま逃げるよ!

 

 響いてきたナルの言葉にどう反応をしていいか、わからない美和はコクコクと頷いていると男が叫び出した。


「おいおーい! 犬の癖に姿消すとか、まじ生意気なんだけど」


 男の言葉を聞いて、美和はますます恐怖を感じる。

 自分が今どういう状況に置かれているか、わけのわからなくなっている美和はその場に立ちすくむことしか出来ない。


 ――美和ちゃん! 行くよ!


「っ?!」


 姿を消したということは美和にもナルの姿は見えない。ナルが何処にいるのかわからない美和が思わず声を出そうとしたその瞬間。


「はいはい、勝手に何処かに美和を連れて行かないでね?」

「う、うわぁっ!」


 パンッ! と何かを弾いたような音と同時に、元の大きさになったナルが男に首根っこ捕まれていた。


「さてと、美和は……あ、いたいた」


 ナルが美和の姿を消したはずだったが、何故か男には美和が見えている。そして、美和と男は目が合ってしまった。

 男は暴れているナルを掴んだまま、美和に近付く。

 恐怖で美和は後退るが、男に捕まってるナルをそのままにして行くことも出来ない。


「美和ちゃん! こいつ変だよ、早く逃げてっ!」

「で、でも、ナルが……」


 ナルは美和に叫びながら、どうにかしようと暴れているがその効果はない。

 美和がうろたえていると、美和と男の距離はいつの間に手を伸ばせば届く位置に変わっていた。


「美和、ほら行こうよ」


 美和が恐怖で反応が出来ない間も、ナルは美和に「逃げろ」と叫びながら男の拘束から抜け出そうと噛みついて暴れているが、男は平然とした顔で美和に呼びかけて来た。


 こんな至近距離では、どうせ逃げられない……! と一種の開き直りをした美和は、ナルだけでも助ければ雄吾がなんとかしてくれる気がしてナルに手を伸ばす。


「ナルを離してーーっ!!」



 ――そして、叫びながら美和がナルに触れた瞬間、美和の視界が変わった。



「……空? え、空?! 浮いてる? え、浮いてない、落ちてるっ?! きゃああああああっ……って、あれ?」

「美和ちゃん?」


 何故か空中から落下してたはずの美和。地面に叩きつけられた感覚もない。それに、誰かが自分を呼ぶ声。

 落下の恐怖で閉じてた目を、美和はゆっくりと開くと見知った顔が美和の目の前にあった。


「ゆ、雄吾?」

「そうだけど……美和ちゃん、空で何してたの?」


 美和が空から落下して来たことに対しては、驚きがないのか雄吾は不思議そうな顔で美和のことを見る。

 

「なんかあった? ナルもなんか暴走してるし」

「ナル! ナルは無事っ?!」

「無事か無事じゃないか聞かれたら、無事だけど」


 困った顔をした雄吾の視線の先を見ると、大志に首根っこを掴まれて暴れてナルの姿が美和の目に入った。


「わー! 離せーっ! 離せーっ! 美和ちゃん、逃げて! 逃げなきゃダメだよ」

「うわっ! いてっ! 暴れんな、噛むな! 取りあえず、何があったか話せって」

「離せ! お前みたいなキモいヤツに、話すことなんてない! 美和ちゃん、逃げて! 早く、逃げ……て……」

「はぁ……やっと、静かになった。って、雄吾! 今こいつ、俺のことキモいとか言わなかったか?! くっそ」


 静かになったナルを軽く叩く大志。

 それでも自分の置かれてる状況がわからない美和は、ナルが静かになったことを心配する。


「雄吾? ナルどうしたの? 大丈夫なのっ?!」

「ん? あ、魔力の使い過ぎだったから、大志が寝かせただけだから大丈夫だよ」

「魔力の使い過ぎ? だから、いつの間に私……空に?」

「いつの間にって、転移したの? 2人いっぺんに?」


 コクコクと美和が頷くと、大志が感心したような声を上げる。


「へぇ、ナルのやつ自分だけじゃない人も、飛ばせるようになったのか」


 雄吾と大志の会話を聞いていた美和。

 見知った顔を見て美和は安心したのか、ガタガタと震え出した美和の異変に雄吾が気付いた。


「……美和ちゃん?」

「さ、さっき、男がナルが私のこと知ってて……だから……っっ」

「うん、うん。わかった。もう大丈夫だから、美和ちゃん」


 美和が泣きそうな顔をしてるのを隠すように、雄吾は美和を引寄せる。


「なぁ、大志。美和ちゃんの様子も変だから、家に帰ろうと思うんだけど」

「あ、俺も行く」


 雄吾と大志は地面を軽く飛び跳ねて、身体を宙に浮かばせた。


「今度は俺が支えてるから、今回は落っこちたりしないから大丈夫だよ」

「うん……えっ?!」

「ん? どうかした?」


 さっきまで恐怖しかなく自分がどうなっているか考えもしてなかった美和だったが、気持ちが少し落ち着いて周りが見えるようになると、自分が雄吾に抱かれている体勢に驚く。

 今更、気付いた美和だったが空から落下している美和を見つけて、雄吾がいわゆるお姫様抱っこをしてキャッチしたのだから雄吾と最初に目が合った時から既にこの体勢だったのだ。


 俯いて顔を真っ赤にしてる美和を見た雄吾も、距離が近いことを思い出して2人は初々しく顔を真っ赤にして視線を漂わしたのだった──。

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