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≠勇者  作者: 単参院 涼
8/24

#7 城下町


 謁見の間での大立回りの一件があった翌日、澄み切った空の下、煉紅郎はラシュナートを連れ城を出て、王都の中をとある施設を目指し歩いていた。シャルルはと言うと、身の回りの整理する為、城に残っていた。


 昨夜、シャルルが煉紅郎の自室に来た後の煉紅郎は周りの思惑とは違い、いたって冷静に対処していた。シャルルの怪我については追求せず、ただ怪我が大事に至らずに良かったと彼女の頭を優しく撫でた。頭を撫でられ緊張の糸が切れたのかシャルルは顔をクシャクシャにして煉紅郎に向かっていき、彼もそれに応え、彼女の身体を優しく抱きしめた。

 ラシュナートの紹介も含めた処分だが、結局のところ、煉紅郎の側に置く事で話がまとまった。最初は、襲撃の事を聞いたシャルルとカルメンから何故生かしておくのかと言われたが、煉紅郎が暗殺者ギルドの仕組みを説明した事で解決した。まぁ、シャルルは煉紅郎の膝の上に乗っかってからは上機嫌で、ラシュナートの事も吼えたのは最初だけで後は煉紅郎の胸に擦り寄ってその姿はまるで主人にじゃれ付く猫のようだ。

 カルメンは何故か煉紅郎の隣に座りシャルルの髪を優しく撫でていた。


「で、後どれくらいだ?」

「もうすぐだ。ほら、あの建物が冒険者ギルドだ」


 煉紅郎は、ラシュナートを見て改めて不思議な身体を持った奴だと思った。顔はツリ目がちで綺麗な肌もあって中性的な雰囲気を醸しだしている。そしてその身は煉紅郎より頭一つ低く165cmといったところか、ほっそりとしていて現在身に着けている黒装束の上からでも華奢な身体つきなのが分かる。顔立ちが中性的で身体つきも中性的、煉紅郎自身、ラシュナートへの対応に多少なりの戸惑いがあった。


 ラシュナートの指差す方に周りの建物より一回り大きな建築物が存在していた。その名を『冒険者ギルド:マリンシュカ支部』である。ラシュナートはそれを煉紅郎に伝えると自分はギルドに顔を出してくると言い雑踏の中に消えていった。ここが開けた場所である事を考えて言ったようだが、様は暗殺者ギルドに行くと言ったところだ。

 ラシュナートと別れた煉紅郎は単身、冒険者ギルドへと足を向けた。

 ギルドの外観は思ったよりも整っていて綺麗であった。赤レンガ造りの壁が周囲の木造の建物から群を抜いて眼を引き、威圧感にも似た雰囲気を醸し出している。

 ギルドの中に入ると中も綺麗に整っていた。内部には酒場や商店が一つづつ在り、椅子やテーブルなどが所々設置されている。・・・その椅子に座る者や掲示板を眺める者は世辞にも綺麗と言うには遠かった。顔や腕に傷を負った者、身に着けている衣服が所々破けていたりする者が居て、冒険者という職業がいかに命懸けのものかが解った。

 煉紅郎はそう考えながらも受付の下に向かった。


「いらっしゃいませ。こちら冒険者ギルド:マリンシュカ支部で御座います。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付の女性は透き通る綺麗な声で応対した。


「えっと、登録をしたいんですが・・・」

「はい、畏まりました。登録費として一万ハル頂きます。ご準備の方は大丈夫ですか?」

「はい。コレで良いですか?」


 煉紅郎はポケットから綺麗な銀貨を一枚取り出し受付嬢の前に置いた。


「はい、大丈夫です。では、此方の書類に記入をお願いします。代筆は御利用されますか?」

「お願いします」

「それでは、お名前を」

「煉紅郎、斑目煉紅郎」

「レンクロウ様ですね。魔力検査は御済ですか?」

「はい、闇属性です」

「かしこまりました。それと・・・」


 煉紅郎は受付嬢に聞かれるがまま答え、受付嬢も煉紅郎の答えを書類に記載してゆく、幾つかの質問を終え書き込みが終了し、受付嬢は書類の隣に一枚の銀色に輝くプレートと小さなナイフを取り出し説明し始めた。


「書類のココとギルドカードのココに血を一滴垂らしてください。此方をお使いください」

「解りました。・・・コレで良いですか?」

「はい、有難う御座います。これで登録は完了になります。続いてギルドの説明をさせて頂きます。・・・」


 続いて受付嬢からギルドの説明がなされた。

 ギルドに登録された冒険者には幾つかの階級と役職がある。階級は上位・中位・下位とあり、その階級によって、大規模戦闘レイドへの参加や請ける事が出来るクエストが変わってくる。例えば、下位の冒険者は中位以上クエストやレイドには参加できない。これは、前途ある者の命を無下にする事は無いとのギルド側からの配慮である。

 役職は、実際の職業とは違いギルド内での役割の事をさす。前衛・中衛・後衛の三つの役職各三つづつ合計九つの役職がある。内訳はこうだ。前衛職は騎士・剣士・武術家、中衛職は軽戦士・槍剣士・舞闘士、後衛職は呪文士・神官・弓士、の九つである。

 前衛は盾役を主体とし、中衛は中距離からの攻撃と撹乱を後衛は援護と補助を主体となる。

 簡単に役職の説明すると騎士ナイトは金属鎧を着て盾と剣を有し、敵からの攻撃を受ける役割を持つ。剣士ブレイダーは軽鎧を着、大剣もしくは双剣を持ちいり敵からの攻撃を受け流し反撃に転ずる役割を持つ。武術家グラップラーは鎧は着込まずその身と拳、身軽さを用いて的を翻弄する役割を持つ。軽戦士シノビは投擲などによる中距離攻撃とスピードによる撹乱する役割を持つ。剣槍士ランサーは槍、薙刀、戟などを用いて騎士や剣士の背後から中距離攻撃を行なう役割を持つ。舞闘士ダンスマカブルは物理攻撃と魔法攻撃を両方使い攻撃と援護を行なう役割を持つ。呪文士スペルマスターは文字通り魔法よる遠距離攻撃を主に援護を行なう役割を持つ。神官プリーストは回復魔法、付与魔法を主体で後方からの支援が役割となる。弓士アーチャーは多種多様な矢を使用しての遠隔支援や補助が役割を持つ。

 煉紅郎は中衛職の軽戦士を選んだ。


 ギルドカードは冒険者としての身分を証明するもので国境を越える際、他の商人や旅人などより優遇される。それもそのはず、冒険者の本来の役割は街や村、その周辺で起こったモンスターによる問題の解決や予防であるからだ。

 それと階級の昇格や降格はギルドへの貢献や本人の実力や日頃の振る舞いによって決まる。


 煉紅郎が受付嬢からギルドの説明を受け終えるとラシュナートが厳しい顔をしてギルドの入り口に立っていた。


「・・・・・・」

「どうした?」

「ついて来い・・・」


 そう言うとラシュナートは酒場の方に煉紅郎を連れて行く、そして、一番隅にある席に腰を下ろした。


「・・・で、どうした?こんな隅でしか話せない事か?」

「まぁ、気をつけるにこした事は無いからな。それで、本題に入るけど・・・先ず、あんたを狙ったのはギルドから依頼書が俺の所に回ってきたからだけど、さっきギルドに顔を出したら依頼が破棄されたと言われたよ」

「ん?それじゃあ・・・」

「あぁ、あんたの暗殺は無くなった」

「そうか、それは良かった」

「それと、少し気になる事があるんだが・・・」

「気になる事?」

「あぁ、これはギルドで聞いた話だが、幾つかの依頼が破棄されたらしいんだ。それも表と裏、両方ともだ。まぁ、これは噂話の域を出ちゃあいないがね」

「ふむ。まぁ、気にする事は無いんじゃないか?今のところ俺に関わる問題は俺への暗殺指令だけだからな。で、ラシュナート、君はどうするんだ?」

「ん?どういう事だ?」

「どうもこうも無いだろ?依頼が無くなったんだからお前を側に置く必要は無くなったんだ。まぁ、有体で言えば御役御免って事だ。・・・で、どうするんだ?」

「・・・お前は、優しいな・・・だから、俺は、お前の側に居てやる。・・・レンクロウ、お前は優しすぎて『殺す』という事が出来ないみたいだからな」

「・・・・・・」

「これからどうする?レンクロウ」

「・・・ああ、そうだな。先ずは今日の宿を見つけるか」


 煉紅郎はラシュナートを連れてギルドを出て街の雑踏の中に姿が消えていった。




 今朝早く、煉紅郎はシャルルを連れてバルボドッサの下にやって来ていた。ラシュナートは寝息をたてながら煉紅郎の部屋で寝ている。

 バルボドッサの部屋にやって来た理由は、奴隷の譲渡である。昨夜の煉紅郎からの問い掛けに答えが奴隷の譲渡である。この世界ポルモルでは、奴隷は財産、者であって者で無し、つまりは物扱いなのである。奴隷の譲渡には手順が在り、通常は奴隷商の下行なわれるのだが、今回は書類の記入のみ当事者だけで行なう事になった。手順には、書類の記入と首輪の紋章変更がある。書類はまだ字の書けない煉紅郎に代わってバルボドッサが書き、首輪の紋章は奴隷商しか出来ない為、後で書類とバルボドッサの書いた書状を持ってシャルルと共に奴隷商の下に行き名義の変更をすれば譲渡は完了となる。

 譲渡に関しても購入した奴隷商の下でしか出来ない様になっている。これは奴隷商による奴隷の逃亡や反乱の抑制の為、奴隷の首輪に施す魔法などが奴隷商毎に違い、他人が無理やり変更や解除すると反撃する魔法やギミックが発動する為、購入先の奴隷商で行なうしかないのだ。奴隷を解放する時も同様である。


 そんな事があり現在、シャルルは城の中にある自室で身の回りの整理をしていた。身の回りの整理と言ってもシャルルの持ち物などたかが知れている。奴隷になった時、身の回りのものは取られ、城に召抱えられても日が浅い為、彼女の持ち物といえば、少しの衣服と櫛などの日用品だけであった。

 荷物を纏めて部屋を出ようとするとシャルルがドアノブに手をかける前に扉が開き数人の女性が立っていた。


「シャルル・・・」

「うニャ、皆お仕事はどうしたニャ?」

「今日、シャルルがお城を出て行くって聞いてマグナカル様にお願いして少しお休みを貰ったのよ。それで・・・」

「なんで、バイバイも言わないで出て行くのよ!」

「チャム・・・」


 チャムを皮切りにミエル、カルメン、トート、アキュがぞろぞろと部屋の中に入って来た。


「私達、友達じゃないの!」

「ごめんなさいニャ、そんなつもりは無かったのニャ、でも急に決まって皆お仕事で忙しそうだったから・・・」

「だからって・・・何も言わないで・・・」

「ごめんニャ・・・」

「良いのよシャルル、チャムもビックリしちゃっただけだから」

「カルメン・・・」


 シャルルの後ろからアキュが音を立てず忍び寄るように近寄り、シャルルの小さな身体を抱きしめた。


「・・・ん」

「!?アキュ、どうしたニャ!?」

「・・・抱き納め・・・もう出来ないと思うから」

「アキュ・・・」

「フフッ、アキュったら、シャルル」

「なんニャ?トート」

「おめでとう。なのかしら?こういう場合は・・・でも、おめでとうなのよね。シャルル、貴方がココに来た時はオドオドして大丈夫かしら?って思ったのだけれど、貴方は日に日に成長して立派な侍女になっていったわ。まだまだな所もあるけど、勇者様の下で頑張ってね」

「はいニャ!」

「うん。・・・ほら、ミエル貴方も」

「う、うん」


 トートやカルメンの後ろに隠れていたエミルがおずおずとシャルルの前に小箱を手にやって来た。彼女のその瞳に溢れんばかりの涙を溜めて・・・


「・・・シャルル・・・これ・・・」

「ミエル・・・」

「これ・・・みんなで・・・お金・・・出して・・・買ったの・・・」


 エミルはしゃくり上げながら手にしていた小箱をシャルルに差し出した。

 シャルルはその小箱を受け取り、箱を開けてみると箱の中には綺麗な花の髪飾りが入っていた。六枚の花びらはそれぞれ違う色をしている。


「みんな、ありがとうニャ!とっても嬉しいニャ!」

「でしょ。トート姉が選んだんだもん」

「・・・チャムは選んでないし選べない・・・」

「なっ、アキュ!」

「二人とも止しなさい。シャルル、その花の六枚の花びらは私達。どんなに離れていても私達の思いはシャルル、貴方のいつも側に居るから安心してね」

「なっ、何か嫌なことがあったらいつでも戻ってきなさいよ!」

「みんな、みんな、ありがとうニャ!ずっと、ずっと大切にするニャ!本当にありがとうニャ!」


 シャルルは同室の仲間達に祝福されながら城を後にした。その髪には綺麗な花の髪飾りが煌いていた。




 太陽が丁度天辺に来た頃、煉紅郎とラシュナートは一軒の茶店『茜茶屋』のテラスでシャルルの到着を待ちながら煉紅郎は焼き菓子をラシュナートは紅茶を嗜んでいた。

この世界での砂糖は貴重な物であり、煉紅郎の菓子もラシュナートの紅茶も砂糖が入ってるものの微かに甘く感じる程度である。しかし、煉紅郎はその菓子を感心しながら食べている。確かにその焼き菓子には砂糖は殆ど使われてはいないが、その代わりに木苺の様な甘酸っぱい果物を使っていて、少ない砂糖を補っている。そんな仄かに甘く酸味の効いた焼き菓子に舌鼓を打ちつつ外に視線を向けて待ち人を待っていた。

ラシュナートの方は、砂糖の少ない紅茶がお気に召さなかったらしく、ちょこちょこ煉紅郎の焼き菓子を一個また一個と口に運んでいた。


「ココで良いんだよな?」

「ん?あぁ、あの子猫には伝えてある。直に来るだろうさ、ほら来た」


 ラシュナートの指差す方を見ると風呂敷包みを背負った子猫がトコトコ此方に向かって歩いてくる。

 煉紅郎が手を振るとシャルルは二人に気がついた様で満面の笑顔と尻尾をこれでもかと振って走ってやって来た。


「お待たせしましたニャ!ご主人様!」

「いや、大丈夫、そんなに待ってないから。これ食べるかい?」

「うニャ?!いただきますニャ」


 シャルルは煉紅郎から焼き菓子を貰うとモグモグ小さな口一杯に頬張り、一気に飲み下した。


「ご馳走様ですニャ!ご主人様」

「そうか。そりゃあ良かった。それじゃあ、出るか」

「そうだな」


 三人は紅茶と焼き菓子の支払いを済ませ茶店を後にする。


「で、レンクロウ、これからどうするんだ?宿に行くのか?」

「いや、先ずはシャルルの事を済ませる」

「そうか。奴隷商の場所は分かるのか?」

「あぁ、バル爺が地図を・・・」


 ポケットから一枚の羊皮紙を取り出し自身の目の前で広げるレンクロウであったが、その動きがピタリと止まった。


「どうした?」

「どうしたニャ?」

「・・・あのジジイ~ワザとやっりやがったな」

「んニャ?」

「あぁ、なるほど文字地図か、って事は、闇か地下か・・・いや、一見お断りなだけか」

「うニャ~見せるニャ!シャルにも見せるニャ!」


 ラシュナートが煉紅郎の手から羊皮紙を掠め取って眺めながらブツブツ言っている。

 その周りをシャルルがピョコピョコとジャンプしながらラシュナートの手にしている羊皮紙の中を見ようと頑張ってはいるが流石に身長さがあって覗く事が出来ないであった。


「文字地図?」

「ん?そうか、これは文字地図って言って、文字の羅列で場所を伝える物なんだ。文字が読めないとその場所に向かう事が出来ない様になってるんだ」

「俺が読めないの知っててやりやがったな。あのジジイ!で、場所は分かるのか?」

「あぁ、少し入り組んではいるが問題は無い。ついて来い」

「シャルル」

「ご主人様、何ですニャ?」

「シャルルは文字の読み書きは出来るのか?」

「はいニャ!お城で一緒の部屋の友達に教えて貰いましたニャ・・・でも、書くのは苦手ニャ」

「そうか。じゃあ、今度一緒に勉強するか」

「はいニャ!頑張るニャ!」

「早くしろ、遅れるなよ、それだけで迷って辿り着けなくなる」


 煉紅郎とシャルルは足早にラシュナートの後を追い、奴隷商の店までの道を進み路地裏に姿を消した。



次話は来週火曜日正午頃になります。

誤字脱字とう御座いましたら御一報ください。

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